「久しいな、一夏! 壮健だったか!!」
腰に両腕を当てて自信満々にそう言う師範代に俺は挨拶を返した。
「師範代もお元気そうで」
「うむ、光は元気だ!」
そう元気よく応える師範代。
『どうやらもうついたようだな。一夏、しばらく頼む・・・・・・では』
携帯がまだ繋がっていたらしく、師匠はそう言うと通話を切った。
あんまりです、師匠!!
「では、早速手合わせしようではないか!」
師範代はそう言うと自分の劔冑たる勢洲右衛門尉村正二世(通称二世村正)を呼び、
『鬼に逢うては鬼を斬る 仏に逢うては仏を斬る ツルギの理ここに在り』
装甲して此方に構える。目の前には先程と同じ銀色の武者が立っていた。
「師範代・・・・・・その前にこの散らかったのを片して下さい、お願いします!」
「む、お前は景明のようなことを言うな」
「師匠にかかわらず誰だってそう言いますよ! この惨状を見てよくそういえますね・・・・・・」
「? いつものことではないか」
師範代は何を言っているんだ、と俺に言う。
「いつもこんな事ばかりだから師匠の苦労が絶えないんですよ! もう少し自重すべきだと俺は愚考します!」
「細かいな、お前は。そんなでは私より強くはなれんぞ!」
「師範代は異常に強すぎるだけです! 」
まったく・・・この人は・・・
俺が吉野御流合戦礼法を学んだ時に無手の技はすべてこの人から教わった。
湊斗家始まっての天才、最強の武者、と呼ばれている人で、その強さは天下無双。師匠の遙か上をいく、まさに最強のお人だ。本来なら湊斗家を継ぐのはこの人だったのだが、そのおおざっぱな性格と本人の興味の無さに仕方なく師匠が継いだんだとか。しかしその本質は枠に収まらないほど強大な武が原因である。
また、師範代の劔冑である二世村正は特殊な劔冑である。
武器を一切持たず、徒手空拳による攻撃を主としている。
通常の武者では少々威力に物足りなさがあるものだが、この劔冑は例外だ。
その理由はこの劔冑が有する陰義にある。
「むぅ・・・確かに景明に怒られるのは嫌だな。仕方ないか・・・・・・では、『辰気収斂』!」
右手を上に掲げて師範代はそう言うと、四散していた土がクレーターへと集まっていき塞いでいく。
あっという間にクレーターは歪ながらに塞がってしまった。
この劔冑の陰義、それは『辰気操作(重力制御)』だ。
文字通り重力を制御し操作する力。
数ある真打劔冑の中でもこのような陰義を持っているのはこの劔冑だけだろう。(三世村正は昔二世と何かしらあったらしく、二世ほどでは無いにしても辰気操作が出来る)
二世村正は合当理を持たない普通では有り得ない劔冑だが、この陰義の力で通常の劔冑では不可能な速度・機動性を実現している。先程言った攻撃力も打撃に重力をのせることで威力上昇させており、その威力は一撃で劔冑の甲鉄を打ち砕く。装甲は薄めなのだが、これも陰義による重力障壁を張って、鉄壁の防御を成しているという、最早反則そのもののような存在だ。
「相変わらず滅茶苦茶な陰義ですね」
「この程度など、光にとって朝飯まえだ!」
そう思うんならそれらの後始末をする師匠と俺を手伝ってくださいよ。
「これで文句は無かろう。さぁ、試合うぞ!」
「まぁ、確かに片付けはしましたね・・・では、お願いします」
俺は早速正宗を呼ぶ。
「いくぞ、正宗」
『応』
『世に鬼あれば鬼を断つ 世に悪あれば悪を断つ ツルギの理ここに在り』
装甲して此方も構える。
『御堂、何故あの妖甲がここにおる!』
「遊びにきたらしい・・・これから手合わせをするぞ。気を抜くなよ、正宗。手合わせとは言え気は抜かない、全力でいく! 寧ろ抜いたらその瞬間には打ち砕かれるぞ、心してかかるぞ!」
『諒解ッ!!』
そして銀と藍の武者はぶつかり・・・・・・・・・
俺は滅多打ちにされてまた壁にめり込んだ。
やっぱりあの最強には簡単にはいかないですね~