何とか臨海学校を終えたのだが、俺は行く前より大きな問題を抱えてしまっていた。
ずばり・・・・・・山田先生のことだ。
あの時は真田さんの御蔭? でうやむやになってしまったが、そのままにして良いはずも無く、どうしていいのかと悩んでいる。
女性から慕われるというのは、決して悪いものではないが、だからと言って軽視してよいものでもない。俺自身どうかと言われれば確かに気になる相手ではあるが、如何せんこういったものは経験したことがない故に、まったく・・・どうしてよいかわからずにいた。
あの後政府が俺と真田さんの試合を隠し撮りしていたことが分かり、俺は憤慨したが、真田さんにたしなめられた。政府も俺の御蔭でさらに劔冑を世界にアピールできたと喜び、多額の金を無理矢理俺に受け取らせた。そのことも怒りたかったが、政府の顔を立てるために仕方なく我慢した。
しかしこの騒動とは別に問題は残っているわけで・・・・・・
俺の悩みとは裏腹に時間は進んでいく。
その日は一年生の専用機持ちによる模擬戦が開催されることになっていた。
当然俺も参加することになっているのだが・・・・・・
朝から凄く落ち着かない!
別に何かあったというわけではないのだが、いわゆる虫の知らせというものだろうか。イヤな予感がして仕方ないのだ。
凄くそわそわしている俺を見て、箒達は何かと心配するが俺は何でも無いと応えた。確証も無いのに皆に心配するようなことを言いたくは無かった。
くじ引きで戦う相手を決めていき、俺は箒と戦う事になった。
箒の新しい専用機、紅椿とは戦うのは初めてだ。どれほどやれるのか、楽しみにしていた。
最初にラウラ対鈴の試合が行われ、次にはセシリア対シャルの試合が行われていく。
戦績はラウラとシャルが勝ち、僅差で鈴とセシリアが負けた。
そして次は俺の番になり、アリーナに行く。
アリーナでは既に箒が紅椿を纏って空中にいた。
「お前と戦えることを嬉しく思うぞ! どれだけ強くなったのか試してくれ」
箒は嬉しそうにそう言う。
「あの時よりどれだけ良くなったか・・・見てやる、行くぞ!」
俺はそう応え、正宗を装甲しようとしたら・・・・・・
目の前に閃光が走った。
「何だ、一体!?」
閃光とその轟音に俺は辺りを警戒する。
すると上空から黒い人型が三体降りてきた。
この人型には覚えがある・・・・・・こいつは前に襲いかかってきた無人ISだ。
しかし一体だけ形が違っていた。
全体がより女性っぽくなっており、両腕もあの太いビーム砲ではなくブレードになっていて接近戦使用のようだ。
「あのときは何も出来なかったが、今は違う! 行くぞ!!」
箒が猛り三機に向かって突っ込もうとする。
「待て、箒! まだ仕掛けるな!!」
俺は箒を止めようと正宗を装甲するつもりだったのだが・・・・・・
何故かこんな時に携帯が鳴り始める。
こんな緊急事態にっ!? と思いはしたが相手が誰かくらいは確認したほうが良いと思い携帯を開くと、そこには・・・・・・
『湊斗 景明』
と出ていた。
俺は急いで携帯に出る。戦況は箒以外にもラウラやセシリア、鈴にシャルも参戦している。手短に済まさねば。
「もしもし、師匠ですか!」
『うむ、久しいな一夏。いきなり電話をかけてすまんな』
「いえ、ですが今取り込み中でして、手短にお願いしたいのですが!」
『む、そうなのか。それはすまんな。では簡潔に伝える』
そう師匠は応えると、少し間を置いていた。
「あの、師匠?」
『すまん、少し言いずらくてな。実は・・・・・・光ががそっちに遊びに行ったようなのだ』
「・・・・・・・・・えぇっ!?」
電話越しだというのに滅茶苦茶に驚いてしまった。
「どういうことですか、師匠!? 師範代がこっちに来るって」
『うむ、お前が村正伝という劔冑と戦ったことが此方にも伝わってな・・・そうしたらあいつが、「そうか、あいつも腕を磨いているようだな! どれ、光が様子を見に行くことにしよう!」と言って少し前に家を出たのだ。あいつの騎行速度ならそろそろそちらに着く頃だと思ってな。お前に連絡を入れようと思ったのだが』
「・・・・・・マジですか・・・」
『マジもマジ、大マジというものだ』
俺はそのことを聞いて血の気が引いていくのを感じた。
師範代がこっちに来る!?
あの、俺が知る限り最強の武者が・・・・・・ここに来るというのか!?
そして戦慄に振るえる俺はそれを感じた。
IS学園の上空を飛んでいるそれを・・・・・・そして聞いた、その声を。
『む、そこがIS学園とやらか! では挨拶代わりだ、いくぞ!』
「皆、急いで退避しろぉぉおおおおおおぉおおおおおおぉおおおおおぉおおおおおおおお!!」
俺は全力で皆に退避を促した。少しでも被害を少なくしようとしたのだ。
そしてそれは落ちてくる・・・・・・銀の流星が・・・・・・
『吉野御流合戦礼法「月欠」が崩し、天座失墜・小彗星ッ!!(挨拶のためかなり手加減)』
瞬間、世界が壊れた気がした。
聞き取れるのは凄まじ過ぎる轟音のみ。
張られていたらしいシールドバリアーは紙同然に破られ、目の前土煙で何も見えなくなり、地面は怯えているかのように震え上がり地震が起きていた。
俺は知っている・・・これが何なのか。
土煙が晴れると、目の前にあった地面は巨大すぎて下の金属部分まで露出してしまっていたクレーターが出来上がっていた。アリーナの端から端まで到達してしまっていてロクにたてない状態になっている。
俺はその衝撃を受けてアリーナの壁に叩き付けられ、めり込んでいた。
他のみんなは大丈夫かと目を巡らせると、ISを展開していたので怪我はしていないようだが、皆俺と同じように壁に叩き付けられていた。
そして襲撃に来た黒い無人ISは・・・・・・
原型すら分からないほどに微塵に破壊されていた・・・・・・直撃はしていないはずなのに・・・
そしてクレーターから少し上の空中に、その銀は浮いていた。
銀は俺を見つけると、装甲を解除し俺の前に降りてきた。
「久しいな、一夏! 壮健だったか!!」
と、はきはきした声をかけてきた。俺と同じくらいの歳の女の子だ。
箒のようなポニーテールをしていて、白いワンピースを着ている。美少女といっても良いくらいの女の子だが、その男勝りなしゃべり方が台無しにしていた。
俺はこの女性を知っている。
「・・・・・・お久しぶりです、師範代」
この人が俺が学んだ吉野御流合戦礼法の師範代にして師匠の妹様。
湊斗 光その人である。