一夏達が酒宴に興じている中、別の場所では別の事が起こっていた。
暗闇の中、まるでその場にいるのが場違いな格好をしている女性が一人、ホロウィンドウを広げて映像を見ていた。
「初動で稼働率43%かぁ・・・まぁまぁかな」
そう呟いているのは篠ノ之 束その人である。
彼女は一夏達とは別の崖の上に座っていた。
「まだ使い始めたばかりだし、箒ちゃんならもっと強くなると思うしね。出だしは好調かな・・・・・・そう思わない、ちーちゃん?」
そう声をかけた先には織斑 千冬が立っていた。
彼女は一夏が散らかした後をかたづけた後、外に出た。束が何故かそこにいるとわかったからだ。
「まぁな。あいつは鍛えればより強くなるかもな」
そうしれっと千冬は応える。
「しかしお前の狙い通りにはならなかったがな」
「なんのことかな?」
束は何も分からないといった笑顔でしらを切る。
「・・・・・・まぁいい、例え話をしよう。とある天才が大事な妹を晴れ舞台でデビューさせたいと考える。そこで用意するのが専用機とどこかのISの暴走事件だ。暴走事件に際し、新型の高性能機を作戦に推薦する。妹は華々しく専用機持ちとしてデビューというのが、その天才の筋書きだった・・・・・・しかし結果的に妹はそこまで活躍できなかった」
「そんなことは無いと思うけどなぁ~、箒ちゃん頑張ってたんだし」
「結局この騒動も正宗に持って行かれたがな」
そう千冬が言うと、束の笑顔が固まり不機嫌な雰囲気が出てくる。
「まったく・・・・・・なんなんだろうね、あれ!! この束さんがどんなに調べても分かることは鉄で出来てるって事だけ。動力も見つからないし、機械関係が一切ないんだから、もう化け物って言ってもいいくらいだよ。そんな鉄屑が、ISより勝ってるなんて、私は認めないよ! それにね、ちーちゃん・・・・・・いっくんをこのまま放っておいたら、死んじゃうかもしれないよ。見てよ、これ」
束は怒りながらも千冬の方へホロウィンドウを展開する。
そこに流れる映像は、千冬の目を見張らせるには十分な代物だった。
「なっ!? これは・・・」
その映像は・・・・・・濃藍と紅の武者による戦闘の映像だった。
ISのような空を縦横無尽に駆け巡るようなものではなく、お互いにぶつかり合うだけの飛行。
しかしぶつかったときの音はISのぶつかり合う音とは比べものにならないくらい重い。
その音からどれぐらいの威力なのかが推察出来る。
しばらくはその重い激突音とともに剣戟が繰り広げられる。お互いに攻撃を受け合い、装甲が砕けたり割れたりしていた。
その後は紅い武者による火炎攻撃が放たれていく。
最初は髑髏の形になって藍の武者を追いかけ回し、藍の武者はそれらを赤く光る刀で切り捨てていった。次には鳥の群れを成した形となって藍の武者を襲いにかかる。藍の武者はそれを避けようと上昇していくと・・・・・・鳥の群れは段々一つにまとまっていき、巨大な凶鳥へと変貌した。
紅の武者はその凶鳥に飛び乗り、槍を藍も武者に向ける。すると凶鳥はさらに大きくなり、龍へと姿を変えた。その大きさは最早巨大すぎて、ビル一つ丸呑みにするくらいの大きさだった。
龍は藍の武者を飲み込もうと襲いかかり、藍の武者は迎え撃とうと龍へと向かって特攻する。
ぶつかるかと思われた瞬間に大爆発が起こり、龍の頭が吹き飛ばされるも、残った胴体に藍の武者は飲み込まれる。
炎が消失するとともに現れた藍の武者は殆ど藍色の部分が無くなって、見るも無惨な状態になっていた。装甲のあちこちが溶け、炭化し、人型を成しているのが不思議なくらいだった。
しかしまだ飛行していた。
藍の武者は刀を振り上げるとそこから炎が発生し、紅の武者に向かって振り下ろすと炎は飛んで行きあっという間に先程紅の武者が放った龍と同じ龍となって紅の武者を飲み込んだ。
龍が消え去ると、紅の武者は藍の武者と同じくらいボロボロになっており、これもまた飛行しているのが信じられないくらいだった。
そして最後に両者は激突。
紅の武者の槍は藍の武者の腹に深々と突き刺さり、藍の武者の刀は紅の武者の胸と斬った。
それが止めとなり、紅の武者は海へと墜落し、藍の武者は浜辺へとふらふらしつつ着陸していった。
そしてここで映像は終わる。
これらの映像にはすべて音声が入っており、藍の武者からは千冬にとってなじみ深い、織斑 一夏の声が聞こえた。
「あいつは、こんなことをしていたのか!?」
「そうだよ。いっくんは暴走ISと戦う前にこの紅いのと戦ってたんだよ。改めてみたっておかしいよ、この劔冑っていうの! 何、この火力! 調べたら鉄が余裕で蒸発するような温度だったんだよ! しかもあんな大きな炎なんて、いまの科学じゃ再現なんて出来ないし・・・私にだってあんなの作れないよ! 一体どうなってるんだよ、あれ!!」
束はこの映像を見てそう憤慨するが、千冬は正直恐怖した。
ISの登場によって今までの兵器は遅れをとっていたが、劔冑はIS以上に危険だ。
通常、ISが三機いれば都市を制圧出来ると言われているが、この紅い武者は一人で都市を壊滅させられるだろう。
兵器の分類は大まかに別けて二つ、戦術兵器と戦略兵器の二つだ。
戦術兵器は戦車や戦闘機など、戦術にそって使う兵器のことを指し、戦略兵器とは一発で戦況を替えうる核兵器や核ミサイルなどを指す。
ISはまだ戦術兵器の域を出ていないが、この劔冑を見る限り戦略兵器と言ってもよいレベルなのだ。
そんなものがISの世にしてしまったせいで封印を解かれてしまったことに、千冬は恐怖を感じてしまった。
「この映像は日本政府がもう世界に向けて配信してるんだって。まったく、わけがわからないよ」
束は怒り呆れていた。
「ねぇ、ちーちゃん・・・今の世界は楽しい?」
束は千冬にそう聞くと、
「・・・・・・私には、わからないな・・・」
千冬は何とも言えない声でそう応えた。
束の方へ顔をむけたら、束の姿はもうどこにもなかった。
千冬はしばらく沈黙すると・・・
「一夏・・・・・・お前はどこにいこうというんだ・・・・・・」
そう、虚空に呟いた。