一夏君が帰ってくるまで、私は心配しっぱなしだった。
一度帰ってきたときは見る影も無いほどにボロボロで、肌色の部分が無いほどに火傷だらけだった。
私はその姿を見たとたん、言葉を失った。
今にも死んでしまうんじゃないか、て・・・そう嫌でも思わせてしまうほどに彼はボロボロだったから。
私は急いで救急車を呼ぼうとしたら、彼はそれまでの死に体からは考えられないような速さで私の手を押さえると、笑顔で大丈夫だからと私を説得しようとした。
でも、その笑顔はどう見たって痛いのを我慢してるのが丸わかりだったから・・・
そして彼は私が貸したアクセサリーを返してきました。
うまく喋れないほどに憔悴しているのに、それでも笑顔で、
「アクセサリーの効き目は抜群でしたよ」
と言い・・・・・・
私はその言葉を聞いて泣き出してしまいました。
ただの気休め程度の代物を彼は大事に、それこそ自分より大事に扱ってしまったことに私は罪悪感を感じてしまいます。そんなに大事にしてもらったことは嬉しかったですが、それで彼がこんな大怪我をしてしまったのが自分のせいなんじゃないか、と思うと、私は自分が許せなくて・・・
彼はそれを察したのかは分からないけど、私のことを励ましてくれました。
そのことで私はさらに泣いてしまいます。
彼は私に倒れてきたときは本当に驚きました。
体に力が入らないらしく、ぐったりと脱力していて生きた感じが全くしなかったんです。
そのことに私は怖くて仕方なかった。
その後は彼に頼まれて部屋まで肩を貸してあげたのですが、彼はそれでも意地っ張りとでもいうんでしょうか? 私にあまり負担をかけないようにしてできる限り自分の足で歩こうとしていました。
私は頼り切ってもらえないことに若干の寂しさと怒りを覚えつつも、彼を部屋へと運びました。
部屋にはいって布団を敷き、彼に応急手当をして寝かせましたが、本当はすぐにでも救急車を呼びたくて仕方ありませんでした。
部屋に入ったときも彼は自力で動こうとしたので、それを止める意味合いも含めて彼の頭を膝に乗せます。
決して・・・彼が動けないことを良いことにやりたい放題なのでやらせてもらいましたっ! というわけではありません!
彼は観念したのか大人しくなり、なすがままになっていました。
その姿を不謹慎ながらに、可愛く感じてしまいます。
すると彼は喉の渇いたらしいので水をコップに注いでゆっくりと飲ませようとしたのですが、彼は消耗が激しいこともあって水を咽せてしまいます。
とても苦しそうでどうにかしてあげたくて・・・・・・
私はもの凄く恥ずかしいけど決心して水を口に含み、
彼に口移しで水を飲ませました。
事実口移しというのはこういった状態の相手には有効なのもあったので・・・・・・決してキスするチャンスだから、などと思った訳ではありませんからねっ!
唇を離すと彼は目を白黒して驚いてました。私は恥ずかしさを紛らわすために、いたずらが成功したときのような顔をして、言い訳をいってしまいました。
今にして思えばこれはありえないってくらい恥ずかしいです。
その後彼は疲れたのか眠ってしまいました。
とても静かな寝顔で、それでもとても可愛らしくて、何時間でも見てられそうな寝顔でした。
彼はすぐに起きてしまったので勿体なかったです。
その光景を千冬さんに見られからかわれてしまったことは恥ずかしかったですよ、本当。
千冬さんの話を聞き終えた彼に専用機持ち五人を呼んでくれ、と頼まれたので呼びに行きました。
せっかく二人っきりだったのに・・・とちょっと思ってしまいますが、彼が真面目だったので私は素直に聞き入れました。
入ってきた五人は彼を見るなり顔を真っ青にして騒ぎ始めましたが、怪我人の前でうるさくして良いわけがありません。
私はみんなに静かにするよう言ってみんなを静めました。
みんなが静かになってから彼は話し始めました。
そして彼は篠ノ之さんは悪くない、といいみんなを説得、私はそれを聞いて関心してしまいます。とてもその年で考えられるようなことではなかったですから。
彼は話し終えるとまた疲れて眠ってしまいました。
みんなはその話を聞いて思うところがあったのか、何も喋らずに部屋を出て行きました。
私は仕事もあってその後に部屋を出ました。
仕事も一段落つき(福音が行動を停止しているため、それ以上何も出来ない状態)私は一夏君の様子を見ようと彼の部屋にいったら、彼は部屋にはいませんでした。
とても動けるようには見えません。私は急いで、それこそ必死になって彼を探しました。あんな体では遠くまでいくことなんて出来ないはずですから。
探している最中に自分の生徒を見つけたので聞いてみたら、彼は政府命令が出たので出ると言って制止を振り切ったらしいです。私はそれを聞いて、胸に凄く嫌な予感がよぎりました。
そして旅館の外に出て思い知らされました。
海へ向かって飛んでいく光・・・・・・それが一夏君だと分かってしまって。
その後時間が経って、専用機持ちも五人が帰ってきました。
しかし一夏君はいません。篠ノ之さんに聞いたら、海へ落ちたと泣きながら言っていました。
その報告で私は心臓が冷たくなるような感触に襲われます。凄く怖くて、仕方なくて・・・
教員全員で捜索隊を編成、すぐに一夏君を探し始めました。
そのあとすぐに浜辺から悲鳴が上がってみんな駆けつけると、そこには一夏君がいました。
ただし・・・・・・死体同然の姿で・・・・・・
私はそれを見た瞬間、何も考えられなくなりました。
一夏君が動いていない、一夏君が喋らない、一夏君が笑いかけてくれない・・・・・・
(いやっ・・・いやいやいやいやいやいやいやいやイヤッァああぁあぁあああああああああああ!?)
思考が停止してしまい何も考えられない私の耳に篠ノ之さんたちの悲鳴が聞こえてきました。
でも私にはどうすることも出来ない。今の私には、そう考えることの出来なくなってしまっていた。
しかしそんな悲痛な場に、とても場違いな野太い怒鳴り声が聞こえました。
正宗さんが静かにしろ、と怒鳴ると、一夏君を顎で持ち上げると背中に放り投げました。
肉が潰れるイヤな音がすると・・・・・・彼は弱々しくも言葉を発し、私はそれを聞いて泣き崩れてしまいました。
一夏君が、生きていてくれて、よかった・・・・・・
その後一夏君は正宗さんの背に乗せられた部屋まで運ばれていきました。(内臓を引きずられて文句を言っているのはあまりにも怖くて目を向けていない)
部屋で彼は応急手当? をしてもらっていました。(正宗さんに内臓を無理矢理詰め込まれているところなんて、わ、私は見てませんよっ!!)
その後彼は内緒にしていたらしい、真打劔冑の再生能力を明かしました。
彼が大怪我を負っても死なずにいる理由にそういった背景があったなんて・・・・・・
つくづく常識外れな代物ですね、劔冑というのは・・・・・・国が何故封印していたのがわかった気がします。
そのあと鳳さんとデュノアさんには覚えがあったらしく、一夏君がその再生力を頼りにした無茶が明かされてしまい、一夏君は凄く気まずそうにしていました。
そんなことを聞かされては黙ってはいられません。
私は篠ノ之さんたちと一緒になって一夏君を絞り込み、一夏君に白状させてもうしないようにみんなで怒りました。
彼がそこまで無茶をしていたなんて・・・・・・
私達は、そんな彼に気付いてあげられなかったことが悲しくて悔しくて、そのあとみんなで泣いてしまいました。
彼はそんな私達を見てどうしていいか困った顔を浮かべていました。
泣き止んだあとにみんなで正宗さんを使うのをやめるようお願いしましたが、彼は聞き入れてくれません。
「俺は正宗の仕手であり、正義を成す者だから・・・」
と言って彼はみんなを説得していきました。
普通に聞いたら笑われるかもしれないことを、彼はそれが当たり前だと自信を持って言います。
確かに笑われるかもしれない・・・でもそう言う彼の顔はとても自信に満ちあふれていて格好良くて・・・
そこまで言われたら私は納得せざるえません、惚れた弱みというものでしょうか?
その後、私は一夏君のお世話を千冬さんに申し出たのですが、篠ノ之さんたちも強く主張してきてあたりが騒がしくなってしまい、怒られました。
千冬さんに叱られ、私達はすごすごと撤退させられまいました。
それから二時間後、私は一夏君の様子を見ようと部屋に行ったのですが彼は居らず、千冬さんが凄い量の食器を面倒臭そうに片していました。
一夏君がどこにいるのか聞いたら、呆れつつも外に出たことを告げられ、私は急ぎ足で彼を探しに行きました。
それから少し歩いた所にある崖で彼を見つけました。
正宗さんが言った通り、体は完璧に治っており、左腕も元に戻っていました。改めて見ても、夢を見ているようにしか思えないほど凄いです。
彼は空を見上げながら何かを考えているらしく、まったく動きません。
月の光に照らされた彼の顔が神秘的でついつい見入ってしまいましたが、私は急いで話しかけました。
彼は私に気付き、不思議そうな顔で此方に話しかけます。
私は彼がこんなところで何をしていたのか聞いてみると、彼は月を見ていました、と空を見上げながら応えました。
私もつられてみると、そこには満点の星空に煌々と輝く満月がそこにありました。
それはとても綺麗で・・・こんな綺麗な空を彼と二人っきりで見られるなんて・・・ロマンチックな感じがしてしばらく月と一夏君を見入ってしまいました。
月というのは見ていると精神が昂ぶったりすると古来から言われています。
私は月と一夏君を見ていて・・・・・・彼のその顔を見ていて・・・
凄く怖くなりました。まるですぐにでもいなくなってしまいそうで・・・
今日の出来事をまた思い出してしまい、私は怖くて仕方なくなって・・・彼が離れていなくなってしまうのをつなぎ止めようと、彼に抱きつきました。
抱きついたあとはもう駄目でしたね・・・・・・感情が爆発して泣き出してしまい、彼を心配する気持ちが口から溢れてしまいました。
私がその感情を彼にぶつけると、彼は何も言わずに抱きしめ返してくれました。
私は抱きしめ返され、ドキッ、と胸が高鳴ってしまいます。
落ち着くまでそうしてもらい、その後彼には無茶をしないよう約束しました。
彼は苦笑しつつも約束を守れるよう頑張ります、と言ってくれました。その顔を見て仕方ないなぁ、と思ってしまいます。
その後彼に今日貸したアクセサリーをプレゼントしました。
効能に意味はなかったですけど、彼はとても嬉しそうに受け取ってくれて、それが私も嬉しくてしかたなかったです。
その後会話の内容が無くなってしまい、どうしようと悩んでしまいました。
彼と二人っきりの空気に浸りたくなりますが、無言でいるのはそれはそれで良くないような・・・・・・
しかし改めて考えてみれば・・・
チャンスなのでは!?
ロマンチックな星空に二人っきり・・・しかも彼がまたいつ無茶をするか分からない以上、速くしたほうがいいような気がしてきて・・・それに千冬さんも、私が今一番意識されていると言っていましたし・・・あの五人は確認してきましたが、作戦の疲れもあって今は寝ていますし、正宗さんは千冬さんと一緒に食器を片していましたから、まだ来ていないはず・・・・・・つまり・・・・・・
事実上、正真正銘の二人っきり!!
こんなチャンスは学園にいる以上、訪れるとは思えません。
今が決戦の時!
私は告白をしようと決め、周りを確認しました。
当たり前ですが、誰もいないことに内心ガッツポーズを決めます。
私は一夏君の顔を見据えて、早速告白しようとしますが、緊張と恥ずかしさと、怖さが入り交じり、うまく言葉に出来ません。
そのことに焦っていたら、彼は私を落ち着けるために手を握ってくれました。
その手が温かくて、私の胸はさらに高鳴ってしまいます。
彼のその優しさに胸がドキドキしっぱなしで、今すぐにでも感情を吐き出さないと心臓が破裂してしまうんじゃないかと思うほどに心臓の鼓動が大きくなっていきます。
私は落ち着こうと必死になりましたが、こんな状況で落ち着ける訳がありません。
生来気が弱い私はいつもならここまできたら逃げてしまうかもしれない。でもここで引くことなんて出来ない!
私は一夏君が好き! このことは誰にも、それこそ千冬さんにだって負けません!!
私は半ば開き直りつつ彼に告白しました。
彼は告白を聞いたら少しの間無表情になり、次には闇夜でも分かるほどに真っ赤になって慌て始めました。
その様子は見ていて可愛らしくもありましたが、少し困っているようにも、でも迷惑がっているわけでもなく、どうして良いのか分からない・・・そんな感じでした。
彼が悩んでいる中、私は彼の返答を待っていると、少し離れたところから知らない声が一夏君のことを呼び、私はびっくりして彼から離れました。
私と一夏君は同時に声の方を向くと、そこにはまったく知らない男性が立っていました。
せっかくいいところだったのに・・・と思いつつも、私は呟いてしまいます。
あれは誰なのか、と。
こうして私の一大決心は謎の男性によって中断されてしまいました。
真田さんの声を子安さんにしてみると、また読むのが面白くなってきました(笑)