一夏が海へと落下し、そのことが教員に知れ渡ってすぐに捜索隊が派遣された。
捜索は困難を極めると思われたが、すぐに発見された。
一夏は浜辺に打ち上げられていたのだ。
海に落ちたのだから、そのことにはさほどの不思議は無い。
しかし発見した教員は悲鳴を上げた。
何故なら・・・・・・
一夏は腹から内臓が飛び出し、左腕の肩から先が無くなっていたからだ。
顔も青ざめており、どこからどう見ても死人にしか見えない。
教員の悲鳴を聞いて他の教員や箒達達専用機持ち、それに千冬と真耶がその場に集まった。
「「「「「「いっ・・・いやぁああぁあああああああああああああぁああああぁああああああっ!!」」」」」」
一夏の姿を見てさらに悲鳴を上げる箒達。真耶はその場で喪心して膝を地面につけた。
千冬は弟がこんな姿で現れたことに、どうして良いか分からずに混乱しきっていたが、皆の手前そんな醜態をさらす訳にいかないので何とか堪えていた。
教員が急いで救急車を呼ぼうと携帯を手にした瞬間に、その怒鳴るような大声が響いた。
『騒がしいわ、貴様等っ!! もう少し静かにせんか、この馬鹿者どもが!』
そう怒鳴りつけてきたのは一夏の劔冑である正宗だった。
正宗は一夏を顎で掴むと、乱暴に背中に放り投げた。
正宗の背に乗っけられる一夏。その際に、ぐちゃ、という肉が潰れるような音が聞こえ、幾人の教員が吐き気に襲われた。
「何をしている、貴様ッ!!」
千冬が皆を代表して正宗に叫ぶ。
今の正宗の行動は誰が見たって怪我人への扱いではない。一夏の状態は死ぬ一歩手前ですぐにでも手術しなくては駄目な状態なのに、正宗は全く気にも留めずにぞんざいに扱ったのだから、千冬の反応は当然のことではある・・・のだが・・・
『ふんっ! この程度など、放っておけば治るわ! ぎゃあぎゃあと騒ぐでないわ、この小娘どもがぁ!!』
正宗はさも当然と言った感じに返してきた。
「・・・・・・正宗・・・・・・もうちょっと静かに・・・運べないのか・・・さっきのはかなり・・・痛かったぞ・・・」
「「「「「「「一夏っ!?」」」」」」」
その痛みで俺は意識が覚醒した。
内臓が潰された痛みで意識を覚醒させられた俺は、正宗の背中に乗っけられて旅館へと運ばれている。熱量欠乏でさっきから寒くて仕方なく、体も動かない。
「正宗・・・今の俺の状態は?」
『熱量欠乏を起こしておるので、急遽熱量の補充を勧める。体は熱量不足のせいで再生が遅れており、七機巧の跡がまだ癒えておらぬ』
だからこんなに痛い上に体のバランスが悪いのか。
体を見れば一目瞭然であり、左腕が無くなっていて内臓が飛び出したままだ。
「い、痛っ! 正宗、頼むから内臓を引きずるのはやめてくれ・・・・・・痛すぎるぞ・・・」
『ふんっ! 己が未熟を恥じるには丁度良かろう。今しばらく味わっておけい!』
未熟を痛感しているのは嫌でも分かるが、この仕打ちはあんまりではないか?
俺と正宗のやり取りを聞いて幾人かの教員は気絶した。
部屋について布団の上に寝かされ、正宗に内臓を腹に無理矢理詰め込まれた。
その際の激痛に声が上がりそうになったが、正宗に
『この程度で粗相するでないっ!!』
と怒られたこともあって何とか耐えた。気構えが無かった分、七機巧を使ったりするより痛かった。
そのあとは千冬姉に手伝ってもらい腹に包帯を巻いてもらった。千冬姉は俺の腹から目をそらして巻いていたため、包帯は汚く巻かれてしまったが、目に映らないようにするのが目的のため問題はない。左腕に関しては一切何もやってない。
俺は布団で人心地ついて(ぱっと見で見れる程度の重傷人)ブドウ糖点滴を普通の三倍の量を投与してもらった。これで少しはマシになるだろう。早速体が再生されはじめた。
「・・・・・・それで・・・これはどういうことだ」
千冬姉にさっそく問い詰められた。部屋には箒達五人と山田先生もおり、心配しつつも聞きたそうにしていた。
問い詰められるのも無理はなく、さっきまでの状態は常人なら死んでいてもおかしくないのに、とうの俺は普通にしゃべれているのだから、これをホラーと言わず何とする、と言う感じである。
「どうも何も・・・見たままなのだが・・・」
「何をいっているんだ! どう見たってすぐに病院に行かないと死ぬほど大怪我をしていて何故喋れるんだ、どう見たっておかしいだろ!!」
千冬姉にしては珍しく、大声で突っ込む。
『御堂、説明しておらぬのか? していたのなら、このような騒ぎにはならぬぞ』
「説明とはなんだ! 一夏、すぐに説明しろ!」
千冬姉の形相がかなり恐ろしくなり、俺は目を背ける。
色々と面倒なことになるので今まで話してこなかったのだが、もう話さなくてはこの場を切り抜けることは出来そうに無い。俺は観念して皆に話し始めた。
「俺の怪我だが、これは正宗の言う通りすぐに治る。真打ちを使う武者なら、この程度の傷は問題無い。真打劔冑には個体差はあるが、再生能力があるんだ。装甲はもちろん、仕手の肉体も再生する。真打を使う武者は首を落とすか再生不能なまでに破壊されないかぎり、殺すことはできないと言われている。それほどの再生能力があるから、この程度の傷はなんともないんだ」
「そ、そんなっ!? ISだってそんなことは出来ないのに・・・」
「どれだけ非常識なのですか・・・・・・」
箒とセシリアが驚いていた。まぁ、現代医療が進んでいるとはいえ、それでも真打の再生力にはかなわないものがあるので無理もない。
「ならどうして今すぐ治さなかったんだ」
さらに千冬姉に問い詰められる。
「確かに凄まじい再生能力があるとはいえ、ただではないんだ。千冬姉、劔冑の動力源は何だと思う?」
「そう言えば、そういった情報はないな。昔からISのコアのようなものがあるとは思えないし・・・・・・」
千冬姉は俺の質問に少し考えてみるが、わからないようだ。どうやら政府はまだこの情報を世界には流していないらしい。
「答えはな・・・・・・人の熱量(カロリー)だ。劔冑は人の熱量で動き、飛行するんだ。真打だけにある再生能力も当然熱量を消費する。さっきまで俺は熱量が欠乏していたから直す方に熱量を回せなかったんだよ」
「なっ!? 人の体が動力源ってこと!」
「一夏がよく食べ物を食べる理由ってこれだったんだね・・・」
鈴とシャルも驚きを隠せないようだ。
「・・・・・・大体わかった。お前は怪我を負っても大体治るということはな・・・・・・しかしその怪我はどうした! 出て行く前はそのような怪我などしてなかったはずだ! お前達、こいつは福音と戦っているときに負傷したのか!!」
「いいえ、一夏は相手の攻撃を受けたりはしましたが、このような致命傷になる損傷は一切受けておりません」
千冬姉の声にラウラが応えた。
「さっき正宗が言っただろう、七機巧の跡がまだ癒えてないって」
「七機巧とは、正宗の兵装のことか? それとなんの関係がある」
「皆は不思議に思わないか? ISのような量子変化など無いのに、どうやって正宗が指を飛ばしたり、炎剣を使ったりしていたのか? もちろん正宗の中に弾薬が仕込んでいたとかはないぞ」
「弾薬を仕込んでいないのに出る弾に電気や熱源もないのに電熱線のように熱くなる刀か・・・たしかにそう言われると不思議だな。どうやっているんだ?」
千冬姉が普通に不思議そうに聞いてくる。どうも劔冑の性能なら何があってもおかしくないと割り切ったみたいだ。
「あれらはな・・・・・・すべて自分の肉体から作り出すんだ。正宗は特殊な劔冑でな、仕手の血肉を使って機巧を作動させる希有な劔冑なんだ。十征矢なら指を骨ごと使い、六本骨爪ならあばら骨が鋼鉄化して体から飛び出し、焦屍剣なら熱量を使って手を焦がす。正宗七機巧とは、己の肉体を削って使うものなんだ。その際には当然激痛が伴う。自分の骨や肉を直に引きちぎり粉砕して生成したりするのだから、当然のことだがな。ISのように便利な機能など劔冑にはないんだよ」
「そんなっ・・・・・・そんな事ってっ!?」
山田先生が口に手を当てて悲痛な声を上げる。
「いつもなら熱量を使用した再生能力ですぐ再生してたのだが、今回はそんな余裕は一切無かったからな。それで再生出来ず、この状態だったというわけだ」
俺がそう答えると、鈴とシャルが、はっ、と顔を上げて此方に問い詰めてきた。
「まさかクラス代表戦の時の左腕もっ!?」
「僕を抱えて二階から飛び降りた時もっ!?」
「・・・・・・ああ、あの試合の時は左手が骨まで炭化したし、シャルを抱えて二階から飛び降りたときも両足の骨が折れたな」
俺は観念して答えた。もう隠し事をすると大変な目に遭いそうな気がしたからだ。
「いくら治るからってあんた!」
「すっごい痛いんでしょ、何で・・・」
鈴が俺に怒り、シャルが悲痛な顔をする。
そのあとも俺が正宗の再生能力だよりに行ったことを白状させられ、
「「「「「「無理しすぎっっっっっっっっっ!!」」」」」」
と皆に怒られた。
その後千冬姉を除く全員に泣かれてしまい、俺は酷く居心地が悪くなってしまい、どうしようかと必死に考えていた。