何とか浜辺までたどり着いたら千冬姉達教員とセシリア達四人が出迎えてくれた。
箒は浜辺に着くと同時にISを解除、戦意を喪失し喪心していた。
俺は箒をセシリア達に任せて千冬姉達の所へ体を引きずっていく。痛みが酷くてうまく歩けないのだ。
「織斑 一夏、只今戻りました・・・してこれは・・・どういう状況・・・なんだ、千冬姉?」
痛みで声が引きつる。熱量も枯渇しそうで言葉を発するのもしんどい。
「織斑先生と呼べ・・・と言いたいところだが、まず先に自分のことを心配しろ、馬鹿者」
千冬姉は真面目な顔でそう言うが、その声は少し震えていた。
普通に見てもボロボロなのだから、心配するのも無理も無い話だ。
「すまない・・・・・・話は少し休んでから聞く・・・」
千冬姉にそう答えて俺は山田先生の方へ歩くと目の前で装甲を解除する。
アクセサリーを返そうと思ったのだが・・・
「ああ、・・・山田先生・・・あのアクセサリーを・・・あれ・・・?」
「い、一夏君っ!?」
解除した瞬間に体がふらつき山田先生の前で倒れてしまった。
「す、すみません・・・今返しますね・・・」
俺は体を起こそうと力を入れる。すると体のあちこちから血がブシュッ、と吹き出していく。
どうもさっきの被弾時に粉砕された装甲の破片が刺さっているようだ。うまく起き上がれない。
「何してるんですか、一夏君っ!? そんな体で動かないで下さい! 死んじゃいますよっ!!」
山田先生は俺を見て顔を真っ青にしていた。
ぼんやりとする頭で何故? と考えたが、よくよく考えて見れば今の俺の体は大火傷の重傷人だったな。動いてるほうがおかしいのだ。
「今すぐ救急車を呼びますから、動かないで下さい!!」
山田先生は懐から携帯を出し救急車を呼ぼうとするが・・・・・・
「いえ・・・大丈夫ですから・・・」
俺は渾身の力を込めて立ち上がり、山田先生を止めた。無理に力を込めたせいで身体中から血が噴き出したが、気にならない。
山田先生の目を真正面から見つめ、痛みに引きつる顔を何とか笑顔にする。
「見た目ほど・・・酷くはありませんから・・・少し休めば・・・大丈夫です・・・」
「でもっ、でもッ!・・・」
山田先生は涙目で此方に懇願するように俺を見つめる。
その顔が可愛いと思ってしまったのは内緒だ。
「それより・・・これ・・・」
首にかかっているアクセサリーを山田先生に渡す。
「効果・・・抜群でしたよ・・・御蔭で・・・この程度で・・・済みました・・・」
「そんなっ!? こんなにボロボロなのに、効果なんてありませんよっ!」
ボロボロと泣き出してしまう山田先生。いかんな・・・泣かせるつもりなんてなかったのに・・・
「泣かないで・・・下さい・・・先生。俺は・・・これの御蔭・・・で助かったんですから・・・」
そう答え、何故かは知らないが頭を撫でてあげたいと思い体を動かそうとするが、体は言うことをまったく聞かず山田先生に向かって倒れてしまう。
「一夏君!?」
「すみません・・・どうも疲れた・・・みたいです・・・」
いつもならここで赤面の一つでもするが、今はそんな余力もなかった。
借り物も返したことなので離れようとしたが、まったく動かない。
少しでも回復させるために部屋に行こうと思ったが、これでは戻れない。正宗に運んでもらおうとも思ったが、あちらも被害が凄いので下手に動かさない方がいいと判断、回復優先を命じる。となると移動方法は限られる。
「すみません・・・山田先生・・・恥を忍んで・・・お願いがあります・・・」
「は、はい! なんでしょう」
山田先生は何やら意気込んでいる。その姿が俺にはすこし可愛らしく映った。
「部屋・・・まで・・・連れてって・・・もらえませんか・・・」
「わ、わかりましたっ!!」
俺は山田先生に肩を借りて部屋まで連れてってもらった。
「大丈夫ですか、一夏君」
部屋まで連れてってもらい応急処置を施してもらって只今布団に寝かせられている。
今の俺の姿は包帯でぐるぐる巻きにされており、ミイラ状態に近い。
「ええ・・・さっきより幾分・・・いいですよ・・・」
「そうですか」
そして何故か・・・山田先生に膝枕をされていた。
何故こんなことをするのかと聞いたら、
「だって一夏君、こうでもして押さえつけてないと無理矢理にでも動こうとするじゃ無いですか」
と顔を真っ赤にしながら答えられた。
肩を借りたときもできる限り自分で歩こうとしたからだそうだ。
仕方なく俺は大人しくされるがままになっている。
実は柔らかくて気持ちいいと思ってしまったりもしたのだが・・・このことは知られたくない。
俺はしばらくそうして横になっていた。
山田先生が穏やかな顔で此方を終始見ており、気恥ずかしい。
ふと喉の渇きを覚え始めた。一応すぐ近くには水が入っている容器とコップが置いてあり、飲めるようになってはいるが・・・・・・
未だに体をうまく動かせない俺は山田先生に頼むしか水を飲む方法がない。
「山田先生・・・水を・・・もらえませんか・・・」
「はい、水ですね」
山田先生はコップに水を入れて俺の口に持ってきてゆっくりと飲ませようとしてくれるが・・・
「っっごほッ! げほっ、げほ」
「一夏君、大丈夫ですか!?」
咽せてしまい満足に飲めない。
どうも気管の方にもかなりダメージがあるようだ。
俺は少し咽せていたが、その姿を見て山田先生は何かを決意したようだ。
コップに口を付け中の水を含むと・・・
俺に口付けをした。
「・・・・・・・・・・・・(っっっっっっっっっっっっ!?)」
「んぅ・・・」
そして山田先生の口から俺の口の中へと水が少しずつ流れ込んでくる。
よく言う口移しというものだった。
俺の精神は混乱しつつも体は正直らしく、喉の渇きを潤そうと水をゆっくりと勝手に飲み始める。
山田先生は唇を離すと真っ赤になりながら、
「緊急事態につき応急処置ですからね」
といたずらっ子のような笑顔でそう言った。
その笑顔が何だか可愛らしくて仕方ないと、俺はそのとき思った。
ああ・・・またしばらく山田先生を真正面から見られそうもない・・・恥ずかしくて・・・