ざぁ、ざぁ、と聞こえてくる波の音に意識が覚醒し始める。
つい先程まで行った死合いには勝ったが、砂浜に着地と同時に力尽きてしまい気を失っていたようだ。
未だに装甲してるあたり、正宗が気をきかせてくれたようだ。
「・・・・・・正宗・・・俺が気絶してどれくらい経った・・・」
『御堂が気絶してから約十五分ほどだ。その間に再生に専念させてもらったわ!』
正宗の声を聞く限り、どうやらそれなりに回復はしたらしい。
「現在の俺達の状況は?」
『うむ。まず我だが、何とか金打声での発音が可能。騎体は大破一歩手前まで再生した、飛行は可能。ただし装甲は損傷が酷すぎるため、戦闘は回避すべきである。して御堂のほうは・・・そうだな、少しマシになった程度には再生しておる』
「具体的には」
『まず一部炭化から再生して大火傷の状態になっておる。例で上げるのならば、焼死体が火傷による重死傷者に見える程度には再生した』
つまりは満足には動けない状態ということか。しかし焼死体とは・・・そこまで酷かったとはな。
俺は未だに匂う肉の焼けた匂いにうんざりしながら首元を見る。
山田先生から借りたアクセサリーは無事のようだ。内心、溶けたりしないかヒヤヒヤした。
これが壊れたりしたら、俺は山田先生に会わせる顔がない。
しばらくアクセサリーを眺めていたら、正宗に向かって金打声が発せられた。
「いやぁ~、強いな~織斑君は。まいった、まいった」
発信された方向に目を向けると、浜辺に真っ黒に焼き焦げつつも中破状態の村正伝が横たわっていた。
「無事でしたか、真田さん!」
「ああ、何とかね。撃墜された後は何とか自力で海流に乗ってこの浜辺まで流されてきたんだ。海の底にいつ沈むかヒヤヒヤしたよ」
「すみませんでした。お怪我の方は・・・」
「いやいや、別に謝ることではないよ。武者同士の試合なんだからこうなることは当たり前だ。死ななかっただけマシだよ。むしろここまでの試合をさせてもらった此方の方がお礼を言わせてもらいたい」
「お礼だなんて、そんな・・・俺はただ戦っただけですよ」
「君は若いのに随分と謙虚だな。その年で謙虚過ぎると苦労が絶えないぞ。だが、だからこそ、そこまで強いのかもしれないな・・・・・・よし、決めた!」
「何をですか?」
「ああ、政府の勧誘の件だが・・・受けようと思う。君と戦い、政府は今の世に関して真面目考えていることが分かったし、君のような若者がいるのなら、まだ日本も捨てたようなものでもない」
「それは・・・ありがとうございます」
この戦いを通して真田さんの中で俺の株価が急上昇したらしい。
そこまで過大評価されると、やはり恥ずかしい。
「動けるようになったら飯でも食いに行こうか」
「いいですね。でも一つだけお願い、いいでしょうか?」
「ああ、別にいいよ。たぶん俺も同じことを思っているから」
「「焼き肉だけはやめよう」」
お互いに同じことを言って同時に笑い出す。
お互いに肉を焼かれたために、劔冑の中は肉の焼けた匂いで充満している。常時なら食欲そそる匂いだが、自分の肉が焼かれて発せられている匂いなど、食欲が湧くどころが減退、むしろ吐き気を催す。こんな状態で焼き肉など御免被る。
そんなことを言って笑っていたが、俺は海の方で何やら光りがチカチカと点滅するのを見つけた。
始めは飛行機かとも思ったが、あの高度では飛行機は飛ばない。
何だか嫌な予感がしてきた。
「正宗、あの光が何か分かるか?」
『分からぬ! しかし点滅の具合からして不定期、それにあちこちから点滅しているところを見るに細かく移動しているようだ』
あの高度で細かく移動して点滅する光?
なんだが不味い気がする。
「真田さん、申し訳ないですが食事は後日ということで。俺はあの光を調べてきます。何だか嫌な予感がするんで」
「そうか。まぁ、俺はまだしばらく動けそうにないから気にしなくていい。君の予感は当たりそうだからな、急ぐといい」
「ありがとうございます!」
俺は真田さんにそう断りを入れて合当理に火を入れる。
「いくぞ、正宗!」
『応』
合当理を全開で噴かして俺達は又上空へと飛翔した。
光が点滅していたところにたどり着くと、そこには二体のISがいた。
一人は白銀色をした天使のような羽つけたIS。バイザーのようなものが付いており、表情を窺えない。
もう一人は真っ紅な色のIS。操縦者はなんと・・・箒だった。
箒は紅いISを纏って白銀のISと戦っていた。戦闘はほぼ互角であり、若干箒が押し始めている。
箒の使ってるISはどうやらレーザーが出るらしく、それを使って白銀のISを押し込んでいた。
しかし俺は遠目に見ても箒がまずい状態なのがわかった。
あの顔は・・・慢心している。
自分の手にした力を試して喜んでいる・・・そんな顔だ。
あいつは今まさに力に溺れている。戦いはそんな甘い考えでは勝てない。力に溺れる者はすべからく悪なり得る、はやく止めなくては・・・
箒と白銀のISの戦いは熾烈を極めていく。
箒が放ったレーザーはあちこちに飛んで行き、雲に穴を開けたり海水を蒸発させたりしていた。
箒が攻撃しようと刀を振ろうとする先に、俺は船を見つけた。このままでは船が撃沈してしまう。
俺は急いで合当理を噴かすと、攻撃の先へと先回り飛んできたレーザーを斬馬刀で弾いた。
「なっ、一夏っ!? 何故ここに!」
箒は俺の姿を見て驚く。
「これはどういう真似だ!」
「な、何を!?」
「何故船がいるのに攻撃した!」
「そんな! 先生方がこの辺一帯を封鎖したはず・・・何、密漁船だと!? そんな話は・・・」
「ISを使っているのなら見えたはずだ! 何故見えていながら攻撃した!」
「っく、・・・封鎖しているのに来た奴が悪い! 奴らは密猟者、つまり犯罪者だぞ! 何で庇う!」
箒は顔を真っ赤にしながら必死にまくし立ててきた。
俺はそれを聞いて激怒する。
「思い違いをするな、この愚か者がぁっ、問題をすり替えるな! 確かにあの船には犯罪者が乗っているのかもしれない・・・だがお前が裁いて良い道理は無い! お前が今対峙しているのはあの白銀のISだろう、彼らではない! 悪と決めつけすべてを片そうとするは横暴だ。裁くべき悪とは、その場で向かい合っている悪だけだ。それ以外の悪も裁こうとするはただの横着よ! お前は見ていながら船を攻撃したな・・・その行いは善にあらず・・・ただの悪だ!」
俺の一喝に箒は顔を真っ青にして両手で顔を覆う。
「そんな・・・・・・私は・・・・・・」
その手からこぼれた刀が粒子となって消えていく。
箒から戦意が喪失していく。
しかし今はまだ戦っている最中であり、まだ相手は此方に砲を向けているのだ。
今刀を落とすというのは自殺に等しい。
敵ISはこちらに構わず、エネルギー弾を雨のように撃ってきた。このままでは箒に当たってしまう。
「箒、危ないっ!?」
俺は箒を庇うように前に出て、飛んできたエネルギー弾の弾雨を体を使って箒に当たらないよう受ける。
先の戦いで脆くなってしまった装甲はそのエネルギー弾の爆発で砕けていく。
「ぐぅうぅううぅうぅぅっぅううううう!!」
『胸部、及び両脚部、左腕上腕、右手に多数被弾、装甲粉砕!!』
せっかく体が再生してきていたのに、また大火傷を負ってしまった。粉砕された破片が体中に刺さり、なお痛い。
「一夏ぁああぁああああああああああああああああああああああああああ!!」
箒は俺を見て悲痛な叫びを上げ混乱し始める。
このままでは全滅だ。
「正宗、このまま海に逃げる! 文句は言うな」
『致し方あるまい。諒解』
俺は箒を抱きしめ海へと落下。
村正伝がやったように何とか潮の流れに乗ってその場を離脱した。
真田さん・・・食事に行くにはまだまだかかりそうです・・・