装甲正義!織斑 一夏   作:nasigorenn

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武者 対 武者 血戦!!

同時に合当理を噴かし空へと上昇していく。

 

「正宗、双輪懸を仕掛けるぞ」

『諒解』

 

双輪懸とは、斬撃を繰り出すために行われる武者同士の空中戦を指し、∞の軌道を描くためそう呼ばれる。合当理による飛翔から得られる運動エネルギーを乗せた斬撃を放つにあたって効率がよく、劔冑の装甲を断つには一番重要なことだ。

 

俺は速度を上げて少しでも上方を取ろうと飛翔する。双輪懸では、より速度と重力加速度を込めた重い斬撃を放つために上を取った方が有利である。ISのように縦横無尽に動き回ることはせず、武者は双輪懸をもって真っ正面からぶつかっていくのだ。

俺は何とか上方を取ると村正伝に向かって降下していく。

 

「まず一手!」

 

抜いた斬馬刀を肩掛けに構え斬りかかる。

金属同士が激突する轟音が響く。両者を挟んで火花を散らす刃と刃。

止まった相手の腕を見て敵の得物がわかった。

 

「くっ!? 槍かッ!!」

 

斬馬刀は相手の十文字槍に弾かれる。

俺は弾かれたあとは下方にまわる。この繰り返しが双輪懸だ。

 

「しかし槍とはな・・・・・・」

 

槍との戦闘経験は無い、今回が初めてだ。

双輪懸は上を取った方が有利、しかし正宗の剛力まで弾かれるとは・・・

 

「やっかいだな・・・受け止められると体が崩される。懐に入る暇がない」

『そこが槍の卑劣さよ! 安全な場所から己のみ攻めて勝ちを盗む』

「別に卑劣ではないよ。槍術も立派な武術だ。他武門の武具について卑怯だ何だと言っていては戦えない。それに相手がどう出ようと俺達の戦い方は変わらない。そうだろ、正宗」

『確かに御堂の言う通りだ。相手がどう出ようと我等のやり方が変わるわけではないな。ではどうするか、御堂?』

「決まってるだろ・・・打ち破るだけだ!」

『心得た、カッハァーーーーッ!!」

 

今度は相手が上方から槍を突き出してきた。

一突きで此方を殺すほどの威力をもった一撃。

此方も斬馬刀を振るい迎撃する。

 

「ぐぅぅっ! 重いッ!!」

 

相手の突きを真っ正面で受け止め、その威力の重さに歯を食いしばりながら槍を外に弾く。

その威力の強さに相手の腕前が相当であることが窺える。しかし此方とて負けるつもりはない。

俺はまた上方にまわって一撃に渾身の力を込めて放ち、また空気が振るえるほどの激突音が鳴り響く。

そのやり取りが何合も続いていく。

 

「ほう・・・中々の手前だ。その歳でその手前とは、恐れ入る」

「いや、こちらは恥ずかしいばかりです。この程度の腕前で申し訳無い」

「ふふふ、謙遜だな」

「恥ずかしい限りで・・・」

 

真田さんとそんな軽口を話しつつも双輪懸による激突を繰り広げていく。

その間に俺は胸に一カ所、腹に一カ所、左腕に一カ所軽く被撃したが、相手にも少なからずダメージを与えた。

 

「しかし十文字槍とはまたやっかいなものだ」

『突けば槍、振れば長刀、引けば鎌、と言われるだけのことはあるわ!』

 

正宗の言う通り、十文字槍は変幻自在な攻撃を可能とする。それによって俺は苦戦を強いられている。間合いの違いもあって中々に攻め込みづらい。

 

「・・・・・・ふむ。実に良い戦いだ・・・これならば、此方も本気を出せるというものだぁっ!!」

 

そう真田さんは張り切って言うと、槍を後ろに回し左手を前に出す。

すると村正伝の背後に人魂のような炎が生まれ輪の形になる。数は六個。

 

『躑躅繚乱』

 

叫ぶと同時に六個の炎は骸骨の形になって此方目がけて飛んでくる。

 

「正宗、あれはなんだっ!?」

『御堂、これは相手の陰義だ! 村正伝の陰義は炎熱操作と観た、当たるでないぞ御堂。超高熱を検知、当たれば甲鉄が溶けるやもしれん』

「まるでホラーだな。骸骨に追っかけられるとは」

 

正宗に言われた通りにし、避けようと合当理を噴かして炎から離れようとするが・・・

まるで誘導されたかのように追いかけてくる。

 

「くっ・・・空気の流れに乗って追いかけてきているのか。これでは撒いた炎に巻かれにいくようなものだな。振り切れそうにない」

『ではどうする』

 

どうするか・・・・・・そのまま斬馬刀を振れば溶かされるかもしれん。何か良い手は・・・そうだ、高熱には高熱でぶつかってみるか。

 

「・・・・・・よし・・・正宗、朧・焦屍剣で叩き斬る!」

『諒解!』

 

早速朧・焦屍剣を起動、高温が肉を焼き始める。

 

 

「ぐぅうぅううううううううううううううううううう!!」

 

刀身が赤くなり始めたところで転身、迫り来る炎の骸骨に向かって斬りかかる。

 

「おぉおおおおおおおおぉおおおおおおお!」

 

俺は叫びながらすべての骸骨を切り捨てた。腕の肉が結構良い感じ焼けてしまい、激痛で刀を落としそうになるのを堪える。

 

「まさか炎を切り裂くとは・・・いやはや、まったく・・・やってくれる!」

 

村正伝から感嘆の声が上がる。

俺は激痛が走る腕に歯を食いしばりながら村正伝へと突撃する。

 

「がぁああああああああああああああああああああああっ!!」

「しゃぁあああああああああああああああああああああっ!!」

 

激突する斬馬刀と十文字槍。

お互いに弾きあい、剣戟が絡み合っていく。

槍の穂先を弾いたら今度は石突きで足を突かれた。

足に走る激痛に歯を食いしばって耐える。

 

「正宗っ!?」

『わかっている。右大腿部に被撃、甲鉄が蒸発したようだ』

「蒸発だって!?」

『どうやら相手の陰義の効果で槍が高温を持っているようだ!  朧・焦屍剣で対抗する他ないぞ』

「ああ、わかった」

 

俺はまた朧・焦屍剣を使って槍をはじき返し、相手に一太刀浴びせる。

 

「かぁあああああああああああぁああああああ!!」

 

斬馬刀の赤熱した刃が村正伝の胸部を捕らえる。

刃は村正伝の胸にズブリッ、と侵入し甲鉄と仕手の肉を焼き斬る。

 

「ぐぅううぅうううううう! まさかこれも返すとは・・・やはり強い」

『敵胸部に被撃を確認、敵劔冑に中破の損傷』

「よし!」

 

さっきのは結構いい手応えだ。これで相手とのダメージは互角くらいになったと思う。

俺は一撃後に離脱。すると村正伝から金打声が此方に発せられる。

 

「血が滾って仕方ない! やはり武者同士の戦いとはこうでなくてはなぁ。そう思わないか、織斑君!」

 

とても興奮した様子だ。しかしそれは此方も同じ。

 

「ええ、そうですね! ここまでの昂ぶりは初めてかも知れない。やはり俺もまた武者なのだと自覚させられます」

 

お互いに命がけの戦いに気が昂ぶっていく。ISとの戦闘では味わえない緊張感と焦燥感、激痛に歯を食いしばりつつも全力を込めて放つ一太刀一太刀に魂をかけるこの一瞬。IS学園での戦いでは感じられない充実感に満たされていた。

しかしだからこそ、終わらせなければならない。血が昂ぶる戦いは確かに充実してはいるが、戦いに取り込まれてはならない。取り込まれてはただの戦狂い、それは悪だ。

正宗の仕手である以上、そのような真似はするわけにはいかないのだ。

 

未だに剣戟は続いていく。

俺の体はあっちこっち槍を受けまくり、出血と火傷が絶えない。普通の人だったらとっくに病院行きレベルになっている。

しかしそれはあちらも同じこと。お互いに中破状態にまで持って行った。

熱量も結構消耗してきつい。

 

「そろそろお互い限界が近い。これで決めるぞ・・・おぉおおおおおおおおおおお!」

 

『迦楼羅紅焔翼ッ!!』

 

村正伝は炎を纏った槍を前に振るう。纏った炎は鳥の形を取り、群れを成して此方に飛翔してきた。

 

「正宗、あの数はさすがにさばき切れない。上空に引き連れて酸欠での燃焼阻害を狙う。数が減るか温度が下がればあの数でも対処出来る」

『諒解! しかし御堂よ、気をつけよ。直下での気圧の異常を感知。何かあるやもしれん』

「この高度で気圧異常? 何か嫌な予感がする。正宗、急ぎ高々度へ上がって状況を見たい。急いでくれ」

『諒解』

 

嫌な予感に駆られて俺達は鳥の群れから逃れるために上昇したのだが・・・どうも予感は的中したようだ。

鳥の群れは数を減らしていった。それは有り難いが・・・数が減るかわりに一匹がまわりの鳥を取り込んで段々と大きくなり、巨大な青い鳥になった。

 

『御堂、あれはっ!?』

「嫌な予感的中だな。たぶん・・・逆気流(バックドラフト)現象だろうな、あれ」

『逆気流(バックドラフト)?』

「急激な酸素の供給が炎にされると大爆発を引き起こす現象だ。さっきの気圧異常はたぶん、村正伝の陰義のせいでこの辺一帯の酸素が欠乏したんだ。それを補おうとした結果、まわりから過剰なまでの酸素が供給されて発生したんだろう。あの炎の色からして超高温だ。喰らったら骨まで燃えるかもしれない」

 

正宗にそう説明しつつ俺はこの現状を打破する方法を考えていた。さすがにこれを喰らったら不味すぎる。どうにかしなければ・・・・・・

 

「これほどの炎を出したのは初めてだ! だからこそ、さらにその先に行かせてもらう!」

 

村正伝はその鳥に飛び乗り槍を構えてこちらに迫る。

 

「おぉおおおおぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉおおおおおおッ!!」

 

村正伝が咆吼を上げると、鳥は形を変え、龍となり顎を開く。

 

『熾盛光閃翼ッ!!』

 

炎の龍は顎を開きながら此方に向かって迫り来る。

 

「さすがにあれは・・・喰らったら塵一つ残りそうにないな。しかも避けられないし逃げられそうもない」

 

俺はこの光景に圧倒されていた。さすがにここまで凄いのは初めて見たかも知れない。

 

『御堂、どうする。このままではいずれにしろ燃え散るのは目に見えているぞ』

「ああ、そうだな・・・・・・避けられない、逃げ切れない、どちらにしても死ぬのなら・・・いっそ前に出る! 死中に活を見いだすっ!!」

 

俺は龍に向かって真っ正面から向かっていく。

 

「少しでもマシになるかもしれん。正宗、七機巧の一つを使う、炎を吹き飛ばすぞ! 左腕全部持って行けッ!!」

『うむ、拝領いたす』

 

左腕がちぎれ肉を貪られる激痛に歯を食いしばって苦痛の声をかみ殺し、俺は炎の龍にぶつかる手前で右手を前に突きだした。

右手から発射されるナニカ。それが炎に触れた瞬間に閃光が目の前で煌めく。

その瞬間、大爆発が起こった!!

炎の龍はその爆発で頭を吹っ飛ばされ、もはや龍としての体を成していない。

しかし胴体は残っており、俺達は胴体の炎に飲み込まれる。

 

「がぁあああああああああぁああああっっあああああああああああああああああっ!?」

 

高熱によって体中が焼き尽くされる。

 

『表面装甲蒸発加速! このままではもたんぞ!』

「わかってるっ! でも耐えろ、耐えれば此方に勝機が来る!! おぉおぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

俺は咆吼を上げながら炎に焼かれる痛みに耐え、右腕で首元を炎から防ぐ。

そこには山田先生から借りたアクセサリーがあり、それを感じると何故かどんな苦痛にも耐えられる気がした。

 

 

 

地獄のような時間は何とか過ぎ去った。

取りあえず生きてはいるらしい。感じからしてかろうじで飛行しているようだ。

身体中から激痛が迸りろくに目が見えない。劔冑の中から肉の焼けた香ばしい匂いがして仕方ない。

呼吸する度に肺に痛みが走り脂汗を掻こうと体は反応するが、全身が焼けただれてしまい、ろくに汗が出ない。

 

「正宗・・・・・・状態は・・・・・・」

 

俺はかろうじで喉から声を絞り出す。

 

『・・・飛行は続行可能・・・しかし騎体は大破、御堂の体は全身重度の火傷、一部炭化・・・』

 

正宗の状態も相当悪い。声が途切れ途切れなのは相当ダメージを負った証拠だ。

 

「戦闘は・・・可能か・・・」

『・・・本来ならば不可、退避を推奨するべきだが・・・・・・このままで・・・引き下がれるわけがない!』

 

正宗はまだ戦意を墜としてはいない・・・ならば俺もまだ戦える! まだ負けたわけじゃない!!

 

「そうだ! 相手だってこの陰義で相当な熱量を消耗したはずだ。ならば次は此方の番だ! 正宗、陰義を使うぞっ!!」

『諒解ッ!!』

 

俺は全身ボロボロな体を立て直し、村正伝に向かって飛翔する。

正宗の陰義・・・それは特殊故に使い勝手が悪い。しかし使えば、それは絶対の力たり得る。

正宗の口の部分の装甲が展開される。

 

『善因には善果あるべし! 悪因には悪果あるべし! 害なす者は害されるべし! 災いなす者は呪われるべし! 因果応報!! 天罰覿面!!』

 

「おぉおおおおおおお、くらえぇえええええええええええっ!!」

『熾盛光閃翼っ!!』

 

斬馬刀から炎が発生、刀を村正伝に向かって振るうと炎は村正伝に向かって飛んでいき、まわりの酸素を急激に吸収して先程と同じ巨大な龍になる。

 

「何っ!? 何故炎を・・・それは俺の技のはずっ!?」

 

村正伝から驚愕の声が上がる。

陰義とは真打一騎につき一つ。同じ炎の陰義を持っていてもおかしくはない。しかしこの陰義の業は村正伝の仕手たる真田 幸長のみが使える特殊な業で、他の炎の陰義持ちとて真似できるものではない。しかし正宗はそれを使ってきた。

別に、正宗の陰義は炎を操るものではないし、そういった何かを操るものでもない。

正宗の陰義・・・それは陰義返しの陰義。

相手の陰義をこの身に受け、耐えきった先に相手に同じ陰義を威力も何もすべてを同じく返す。

 

「こ、これが天下一名物と言われた正宗とその仕手の力かっ! まさか己の炎に焼かれるときが来るとはなぁ・・・耐えきってみせる! ぐぉおおおおおおおおおおおおおおぉおおおおおおおおっ!!」

 

炎の龍は顎を開き、村正伝を飲み込み燃やし尽くした。

 

龍が消えるとそこには黒く焼き尽くされた村正伝が何とか飛行し、槍をかろうじで構え始める。

どうやら向こうも何とか耐えきったらしい。

お互いもう一撃放てるかどうか・・・

 

「これで決めるっ! 正宗ぇえええぇえええええええええええええ!!」

『応っ! 朧・焦屍剣ッ!!』

 

俺は斬馬刀を鞘に収め朧・焦屍剣を起動、村正伝に向かって決死の特攻を仕掛ける。

鞘が溶け始める一歩手前で刀を解き放つ。

 

『吉野御流合戦礼法、迅雷ッ!!』 

 

村正伝も最後の一撃に全力をかけて業を出す。

 

「おぉおおぉおおおおおおおお、『蜘蛛手十文字』ぃいいいいいいいいッ!!」

 

お互いの最後の一撃がぶつかり合い、轟音がと破壊音が鳴り響く。

村正伝の放った業は俺の業によってそらされ、心臓では無く腹に突き刺さった。

そして俺が出した業は・・・・・・

村正伝の胸部を捕らえ甲鉄を破断した。

 

「・・・・・・・・・お見事・・・・・・」

 

村正伝はそのまま海に落下していった。

 

「・・・ごふっ、・・・俺達の勝ちだよな・・・」

 

俺は吐血しながらも正宗に聞く。今まが幻であったかのように思えるほどに、今の静寂が信じられない。まるで夢でも見ていたような気分だ。

 

『・・・そうだ・・・我等の勝利だ・・・胸を張るがいい、御堂』

 

正宗にそう答えられ、この不思議な感覚に現実が帯びてくる。

 

(よしゃぁあああああああああああああああああああああああああああああ!!)

 

本当は叫びたかったが激痛で声が出せないため、内心で雄叫びを上げて俺は陸地に着陸し、装甲したまま気を失った。




IS戦より頑張ってみましたが、中々うまくいきませんね。
結構熱くできたと思うのですが・・・・・・

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