トーナメントの一段落すぎての月初め。
昨夜のこともあって俺は体調がよくない。
山田先生の『あれ』を直で見てしまったあとの記憶がなく、気がつけば自室のベッドで横になっていた・・・全裸で。
それで体を冷やしてしまった。
後から聞かされたが、どうやら俺を運んだのは正宗らしい。何でも俺の熱量が急激に低下したのを感じたんで駆けつけたところ、大浴場で俺が大量の鼻血を出して気絶していたらしい。
意識が戻った俺は正宗に事情説明をさせられ、かなりの説教を受け、そのまたさらに過度なトレーニングをさせられた。
『そんな程度で気絶するなど、精神がたるんでいる証拠ぞ!!』
とのこと。それが余計に体を冷やす要因になり、体調悪化に拍車をかけている。
しかし頭はそのことよりも山田先生やシャルロットのことを思い出してしまい、鼻腔が熱くなってきた気がする。今後二人を真っ正面から見られるか不安だ。
己の精神が未熟なのをここまで恥じるのは初めてかもしれない。
自分の席で自己嫌悪に陥っていたが、それとは関係無く授業は始まる。
シャルロットは事前の打ち合わせで先に寮を出ている。きっとこの後この教室は混沌とするだろう。
シャルロットに関してはまだ大丈夫なのだが・・・・・・
当然山田先生とも顔をあわせなくてはいけないわけで・・・・・・個人的に非常に気まずい。酔っていたので忘れているかもしれないのでそれに賭けてみたい。
「みなさん、おはようございます」
挨拶と同時に教室に山田先生が入ってきた。顔が赤い気がする。
「「あ」」
目が合った。
その瞬間・・・・・・
ボンッ
と音がするような気がするくらい山田先生の顔が真っ赤になった。
これは絶対に覚えてる!!
山田先生はその場で真っ赤になったまま、あわあわと慌て始める。どうしよう・・・凄まじく・・・気まずい・・・
「ふむ・・・どうやら山田先生は思考がどっかに飛んだらしい。これでは朝のSHRを行えないな。仕方ないから私が仕切ることにしよう」
千冬姉がそう言いながら教室に入ってきた。
今此方を見てニヤリッ、と笑わなかったか!?
「実はな、今日は転校生を紹介する。と言っても既に皆知っていると思うがな。入れ」
「はい」
そう答えて入ってきたのはシャルロットだった。格好は女性の制服である。
「シャルロット・デュノアです。皆さん、改めてよろしくお願いします」
そう笑顔で名乗るシャルロット。
その姿を見たクラスのみんなは一瞬の静寂の後、騒然となる。
「「「「「ええええええええええええええええええええええええええええ!?」」」」」
「え? デュノア君って女?」
「おかしいと思ったっ!? 美少年じゃなくて美少女だったわけね!!」
「私の恋心を返せぇええええええええええええええええええええ!」
「女の子でも、寧ろイけるかも・・・・・・」
みな口々に騒ぐ。シャルロットは最後の人に気をつけてほしい。
「織斑君は知ってたの?」
一人がそう言って俺を見るとみんなの視線が集まってくる。結構・・・いや、かなり怖い。
「あ、ああ、俺は知っていたよ。何でもデュノア社がフランス政府に性別の報告を間違ってしまったみたいなんだ。手続きの関係で直すのに時間がかかってしまったみたいでな、シャルロットは仕方なく性別を偽ってたんだ。事情については来てからすぐに聞いた。混乱を避けるためにも周りにはばれないように、てな。たぶん先生方はしってたんじゃないかな、ねぇ、千冬姉」
「織斑先生だ、馬鹿者。まぁな、知ってはな・・・」
やはり千冬姉は知ってたみたいだな。
「・・・あれ? そう言えば昨日って男子が浴場を使ってたよね・・・」
またもやクラスメイトからの爆弾発言!?
やばい、何故かは知らないが箒とセシリアが凄い形相で此方を睨んでる。
「確かに使わせてもらったけど、俺はさっき言った通りシャルロットのことは知ってたから一緒には入ってないよ」
半分嘘で半分真実。
知ってたのは本当だが、一緒には入ってしまった。
しかしそのことを素直に話す阿呆がどこにいる。いたらそいつは英雄で、俺はこの場で命を落とすことになる。
「まぁ、織斑君ならそんなことは絶対にしないしね~」
「確かに、織斑くんだし」
「言えてるね~」
俺の説明で箒やセシリア、クラスのみんなは納得してくれたようだ。こういったときほど日頃の行いがものを言う気がする。
しかし俺の声は大きなものではなく、普通に聞こえる程度のもの故に、扉の外には聞こえない。
「一夏ぁああああああああああ!!」
鈴がISを展開して扉をぶち破ってきた。
どうやらこの話を立ち聞きしていたようだが、俺の弁明はまったく聞いていないらしい。目が殺気で血走り、顔が鬼のような形相になっている。
「死ねぇええええええぇええぇええ!!」
そう叫ぶと同時に衝撃砲を展開、最大出力で放つ気らしい。
こんな所で撃たれたら被害が馬鹿にならない。下手をすれば死人が出るかもしれないことをあいつは頭に血が上って理解できないみたいだ。
俺は急いで止めようと正宗を呼ぼうとしたが、衝撃砲は放たれてしまった。
俺は少しでも被害が出ないようみんなの前出て、目を閉じて歯を食いしばりながら惨劇に構える。どっちみち喰らえば俺はあの世行きなのだが・・・・・・
しかしいつまで経っても俺に衝撃は襲いかからない。
少しづつ目を開けていくと・・・そこには・・・
ISを展開したラウラ・ボーデヴィッヒがAICを起動させ衝撃砲を食い止めていた。
「ボーデヴィッヒか・・・助かった、礼を言う。そう言えばお前のISはもう直ったのか、速いな」
そう俺は言うと、ボーデヴィッヒはAICを解除して此方を振り向く。衝撃砲の衝撃は見事に拡散できたようだ。
「コアパーツは無事だったので、予備パーツで組み直しました。それと私のことはラウラとお呼び下さい」
そうラウラは答えてきた。心なしか顔が赤いような・・・しかも何故か敬語・・・
ラウラは俺の前に立つとISを解除するといきなりしゃがみ始めた。
何をするのかと思ったら、何と!?
正座をし始めた。それも・・・・・・三つ指で・・・
「一夏、あなたをお慕い申し上げます。是非とも私の嫁になって下さい」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はぁ?
俺は耳が悪くなったんだろうか。おかしな事が聞こえなかったか、今。
「「「「きゃぁああああああああああああああああああああああああああああああ!?」」」」
ラウラの爆弾発言にまた騒ぎ出すクラスメイト達。
「・・・・・・貴様どういうつもりか説明してもらおうかぁ!!」
「あっあっあんたねぇえええええ、これってどういうことよ!!」
「いったいどういうことなんですの!?」
「・・・一夏・・・なんでこんなことになってるの・・・」
四人がかなり怖い感じになっているが、ラウラは全く気にも留めていないみたいだ。
「俺に聞かれたって・・・・・・困る・・・」
俺はこの混乱を収める方法など分からない、事態は収拾不可能だ。
あぁ、助けて下さい・・・師匠・・・・・・こういうのは師匠の領分だったと思うのですか・・・・・・
俺はそう思わずにはいられなかった。