「すっかり遅くなっちゃったね」
「そうだな。すまないな、待たせてしまって」
「いいんだよ、一夏。僕が一緒に食べたいから待ってただけなんだから」
ボーデヴィッヒのお見舞いを終えて自室に戻ろうとしたところを千冬姉に捕まり、『また』反省文を大量に書かされた。今回は前回と違って暴走したとはいえ、他国のISに被害を与えたからだとか・・・少しばかり理不尽な気もするが、致し方ない。
書き終えて自室に戻ったときにはもう結構な時間になっており、シャルルは食事も取らずに俺のこと待っていてくれた。本当に有り難く、申し訳無い気持ちで一杯になる。
しかし無情なことに食堂の営業時間ギリギリで、もう従業員の方々が片付けを始めていた。
ここまで待っていてくれたシャルルにこれでは申し訳立たない。
俺は少しだけ火を止めるのを待ってもらい余り物の食材を拝借、簡単ながら料理を作らせてもらった。材料費やその他諸々の金額を払おうとしたら、従業員の方々は、
「どうせ捨てるような余り物しかないから別にいいよ」
といって断った。まったくもって感謝が絶えない。是非とも今度仕事の手伝いをしようと心に誓った。
そして出来た料理をシャルルの待つ席に持って行く。
メニューは親子丼と香の物、豆腐とわかめの味噌汁である。
「うわぁあ!? すっごく美味しそう。一夏って料理上手なんだね!」
シャルルは親子丼の蓋を開けた瞬間に感動したらしく、目をきらきらさせていた。
そこまで喜んでくれるとは思わなかったが、やっぱり喜んでもらえると嬉しいものだな。
「俺はまだ料理上手なんて言われるほどの腕は無いよ、まだまだ未熟者だからさ。こんなものしか作れなくて悪いな」
「そんなこと無いよ! 上手だよ、すっごく」
と言って俺の腕を褒め称えてくれるシャルルにこそばゆく思ったところで、
きゅる~~~~
と可愛らしい音が聞こえてきた。
音の元を辿るとシャルルに行き当たる。
「っっっっっ~~~~~」
シャルルは顔を真っ赤に染めてうつむいてしまった。耳まで真っ赤である。
どうやらこの音はシャルルの腹の音のようだ。
「・・・・・・とりあえず食べるか」
こくんこくんとシャルルは無言で頭を振るようにうなずく。
ここまで待っていてくれたのだから、お腹が空いているのも当然。待たせてしまったうえに恥をかかせてしまったのは本当に申し訳無い、気にしないようにしよう。
恥ずかしさで顔を赤らめるシャルルを可愛いと思ったのは内緒だ。
早速食べ始めると
「美味しい!? これすごく美味しいよっ!!」
シャルルがとても喜んで食べてくれた。こんな嬉しそうに食べてくれると、作った側も冥利に尽きる。
「満足いただけてなによりだ。まだ残ってるからおかわりも大丈夫だぞ」
「うっ!・・・・・・それは~その~」
よく食べてくれるのでおかわりを進めたところ、何故かシャルルが言いよどむ。
「どうしたんだ?」
「いや、あのね・・・・・・美味しいからついついスプーンが進んじゃうんだけど・・・その・・・食べ過ぎて太っちゃうかもしれないから・・・・・・(うぁあああああああああああ、なんで僕はこんなこと言っちゃうんだぁああああ、恥ずかしすぎるよぉおおおおおおおおおお)」
「・・・・・・ぷっ、・・・あっはっはっはっ!」
シャルルが言ったことに想わず吹き出してしまった。
「なっ!? 酷いよ一夏! なんでそんなに笑い出すの!」
「悪い悪い、ただ理由が可愛らしくてさ」
「へ?・・・っ!? 可愛らしいってっ!?」
シャルルが顔を赤くしながらわたわたしていた。見ていて面白い。
「俺の周りにはそんなこと気にする人とかいなかったからな。成程、そういうこととかも確かに気をつけないと駄目だな。今度から気をつけることにするよ」
「う、うん・・・(一夏って・・・何かずるい)」
その後も真っ赤になっているシャルルを見ながら食事を進めていった。
食べ終わって食後のお茶を啜りながらトーナメントの話をシャルルと話していた。
「結局トーナメントは中止になったみたいだな」
「生徒の現時点のデータを取りたいから、一回戦だけは全部するみたいだけどね」
「まぁ、それが本来の目的みたいなものだろうからな。出来なければ本末転倒もいいところだ」
「そうだね。そういえば、ボーデヴィッヒさんはどうだったの」
「怪我はそれなりだけど重傷ではないみたいだ。あれだけしゃべれれば大丈夫だと思う」
「そうなんだ。それじゃあ一夏は教えてあげられたんだ、力のあり方を」
「まぁ、たぶんだけどな」
「やっぱり一夏は優しいね(そんなに優しいから、好きになっちゃたんだけどなぁ)」
「そうか? 俺はそんなこと無いと思うけど」
そんな風に話していたところに、箒が妙に切羽詰まった気迫を纏って俺達の前に来た。
「よう、箒、どうしたんだ? 食事ならもう・・・」
「いや、別にもう食事は済ませている」
「そ、そうか・・・」
やけに大きい声に驚いてしまった。どうしたんだ、一体?
すると箒はいきなり顔を真っ赤にして手を胸の前でいじり始めもじもじし始めた。
「あの、その・・・実はな・・・・・・あの約束のことなのだが・・・」
「約束? どの約束だ?」
「それはっ! その、トーナメントの約束なのだが!」
トーナメントの約束? そんなもの何か約束したか?
「ちょっと待て。俺はお前と何かトーナメントで約束したのか?」
「何を言っているんだ、一夏!! あの約束をわっ「だから少し待て」」
興奮しすぎている箒を落ち着かせるために一回深呼吸させる。
「それはいつ頃した約束かわかるか?」
「たしか三週間前くらい前だ」
その言葉を聞いてから考え始めて数秒、あることが思い出された。
「確かあのときは・・・・・・茶々丸さんの件でドタバタしていたときだったな。具体的にもうちょっとわかるか」
「確か私の引っ越しが決まったときだった」
「引っ越し・・・・・・あ・・・」
それで当時のことを思い出した。
あのときは確か・・・正宗から携帯が鳴っていること言われて見たら、茶々丸さんからのメールが来たことが分かって絶望していたんだった。
確か箒がトーナメントについて何か言っていたと思うが、正宗の声が大きかったんで聞こえていなかった。
「すまん、あのときは聞いてなかった。何か急用ならすぐに聞くが」
「なっ・・・何っ!? 聞いていなかっただと・・・・・・」
見るからに箒が真っ白くなっていた。
「大丈夫か、箒?」
「・・・・・・何でも・・・ない・・・私は部屋にもどる・・・・・・」
箒は俺に力なくそう言うと、ふらふらしながら部屋を出て行った。
(うわぁああああああぁああああぁあああああああああああああああぁああああ!! せっかく頑張ったのに、聞いてなかったなんて・・・あんまりだぁああああああああああああぁああぁあああ!!)
「箒の奴、大丈夫か? かなりふらついていたみたいだけど」
「う、う~ん、どうだろうね(ご愁傷様としかいいようがないよ・・・)」
俺とシャルルは箒を心配そうに見送り、残りの茶を啜っていたら、今度は山田先生が息を切らしながら食堂にきた。
「はぁ、はぁ、一夏君、デュノア君、朗報ですよ、はぁ、はぁ」
「大丈夫ですか、山田先生! 少し落ち着いて呼吸して下さい」
何か飲み物は無いかと探したが、ここにあるのはお茶くらいなものだ。
「これをどうぞ」
「あ、ありがとうございます」
山田先生は自身を落ち着かせるためにゆっくりとお茶に口を付け始めた。
「飲みかけのお茶で申し訳無いですが」
「ぶぅぅっっっっっっ!?」
「い、一夏!?」
山田先生はお茶を吹き出して咽せ始めた。
「大丈夫ですかっ!?」
「げほっ、げほっ・・・はい、大丈夫ですっ、けほ(もしかして、一夏君と間接キスしちゃったんですかぁああああああああ!? あぁ、咽せて苦しいけど、ついに・・・ついに一夏君と間接キスしちゃいました!! きゃぁああああああああああああぁあああああ)」
顔を真っ赤にしながら咽せている山田先生の背中を丁寧に擦る。
「い~ち~か~!!」
「どうしたんだシャルル、何かおこってないか!?」
「何でも無いよ、ふ~ん(一夏のバカ・・・・・・でも山田先生がちょっとうらやましいかも・・・)」
この後俺は先生が落ち着くまで背中を擦りつつ、シャルルの機嫌を直すという奇妙なことをやるはめにあった。
「それで・・・朗報って何ですか?」
当初の用であった朗報について山田先生に聞いてみるのだが・・・
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
顔を真っ赤に染めてポーっとしている。心ここにあらずのようだ。
仕方なく顔を近づけて大きな声で話かける。
「山田先生! どうしたんですか!」
「ひゃいっ!? い、一夏君!? あの、その」
「落ち着いて下さい。先生が持ってきた朗報ってなんなんですか?」
「は、はい・・・」
山田先生は恥ずかしそうにモジモジしながら教えてくれた。
「は、はい・・・今日は大浴場がボイラーの点検日で元々使用不可なんですが、点検が予定より早く終わったんです。それで男子の大浴場の使用が今日から解禁になりました!」
「「えぇええええええええええええええええええええええええ」」
山田先生がもたらした朗報は、俺にとてつもない衝撃を与えた。
しかしこの時の俺はまだ知らなかった。
この後になにが待ち受けているのかを・・・・・・