装甲正義!織斑 一夏   作:nasigorenn

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※ラウラは力のあり方を学ぶ

「うっ・・・・・・ここは・・・・・・」

 

私は目覚めると見知らぬ部屋のベッドにいた。

先程までアリーナで戦っていたはずなのに・・・何故・・・。

私はどこからか聞こえてきた声に呼応して、それで・・・一体・・・。

 

「気がついたか?」

「教官・・・・・・」

 

声のしたほうを振り向くと教官がこちらを覗き込んでいた。

教官の前で寝っ転がった状態でいるわけにはいかない。起き上がろうとしたら全身から痛みが襲いかかり動けない。

 

「くっ!?」

「全身に無理な負荷がかかった事で筋肉疲労と打撲、それと諸事情で軽い火傷がある・・・無理はするな」

 

道理でこんなに体が痛むのか。

 

「何が・・・起きたのですか・・・私は一体・・・」

「説明してやるから、大人しくしていろ」

 

教官は私をベッドに優しく寝かせ直すと、あの後あったことを説明してくれた。

 

「一応重要案件である上に、機密事項なのだがな。VTシステムは知っているな?」

「ヴァルキリー・トレース・システムですか? 確か過去の世界大会の部門受賞者の動きをトレースするシステムで・・・・・・」

「そうだ、現在はIS条約で禁止されている代物だ。それがお前のISに搭載されていた。操縦者のの精神状態、機体の蓄積ダメージ、そして何より操縦者の意志・・・・・・いや、願望か。それらが揃うと発動するようになっていたらしい」

 

それを聞いて納得する。

 

「私が望んだから・・・ですね・・・・・・教官のようになりたいと・・・」

 

そういったことを考えているといきなり教官に名前を呼ばれた。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒ!」

「は、はいっ!!」

「お前は何者だ!?」

 

そう聞かれ、何故か言いよどんでしまう。

 

「誰でもないなら丁度いい。お前はこれからラウラ・ボーデヴィッヒになるがいい」

 

そう言って教官は立ち去ろうと扉に向かっていたが、出てく前に私に言った。

 

「お前は私にはなれないぞ。人は誰しも自分にしかなれない。お前は私が強いと思っているが、私はあいつほど強くはないさ。人は時間をかけて自分を磨いていくしかないんだ。何、時間は死ぬまで山ほどある。たっぷり悩めよ、小娘」

 

そう言って教官は部屋を出て行った。

 

 

 

コンコン、とノックが聞こえた。

 

「・・・・・・どうぞ・・・」

 

私がそう言うと扉が開いて人が入ってきた。今は人に会う気分ではないのだがな。

 

「なっ!? 貴様っ!」

 

入ってきたのは織斑 一夏だった。

 

「どうやら大丈夫のようだな。おっと、あまり無理はするな。怪我のことは聞いているから」

 

そう言いながら織斑 一夏は私のベッドの近くの椅子に座った。

 

「何しに来たんだ、貴様!」

「何って・・・けが人の見舞いをして何が悪いんだ?」

 

そう言って彼は持ってきた紙袋に手を突っ込みガサゴソと中からリンゴを取り出した。

 

「リンゴは嫌いか?」

「いや、嫌いではないが・・・そうではなくてだな」

「そうか。少し待ってろ」

 

私が言うことを全く聞かず、彼はどこからか果物ナイフを取り出すとあっという間にリンゴを切り分け、一緒に持ってきたらしい紙皿によそった。皿の上にあるリンゴは全部ウサギの形になっている。

 

「ほら、剥けたぞ」

 

そう言って差し出されたが、こいつからの施しを受ける気にはならない。それに私は痛みで動くことが出来ない。しかし何故かは分からないが、どうやらそれを見抜かれてしまったらしい。

 

「動けないみたいだな。仕方ないか、ちょっと我慢しろよ」

「なっ!? 貴様、何をする!!」

 

彼は私の体を支えながら上半身を起こすと、左手でリンゴを持って

 

「ほら、あーん」

 

と私の口元にリンゴを差し出してきた。

 

「!?」

 

いきなりのことに頭が停止する。何故彼がこんなことをするのかが全く分からなかった。

すぐにでもはねのけようとしたが、体が動かない上にさっきから喉が渇いて仕方ないこともあり、私は大人しく口を開けリンゴを囓った。

 

何だろうか・・・この感覚は・・・何というか・・・すごく恥ずかしい。

 

顔が熱くなってきた、こんな感覚は初めてだ。教官に失態を見られたときとは少し違う。何とも言えないもので、私の感性では形容のしようがない。

私はそのあとも黙々と彼が差し出すリンゴを食べた。

 

 

食べ終わって一息ついたところで私は彼に聞いた。

リンゴを食べさせてもらったせいなのか、少しばかり気が収まった。

それまでは憎悪しか湧かなかったが、こいつと戦ってから何故か湧き上がらなくなった。

そして何故か彼のことが気になり始めた。

 

「教官はお前のほうが強いと言っていた。事実私はお前に敗北した。何故だ・・・お前はどうして強い。お前は知っているのか? 強さの意味を・・・何故強くあろうとする」

 

それを聞いた彼は少し複雑そうな顔をして答えた。

 

「少なくても、俺は自分を強いなどと思ったことは一度も無い。俺はまだまだ未熟者で弱い、まだまだ鍛えなければいけない身だ。もしお前が強いって思うのなら、それはきっと信念だ。力を振るうに信念を持ち、己の魂に全てをかける。己の信念、俺の『正義』を貫くために俺は力を使う。それが強さに繋がっていると俺は思う」

 

彼は言い終えると私を真摯な眼差しで見つめながらこう言った。

 

「俺は今日の戦いでお前に教えたかった。力の使い道とは信念に基づいて使わなければ、それはただの暴力、悪になってしまうということを。暴力では何も救えない、何も守れない、ただ破壊を撒き散らすだけだ。だからお前には学んでもらいたかったんだ。正しい力の使い方を・・・」

 

そう言って彼は部屋から立ち去っていった。

 

 

 

私はさっきから彼が言った言葉の意味を噛み締めていた。

何のための力か、その力を使ってなにを成したいのか・・・

私は今日まで彼を憎んでいたが、私が思っている以上に彼は強く、勇ましかった。彼は教官を悲しませてしまった事を、多分だが理解している。だからこそあそこまで強くなり、未だに精進を続けているのだろう。自身の信念をかけて・・・

私は見誤っていた。彼の存在が教官を弱くする・・・そんなことは絶対にないと今なら言い切れる。あそこまで高潔な人間が周りに悪影響を与えるはずがない。

そして理解した。

 

私では絶対に勝てない。

彼はあまりにも真摯過ぎる。私は私怨で彼に戦いを挑んだが、彼は己が信念に従い戦った。邪念や怨恨といったものが一切無い、ただの武人として、正義を貫くものとして私と戦ったのだ。そんな真摯な存在に、私怨と怨恨に満ちた私が勝てるわけがない。

しかも私は彼を憎んでいたのに、彼は私の事まで心配してくれていた。

器が違いすぎる。ここまでの人物では、人としても勝てる気がしない。

前なら聞いただけで怖気が走っていただろうが、今は彼に心配してもらえたことが、なんだか嬉しい。

 

 

 

その後もベットにいたわけだが、すっかり考えることが変わってしまっていた。

さっきまで彼が言った力のあり方について考えていたはずなのに・・・・・・

今は彼のことしか考えられなくなっていた。

何が好きなのかとか、どうすれば彼のように強くなれるのかとか・・・

何より・・・彼の顔が忘れられずにいた。

たぶんだが、これがきっと・・・・・・

 

惚れてしまうということなんだろうか。

これが私の初めての初恋。

 

この日、私の中で彼は織斑 一夏から一夏になった。

 

 

 

 

 

 

 


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