あのボーデヴィッヒとの一件から一週間が経ち、あっという間に学年別トーナメント当日になった。
この行事に参加する生徒は今日に備えてタッグ戦の訓練を積んできていたが、俺は全然やっていない。
何故か? それは単純に戦術と思想の違いがあるからだ。
ISと劔冑ではものが違いすぎて連携が取りづらいのが一つ。
それともう一つ、寧ろこっちが本流だ。
武者は基本徒党を組んだりして戦わない。特に真打を持つ者は己の武に誇りを持ち、一対一で戦うことを至上とする。正宗を使う俺も例外ではない。(前の無人機のときは非常事態ゆえに例外)
故に訓練はせずに、あることのみを決めシャルルとは普通の訓練だけしてきた。
あることとは、お互いに一対一で戦うようにすることだ。
自身が戦うと決めた者以外に手出し無用ということ、相方がピンチになっても助けずに戦う。
無論相手のほうにも援護や連携を取られないようにけん制し隔離することも含まれる。早い話、各個撃破だ。
これもシャルルの実力の高さを信頼できるからこそ可能になっている。そのことをシャルルに言うと、とても喜んでくれる。誰でも自分の技量を褒められれば嬉しいものだからな。
俺と正宗、シャルルは男子控え室でトーナメントの組み合わせを今か今かと待っていた。
「しかし凄い人手だな。学園外の人も多い」
「企業にとっても大事なイベントだから。有能な三年生を見極めてスカウトしたり、援助してる生徒の成長を確認するために色んな国の企業の人間が集まってるんだよ。でもそれ以上に多いのは、たぶん一夏と正宗を見に来たからじゃないかな。劔冑の戦闘を直にみるチャンスだもの、各国や企業の注目はかなり凄いと思うよ」
「うぅ、そう言われるとかなり緊張してくるな」
『ふん、そのような見物人など放っておけい! 御堂よ、その程度で萎縮するとは情けない。それでも我の仕手かっ!』
緊張していたら正宗に怒られてしまった。しかし正宗の言っていることはその通りだ。一々見物人など気にしていては戦えない。
「悪かったな、正宗。そうだな、俺達はそんなこと気にせずに戦い武を見せつければいいだけだ。周りがどう見ようと関係無い」
『その通りだ。我らはただ己が武を発揮し、正義を見せつければ良いだけのことよ!』
正宗との会話で緊張もほぐれてきた。俺は俺らしく、正宗の仕手らしく戦えばいいだけなんだから。
シャルルがそんな俺達を見て微笑ましく笑っている。そこまでおかしなやり取りではないが、己が精神の未熟を見られたようで恥ずかしかった。
そのあとシャルル何故か心配そうな顔をして俺に聞いてきた。
「一夏はやっぱり・・・ボーデヴィッヒさんと戦いたいの?」
シャルルの質問で何故心配そうな顔をしたのかわかった。あいつとは何かにつけてぶつかっているし、鈴やセシリアも怪我をさせられている。妙な因縁があるだけに心配になるのも無理は無いかもしれない。
俺はシャルルを安心させるために落ち着いた声でゆっくりと答えた。
「ああ、そうだな。あいつとは決着をつけなきゃいけない。でもそれはあいつのためでもあるんだ」
「どういうこと?」
俺の答えを聞いてシャルルが?を浮かべている。丁度いいので説明しておこう。
「あいつは力が全てだと思ってる。それでは駄目なんだ、ただ力を振るうだけでは暴力、すなわち悪になってしまう。力を振るうにはそれ相応の信念がないといけない。信念無き暴力なんてものは脆い、そんなのものを振るっていては真の力の意味を見失ってしまう。だからこそ、教えてやらなければならないんだ、力の在りようというものを、何のためのものかということを」
そう答えると、シャルルは何故かきょとん、としたあと一斉に笑い始めた。
「あはは、一夏はやっぱり一夏だね。相手のことも心配するなんて、中々できることじゃないよ」
「そうか? 俺は普通だと思うけど」
「一夏だからそう言えるんだよ。うん、一夏らしいかな・・・僕はそういうところ、好きだよ・・・」
「あ、ありがとう?」
シャルルが顔を真っ赤にしてそう答える。俺はなんだか恥ずかしくなってきてしかたない気分に襲われる。なんだか気まずい。
二人で気まずくなってしまいどうしようかと悩んでいたところでモニターからトーナメントの組み合わせが発表された。
モニターには第一試合の組み合わせが出ていた。
第一試合は、
一夏、シャルルVSラウラ、箒
となっていた。
「最初から当たっちゃったね、一夏」
「そうだな・・・・・・寧ろ丁度良い。今頃向こうも同じことを思っているだろうさ。ていうか、箒って誰ともペアにならなかったんだな。そうでなきゃあいつと組むことはないだろうし・・・まぁ、いいか。シャルル、箒の相手を任せる。俺はボーデヴィッヒの根性を叩き直してくる」
「うん、わかった。頑張ろうね、一夏!」
「ああ、頑張ろう」
シャルルが笑顔でそう答えると、俺もそれに笑顔で応じる。シャルルの笑顔は此方も笑顔になってくる笑顔だ。心が穏やかになってくる。見ていたくなるが、これからは戦いに行くのだ。必要なのは穏やかな心ではない。俺は自身に発破をかけるために正宗に叫ぶ。
「さぁ、正宗。俺達の正義を見せつけるぞ、あの阿呆になぁっ!!」
『応っ!!』
このやり取りで俺の心に正義と言う名の炎を灯し燃え上がらせる。
そして俺達はアリーナに向かった、この炎とともに。