どうにかならないかな~。
その日の夜。
僕は寝ている一夏を見つめていた。
ちょっと前に恥ずかしいところを見られてしまったけど、一夏は何も言わずに僕が落ち着くまでずっとそうしてくれていた。
今までこんな男の人はいなかった。僕が愛人の子だと知っている人からは蔑まれ、知らない人からは女ということでどこか避けられていた。男の人はみんなそんな感じに僕に近づかなかった。
でも一夏は違う。
一夏は僕が愛人の子だと知っても軽蔑せずに普通に接してくれるし、女の子だからって避けたりもしない。今の女尊男卑の時代には滅多にいないタイプの人だった。それは、一夏が劔冑を使う武者だからではなく、一夏だからなんだって、そう思った。
人のことを一切差別せず、平等に扱ってくれる。騙していたのに全然咎めずに許してくれた。それどころかそんな僕のことを真剣に親身になって考えてくれた。それは武者だからじゃない、一夏だから出来ることだって僕は思う。一夏が劔冑を使ってなくてもきっと同じふうにしてくれたよ、きっとね。
一夏を見ていると胸が高鳴って仕方ない。
バクンッ、バクンッ、と大きく音を立てているかのように高鳴って胸が苦しくなる。でもこれが不快じゃなくて、むしろ心地よく感じる。
顔がポー、と真っ赤になって熱くて仕方ない。でも嫌じゃない。
一夏はたぶん、今日こうなることを知っていたと思う。
今にして思えば一夏は普段、あんな風に半ば無理矢理に自分のことを押し出したりはしない。
今日に限って少しおかしかったのは、何かがあるって知ってたからなんだろうね。
社長と話してたとき、一夏は聞こえないように小さい声で言っていたみたいだけど、僕は気になって聞き耳を立てていたんだ。そして一夏が言ったことを聴いた。
『当方の約束をちゃんと果たしてもらえて嬉しいですよ』
『約束を違えたらどうなるか、分かっておいでのようで』
この言葉を聞いて社長はとても怯えてた。それも尋常じゃないほどに。まるで今にも死ぬか生きるかの瀬戸際に立たされたような、そんな顔になっていた。
約束と言っていたことがなんなのかはあまり分からないけど、今日社長が僕に連絡を入れたのは一夏が仕組んだことだと思った。
このあいだ僕に何かを確認したら出ていったときに何かをしたのかもしれない。
一夏はしらを切っているみたいだけど、それが僕のためにしてくれたんだってことは凄く嬉しい。
嬉しすぎてまた泣き出してしまいそうになるほど嬉しい。一夏は僕にとって友人以上に恩人になり、さらにその上に行った。
それで僕は自分の気持ちに確信が持てたんだ。
僕は昨日みたいに寝ている一夏に近づき顔を見つめながら近づいていた。
「ふふ、相変わらず可愛い寝顔だね」
一夏は昨日と変わらずにすやすやと寝息を立てている。
今の僕にはそれすらも愛おしく見える。
僕にとってあまりにも可愛らしい寝顔に、つい魔がさしてしまった。
僕は顔を一夏の顔に近づけていき・・・・・・
一夏の唇にキスをした。
「一夏・・・好きだよ・・・大好き・・・」
唇を離したあとに急に恥ずかしくなり、急いで自分のベットに潜り込んでジタバタと悶絶してしまった。
(ついやっちゃったぁあああああああああああああああああああ!? 何で? 何でやっちゃったんだ、僕ぅううううううううううう!? 一夏が、一夏がこんなに可愛い寝顔なのがいけないんだよぉおおおおおおおおおおおおおお!?)
なんで自分でもそうしてしまったかはわからないけど、一夏が好きって気持ちがあふれて仕方なかった。もう僕は一夏無しじゃ生きられないんじゃないかなぁ。僕にとってこれが初恋かもしれないけど、相手が一夏で本当に良かった。一夏のためなら僕は何だって出来るって、そう思えるくらい
好きになったから。
僕はドキドキしすぎてその日はまったく眠れなかった。