「ただいま~」
『只今戻った』
「い、一夏!? お帰り、今までどこに行ってたの?」
空港で茶々丸さんと別れて俺達はIS学園の寮に帰ってきた。
部屋でシャルルはくつろいでいたのか、慌てて体裁を整えていた。
「その前に着替えさせてくれ。結構疲れてクタクタなんだ」
「あ、そうだね! ごめん」
そう言ってシャルルは顔を赤くして明後日の方向に向いた。何でだ?・・・・・・あっ!?
「そう言えば、そうだったな。すまん、頭が疲れで回ってなかった」
「ううん、別に」
俺はそそくさと着替えを取りに行き、シャワー室に入って着替えることに。たぶん俺の顔は真っ赤だろう。疲れでよくわからないが、たぶんそうだろう。
「僕に気なんて遣わなくていいよ」
「いや、そういうわけにはいかないだろ。それに俺のほうが恥ずかしいからな」
「あ、そうだよね、ごめん、僕」
「そんなこと、一々謝るようなことじゃない。俺が恥ずかしいと思うだけだから気にするな」
俺はそう言ってシャワー室に入り着替え始めた。
「これ、もう着れないよな~」
俺の目の前にあるのは両肘の部分に大穴が空き、血まみれになっている制服の上だ。
説教をしに行ったときに正宗七機巧の一つを使ったために制服がおしゃかになってしまった。
帰りは仕方なく茶々丸さんにお願いしてジャケットを買ってもらい、それを羽織って血を隠して帰ってきたわけだ。さすがにあのままじゃ警察沙汰になってもおかしくない状態だったからな。
補修して洗濯しても落ちそうにない、もう捨てるしかなさそうだ。
俺は勿体なさそうに屑箱に制服を放り込んで着替えた。
「それで、どこに行ってたの?」
着替え終わってからお茶を入れて一息いれたあとに改めてシャルルに聞かれる。
「ちょっとした野暮用だよ。劔冑を使うにあたっては、ISを使うのとはまた違った面倒なことがあるんだよ」
「そうなんだ」
聞き返されると面倒なので嘘をついておく。劔冑はISと違って法律的なものが無いのでそういったことはない。しいて言えば武者たちによる古くからの習わしがあるくらいだろうか。
「そうそう、明日の放課後は暇か?」
「明日? 予定はないけど」
「そうか、なら俺に付き合ってくれないか」
「へ、・・・なっ!? 付き合ってって!?」
「土産があるんだ、明日はコレでお茶を入れてやるからさ。今日は疲れたからから明日」
「あ・・・そうなんだ・・・・・・あはははは、何考えてるんだろうね、僕」
シャルルが凄く残念そうな顔をした後に真っ赤になって苦笑していたが、疲れていた俺はそのまま聞き流してベットでそうそうに寝てしまった。
今僕の前で一夏がすやすやと寝息を立てている。
とても疲れてたみたいで布団も掛けずに寝てしまった。
「ふふふ、お疲れ様だね、一夏」
僕は一夏のやすらかな寝顔につい笑みを浮かべてしまう。
一夏とはこの学園に来てからの付き合いだけど、人となりは大体わかってきた。
一夏はとても優しい。人が困ってたら全力で助けてくれる人だ。僕なんかを助けるために必死に考えてくれて、三年間は大丈夫だってことを教えてくれた。
だから今回いきなり出かけたのにもきっとわけがあると思う。いつか聞けたらいいなぁ。
気がついたらいつも全力で頑張る一夏から目が離せなくなっていた。自分でも不思議に思ってしまうけど、何故だかそれが自然な感じがして、僕は常に一夏を追っていたと思う。
一夏の寝顔を見ていたら、つい吸い寄せられてしまう。
そしてどんどん顔が近づいていき・・・・・・目の前3センチくらいまで近づいた。
「はッ!? 僕は何をしてるんだ!!」
自分が何をしているのかに気づき、慌てて顔を離した。
顔が熱くて仕方なかった。自分でもなんでここまで狼狽してるのか分からなかった。
「そうだ! 一夏に布団かけてあげないと。このままじゃ風邪をひいちゃうからね。だから僕は一夏のほうに行ったんだ。きっとそうだよ!」
僕はやけに大きな声でそう言って一夏に布団をかけてあげ、自分のベットに戻った。
心臓の鼓動が収まるのにかなり時間がかかった。
次の日の放課後。
俺はシャルルと二人で自室にいた。
いつもならここで箒達が遊びにきたりするが、今日は特別な日になるので来ないように厳密に言っておいた。
シャルルの様子を見た限り、まだ報告は来てないだろう。
「ほら、これ。九州銘菓」
「うわぁ、可愛い。食べるのが勿体ないくらい可愛いね」
俺がシャルルに買ってきた土産で目の前にお茶と一緒にだしたのは九州銘菓、ひよこ饅頭だ。空港の土産売り場で売っていたのを買った。
ひよこの形をしていて可愛らしく、味も結構よい。子供から大人まで楽しめる、失敗のない土産ナンバー1だ。
シャルルは見た目が可愛らしいのでどこから食べて良いのか迷っていた。
無論俺は迷わず頭からかぶりつくわけだが。
お茶をしながらのんびりと過ごしているとシャルルのISのネックレスから電子音が鳴り始めた。
「一夏、ちょっとごめんね」
「どうしたんだ?」
「なんか通信みたい」
そうしてシャルルはペンダントを操作する。
「あれ・・・これ、社長からの特殊通信だ・・・」
「社長ってシャルルの父親だよな。見せてくれないか、それに話してみたいし」
「え、いや、それは・・・」
「どんな人なのか見てみたいんだよ。シャルルの父親ってさ」
「い、いや、会社の大切な話かもしれないし・・・」
「少し話すだけだよ。そんな時間はとらせないから」
「そ、そこまで言うなら・・・いいよ」
シャルルはそう言って渋々俺にも見えて話せるようにホロモニターを出してくれた。
我ながらごり押しのしすぎで苦笑が浮かんでしかたない。
画面には細身で白髪の中年が映っていた。
「誰かね、君は」
「初めまして、シャルルと同室の織斑 一夏といいます。いつもシャルルにはお世話になってばかりいて。それでシャルルのお父さんが連絡してきたと聞いて是非ご挨拶をと」
「そ、そうか、君があの織斑君か。話は聞いているよ」
「あ、そうなんですか。いやぁ、あなたのような人に知ってもらえるとは光栄です」
俺は普通に挨拶をする。
社長はいかにもそれらしい振る舞いをしているが、その振る舞いは次には総崩れするだろう。
たぶんこの後社長は大層怯えるかもしれないが、コレばかりは仕方ない。
小声でシャルルには聞かれないように言う。
「いやぁ、『当方の約束をちゃんと果たしてもらえて嬉しいですよ』」
「!?」
それを聞いて社長は椅子から転げ落ち、凄く怯え始めた。
「な、き、貴様はっ!?」
「どうしたんですか、シャルルのお父さん。怪我はありませんか」
俺はそう言ってにやりと笑みを浮かべる。
「『約束を違えたらどうなるか、分かっておいでのようで』」
「ひぃっ!?」
「どうしたんですか、社長!?」
シャルルが社長の異常に気付き声をかけた。
「いや、単に椅子から落ちちゃったみたいだ。怪我はないって」
俺はしれっと答えた。我ながら苦笑が漏れて仕方ない。俺の今の行いは誰がどう見たって恐喝にしか見えない。しかし、これもまた正義だ。正しいだけが正義とは言い切れない。正義のために多少の悪を行って正義をなすことも一つの方法だ。正義とは、一つではないのだから。
「それじゃ俺は挨拶も終わったから変わるな」
俺は通信をシャルルに変わってお茶を片し始めた。
シャルルは通信を受けている最中、顔が驚きで変わり変わって面白いことになっていた。見てて飽きそうに無い。
通信を終えたらシャルルは急に泣き出してしまった。
まぁ、予想はしていたが、それでも泣かれるとなんともしづらいな。
「シャルル、どうしたんだ急に泣き出して」
「い、一夏・・・あのね、ぼく、僕・・・デュノア社をクビになっちゃったみたい。しかもデュノア社そのものが乗っ取られちゃったんだって。でも一応会社としては機能するみたい。それにね、代表候補生は続けていいんだって。僕、これからもIS学園にいていいんだって・・・・・・それに性別ももう偽る必要無いんだって! やっと・・・やっと女の子に戻れるよ・・・」
「・・・・・・よかったな、シャルル。おめでとう・・・でいいのかな、こういう場合」
「うん、一夏、ありがとう!」
シャルルはそうお礼を言って俺の胸に飛びこんできた。
急なことにドギマギしたが、こういうときはそっとしたほうがいいだろう。
俺はしばらく胸の中で泣きじゃくるシャルルをそっとしながら、そう思った。