装甲正義!織斑 一夏   作:nasigorenn

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茶々丸の狙い

只今飛行機に乗って移動中。

 

俺はこれからデュノア社を襲撃する。正確にはデュノア社社長を締め上げてシャルルへの謝罪と命令の撤回、およびフランス政府への『誤報』の報告をさせるために襲撃をかける。

今までシャルルの尊厳を踏みにじってきた父親に死ぬほどの後悔を与え、真摯に謝罪をさせる。本当はこのような悪は生かしておくつもりなど毛頭無いが、腐りすぎていてもシャルルの父親。身内とは思っていないだろうが、家族の死を知ったらシャルルは悲しむ。そのようにシャルルには悲しんでもらいたくはない。正宗に言わせれば自分勝手な偽善と罵られるかもしれないが、俺はそういうことで人を悲しませてしまうのも、また悪だと思う。

そしてフランス政府に『シャルルの性別報告を間違えてしまいました』という報告をいれてもらう。

そういうことにすれば、少なくともシャルルに責任はそこまで発生しない。仮に問い詰められたとしても、会社に脅迫されて無理矢理強制されたことにすれば責任は会社のほうに行く。社長に言い逃れなど、俺がさせない。

最悪デュノア社は潰れるかもしれないが、シャルルは代表候補生を続けられるわけだ。代表候補生に必要なのは実力であって性別ではない。その点シャルルの実力は俺が戦ってきた代表候補生の中で一番。問題はない、むしろシャルルほどの腕前を手放すほどフランス政府だって馬鹿ではないはずだ。

これなら、シャルルの今の立場を維持しつつ、女の子に戻せてデュノア社の呪縛から解き放つことができる。

 

 

 

「しかし意外ですね、こんなにすんなりお願いを聞いてもらえるとは。もっと苦戦すると思ってましたよ」

 

機内で俺はそう茶々丸さんに話しかける。

 

「あてが命令すればこんなのの一つや二つ、なんてことないさね」

 

そう当たり前のように答える茶々丸さん。

 

「・・・・・・で、本当は何が狙いなんですか?」

「どゆこと?」

「とぼけないで下さい。茶々丸さんがタダで人助けするわけないじゃないですか」

「ひっどー! いっちーはあてをそんなふうに思ってのかぁ! 」

「何を今更、そんなことは昔っから思ってましたよ」

「さらに叩き付けられたぁ!!」

 

この人、足利 茶々丸さんは善意ではあまり動かない。

破天荒に暴れまくったりする人だが、実は常にそれが自分の利になるようにしていることを俺は知っているし、たぶん師匠も知っている。この人は仁義で動くような人ではないのだ。(師匠に関してはまったくもって別問題)

いくら師匠の弟子だからといって、その程度でお願いを聞き入れてくれたとは思えない。必ず裏があるはずだ。

 

「俺のお願いをタダで聞くわけないじゃないですか、茶々丸さんが。それでもすんなり聞いてくれたってことは、それが茶々丸さんの利に繋がるナニカかがある・・・違いますか?」

「はぁ・・・いっちーも大人になったね~、おねえさんは悲しいよ~。もういっちーが大人の階段登っちゃったなんて」

「はいはい、勝手に言ってて下さい。真面目に次の話に行きますよ」

「見事にスルーされたっ!?」

 

ふざけているのに構っていては話が進まない。無視することにする。

 

「ふぅ、仕方ないかぁ・・・実はそのとおり! あてにも事情があったりするんだな~これが。実はね~いっちー、あては今回、遊びに来たわけじゃないんだよ」

「というと?」

「いっちーのところに行ったのは、仕事だったりするんだよ~」

「仕事?」

 

そういえば茶々丸さんのやっている仕事について俺は何も知らない。六波羅の大幹部の仕事なんて知りようもないものだが。てっきり書類に判子を押し続けるものかと思ってた。

 

「あての今回のお仕事はずばり、デュノア社の買収なのさ。最近あそこの業績かなり悪くなってるみたいだからさ~お買い得なわけさ。別に株を買い占めて乗っ取っても良いんだけど、それよりもっと手っ取り早い方法があったわけ」

「まさか・・・・・・シャルル?」

「そう、その通り。そのシャルル『ちゃん』を人質に脅そうとしたわけ。と言ってもいっちーが考えてるような酷いことじゃないからね。あくまでも人質としてその存在を利用させてもらうだけで、あの子には一切手は出してないよ。一応そのことを本人に確認しようと思ったらいっちーが出てきたわけさ~。いっちーの顔見て大体のことは分かったし、あての目的とも結構かぶってるから、いっちーのお願いを聞こうと思ったわけさ」

「全部お見通しでしたか」

「いっちーは考えてることが顔に出やすいからね~。そ・れ・に、おにいさんの弟子であるいっちーはあてにとっても弟みたいなもんだからね~。弟のお願いってのを聞いてやるのも姉の勤めみたいなもんじゃない」

「言葉は嬉しいですが、こんな手のかかりすぎる姉、二人もいりません」

「速攻で否定されたぁっ!!」

 

実際にけっこうだが、その言葉は少しばかり嬉しい。

 

「そうこう話してる間にそろそろデュノア社の上空につくよ。いっちーは玄関から行かないでしょ? そろそろ降りたら」

「そうですね、そうさせてもらいます」

 

俺は会話を打ち切って、正宗をつれて飛行機の貨物エリアに歩いていく。

その後ろ姿を茶々丸さんは満足そうな顔で見ていた。たぶんもう師匠との食事にでも胸をふくらませてるに違いないな、あの顔は。

 

貨物エリアに付き次第、俺は扉の開閉スイッチを押す。扉が開き始め、外の風景が視界に入ってくる。と言っても外は夜空で真っ暗である。空気が外に向かって急激に流れ始めたのを肌で感じていく。

 

「それじゃ正宗、駄目親父に説教入れに行くぞ!!」

『応、御堂!! 悪を正し正義を示そうぞ!!』

 

俺達はそう言って扉から外に飛び出した。

肌が空気の激流を感じながら俺は口にする。正義を成すための言の葉を・・・

 

『世に鬼あれば鬼を断つ 世に悪あれば悪を断つ ツルギの理ここに在り』

 

落下しながら正宗を装甲して合当理を噴かす。

 

目指すはデュノア社の社長室だ!! 待っていろ、この父親失格者めっ! 当方正宗、貴殿に説教つかまつりに参ったぁ!!


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