一夏が帰ってきてから3日が経った。
私は一夏が今までどうしてたのかを問いただそうとするが聞いた端から誤魔化されてしまう。
さすがに業を煮やした私は一夏に鉄拳制裁を加えてでも聞き出そうとしたのだが・・・・・・
なんと一夏のやつは私が繰り出す鉄拳制裁の殆どを捌き防いでしまった。
何気ない立ち方に見えて、重心をどっしりと常に落ち着かせていた。明らかに何らかの武術を身につけていた。一夏がやっていた武術と言えば篠ノ之流剣術だが、それではない。実戦を想定した武術だった。
さすがに私が持つ手札を全部防がれてはどうしようもなかった。
仕方なく今度は進路について話し合うことにした。
まだ15歳、若いのに学校に行かないで働くのはとても難しい。今の世の中では尚更だ。
「一夏、今後お前はどうするんだ?さすがに中学を卒業してないのはまずい。通信制の学校に通って来年に高校受験をしてみてはどうだ?何、学費の心配なんかはするな。蓄えは十分にあるからな」
「ありがとう、千冬姉。でももう進路はある程度絞ってあるんだ。だからそこまで心配しなくても大丈夫」
「そうか」
弟がここまでしっかりしているのは身内としては嬉しいが、姉としてはすこし寂しくもあるな。
この三日間で知ったが、一夏は2年前に比べるとかなりしっかりとなっていた。
まずあまり浮かれなくなった。あの左手の動作が無くなっていた。
次に以前以上に口うるさくなった。前は母親みたいなやつと言った感じだが、いまでは小姑もびっくりなくらいにきつくなった。
そして何より・・・・・・料理の腕が激変していた。
2年前も料理はうまかったが、今ではプロ級にまでなっていた。再会した日の夕飯は、何だこの懐石料理は!と言うほど。店を開いても確実にやれる腕前にまで進化していたのだ。
一体何が一夏にあったんだろうか?私は考えずにはいられなかった。
そして朝。
一夏は朝から出かけている。何でも大切な用があるからだそうだ。私は寝ぼけながらにそう聞いていた。
目がやっと覚めたら時間は九時にさしかかりそうになっていた。私は一夏が作った朝食を食べながらテレビをつける。テレビではいつもと同じようなつまらないニュースが流れていた。
「相変わらずうまいな。どうしてこんなにうまくできるのやら・・・・・・」
そう呟いていたら携帯が鳴り始めた。誰からだと思い見たら一夏からだ。
『あ、千冬姉ちゃんと起きてるか。テレビの○○チャンネルをつけてくれないか。おもしろいことが起こるから』
そう一方的に言うと電話は切れてしまった。何なんだあいつは?仕方なくチャンネルを変えて見ることにした。
『御堂、このやり方はこそこそとしていて正義ではない! 何故このようなやり方をするのだ。それに我を装甲しないというのはどういうことだ!一人一騎と言うのが昔からの習わしだと・・・』
「そうは思うけど、今の世の中はめんどくさいんだよ。それにまだ正宗を見せるわけにはいかない、てのは俺もそう思うしな。だから今回も我慢してくれ。終わったら新しい学術書買ってやるから、な」
『う、うむ、仕方ない。しかし本当に今回が最後だぞ』
「ああ、わかってる。俺だって面倒くさいしな」
俺はそう正宗を説得してある劔冑にまたがった。
「緊急速報です。日本政府から重要なお知らせがあります」
アナウンサーがやけに興奮した様子だ。よっぽどのことなのだろうか?
次に画面では総理大臣、そして滅多に表に出ない天皇陛下が映りだした。
「国民の皆様、朝早くに申し訳ありません。実は皆様に重要なお知らせがありまして、報道させていただきます。まず始めに・・・・・・・・・」
「私たちは今の世の中にケンカを売らせてもらいますっ!!」
いきなり何を言い出してるんだ、この総理は!? 周りが騒然と騒ぎ始め収集がつかなくなってるぞ。
「ケンカと言うのはどういうことですか!? 物言いが随分と野蛮に聞こえますが。戦争をするということですか!」
「そう言うことではありません、詳しく説明させていただきます。皆様静粛に」
そう総理が仕切ると報道陣が静まり、一言一句聞き逃さないように聞く体勢をとり始める。
周りが静まりしだい、総理ではなく天皇陛下が説明し始めた。
「皆様知っての通り、ISが出てから世の中は変わりました。昔は男尊女卑の時代がありましたが、今は逆の女尊男卑です。女性にしては住みやすくなりましたが、男性にはそうではない。昔は逆の思いをしていたはずです。ですが、それが国にとってよかった試しはありません! それが良くないからこそ、男女平等にしようと国は頑張ってきました。私は男ですが、男尊女卑が良いなどと思ったことは一度もありません。人は等しく平等に、お互い尊敬できる関係にこそ、真の平和はあると私は考えます。そのためには今の世の中を、ISというものが作り出した世の中を破壊する必要があります」
ここで一旦天皇陛下は話すのをやめ、今度は総理が話し始めた。
「私はそのお考えに賛成です。それをするにはどうすれば良いのか・・・それはISの優位性を無くせばよいのです。ISは優位性、それは様々にあります。防御力しかり、火力や機動性しかり。ですがこの世を女尊男卑にしたのはほかでもない、女性にしか扱えない。この一点にかぎります。つまり女性じゃなくても扱えて、ISよりも強いものがあれば今の世は変わるはずです。我々はそれを、『発掘』しました!」
そう総理が言うことに私は唖然とした。たしかに今の世がいいものとは言えないが、だからと言って暴論すぎる。それにISを超える代物など、まだどこの国や組織でも開発できてはいないはずだ。だからこそ、ISの開発が進んでいるのではないか。しかし『発掘』と言ったか? どういうことだ。
「『発掘』とは一体どういうことですか? まさか遺跡から掘り起こしたとでも言うんじゃないでしょうか?」
まわりからは失笑や苦笑、嘲笑が聞こえてきたが、総理と天皇陛下はまったく気にしていないようだ。
「実は・・・はるか昔から世界にはISのようなパワードスーツが兵器として存在していました。しかしそれは、強力過ぎるのと時代の流れから表には出ないようになりました。我々はそれを見つけ出し、今まで隠してきました。何故かですって? 先ほど言った通りです。強力過ぎるからですよ。はっきり言ってしまえば今の第三世代型ISすら余裕で超えるほどの性能を有しています。そんな危険なものを表に出すわけにはいかないと、国の歴代の天皇たちは考え、封印していたのです。ですが今の世をどうにかするにはこれしかないと思い、封印をときました。ではお見せしましょう!」
そう言うと会場にモノバイクが突っ込んできた。周りは何事か!とそちらを見る。
バイクに乗っていたのは十代中盤の男子、ノーヘルだった。それを見た千冬は飲んでいた味噌汁を盛大に吹き出した。
「い、一夏!?」
一夏はバイクから降りるとある言葉を威勢良く放つ。
『尽忠報国』
瞬間にモノバイクは分解し一夏の周りを回り始め、そして・・・・・・・・・
一夏がいたところに2メートルくらいの鎧武者が立っていた。