装甲正義!織斑 一夏   作:nasigorenn

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少女を救う方法

「それで・・・・・・どうしてこんなことになっているんだ?」

 

少女に平手を食らってから少しして復帰し、取りあえず落ち着いて話をするために説得した。

少女の正体はシャルルだった。やっぱりコイツは男じゃなかったんだな・・・・・・最近は茶々丸さんの対処でそれどころじゃなかったんですっかり忘れてた。

そして今現在、シャルルはいつものジャージに着替えて目の前のベットに座っている。落ち着けるようにいれてあげた暖かい緑茶を啜っている。

 

「知ってたんなら教えろよ、正宗」

『ふん、この程度も見抜けぬ御堂が悪い。重心の位置から歩き方まで、全く男のものではなかったではないか。気付かぬ方がおかしいものよ』

「ぐぅふっ!?」

 

大層な未熟者と言われたようで傷つく。たしか師匠もそんなことを言っていたような気が・・・・・・

 

「そ、そうは言ったってなぁ、こっちは茶々丸さんのほうにかかりっきりでそれどころじゃなかったし・・・」

『確かにあの半端物の相手のせいで忙しかったことは認めるが、このようなことは初見でわかることよ、気付けぬほうがおかしいのだ、未熟者め』

「・・・はぁ・・・たしかにそうだな、俺はまだ未熟だな。精進するよ」

 

何かを言い訳にして自身を養護するのは悪だ。

自身の失敗は素直に認め糧にするのが最良である。

 

『うむ、我の仕手としてより精進するように』

 

正宗は俺の答えに満足したらしく、また本を読み始めた。

 

「それで・・・どうしてこんなことをしたんだ?」

 

正宗との会話を終えてシャルルに話題を振る。むしろ此方が本命であり、正宗との会話はおまけみたいなものだ。こんなことと言えば当然、『何故シャルルは男装をして正体を隠していたのか』この一つにつきる。

 

「うん・・・それはね・・・デュノア社の社長、その人からの直々の命令なんだ」

 

デュノア社? たしかシャルルの父親が社長をやっているISの会社で、量産第二世代型ISの世界シェア第三位を誇る巨大企業だ。そんな大企業の社長が何故娘にこんな命令をしたんだ?

 

「一夏・・・僕はね・・・愛人の子なんだよ」

「え・・・」

 

衝撃の告白に驚く俺。しかしシャルルは気にせずに話を続ける。まるで溜まっていた何かを一気に吐き出すかのように・・・・・・

 

「二年前に母が他界したときに初めて父のことを知ったんだ。検査で僕のIS適正が高いとわかって、非公式だけど社のテストパイロットをやることになってね・・・とは言え父に会ったのは二回ぐらい。初めて本邸に呼ばれたときはいきなり本妻の人に殴られたよ、『この泥棒猫の娘が!』って・・・」

 

成程・・・大体理解出来た。

愛人との間に生まれた子供と言うことで存在を認めず、一切の援助もしてこなかったくせにISの適正が高かったことが分かれば手の平を返したように取り込みこき使う。人として明らかに異常だ。こんな扱いを受けてきたシャルルの心情は計り知れないほどに傷付いてるに違いない。

 

そのあとにデュノア社の経営危機について聞かされた。

そこまで聞かされると何故シャルルがこんな命を受けたかが何となく分かってきた。

つまりは会社の危機を脱するための広告塔。世界初の男性IS操縦者がいる会社ともなれば世界的に注目が集まり、それを売りにすれば経営危機も脱せるというわけだ。

 

「でもそれだけじゃないんだ・・・実は一夏と接触して劔冑のデータを取って来いって・・・劔冑の情報を盗んでこいって言われたんだよ、僕はあの人にね」

 

そういう意味もあったのか。まぁ、確かに劔冑の情報が欲しくなるのは分かる。ISに対抗出来うる戦力になるかもしれないものだからな。しかし日本政府はちゃんと情報を公開しているのだから、俺に接触してもそこまで意味はないはずなんだけどな~。どうやらまだ世界には劔冑の情報が信用されてないらしいな。

 

しかし・・・・・・許せん!!

実の娘を娘とも思わず、都合よく利用するその魂胆。それは最早人の所行では無い・・・・・・それはただの『悪』だ。しかも男装のために徹底的に男の仕草を仕込まれたとか。年頃の少女にそのような真似をさせるなど・・・到底許されるようなことではない。少女にそのようなことを強要することが、どれだけ屈辱なことか・・・・・・生来をねじ曲げるような真似、人がして良いことでは無い!

 

俺はシャルルにその命を下した父親とそれを許した大人達に激しく、烈火のごとく怒る。

 

「まぁ、そんなところかな。今まで騙しててごめん、話したら楽になったよ。会社は潰れるかもしれないし、僕の強制送還されるだろうけど・・・・・・もうどうでも・・・・・・」

「それでいいのか・・・シャルルは本当にそれでいいのか?」

「・・・・・・良いも悪いもないよ。僕には選ぶ権利がないから・・・」

 

どうにもコイツは答えを性急に出し過ぎるな・・・

 

「少し待て。もう少し考えてからそれにしたっていいだろ」

「それは・・・そうだけど・・・」

 

俺はシャルルを救いたい。

少しの間とは言え、コイツと一緒に過ごしてきた。それだけでコイツの人となりは分かる。

コイツはとても良い奴だ。お人好しの善人だ。人の和に気を使える優しい人だ。

そんな人が救われないなんてことは許せない。

 

「正宗、俺はシャルルを助けたい! 力を貸してくれ」

『御意。虐げられているものを助けるは正義なり!』

「ありがとう。とは言えどうするか・・・・・・」

『御堂、取りあえず三年間は何とかなる』

「どういうことだ、正宗?」

『IS学園特記事項第二十一、本学園における生徒はその在学中においてありとあらゆる国家・組織・団体に帰属しない。本人の同意がない場合、それらの外的介入は原則として許可されないものとする』

「何でそんなこと知ってるんだ?」

『何、暇つぶしに読んでいたものを覚えていただけのことよ』

「さすが正宗だな。頼りになる」

『ふん、当たり前のことよ!』

 

成程、三年間はどうとでも出来るか。しかしそれはただ問題の先延ばしに過ぎず、根本的な解決にはならない。

では根本的な部分から解決するにはどうすればいいのか・・・・・・

答えは一つしかあるまい!!

 

「まず、これから話すことは確認だ。お前の状況でなく、お前の希望で答えろ。出来る出来ないは関係無しにだ!」

「う・・・うん・・・」

 

俺はそう言ったあとに一回深呼吸。少し気を落ち着かせながら、しかし先程感じた怒りはそのままにシャルルに問いかける。

 

「お前は代表候補生を続けたいか」

「それは・・・出来れば続けたいよ。名誉なことなんだから・・・」

「では次、代表候補生になったのはお前の実力か? 会社の力でなったのか?」

「一応は自分の力だよ。たしかに会社の口添えもあったとは思うけど、代表候補生は国を背負っていく存在だから、その程度でなれるようなものではないよ」

「ふむ、成程。つまり実力があれば男でも女でも一緒というわけか。性別は関係無い、と。つまり代表候補生とデュノア社は関係が無い。お前はデュノア社にスポンサーをしてもらっていただけか・・・ちなみにお前が会社の命に従っているのは、お前の本意ではなく仕方ないものか?」

「それはそうだよ。僕だって本当はこんなことしたくないよ!」

 

この様子を見る限り本当のことのようだ。

 

「当たり前のことだが、女性に戻りたいか?」

「そんなの当たり前だよ! 僕は女の子なんだよ!」

 

この質問はさすがに失礼だったか。いかんな、まったく。

 

「このまま学園には残りたいか?」

「うん、僕はこの学園にいたい!どうせ帰ったって居場所なんてないもの」

「よし、わかった。最後に・・・お前は父親のことをどう思う?」

 

シャルルは聞いた後に少し考え、ゆっくりと答えた。

 

「少なくとも・・・許せはしないと思う。でも父親だからね・・・そこまで恨みたくは無いかな・・・」

「そうか」

 

よし、これで決まった。そのために俺は出かける準備をし始める

 

「シャルル、俺はこれから出かけてくる。帰ってくるのは明後日くらいになると思うから織斑先生に伝えといてくれ。何か聞かれたら政府命令とまで言っておけばいいから。ああ、お前のことは言わないから安心してくれよ。武者に二言は無い」

「へ、一夏、どこに出かけるの?」

「なぁに、ちょっとした『お説教』をしに行くだけさ。それじゃ行ってくる、行くぞ正宗」

『応』

「行ってらっしゃい?」

 

シャルルは微妙に納得がいかないような顔で俺を見送ってくれた。

寮の廊下を歩きながら俺は早速携帯を取り出し、ある人に連絡を取ろうとする。これからやろうとしていることにはあの人の協力が不可欠だ。

しかしコールボタンを押そうと動かしたところでそれが不要だと知った。

俺が連絡を取ろうとした人物が俺の前に現れたからだ。

 

「やっほーいっちー、おこんばん~」

「こんばんわ、茶々丸さん」

 

俺が連絡を取ろうとしていたのは茶々丸さんだ。シャルルを救うにはこの人の助けがいる。

 

「なんでここに・・・とは言いませんよ。それで早速ですみませんがお願いがあります」

「こんな時間にお願い? いっちー、悪いけどあての心と体はお兄さんのものだから、そのお願いは聞けないにゃ~」

 

明らかなまでに悪ふざけする茶々丸さん。

 

「すみませんが今は悪ふざけに付き合う気はありません。単刀直入に言います・・・・・・個人用の飛行機をチャーターしてもらえませんか。今すぐフランスに行きたいんです」

「何で?」

 

そう聞きながらもニヤニヤと笑う茶々丸さん。どうせことの顛末を知っているんだろう。知った上で聞いてくるんだから質が悪い。

 

「ちょっと父親失格な人物にお説教をしに行こうと思いましてね。どうも性根が腐りきっているみたいですから正宗で叩き斬ってやろうかと・・・・・・」

「いっちーは真面目だね~。まぁそこがいっちーらしいけどさ~。・・・・・・いいよ、飛行機にのせてやんよ」

「ありがとうございます。今度師匠との食事でもセッティングしてあげますよ」

「よっしゃぁー、俄然やる気出てきたぁーーーーーー!!」

 

やる気満々な茶々丸さんに連れられて俺は寮を出た。

 

 

俺がこれからやろうとしていること。

それは・・・・・・デュノア社、およびデュノア社社長への襲撃だ。

 

 

 


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