今回はあまり派手なことをせず、甘酸っぱい甘さを出そうと思いこうしてみました。
ビーチバレーも台無しに終わり、俺は師匠達に別れの挨拶をして帰ることに。
師匠は表情こそ変わらないようだが、その瞳には確かな疲労の色が見えていた。
あの四人に振り回されれば誰だって疲れるだろう。ご愁傷様としか言いようが無い。
弟子としては、早く相手を決めればそんなことに遭うこともないだろうにと思うのだが、何故か決めないのだからどうしようもない。決して鈍感ではないのだから、わざとじゃないのだろうか?
マドカは新しい友達が出来たと、とても喜んでいた。
師範代もマドカのことが気に入ったらしく、二人とも終始一緒になって遊んでいた。仲が良い友人が出来るのは兄として嬉しいが、師範代の非常識に染まらないか心配だ。
そのマドカも、今では千冬姉の隣で寝息を立てている。
帰ると決めた所で、ハシャぎ過ぎたのかマドカは疲れ切って船をこぎ始めた。
だから千冬姉に背負われながらこうして現在、電車で千冬姉の隣に座らされているというわけだ。
その寝顔はとても安らかで、見ている者全てを和ませる程に可愛らしい。
千冬姉もその寝顔を見て頬を緩ませている。真耶さんよりは分か辛いが、千冬姉もマドカのことを充分に可愛がっているのだ。
愛妹の寝顔を見て頬を緩める姿は、普段の険しい千冬姉からは想像が付かない。
そんな二人とは少し離れた席に、俺と真耶さんは座っていた。
普通に考えれば一緒に居た方が良いのだが、千冬姉がマドカが起きてしまうから少し離れた方が良いと提案してこうなったのだ。
まぁ、実の所はマドカの寝顔をじっくりと見たいからなんだろうけど。俺達には見られたくないんだろうなぁ、緩んだ顔を………既に見てしまっているけど。
さて、そういうわけで今真耶さんと二人で座っているわけだが………。
「ん~~~~~……気持ち良いです、旦那様ぁ………」
「それは良かった」
真耶さんの頭は俺の膝の上に乗り、座席に真耶さんの身体は横になっていた。
俗に言う膝枕である。
何故こうなっているのか?
それは、せっかく頑張ったビーチバレーが台無しになってしまったので、それまで一生懸命頑張っていた真耶さんを少しでも労ってあげたいからだ。
あんなに頑張ったんだ。少しでも何か無ければ可哀想じゃないか。
だからこそ、ご褒美と言う訳でもないが、ささやかながら真耶さんを労ってあげたくてこのようにした。
普段は真耶さんが俺にしてくれることだから、今度は俺からしてあげよう。
男の硬い膝など気持ち良くないと思うけど。逆に真耶さんの膝は絹のような肌触りでとても柔らかく、ずっと頭を乗せていたくなる気持ち良い。
それに………。
「どうしたんですか、旦那様? そんなにじっと見つめて……その……少し恥ずかしいです……」
こうして大好きな人の顔をじっと見ていられるのは、それはそれで嬉しい。
何で真耶さんがそんなにしたがるのかが、良く分かった気がする。
自分の間近に愛する人の気持ちよさそうな顔があるというのは、何だか胸がポカポカしてきて幸せな気分になる。確かにずっと見ていたくなるなぁ、これは。
恥じらいつつもどこか嬉しそうに微笑む真耶さんがこれまた可愛らしくて、もっと見ていたくなる。
本来なら電車でこのような真似など出来る訳が無い。
だが、運が良いと言うべきか、現在この電車はがらがらで殆ど人が乗っていないようだ。
少しばかり早く帰路に付いたことが公を成したらしい。
流石に次に電車を乗り換えればこんな事はできないだろうけど。
だからこそ、今を大切にしたい。
俺はそれを少しでも楽しみたく、右手で軽く真耶さんの頭を撫でる。
少し塩で抵抗を感じたが、それでもサラサラとしていて気持ち良い感触が手から伝わってくる。
「ふぁっ!? だ、旦那様、一体何を?」
「何だか撫でてあげたくなって……駄目ですか?」
「い、いえ、そんなことは……。ただ、旦那様に撫でて貰えて嬉しいのですけど、緩んだ顔を見られてしまうのは恥ずかしくて……」
そんな事を気にして顔を隠そうとする真耶さん。
隠しきれない部分からでも真っ赤になっている所が可愛くて仕方ない。
俺はそんな愛くるしい恋人にクスりと笑うと、顔を覆っていた手を優しく顔から引きはがす。
「寧ろもっと見せて下さい。真耶さんの可愛い顔、一杯みたいですから」
「あぅぅぅぅぅ……旦那様、イジワルですよ。そんな顔されたら、ダメって言えないじゃないですか……」
恥ずかしがる真耶さんが可愛すぎて、俺は更に頭を撫でていく。
「ありがとうございます。だから、もっと気持ち良くなって下さい。今、ここには俺しかいませんから。もっと真耶さんを見せて下さい……ね」
「は、はぃ……」
見つめながら優しく撫でてあげると、赤らめた顔をうっとりとさせ、気持ちよさそうに頬を緩める。
本当に……可愛い人だなぁ。
すると段々解れてきたのか、真耶さんがリラックスし始めた。
「ふぁぁぁぁぁ………旦那様の手……気持ち良いです……うふふふふふ」
その様子に微笑みながら真耶さんにゆっくりと話しかける。
「今日は一杯遊んでとても頑張りましたからね、真耶さん。いつもは労って貰ってばかりですから、こんな時くらい俺がしてあげたいんですよ。少しでも真耶さんが安らげるように。頑張ったご褒美の一部です」
「そんな、私の方がいつも旦那様に……」
「言いっこ無しです。たまには……こういう風に甘えて下さい。俺だって……もっともっと甘えて貰いたいんですから」
「だんなさまぁ…………」
そのまま顔が真っ赤になっている真耶さんを見つめ、人が居ないことを良いことに大胆な行動へと移る。
俺は顔をゆっくりと近づけ、艶やかな唇に軽く唇を合わせた。
海にさっきまでいたためか、すこしばかり海の味がした。
そのまま少しの間、その柔らかな感触と微かな味を堪能し、そしてゆっくりと離した。
真耶さんは頬を赤く染めつつも、どこか幸せそうに笑う。
「いきなりなんですから……でも、嬉しいです……」
「あまりにも可愛かったものですから、我慢出来なかったんですよ」
そう此方も笑顔で答えると、もう一回唇にキスをした。
今度は真耶さんも受け入れる体勢を整えていたため、目を瞑って俺のキスを受け入れた。
いつもの情熱的なキスとは違う、唇を合わせるだけのキス。
だけど、今のこの静かだが満ち足りた雰囲気の中ではとても心地良い。
唇を離すと、真耶さんは恍惚とした顔で俺を見つめる。
その潤んだ瞳はとても可愛らしく艶っぽい。
そんな目を向けて貰えることが嬉しくて、俺も見つめ返す。お互いの視線が交わり、お互いに考えていることが伝わって来そうだ。
「うふふふ……幸せです……旦那様にこうして膝枕をして貰えて、頭を優しく撫でて貰えて、キスまでして貰えるなんて……」
「それだけ今日の真耶さんが頑張ったってことですよ。それに……たまにはこんな風に、俺から真耶さんにして上げたかったんです。俺だって、真耶さんにもっと甘えて貰いたいですから」
そのまま二人で見つめ合い、笑い合う。
電車の揺れが偶に身体を揺さぶり、窓から入って来た風が俺達の頬を撫でる。
その心地よさに身を任せていると、真耶さんの目が少しばかり瞑る回数が多くなってきた。
「眠いですか?」
「そ、そんなことは………」
俺の言葉を否定しようとする真耶さんだが、俺は人差し指で軽く真耶さんの唇を塞ぐ。見ていてバレバレだから。
「いいですよ。まだ、次の乗り換えまでは時間がありますから。それまで、ゆっくり眠って下さい。ちゃんと起こしますから」
すると俺に看破された事が少し恥ずかしかったのか、真耶さんは頬を赤くするとゆっくりと目を瞑った。
「すみません、お願い……しましゅ………」
そして可愛らしい寝息が上がり始め、俺は真耶さんの寝顔を見つめる。
まさに天使のような寝顔がそこにはあり、俺の心を癒してくれた。
俺はそのまますやすやと可愛らしい寝息をかいている真耶さんの頬を指でくすぐりながら独り言を洩らす。
「この旅行もとても楽しかったですよ。だから……これからも、もっと一緒に色々な所に行きましょうね……ね、俺の奥さん……」
この後、次の乗り換え駅に着くまで俺は真耶さんの寝顔を堪能し、着いたら千冬姉達と合流。そしてIS学園へと帰っていった。