なので今回は多少甘めで。リハビリです。
一回戦も無事に終わり、二回戦へ。
コートには綾弥さん・マドカペアと、村正さん親子ペアの二組が互いに対峙していた。
「お前には負けないからな、蜘蛛女!」
「ふん、所詮はただの人間! 劔冑を舐めないで!」
いがみ合う綾弥さんと村正さん。この二人はかなり仲が悪いからなぁ。
常日頃いがみ合っている所を見ているだけに、あまり違和感がない。いくら賞品が出るからと言って、これはお遊びなのだから本気で争うのは大人げない気がして仕方ない。
いがみ合っている相方に目もくれず、御母堂とマドカは明るく握手していた。
「あまりこのような球遊びをしたことはないが、まぁ、よろしく頼む」
「うん、よろしく!」
暖かな笑みを浮かべる御母堂に純真な笑みを浮かべるマドカ。
そんなマドカを見て、御母堂はマドカの頭を優しく撫で始めた。
「ふむ、良き娘ではないか。愛い奴め」
「んふふ~」
まるで小動物を可愛がるかのように撫でる御母堂に、撫でられるのが気持ち良いのか目を細めて喜ぶマドカ。
片や一触即発の状態、もう片や、誰もが和む穏やかな状態。
大極的なペアの状態に見ている人達はどうしたものかと思ってしまう。
そろそろ試合を始めるとのことで各自コートの端へと移動する。
未だに綾弥さんと村正さんは睨み合い敵愾心を燃やしに燃やす。
御母堂も試合開始とあってか気を引き締めていた。
そしてマドカはと言うと……。
「兄さ~~~ん、姉さ~~~~~ん、真耶義姉さ~~~~~ん!!」
審判役の俺や千冬姉、真耶さんに元気良く手を振っていた。
そんなマドカに向けて暖かい眼差しを向ける俺達。
「マドカちゃん、楽しそうですね」
「あぁ、そうだな」
「マドカの奴、かなりはしゃいでいるな。確かに海で遊ぶなんてことなかったから」
楽しそうに目を輝かせるマドカに此方も楽しい気持ちになってくる。
特に真耶さんは頬を赤らめてマドカを見つめていた。
「マドカちゃん、可愛いです~」
マドカを実の妹のように可愛がっている真耶さんには、マドカのハシャぎ回る姿が可愛く見えて仕方ないらしい。
逆に俺は、そんなマドカを見つめる真耶さんの昂揚しほにゃとした可愛らしい顔に見惚れてしまう。マドカも確かに可愛らしいが、真耶さんはもっと可愛いなぁ………。
そのまま抱きしめたくなってしまうが、それはまだ我慢だ。ここでしたら試合が始まらなくなる。一応は審判だから。
未だに首が可笑しな方向に曲がっている師匠では厳正な審判は下せそうに無い。
なので、試合開始の合図をすると共に、手を軽く握ってあげた。
周りに気付かれないように、そっと。
「あ………旦那様……」
手を握られた真耶さんはその感触に少し驚きつつも、顔を紅く染めて嬉しそうに握り返す。
柔らかく少し汗ばんだ掌の感触が気持ち良くて、俺は笑顔で真耶さんに囁く。
「マドカも可愛いですけど、真耶さんはもっと可愛いですよ。この中で一番に……ね」
「だんなさまぁ……」
俺の言葉に更に顔を真っ赤にして恥じらう真耶さん。
皆の手前、そこまでくっつくことは出来ないからせめてこれだけでも触れあいたい。
それが真耶さんにも伝わったらしく、彼女も目を瞑り俺の掌をぎゅっと握り返してくれた。
お互いに気持ちが通じ合うことが嬉しくて笑みが浮かぶ。
そんな俺達に茶々丸さんから呆れ返った声がかけられたのは言うまでも無い。
「おいおい、そこのお熱いお二人さん~。それは負けたあてに対する当てつけかぁ?」
「っ!? す、すみません! キャアッ!?」
声をかけられたことで慌ててしまい、俺から離れようとするも足下を滑らせてしまう真耶さん。そのままでは砂浜に倒れ込んでしまう。
俺は咄嗟に真耶さんを自分の胸に引き込み、抱きしめる。
汗ばんだ少し熱くもしっとりとした柔らかい身体の感触が腕の中に広がり、顔が熱くなっていく。
「大丈夫ですか、真耶さん」
「は、はい……旦那様の御蔭で転ばずに済みました。ありがとうございます……」
俺の懐に入った真耶さんは少しだけ驚きつつも、安心したようで俺の身体にきゅっと抱きつく。
それが嬉しくて幸せを感じてしまう。
そのまま二人で見つめ合い、キスしたくてたまらなくなる。
しかし、それはこの場で許されることでは無いので我慢。その苛立ちも込めて俺は茶々丸さんにジト目を向ける。
「何、真耶さんに当たってるんですか、茶々丸さん。ご自分が負けたからって当たらないで下さいよ。人としてどうかと思いますよ?」
「何でかあて、悪者にされてる! 別に酷いこと言ったわけでもないのに!」
やけに派手なリアクションを取る茶々丸さんに俺は更にジト目を向けつつ、真耶さんを抱きしめた。
胸に水着越しの真耶さんの感触を感じて赤面しそうになるのを堪える。
「キャッ、旦那様?」
俺を不思議そうに、それでいて嬉しそうな目で見つめる真耶さん。
その可愛らしさにほんの少しだけ抱きしめる力を強める。
本当ならこのまま思いっきり抱きしめて色々としたくなるが、それはこの場でして良いことではない。
「茶々丸さんの所為で真耶さんが怯えてしまっているじゃないですか。可哀想に。せっかく勝ったのに負けた腹いせを受けるなんて」
「別にあて、そんなにきつくないよ! 寧ろイッチーがあてのこと、ダシに使わなかったか、今のオイ!」
突っ込む茶々丸さんに、俺に恥じらいつつも嬉しそうにくっつく真耶さん。
多少はダシに使ったのは否定しないが、元を正せばせっかくの二人の時間を邪魔されたのだから、これぐらい何てこと無いだろう。
その両者へと表情を使い分けつつ俺は二人に話しかけていくと、別の方から声が掛かった。
「あら、ずいぶんとはしたない真似をしていますのね。そのようなことをしていては景明様の目には入りませんわよ」
「げっ、でけぇおばはん!」
「誰がおばはんですか、誰が!!」
声の方を向くと、そこには両腕を組んで胸を強調するポーズを取った大鳥さんがいた。
きっとそのポーズはこの場にいる女性で茶々丸さんだけが胸が小さいということを知らしめるための行動だろう。意外と地味な嫌がらせだ。
大鳥さんはいつもと変わらない笑みを浮かべつつ、俺と真耶さんに話しかける。
「すみませんね。この負け猫が噛み付いてしまって」
「誰が負け猫だコラァッ! あてはタイガー、虎だぞ、ガオー!」
「負けた者には虎なんて不釣り合いですわ。猫で充分ですもの」
「何だとコラァ!」
今度は標的を真耶さんから大鳥さんに変えたらしく、食らい付く茶々丸さん。
そんな茶々丸さんを誘導するかのように歩き出す大鳥さんの御蔭で、この場は平穏を取り戻した。
そして腕の中で真耶さんは恍惚とした表情で俺に身をゆだねる。
「せっかくですから、しばらくこうさせて下さい。旦那様ともっと一緒にいたいんです……」
それが可愛らしいすぎるものだから、俺はぎゅっと抱きしめ返しつつ返事を返す。少しでも俺のこの気持ちを感じて欲しくて。
「えぇ、いくらでも。俺も………もっと一緒にいたいですから……」
そして二人で座り込み、一緒にくっつきながらマドカ達の試合を見た。
俺の身体にすっぽりと収まる真耶さんを愛おしく想いながら。
それまで曲がった首を治しつつ審判を行っていた師匠に多少お小言を言われ反省しつつも謝り、変わって真耶さんと一緒に審判を行った。
得点が入る度に真耶さんがコールする声が可愛くて、それで少し抱きしめると真耶さんは嬉しそうに微笑んだ。
その光景を見た綾弥さんは顔と村正さんは顔を真っ赤にし、マドカは羨ましがっていた。
こうして第二試合も終わり、結果は村正さん親子の勝利。
「む~、悔しい~」
「よく頑張りましたね、マドカちゃん」
悔しがるマドカを慰め抱きしめる真耶さんが綺麗だったのは言うまでも無い。
キス無し全力ハグ無しでイチャつく……中々に難しいですよね。