真耶「嘘……ですか?」
一夏「はい。では早速………この間、真耶さんに『世界一愛してる』って言いましたけど、それは嘘です!」
真耶「そ、そんな………旦那様……」
その言葉を聞いて泣きそうになる真耶。そんな真耶の身体を優しく抱きしめ、一夏は耳元で囁いた。
一夏「本当は……『宇宙一愛してます』、真耶さん」
真耶「っ!? だ、だんなさまぁ! 私も銀河一、だぁいすきです!」
そしてイチャつく二人。
そんな二人に作者は言いたい。
作者『もういい加減にしろよ、お前等! 俺だってなぁ…………』
作者は泣きながら嘘を言おうとした。
恋人とウハウハだって。
だが、そんな嘘をついたところで虚しくなるだけであり、羨ましそうに一夏達を見ることしか出来ない。
由比ヶ浜に着いたところで冒頭に戻り、マドカは海を見て興奮し叫び出す。
その様子に周りに居た観光客達は暖かい眼差しでマドカを見つめていた。
コレがもし男だったりして子供でもなかったのなら、即座に叫び出す変な奴だと認識されていただろう。
砂浜に少し深い青色の海が夏の日差しできらびやかに目に映る。
その美しさと広大さに心を奪われて少し見た後、俺達は早速水着に着替えることにした。
「旦那様、少し待ってて下さいね」
「兄さん、すぐ着替えてくるから!」
「待つのも甲斐性だからな、一夏。何せこに話が決まった途端、真耶の奴、私とマドカを呼んで急に水着を買いに行くなんて言い出してきたからな。だから期待していいぞ、一夏。こいつのはかなり凄いからな」
「な、何言ってるんですか、義姉さん! も、もう~」
更衣室に向かう前にそんなことを言われ、真耶さんは顔を真っ赤にして千冬姉に手をパタパタと振っていた。元から凄く期待しているので言われなくてもそうさせてもらう。
え? 毎回際どい恰好を見ているから期待も何もないんじゃないのかだって?
それは絶対にない! 大好きな恋人の水着姿なんて、どれだけ見たって飽きるわけないじゃないか。しかも、俺に見て貰いたいから頑張って選んでくれたのだから、感無量としか言葉では表せない。
だからこそ、期待に胸を膨らませると、マドカが更に爆弾発言をしてきた。
「真耶義姉さん、さらに胸が大っきくなって去年のサイズが合わなくなったんだって。私も一緒に水着を選んだけど、ひゃくじゅ……」
「マドカちゃん、言わないで! あ、ぁぅ~~~、旦那様に聞かれちゃいました……恥ずかしいです……」
それを聞いてその先が気にならない男子はいないだろう、恋人のなら尚更で。
三桁に入ったのは知っていたが、あの後もさらに大きく成長していたのか………いけない、妄想しそうになってる。これ以上考えたら鼻血が出そうだ。
俺は顔に気を付けながら3人を見送る。
真耶さんはマドカと千冬姉の二人にからかわれて恥ずかしそうに顔を真っ赤にしながら慌てていた。遠目で見てもわかるくらいの慌てた様子が俺には可愛く見えて仕方ない。
俺も真耶さんをからかってあんな可愛らしい顔をみたいなぁ。
まぁ、元の性分からしてからかうことが苦手だから無理だろうけど。
真耶さんの可愛らしい顔を見れた事で優しい気持ちを胸に抱きながら俺も更衣室へと向かった。
着替え終わり、俺はそこら辺の場所にレンタルで借りたパラソルを突き刺しシートを敷くと、真耶さん達を待つことにした。
女性と違い男はこういう時に時間が掛からないのは有り難いが、少し暇になってしまうもの。だが、俺はそんなことはない。
真耶さん達が来るのを今か今かと待ち遠しく待っていた。
それが行動に表れているのか、差したパラソルの中には入らずに俺は真夏の熱い日差しを全身に受けながら立っていた。
そのためなのか、周りの人達から多くの視線を集めている。そんなに顔に出てしまっているんだろうか。
「ねぇ、あの男の子、凄い身体してるわよ! 格闘技とかしてるのかしら」
「格好いい! ねぇ、誰か声かけないの!」
「あれ? どこかで見たような気がする? 芸能人かなぁ」
特に女性から集まる視線が多く、それを察するに余程浮かれているということなんだろうか。
でも仕方ないじゃないか。
大好きな恋人と海に行くの去年の臨海学校以来で、しかもその時はお互い意識してる関係だったから恋人ではなかったし。実質、今日が恋人との初めての海ということになるのだし。それに家族と海に来たのはこれが初めてかもしれない。小さい頃は千冬姉に迷惑をかけたく無くてあまり無茶な我が儘は言わないようにしていたしな。浮かれるなと言う方が無理だ。
そして待つこと約十分……俺は真耶さん達の姿を見つけた。ただし予想外の事態で。
いや、ある意味では仕方ないのかもしれないけど。
「ねぇねぇ、君達、一緒に俺達と遊ばない!」
「俺、良い所知ってるんだ。一緒に行かないか」
「3人とも可愛いし、美人だねぇ~」
真耶さん達の前に3人の色黒な男達が立ち憚っていた。
明らかにいけ好かなさそうな3人に、真耶さんは困った顔をしていた。
「あの、私達は待ち合わせがいるんで………」
「そう言わずにさぁ。俺達と一緒の方が楽しいよ、絶対に」
拒絶の色を濃くしてそう言っているというのに、男は食らい付く。
その様子に今度は千冬姉が呆れ返りながら男達を睨み付けた。
「断ると言っているのが聞こえなかったのか? お前達の誘いになど乗らん、馬鹿者」
「っ!? へ、へ~、君、すっごいクールだなぁ。そう言うところも魅力的だけどね」
千冬姉の睨みに若干怯んだが、尚もポジティブに捕らえ誘う男達。
そんな男達を前にマドカは二人を守るように前に出て睨み付けながら唸り声を上げていた。
「うぅ~~~~~~~~~~! お前達なんかと遊ばない! とっととどっか行け!」
「何か子犬みてぇで可愛いなぁ。俺、ロリの気はないけどこの子ならいけそう」
マドカの様子を見て汚らしい欲を顕わにする奴もいる。
そんな3人に囲まれ、真耶さんは凄く嫌がっていた。
千冬姉も段々苛立ち語気が荒くなっていく。マドカはもっと警戒心を顕わにして睨み付けていくが、3人はまったく退く気はないらしい。
特に真耶さんの様子から押し込めばいけるんじゃないかとか思っているのだろう。
「こんな誘いに乗る馬鹿がどこに居る? それに私達が今すぐ警察に訴えればお前達は直ぐにでも刑務所行きだぞ。今の世の中のことを考えればな」
千冬姉は付き合ってられないとばかりに今の世、未だに解消されきっていない女尊男卑を持ち上げて脅しに掛かる。
すると男はドヤ顔で3人にこう言ってきた。
「それはもう昔の話だろ。最近は織斑 なんとかとかいうガキの御蔭で緩和されつつあるって話だからねぇ。まったく、あのガキの御蔭で俺達男もこうして堂々とできるってんだからありがたいよねぇ」
それを聞いた真耶さんは男達を珍しくキッと怒った顔で睨み付けた。
「あの人はそんな事のために世界を変えたんじゃありません! 謝って下さい!」
「え? 何で知らないガキに謝らなきゃいけないの。もしかして知り合いとか? まぁいいや、怒った顔も可愛いね~」
男は怒る真耶さんを気にせずにその白磁の様に美しい手を取ろうと動く。
もう………我慢の限界だった。
このまま千冬姉に睨まれて逃げ帰るのなら何もしないでおこうと思った。
だが、これ以上真耶さんを困らせるのは絶対に許せない。
男が伸ばした手は真耶さんに触れることはない。
何故なら………俺が掴んだから。
男達との距離を縮地を使い一気に詰めると、そのまま伸ばしている腕を掴んだのだ。
「あぁ? なんだテメェ」
邪魔されたことに怒りを顕わにする男。
俺はその男にニッコリと、最高の『殺気』を込めた笑みを向けた。
「今お前が触れようとしたのは俺の婚約者だ。汚い手で触れようとするんじゃない、ゴキブリ」
「っ!?」
その殺気に当てられたこともあって、若干後ろにたじろぐ男達。
昔だったら向こうも反撃に出たかもしれない。だが、それをさせる気は毛頭無い。
俺は武者としての殺気を思いっきり男達へと向ける。
死合いの時と同じ、濃厚な死への予感が男達へと襲い掛かる。
「確かに女尊男卑は緩和されつつあるが………俺が頑張ってきたのはお前等みたいなゴキブリを増殖させるためじゃない」
そして男達が恐怖に怯え萎縮している隙を突いて動いた。
「お前等のようなゴキブリはこの広大な海を見て反省しろ!」
叫ぶと同時に動き、掴んでいた腕を引っ張り込んでそのまま背負い投げに移行。一人を海に向かって投げ捨てた。
人がまるで小石のように海へと投げられる様子を見て固まる残り二人。
その片方に狙いを定めると両足の股関節をピンポイントで狙い強打する。
結果、両足の股関節が外れた男はその場でしゃがみ込むように倒れてしまい、起き上がれなくなる。
そして残った最後の一人は、その二人の光景に唖然賭してしまっていた。
そこを狙い、首を掴むとそのまま砂山に向かって思いっきり頭から突き刺してやった。
その衝撃で気絶する男。砂山に頭から突き刺さる変なオブジェが誕生した瞬間である。
3人を瞬殺した俺は殺気を押さえて真耶さん達へと向き合い、安心させるように優しく笑顔を浮かべた。
「もう、大丈夫ですよ、真耶さん、千冬姉、マドカ」
俺の顔を見て、途端に涙目になる真耶さん。
「旦那様、怖かったです」
そのまま胸に飛び込んでくる真耶さんを優しく抱きしめると、真耶さんは俺に身体を思いっきり預けてきた。
それが嬉しくてあやしながらも笑顔になる。
「兄さん、すっごいな~! どうだ、兄さんは凄いだろ!」
マドカは起き上がれず激痛で呻いている男をその辺の流木で突っつきながらそう言う。こら、止めなさい。
「まったく……これだから人の多いところは面倒になる」
千冬姉は呆れ返った様子でそう言っていた。
確かにこんな目に遭えばそうも言いたくなる。でも仕方ないような気もするなぁ。真耶さん、綺麗で可愛いから。
「真耶さん、取りあえずパラソルの所までいきましょうか。ね」
「は、はい……あの、旦那様?」
この場にいても騒がれるだけなので移動することにしたのだが、真耶さんは俺の胸の中で潤んだ瞳を向けて来た。
その顔にドキドキしつつも俺も応える。
「どうしたんですか?」
「その……手、握ってても良いですか?」
さっきまで心細い思いをしてきたこともあったからか、泣きそうな顔でそう聞いてきた真耶さん。そんな可愛い真耶さんに俺は笑顔で答えた。
「ええ、勿論。だから絶対に離れないよう、ぎゅっと繋いで下さいね。俺は絶対に離しませんから」
「はい!」
嬉しそうにそう言うと、真耶さんは俺に身体を預けながら腕を絡めてきた。
その感触にドキドキしつつ、俺と真耶さんは二人でパラソルに向かって歩き始めた。
「あの二人はまったく。まぁ、しょうがないか」
千冬姉が呆れた声を出していたが気にしないことにし、マドカも飽きたようで俺達に合流した。
こんなに人が多ければ真耶さんみたいな綺麗な人に群がる男達も多くなる。
それだけ魅力的だということだから嬉しいけど、その分こうして気を付けないとなぁ。
そう改めて思った。