装甲正義!織斑 一夏   作:nasigorenn

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まだ海には向かいません。
今回はマドカが可愛いと思います。


海へ行こう その2

 マドカが言い出したことで始まった海水浴。

俺達はそれから直ぐに出掛ける準備をして、織斑家総出で電車に乗ることにした。

別にIS学園の目の前が海なのだからそこにすればよいではないかとも思うが、そこは気分による問題。

せっかく家族(真耶さんは俺の奥さんなのだから家族である)総出で出掛けるのだから、もっと思い出になるような海水浴いしたい。なら、遠出した方が楽しい。

そこで目指すは鎌倉だ。あそこは海水浴場が有名だし、町も観光名所として有名だ。

師匠と共に一緒に行ったことも何度かあるが、正直良い思い出がまるっきりない。

なので是非とも、鎌倉で最高の思い出を作りたいのだ。

 電車を乗り継ぐこと数時間。

流れゆく景色を見ながら、各々車内でのんびりと過ごしていた。

 

「ん~~~~~~~~、冷たくて美味しい~!」

 

マドカは冷凍ミカンを口に放り投げてはその味に頬を緩めていた。

より高度な現代社会ではあるが、こういった食はあまり変わることはない。旅先のお供に冷凍ミカンや駅弁という組み合わせはやはり定番だ。

師匠と一緒に行ったときは近場だったため買う機会はなかったし、あってもその後の『師匠争奪線』で大変なことになるのが予想出来たので買うことが出来なかった。

だから少し俺の心も弾む。こんな冷凍ミカン一つではしゃいでしまうというのも、少々お子様染みて情けなく思うが。

 

「そんなに美味いか、マドカ?」

「うん!」

 

千冬姉は冷凍ミカンを幸せそうに食べるマドカにそう聞くと、マドカは力強く頷く。

その様子はまさに姉妹か親子のように見えるだろう。すると小さい頃の俺も千冬姉にこんな風に面倒を見て貰っていたのかなぁ、と思った。

途端に気恥ずかしくなってしまうのは仕方ないことだと思いたい。

千冬姉はそんな子犬のようにじゃれつくマドカを見て、微笑みながらマドカの手に自分の分の冷凍ミカンを乗せた。

 

「私はあまりミカンが好きじゃないんだ。だからやる」

「本当か、姉さん! ありがとう、大好き~!」

「こら、車内で騒ぐな。まったくこいつは…」

 

喜びを顕わにして抱きつくマドカに千冬姉は仕方ないといった感じで抱き留めていたが、その顔はどこか嬉しそうに笑っている。

この二人もすっかり仲の良い姉妹になったものだ。

特にマドカは昔からは考えられないくらい変わった。というか変わりすぎて別人にしか見えない。スコールさんとオータムさんのお墨付きだ。

まぁ、幸せそうだから兄としても嬉しい限りである。

 

「うふふふ、マドカちゃんとお義姉さん、楽しんでるみたいですね」

 

俺の隣に座っている真耶さんが俺に身体を預けながら楽しそうに笑う。

その重みに幸せを感じつつ、俺も笑顔で真耶さんを抱きしめていた。

 

「そうですね。千冬姉も久々の旅行で楽しそうですよ。こうして家族で一緒に遠出することってありませんでしたから」

 

笑いかける真耶さんにそう答えると、顔を赤く染めて瞳を潤ませた。

 

「あの、それって……」

「はい、勿論そういうことですよ。真耶さんは俺の世界で一番大切な『奥さん』なんですから、家族です」

 

俺は真耶さんの目を見つめながら答えると、真耶さんは途端に幸せそうに笑みを浮かべ、俺の腕に抱きついてきた。

 

「嬉しいです、旦那様! 私、もう織斑家の一員なんですね」

「はい」

 

幸せな気持ちを表すように俺を抱きしめる真耶さん。

それが嬉しくて、俺も抱きしめてあげると、更に嬉しそうに目を細めた。

胸が幸せで一杯になってくるのがたまらない。それを少しでも伝えたくてキスしたくなる。

それは真耶さんも同じで、お互いに見つめ合う。

 

「旦那様……」

「真耶さん……」

 

そして近づく真耶さんの顔に胸をドキドキとさせていると………。

 

「あ~、お前等。仲が良いのは喜ばしいことだが、もうちょっと場所を考えろ」

 

咳払いをした千冬姉に止められた。

 

「っ!? す、すみません!」

 

見られていたことに恥ずかしくなり、真耶さんは顔を真っ赤にしてあわてて自分の席に座り直していた。その慌てた様子も可愛くて、俺は笑みを浮かべずにはいられない。

千冬姉は仕方ない二人だと呆れ返っている様子で。マドカは両手で目を覆っていた。生憎その隙間からは興味津々といった様子の瞳が見えていたけど。

それが更に真耶さんの羞恥を煽ったようで、顔がトマトのように真っ赤になった。

正直可愛くて仕方ない。

 

「お前等がそんなのだからか知らんが、最近マドカがマセ始めて困っているんだ。マドカ、そんなにジロジロ見るんじゃない」

「だって……気になるんだもん。ドキドキ、ドキドキ」

 

千冬姉にジト目でそう言われ、俺と真耶さんは赤面したまま気恥ずかしさに笑う。

マドカは顔を真っ赤にしつつも何か期待しているのか俺と真耶さんを見ていた。

そんな気恥ずかしさを感じつつも、やっぱりそれらが愛おしいくらい楽しくて、俺は真耶さんと共に笑いながら鎌倉へと向かっていった。

 

 

 

 

 そして鎌倉に到着し、早速海へと向かう俺達。

駅から海まではそこまで掛からないので、徒歩で向かうことにした。

鎌倉の古き良き町並みは見ていて心を朗らかにされる。IS学園や東京にはない穏やかな雰囲気が感じられ、皆心が洗われていくようだ。

 

「何だか時間が止まってしまったような、そんな感じがしてのんびりしちゃいますね」

「あぁ、そうだな。よくよく考えれば昨年は全く翼を伸ばしている余裕がなかったからな。こうしてのんびりするとそれが尚更思い知らされるようだ」

 

真耶さんが楽しそうに俺の隣でそう言うと、千冬姉がしみじみと答えた。

確かに言われて見れば、昨年は確かに色々ありすぎてこうしてのんびり過ごすなんてことはなかった。

世界に喧嘩をふっかけたり、ISと戦ったり武者達と死闘を繰り広げたり。

思い返せば切りが無いくらい戦ってばかりだ。

それに真耶さんと恋仲になったり……………。

確かに大変で怒濤の忙しさだったけど、その分充実もしている日々と言えなくもない。

辛いこともあったけど、幸せな時間でもあった。

まぁ、それは今年も変わらないけど。

相変わらず挑まれることは多いから。

だけどこうして皆でのんびりするのは本当に久々だ。

 

「確かにそうだな。昨年からずっと走ってきたんだし、こうしてのんびり過ごすのもいい感じだね」

 

その言葉に反応してか、真耶さんが俺に身を預ける。

 

「旦那様とこうしてのんびりと一緒に過ごせるのっていいですよね……こうしてぴったりくっついていられるですから」

「真耶さん……」

 

幸せのあまり頬が緩みそうになるのを何とか堪える。

あぁ、本当に可愛いなぁ、真耶さんは。その愛くるしさに愛が止まらない。

だが、抱きしめようとすると千冬姉に何か言われそうになるので仕方なく手を軽く握ってあげる。すると潤ませた瞳で嬉しそうに俺を見つめてくれた。

 

「だんなさまぁ……うふふふふ」

 

それだけでも嬉しいらしい。その反応でも俺の胸をときめかせるのには充分だった。

そのまま幸せ一杯で歩いていると、マドカが何かを見つけたようだ。

 

「なぁ、兄さん! あの鳥は何だ? IS学園の周りじゃ見かけないけど。大きいな」

「あぁ、あれはトビだよ。鷹や鷲と同じ猛禽類の鳥で、この鎌倉には多くのトビがいるんだ」

「おぉ、そうなのか! 何か格好いいな!」

 

マドカは目を輝かせながらトビに夢中になっていた。

鎌倉と言えばトビもまた有名な名物と言えなくもない。ただ、気を付けないとお菓子とかを狙って降下して襲ってくるから注意が必要となっている。

俺としては一回餌をあげてみたいのだが、過去現在に於いて成功したことがない。

師匠と一緒の時は師範代の威圧感でトビが近づいてこなく、俺一人だと寧ろ避けられる始末。出来れば餌を食べている姿が見たいかな。

それを察してなのか、真耶さんが俺を見て微笑むと、持っていたスティック菓子の箱を俺にゆっくりと渡してきた。

 

「旦那様、あ~ん」

 

そして目を瞑り、耳がとろけそうなくらい甘い声で口を開ける真耶さん。

その行動に少し驚きつつも、俺は笑いながら真耶さんにお菓子を摘まみ差し出す。

それをリスの様に可愛らしく食べる真耶さんは目に入れても痛くないくらい可愛い。

差し出されたお菓子を食べ終えると、真耶さんはとろけるような笑顔を俺に向けてくた。

 

「動物には怖がられてしまいますけど、その分私が旦那様が差し出してくれたお菓子をいただきますから。旦那様からのはい、あ~んは私だけの特権です」

 

そのいじらしい可愛さに俺の心臓は跳ね上がる。

こんな最高に可愛い恋人とこうして出掛けられるなんて、本当に幸せだなぁ。

そう思って二人で見つめ合っていると、突如として騒がしくなった。

その原因に即座に二人で振り向くと、そこにはギャーギャーと鳴き暴れるトビとそれを抱きかかえて楽しそうに笑うマドカがいた。

 

「兄さん、見てくれ! 捕まえたっ!!」

「マドカちゃん!」

「何をしているんだ、お前は……」

 

その様子に真耶さんは驚き慌て、千冬姉は呆れ返っていた。

何でもお菓子を狙って降下してきたので逆に捕まえてやったらしい。

 

「マドカ、可哀想だから放してやりなさい」

「わかった! もうお菓子を盗ろうとするんじゃないぞ!」

 

マドカは暴れるトビにそう言うと、空に向かって放った。

放たれたトビはまるで逃げ出すかのように飛び去っていく。その背中には少し敗者のような気配が感じられた。

 そんな賑やかなやり取りをしながら俺達は目指して歩く。

 

『由比ヶ浜』へ。

 

 


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