茶々丸さんが来てから3日がたった現在・・・・・・俺は衰弱していた。
この三日間、茶々丸さんは俺のところに来ては騒ぎを起こし、俺が後始末をさせられていた。
はっきり言ってもう嫌だ! どれだけあなたは問題を起こすんだ!!
と、面を向かって言えればどれだけ楽だろうか。
言えば、より酷い目に遭うのはわかりきっているので言えるわけないのだが・・・・・・
そんなわけで俺は今日もふらふらしていた。
「一夏、大丈夫? 足がふらついてるよ」
「何とか・・・」
『あれしきのことで情けない』
正宗が俺のことを軟弱者を見るような目で見ていた。
「お前は疲れる、てことがないだろうが・・・はぁ・・・」
『ふん、もっと精進せよ。鍛えればそれくらいなんともないわ』
「・・・・・・はぁ・・・・・・」
そう言って俺はシャルルと一緒に部屋を出て、登校することにした。
一夏が疲れ切ってふらふらしている三日間、当然シャルル以外にも心配している者達がいる。
箒、セシリア、鈴、山田先生はこの三日間で常に一夏の心配をしていた。
いつ倒れるか分からないほどふらついていれば誰だって心配になる。それを介抱すれば好感度も上がるかもしれないという思いもあった。そしてそんなことを考えている者同士、やろうとしてることもおのずと同じことになっていく。
「「「「お弁当を作ってあげよう」」」」
そうして各女子達は朝早くに自室のキッチンで腕を振るっていた。
授業を必死に学び、休み時間は全力で休むことに集中している最中に箒や鈴、セシリア、山田先生がほぼ同時に話かけてきた。
「「「「お昼、一緒に食べ「ませんか」「ないか」「ましょう」「なさいよ」」」」」
俺がそれを聞いて頭を上げたときには、お互いにけん制しあっていた。
話しが全然進まず、お互いいがみ合っていては埒が開かないのでみんなで行くよう提案して食堂に向かおうとしたところ、全員お弁当を持ってきたらしい。
食堂の購買で買う必要は無い、と何故か全員から釘を刺されてしまい半ば強制連行で屋上に向かった。
「何でコイツもいんのよ」
鈴がそう言ってシャルルを指さす。この場にいる女子全員が同じことを思っていた。
シャルルはそれがわかり、苦笑する。
「まだコイツは学園に不慣れだしな。屋上もまだ案内してなかったし、丁度良いと思ってな」
「ふ~ん、そうなんだ」
「それでは仕方ないな」
「あはは、お手柔らかに・・・」
何故かシャルルが気の毒に見えた気がした。
そして各自にお弁当を広げていく。
箒はいかにもなお弁当、とくに和食がメインだ。セシリアはサンドイッチのようだ、見た目は良く出来ている。鈴は酢豚だ、というか酢豚しかなかった・・・ご飯は!? 山田先生も普通のお弁当だが、メニューがちょっと風変わりだ。そして何故か二つある。
シャルルは事前に購買で買っていたらしく、菓子パンが多かった。甘党なのかもしれないな。
「それでは私が一番最初だな。い、一夏、味見を頼む」
箒がそう言ってお弁当と箸を俺の目の前に出してきた。
「もしかして俺を呼んだのは味見のためか?」
「んん、まぁそういうことだ(本当はお前のために作ってきた、と何故言えないんだ私はぁあああああああ!?)」
何故か神妙そうな顔をし始めた箒が気にはなったが、空腹もあってお弁当に集中し、唐揚げを一口食べる。
さて、ここで一部の人をのぞいて知らないことがある。
彼、織斑 一夏は武者であり高校生であり・・・・・・料理人だ。
まだ未熟と言われているが、その実力は十分であり、料理に対しては誠実で実直。
彼は基本おだやかな気風の人物だが、こと料理に関しては別であり、とてつもなく厳しい。
それが料理人という人種であり、このことに関しては正宗でさえ関心を通り越して畏敬の念を抱くほどに凄まじい。つまりそんな彼に普通の女の子の料理を食べさせるとどうなるか・・・・・・
「どうだ・・・うまいか」
箒が何かを期待した顔で此方を伺ってくる。聞きたいことは分かっている。しかし俺は料理に関しては嘘はつけないんだ!!
「悪くはない。冷めてから食べることを考慮して味付けを濃いめにしてあることも高評価だ。だが・・・冷めたら当然衣がふにゃりとしてしまうことを考えた方が良い。それに味付けに関しては少し単純過ぎだ。あと一ひねり加えるべきだったな」
「そ、そうか・・・・・・」
酷評されてしまい、しょぼ~んと気落ちしてしまった箒。申し訳無いが、嘘はつくわけにはいかない。コレを機にもっと精進しもらいたい。
「あとで一緒に唐揚げの作り方を教えるから、そこまで気落ちするなよ」
「何、本当か!? 絶対だぞ」
「ああ、約束する」
さっきまでとは一転、嬉しそうに喜ぶ箒。味に嘘はつけないが、酷評されたら誰だって気分は良くないものだ。ちゃんと教えて次回に頑張ってもらえるように応援したい。
「それじゃ次は私ね。はい、酢豚! 約束通り作ってきたわよ」
「鈴の酢豚か。親父さんに追いついたか、食べ比べてやるよ」
さっそく一口食べてみる。
「ど~よ、もうお父さんに勝ってるでしょ~」
勝ち誇ってる鈴には悪いが・・・・・・
「残念ながらまだ勝ってはいないな。味付けは良い・・・が、お前は少し油通しを怖がっただろう。これは少し早すぎだ、野菜が生っぽい。それに親父さんの酢豚には隠し味があったことをお前は気付かなかったみたいだな。もうちょっと頑張れ」
「あ、そうなんだ・・・頑張るわよ・・・」
鈴も撃沈した。
「こんど親父さんの酢豚を再現してやるよ。それで食べ比べしてみればわかるから、そんなにしょげるなよ」
「うん、わかった。こんどね」
鈴も腕は悪くは無いのだから後は経験だな。
「それでは私の番ですわね。どうぞ」
「サンドイッチか。どれどれ・・・・・・」
口に含んだ瞬間に衝撃が走った。
見た目は普通のBLTサンド。なのにとてつもなく甘く、それでいてどこかしょっぱく、青臭さが鼻を突き抜け、かすかな苦みと酸味を後味として残し、どろどろと口に残り飲み込むことを体が拒否している。
はっきり言って不味すぎる。
何故こんなことになっているのか全く分からない。ちゃんとセシリアは作り方を見たんだろうか? この感じからして、たぶん・・・・・・コイツは基本のさしすせそすら知らないと思う。
「セシリア・・・・・・」
「どうですの・・・」
「明日の放課後から、俺と一緒に料理の勉強をしよう。一から十まで、ちゃんと教えてやる」
「ええ、本当ですの!?」
「ああ、本当だ。(心を鬼にして、泣きたくても泣けないくらい厳しく教えてやるよ)」
セシリアは花が咲いたかのように、ぱあぁ、と笑顔を浮かべて喜んでいたが、他の人たちには一夏が酷評せず、真剣な顔でセシリアに料理を教えると言い出したあたり、よっぽどのことだと理解した。
((((知らぬが花なんだろうな~))))
「それじゃあ一夏君、お願いします」
山田先生がおずおずとお弁当を差し出してきた。
「もう片方は何ですか?」
「あ、これは私の分ですよ。こっちは一夏君のために作ったんです。一夏君、最近お疲れみたいですから、少しでも疲れがとれるようなものを、と思いまして・・・・・・」
「あ、ありがとうございます!!」
俺のために作ってきてくれたなんて、感激だ。でも裏を返せばそれだけ心配されていたわけで・・・申し訳無い気持ちで一杯になってくる。
周りの女子達は山田先生の言ったことを聞いて羨ましそうな顔になっていた。
(((そんなさらっと言っちゃうなんて・・・大人ってやっぱり凄い・・・)))
「それでは、いただきます」
心して食べることに。
さっそくほうれん草のおひたしのようなものに箸を付ける。
「これはほうれん草のごまあえ、いや、クルミあえですか。よく出来ていますよ」
「あ、ありがとうございます! クルミにはスタミナをつけるのに有効だって聞きましたから」
他にも山田先生のお弁当には、体を良くする食材がふんだんに使われていた。
「お気遣い、痛み入ります」
「い、いえ、そんな・・・・・・」
顔を赤くしながらそう答える山田先生に少しどきりとした。俺ってもしかして家庭的な人に弱いのか?
「味のほうも実によく出来てますよ。基本がちゃんと出来てる証拠です。これからも頑張って下さい」
「はい、頑張ります!」
山田先生だけ酷評を受けなかったことに関して、残りの三人は不満ではあったが、後で食べさせてもらったら、その不満も解消されていった。
こうして俺は久々に心安らぐ時間を楽しんだ。