「う~~~~~~~~~~~~み~~~~~~~~~~~~~~!!」
燦々と輝く太陽の日差しの中、聞こえてくる波の音と共にマドカの興奮した叫びが地平線まで見える海に響き渡る。
「うふふふ、マドカちゃん、楽しんでいるみたいですね」
「ああ、そうだな」
マドカの様子を見て微笑む真耶さん。
それに同意して軽く頷く千冬姉。
その光景は家族の団らんのようで、俺は見ていて心が温かくなるのを感じていた。
そう、今日俺は………海に来ていた。
何故海に来ているのか? それを語るには、まず今朝あった出来事を語らねばなるまい。
今朝、鍛錬を終えてベットで休んでいた時のことであった。
「えへへへ、旦那さまぁ……」
真耶さんが俺の隣で身体を預けている。
その身体にかかる暖かな重みと幸せそうな真耶さんの笑顔が可愛らしくて、俺は笑顔で真耶さんの身体を優しく抱き留めていた。
「甘えん坊ですね、真耶さん」
「うふふふ、いいんです。だって夏休みなんですから、いつもよりも旦那様と一緒にいられますからね。こうしてくっついていられるのが嬉しいんです」
真耶はそう言って俺にさらに身体を預けつつ、俺の左腕をギュっと抱きしめる。
左腕を包み込む大きな胸の感触に胸をドキドキさせてしまうが、それでもその何だか嬉しい。
それを察してなのか、真耶さんは潤んだ瞳で俺を見つめ、目を瞑る。
「旦那様、ん~」
そのまま突き出された可愛らしい顔が何を求めているのかなど、もう考えなくても分かっている。
魅惑的な瑞々しい唇に此方も惹かれ、吸い込まれるように唇を合わせた。
「「ちゅ……」」
そして少しの間、お互いの唇の感触に酔いしれた後に顔を離す。
目の前にある真耶さんの顔は赤くなり、とろけていた。
「はぁ~……旦那様のキス……優しくて気持ちいいです……」
「俺も気持ち良くて大好きですよ、真耶さんとのキス。それに……」
そこで一端言葉を切ると、ふやけている真耶さんの頬に軽くキスをした。
「大好きな気持ちが溢れて、もっともっとキスしたくなっちゃいますからね」
「あ、ぁぅ……もう、旦那様ったら……だぁいすき……」
そのまま二人で抱きしめ合うのが、夏休みに入ってからの毎朝の光景だ。
この至福な時間がたまらなく幸せで、夏休みの毎日を俺は幸せに過ごしていた。
そんな幸せに浸っていた時のこと、突如としてそれはやってきた。
いきなり開いた部屋の扉。
そして部屋から突入するかのように飛び込んできた一つの影。
それは俺達の前まで素早く駆け寄ると、興奮気味にこう叫んだ。
「兄さん、私、海に行きたい!!」
それはマドカだった。
いきなりの事に驚き、目をぱちくりと見開く真耶さん。
正直、そんな姿も可愛らしくて内心クスりと笑ってしまうが、何故マドカが飛び込んできたのかも気になる。
「マドカ、どうしたんだ、いきなり?」
「マドカちゃん、どうしたの?」
真耶さんと二人でマドカを心配すると、マドカは俺達を見て急に顔を真っ赤にした。
「い、いきなりごめんなさい!」
そのまま素早く部屋から飛び出そうとするマドカ。
何で急に出て行こうとしたのか? それを考えてから自分達がどのような状態なのかを思い出した。
そしてお互いに赤面してしまう。
「わ、私、マドカちゃんを呼んんできますね」
「は、はい……」
心地良い気恥ずかしさを感じながらマドカを呼びに行く真耶さんを見送ることに。
もうマドカも何度も見ていると思うけど、今更あんな反応をするとはなぁ。
アイツも年頃のってことなのかな。
「ご、ごめんなさい~」
少しして呼び戻されたマドカが申し訳なさそうに謝ってきた。
「そ、そんなことないですよ。私達がその……ごめんなさい……」
そんなマドカに真耶さんはワタワタした様子で手を振ってマドカに謝る。
二人で謝り合う光景は何やら微笑ましくも見えるが、このままでは話が進まないので俺も会話に入る。
「二人とも、そこまで気に病まなくても。俺達も確かに鍵をかけなかったのが悪いし、マドカもちゃんとノックしなかったのも悪いから、お相子だよ」
その言葉を聞いた二人は、瞳を潤ませて俺を見つめてきた。
「兄さん~」
「旦那様ぁ……」
二人とも、あまりそんな瞳で見つめないで欲しい。
まるで捨てられている子犬を拾ったような気分になってしまう。
特に真耶さんは可愛らしくて、俺の心を満たしてしまった。
そして二人が落ち着くまで何故か抱き合うことに。
俺が真耶さんを後ろから抱きしめ、真耶さんがマドカを背中から抱きしめていた。
俺は自分の懐に収まる真耶さんの感触にドキドキして、真耶さんはマドカに優しく微笑む。マドカはとても気持ちよさそうに目を細めていた。
そのままマドカに話しかけ、何故部屋に入ってきたのかを改めて聞くことにした。
「それでマドカ。一体どうしてこの部屋に来たんだ?」
俺の問いにマドカは思い出したかのように無邪気に笑いながら答えた。
「うん! あのね、兄さん! 私、海に行きたいんだ!!」
「海……ですか?」
「うん、そう、海!」
ハシャギながらそう答えるマドカに真耶さんは微笑みながらそれに応じる。
その光景は幼い妹と優しい姉のように見えるだろう。
見ていて俺の心もほっこりとするのを感じた。
それにしても海か。別に目の前にあるのだからそこまで行きたいと思うような所ではないと思うのだけどな。IS学園は四方を海に囲まれているから。
そう思っていると、マドカが具体的に何がしたいのかを楽しそうに語り始めた。
「海に行って泳ぎたい! スイカ割りしてビーチバレーして砂遊びして、それで命一杯遊びたい!」
「あぁ、成る程。マドカちゃんは海水浴に行きたいんですね」
「うん!」
言いたいことを理解してもらえたのか、マドカは更に嬉しそうに笑う。
それが可愛かったからか、真耶さんは頬を赤く染めながらマドカの頭を優しく撫でていた。
それで大体の事が分かってきた。
またテレビか何かの影響だろうが、確かに海水浴の季節だし行きたがっても可笑しくないか。
俺としては鍛錬ばかりしているのでそういうのはたまにはいいし、それに………出来れば真耶さんの水着姿も見たいから寧ろ有り難いか。
せっかく夏休みに入ったのだから、そういう夏にしか出来ないことを二人でやっていきたい。
だからこそ、俺は真耶さんに聞くことにした。
「真耶さんはどうですか、海水浴?」
その問いに真耶さんは溢れんばかりの嬉しさを込めて答えてくれた。
「はい、勿論行きます! だって旦那様が行くんですから。私も旦那様と一緒に海を楽しみたいです」
その答えに胸がジーンと来てしまう。
眩しい笑顔が可愛くて仕方ない真耶さん。それを少しでも伝えたくて、俺は真耶さんを抱きしめる腕の力を少しだけ強くした。
それを感じた真耶さんは幸せそうに目を細める。
「それじゃ、行こうか……海に」
「はい!」「うん!」
こうしてマドカに誘われて、俺達は海に行くことになった。
その後は千冬姉にもそのことを話し、千冬姉も行くことに。
結果、織斑家総出で海にいくことになり、俺は織斑家に真耶さんが入っていることが嬉しくて仕方なかった。