装甲正義!織斑 一夏   作:nasigorenn

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最近はすっかりスランプ気味ですね~。


流しそうめんをしよう その3

 芹澤さんに加え、会長や更識さん、布仏さんの生徒会メンバーの御蔭で何とかそうめん台が完成した。

 

「おぉ、まさにテレビで見た通りだ! 凄い凄い!」

「凄いですね~。本当に竹で出来てるんですね」

 

出来上がったそうめん台を見てはしゃぐマドカと、それを見て微笑ましく笑う可愛い真耶さん。

 

「組み立てを手伝っただけだけど、案外難しいわね、これ」

「縄だけで縛って固定するのが難しかった。昔の人って凄いね」

「終わった~、これでそうめんだ~。ちゅるちゅる~」

 

会長や更識さんは疲れているが、どうやら出来上がったそうめん台を見て感慨深いようだ。布仏さんはまったく手伝っていなかったのか余裕そうである。

俺はそんな皆の様子を見て笑いつつ、芹澤さんに話しかける。

 

「本当にありがとうございました。芹澤さんが居なければこのそうめん台は出来なかったと思います」

「いえいえ、そんなことないですよ。自分はただ材料を用意してお手伝いしただけですよ」

 

謙虚にそう苦笑しながら答える芹澤さんに俺は感謝が絶えない。

だからそれに少しでも報いたく、あることを提案する。

 

「せっかく遠くまで来ていただいて、その上制作まで手伝っていただいたのですから少しでもお礼させて下さい。この後そうめんを茹でるので良かったら召し上がっていきませんか?」

 

ここまでやったのだから、せめてこれぐらいはさせて貰いたい。

料理人として全力で作るつもりであったから。

だが、芹澤さんは申し訳なさそう笑顔で俺の提案を断った。

 

「すみません。ご相伴には預かりたいのですが、板長からせっかく東京に出向くんだったら名店の料理を食べて勉強して来いと言われてしまったので」

「それなら仕方ないですね。料理人足る者、食べるのも勉強ですから」

 

そう言われは仕方ない。

料理人というのは、食べるのも勉強だ。名店と呼ばれる店の料理を食べ、そこから味付けや装い方など様々な物を学ぶ。それもまた必要なことなのである。

確かにわざわざ東京まで料理を食べに行くというのは大変だから、来た時じゃないと出来ない。俺のそうめんなんかより余程大切な事だと思う。

だから俺は芹澤さんに笑顔で答える。

 

「でしたら、今日を機会に色々な店を行ってみて下さい。俺としては、浅草の泥鰌鍋や深川の深川飯なんかがお勧めですよ」

「あぁ、それはどうもありがとうございます。是非とも行ってみますね」

 

芹澤さんに知っている範囲の名物を教えると、喜んでくれたようだ。

せめてこれぐらいはしないと。手伝って貰ったお礼としても、同じ料理人仲間としても。

そして会話を終えた芹澤さんは相棒である初代三原右衛門尉正家を呼び装甲すると、別れの挨拶をして飛翔し、東京の都心の方へと飛び去って行った。

きっと人目に付かない所で解除して東京で味の勉強を頑張るのだろう。

俺はそれを見送ると、皆に振り返る。

 

「それでは、後は此方でそうめんを容易しますので、皆さんお待ち下さい。あの……出来れば真耶さんには手伝って貰いたいんですが、いいですか?」

「はい、勿論です!」

 

俺にそう言われ嬉しそうに微笑む真耶さん。

それが可愛くて俺も笑顔になってしまう。

そして皆が休んでいる中、俺は真耶さんを連れて自室の簡易キッチンへと向かった。

本当なら食堂の厨房の方が良いのだが、流石にこんな私事に使わせて貰うわけにはいかない。なので自室のキッチンである。

俺と真耶さんはエプロンを付けて早速作業を始めた。

 

「旦那様、まずどうしましょうか」

 

エプロンを付きてワクワクしている真耶さん。

その姿が母性的でエプロンがとっても似合っていて、俺はついつい頬が緩んでしまう。

 

「何度見ても思いますけど、真耶さんってエプロンが似合いますよね。まさに若奥様って感じで……その、可愛いです」

「そ、そうですか! それは……嬉しいです。だって……私は旦那様の妻なんですから……ね」

 

顔を真っ赤に染めて恥じらいつつも幸せそうそうに微笑む真耶さんに、俺の胸はキュンときてしまう。何度見ても可愛すぎて仕方ない。

抱きしめたくなってしまうが、そうすればきっと歯止めが効かなくなってしまうのは必至。なのでここは我慢して真耶さんの顔に顔を近づける。

そしてマシュマロのように柔らかくスベスベとした頬に軽くキスをした。

 

「ひゃっ、旦那様!?」

「本当は抱きしめたいですけど、今は我慢してこれだけでもさせて下さい。とっても可愛かったですから」

「も、もう、旦那様ったら……嬉しいです……」

 

顔をトマトのように真っ赤にしつつも、真耶さんは嬉しそうに笑う。

その笑みに幸せを感じながら早速二人で調理を開始した。

 

「まずは出汁を取り、めんつゆを作りましょう。使うそうめんは師匠から贈られてきた高級そうめんを使います」

 

最初に方針を決めて動き出す俺と真耶さん。

すると早速、真耶さんはさっき俺が言ったことを不思議に思ったらしい。

 

「あの、旦那様? このそうめん、かなり高いみたいですけど………」

 

不思議に思うのは無理も無い。

湊斗家は真耶さんも知っての通り、家計が火の車の状態が常である。

そんな所からどうしてこんな物が贈られてくるのか?

その答えを俺は苦笑しながら真耶さんに教えてあげた。

 

「言いたいことはわかります。毎年毎年茶々丸さんが持ってくるんですよ。ああ見えてお金持ちですから。ただ、その量が多すぎて……。師匠は気にせずに食べてくれるのですが、師範代が『そうめんはもう飽きた!』と毎年同じように叫ぶので処理に困ってしまってたんです。去年からは俺がIS学園に通うようになったんでそのまま師匠からお裾分けされるようになりました」

「そうだったんですか。こんなに凄いそうめん……旦那様が作ったら、とても美味しくなるんでしょうね」

「ええ、期待に応えられるように頑張ります」

 

そう答えながら早速鍋に水を張り、湯を沸かし始める。

その間に真耶さんが冷蔵庫から厚削りのカツオ節とソウダガツオの削り節、それと利尻昆布を持ってきて、俺の側に置いて笑いかける。

言わなくても持ってきて貰いたいものを分かってくれるのが嬉しい。

以心伝心、まさに想い合う二人にこれほど嬉しい事はない。

 

「ありがとうございます。でも、良く分かりましたね」

「はい! だって旦那様のことですから」

 

純真な笑顔に目が奪われてしまう。今、きっと俺は赤面しているに違いない。

その幸せを噛み締めつつ俺は真耶さんと一緒に出汁を取り、醤油とみりんで調整しめんつゆを完成させた。鰹だしが強めだが、昆布のだしの御蔭で角が取れたまろやかな味わいとなっている。

 そしてめんつゆを氷で冷やしながらそうめんを茹で終わると、俺はそうめんとめんつゆを持って、真耶さんはお盆と皆の分の箸とお椀を持って中庭へと向かった。

 

 

 

「おぉ、そうめんが来た!」

 

マドカが俺達の姿を此方に駆け寄ってきた。

その姿は尻尾を振っている子犬のようで微笑ましい。

 

「お、待ってました~」

「わぁ、美味しそう…」

 

会長が楽しそうにそう言いながら扇子を開くと、そこには『到着』と書かれていた。

どうやら待ち遠しかったらしい。

更識さんはそうめんの色艶を見て目を輝かせていた。

早速流そうと思いそうめん台を見たところで、少し変わっている所に気が付いた。

 

「あれ? これって………ポンプですか?」

 

不思議そうに真耶さんが言う通り、そうめん台の最終地点に置かれているバケツにはチューブが通されており、それは途中で何かの機械を通って最初の部分へと固定されていた。

それが水流ポンプだと気が付くのに少し掛かってしまった。

何でこんな物が付けられているのかと思っていると、布仏さんが笑顔で手をパタパタと振って来た。

 

「えへへ~、私が付けたんだよ。これでずっとそうめん流し放題~」

 

それを聞いて感謝する。

確かにこれなら水が循環するから水を無駄にすることがないだろう。

 

「ありがとう、布仏さん」

「ううん、別にいいよ~。わたしだってたまには役に立つのだ~」

 

笑顔でそう言う辺り、案外気にしていたのかもしれない。

だからこそ、作ってくれたのだろう。本当に有り難い。

 

「む、やっと出来たのか。遅いぞ」

 

ジト目で俺を睨みながらそう文句を垂れる千冬姉。

 

「一体いつの間に来たんだ?」

「つい先程だ。許可は出したんだから文句はなかろう」

「そうだな」

 

千冬姉はそうめんを食べる気満々のようだ。

まぁ、どうせ来るだろうから用意はしておいたから良いが。

そんな皆が待ち遠しくしている様子を俺と真耶さんの二人は笑顔で見る。

そして、

 

「「じゃあ、そうめんを流し始めますよ!」」

 

二人で同時に言った。

 早速水を流すと、この夏の暑い日差しを反射して煌めく水が竹の中で流れ始める。

涼やかな光景に皆湧き立ち、俺と真耶さんは上流から二人で一緒にそうめんを摘まむ。

 

「真耶さん」

「旦那様」

 

二人で一緒に微笑み合い、さっそくそうめんを流れに載せて流した。

 

「おぉ、見た通りそうめんが流れてる! 凄い凄い!」

 

マドカは早速流れているそうめんに目を輝かせ、箸で逃げられないようにがっちりと掴んでめんつゆに潜らせてパクッと食べた。

 

「んぅ~、美味しい!」

 

その様子に皆微笑みつつ、流れ始めたそうめんを掴み始めた。

 

「相変わらず美味いな、お前の料理は」

「これは凄いわね。高級和食店の味だわ」

「美味しいね、お姉ちゃん!」

「チュルチュル~、うまうま~」

 

皆そうめんを美味しそうに食べてくれているようで何よりだ。

俺はその光景を笑顔で見ながら真耶さんに話しかける。

 

「ここは俺がやっておきますから、真耶さんは一緒に食べてきて下さい。せっかくの流しそうめんなんですから」

「いいんですか? でしたら、行ってきますね」

 

真耶さんは可愛らしくそう言うと、上流から離れて皆と一緒に中流でそうめんを掴み始めた。

何というか、やって良かったと思う。

夏の熱い日差しの中、こうして皆が喜んでくれる姿は見ていて嬉しく思う。

そのまま少しそうめんを流し続けていると、真耶さんが此方に戻ってきた。

 

「旦那様の分も持ってきました。一緒に食べませんか?」

 

俺に見えるように救ったそうめんが入ったお椀を見せる真耶さん。

だが俺はそうめんを持ったザルで手が塞がっていて食べられそうにない。

だから………。

 

「旦那様、はい、あ~ん」

 

真耶さんは心が溶けるくらい甘い声でそうめんを摘まんで俺に差し出してくれた。

日光に当たり光り輝くそうめん。そしてそれを俺に笑顔で差し出してくれる真耶さんの笑顔が愛くるしくて、俺は少し躊躇いがちに口を開けた。

 

「あ、あ~ん」

 

口の中に入るそうめん。

味は悪くないが、それ以上に心が嬉しいと感じた。

真耶さんは俺に食べてもらえたのが嬉しかったらしく、とても可愛らしい笑顔を浮かべた。

 

「もっとありますからね、旦那様。はい、あ~ん」

「あ~ん」

 

嬉し恥ずかし何とやら。だけど心は満たされる。

 

「美味しいですか?」

「ええ、美味しいです」

「それは良かったです。だって………旦那様をだぁい好きな気持ちを込めてはい、あ~んしてますから」

 

その言葉に心が溶かされる。

可愛くて仕方ない。その所為で赤面している俺に悪戯心が湧いたらしい。

真耶さんはそのまま俺に顔を近づけると、

 

「あ、こんな所にめんつゆが……」

 

そう言って俺の頬辺りをチュっとキスしてきた。

 

「えへへへ、美味しい」

 

もう可愛すぎて我慢が効かなくなってしまう。そうめんを持っていなかったら間違いなく抱きしめてキスをお返しにいっぱいしていただろう。したくて仕方なかった。

 

「あ、おりむ~がイチャついてる~」

「あら本当ね。この暑い中よくやるわね~」

 

布仏さんと会長がそんな俺を見て、やぁねぇとリアクションを取ってきた。

それが少し恥ずかしくなったが、真耶さんは顔を羞恥で真っ赤にしつつ、二人に少し必死な感じで答えた。

 

「いいんです。だって……これが旦那様を支える妻の在り方なんですから。ね、旦那様」

 

その可愛らし過ぎる笑顔に俺は無言で頷くしか出来なかった。

 

 

 こうしてマドカの思いつきで始まった流しそうめんは成功した。

マドカは好奇心とお腹を満腹にし、俺は真耶さんの可愛らしさに胸が満腹に……ならない。だっていくら入れても、もっと欲しくて仕方ないから。

でも、心は満たされた。

そんな夏の一時であった。


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