甘い話って書いてるとお気に入りが減るんですよね………。
少しへこみます。
カラオケに初めて行き、真耶さんのアイドル衣装姿という悶えるくらい可愛い姿を見て、俺のためだけに歌ってもらえて、こうして一緒に抱きしめ合ってキスし合う。
もう幸せの絶頂としか言いようが無い。
歌っている姿はまさに妖精のようだ。薄暗い室内がまるで光り輝くステージに早変わりし、歌っているのは俺だけのアイドル。
これにグっとこないわけがない。
しかもその前に脳が溶けるくらい甘い声で甘えられ、良い点数が取れたらキスしてなんて………。
可愛過ぎじゃないか!
カラオケに来れて本当に良かった。
恋人のこんな可愛い姿が見れて、こんな風に可愛らしく甘えられて嬉しくて幸せで仕方ない。
だから……忘れていたんだ。
自分が音痴であることに。
その後も真耶さんは幸せ一杯の弾けんばかりの笑顔でノリノリにマイクを持って歌い、高得点を出しては俺の身体にすっぽりと収まり、子猫のように甘えてキスをねだる。
その可愛らしい魅力に魅了された俺は求められるままに大好きという気持ちを込めてキスをする。それをくすぐったくも気持ち良さそうにうっとりと受け止める真耶さんは妙に艶かった。
そして何曲か歌って少し疲れたのかソファに座る真耶さん。
その顔は真っ赤になって満足そうだ。
「少し歌い疲れちゃいましたね」
上気した顔が妙な色気を発し、軽く息を吐く真耶さん。
その少し疲れた姿が女性の色香を妙に感じさせて俺の男を刺激する。スカートから覗く真っ白い足やエロチックな下着、少し荒い呼吸で上下に動く大きな胸。
なんかもう、色々と不味い。
直視したら目が離せなくなって色々としてしまいそうだ。
それぐらい今の真耶さんは危うい艶っぽさを発していた。
そのまま一口飲み物を飲む真耶さん。その艶やかな唇がやけに艶やかに見えて視線がそこに行ってしまう。
「ふぅ~、冷たくて美味しいです」
冷たさに気持ち良さそうに目をきゅっと瞑る真耶さんの可愛さときたら、小動物のようでたまらない。そのままギュッと抱きしめたいけど、疲れているようだから我慢しないと……少ししんどい。
そして少し休んだ真耶さんは俺に楽しそうな笑顔を向ける。
「旦那様、次は旦那様の番ですよ」
「え?」
そう、あまりに真耶さんが可愛くてそれをずっと見ていたいと思っていたから忘れていたんだ。自分も歌うと言うことを。
その言葉をかけられた途端、天国から地獄に早変わりした。
どうしよう……俺は音痴だというのに……。
それも真耶さんの歌を聞いた後なら、尚更自分の下手さが良く分かる。
ここで歌わないなんて選択肢は……。
「はぁ、旦那様の歌、楽しみです………」
絶対にない。
無理だろう、ここまで期待されて。音痴だから歌いたくないなんて言えるわけがない。
俺は冷や汗を掻きながら真耶さんに話しかける。
「あ、あの……真耶さん」
「どうしました、旦那様?」
無邪気な笑顔を俺に向けてくれる真耶さん。ただ聞くだけなのに少し気まずい。
「その~……俺は歌が上手くないんで耳汚しになると思うんですが……」
「私もそんなに上手じゃないですよ。そ・れ・に、上手い下手じゃないんです。歌ってる旦那様の姿が見たいんですよ」
えへへへへ、と可愛らしく真耶さんは笑う。
そんな可愛らしく言われたら……意を決するしかないじゃないか。
期待に胸を膨らませる真耶さんを悲しませるのは嫌だけど、それでも聞いて貰うしかない。何より、本当に好きな人のことなら、例え良くない所でも一緒に愛せるくらいにならなくては(俺は真耶さんの良くない点なんて一つも見たことないけど。だって全部可愛くて大好きだから)。
決心してマイクを取り立ち上がる。
そしてかろうじて知っている歌を何とか見つけ、それをおぼつかない手付きで入力した。
最近テレビのCMか何かで流れている曲である。
そして待つこと数分、前奏が流れ始めた。
その前奏を聴いて緊張で身体が萎縮する。それを紛らわそうと真耶さんを見ると、俺の事を目を輝かせて見つめていた。きっと背後にはワクワクと期待に胸を膨らませている効果音が出ているだろう。
それがよりプレッシャーを与える。
あぁ、もう………やけくそだ。そして俺は口を開いた。
「(ボエ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!)」
何か……もう駄目だ。泣きたくなって仕方ない。
昔漫画で見たガキ大将のキャラほどではないが、それでも酷すぎる。
音程がまったく合っておらず、声の大きさもおかしい。
正直泣きたくなって仕方なく、途中で歌うことを止めてしまった。
申し訳無い気持ちで一杯になりながら真耶さんの方を向くと、ソファに真耶さんの姿はなかった。
寧ろ俺の目の前にいた。
その事に驚いていると、真耶さんは俺の頭を自分の胸に抱きしめた。
その暖かな温もりにへこんでいても心が安らいでしまう。
「すみません、凄く下手な歌を聴かせてしまって……」
謝ることしか俺には出来ない。そんな俺に真耶さんは優しく頭を撫でてくれた。
まるで幼い子供をあやすかのように、愛おしいものを慈しむように。
「いいんですよ。旦那様が行きたがらなかった理由がわかりましたから。私こそごめんなさい。嫌がっていたのに無理にさせてしまって……」
真耶さんの優しさが心に染みる。
俺が不甲斐ないだけなのに、真耶さんにこんなに悲しい思いをさせてしまうなんて……何で歌の練習をしてこなかったんだ、俺は……今すぐ飛蛾鉄砲・弧炎錫で自分を爆破したい。
そんな俺を優しく抱きしめ頭を撫でてくれる真耶さんは包み込むような笑顔を俺に向けてくれた。
「そんなに気に病まないで下さい」
「で、でも……」
「私、旦那様の歌を聴いて……少し嬉しかったんですよ」
「え……?」
何で俺のあんな下手な歌を聴いて嬉しかったんだ?
俺を気遣って真耶さんが嘘をついたのか? いや、こう言っては自惚れかもしれないが、真耶さんは絶対に嘘をつく人じゃない。
なら、何故………。
そんなことを思っていたら、真耶さんは俺を見て嬉しそうに微笑んだ。
「私にとって、旦那様は何だって出来る凄い人に見えていましたから。こうして苦手なところを見ると、より身近に感じて嬉しいんです。それにそういう時の旦那様、凄く可愛いんですよ。いつもの大人っぽい旦那様も素敵ですけど、こうして年頃の男の子っぽいところもまた可愛らしくて。だから……」
真耶さんは俺をギュッと抱きしめる。
その抱きしめ方は何やらぬいぐるみを抱きしめるかのような感じだ。
「こんな感じにギュッと抱きしめたくなっちゃうんです。旦那様、可愛いです」
「むぷ………」
「旦那様もよく私をこうして抱きしめてくれますよね。私だって旦那様が可愛かったり格好良かったりするほど抱きしめたくなるんです。だから旦那様」
「……はい…」
「上手いとか下手とか気にせずに歌いましょう。私はどんな歌でも旦那様が歌ってくれるなら大好きです」
あぁ、こんなに胸にグっとくることを言われては、どうしようもないじゃないか。
こんなにも思ってくれている真耶さんを、これ以上悲しませるわけにはいかない。
だから俺は、返事の代わりに抱きしめ返すことで返事を返した。
「下手ですけど、それでも……頑張りますね」
「はい!」
嬉しさを全開に出した返事を返す真耶さんに俺は微笑み返す。
そして真耶さんから離れると、マイクを握って別の曲を入力し始めた。
それは俺に取ってある意味特別な曲。
『ある意味音痴』のある意味たる理由。
そして前奏が流れ初め、真耶さんが瞳をキラキラと輝かせている中、俺はそれを歌い始めた。
重く引き延ばされた声はより渋さを歌に与え、感情を込めることでより深みを増していく音楽がある。それが俺が今の所歌える曲の一つ。
『演歌』
である。
俺は只、真耶さんの期待に応えるべく、無心で歌う。
下手とか上手とか関係無く、ただ俺の駄目な部分も愛してくれる真耶さんのために。
そして歌い終えると、静かに小さく、けれど確実に聞こえる拍手が鳴った。
「旦那様、凄いです! 演歌がこんなに上手だったんですね!」
凄い凄いと拍手をし続ける真耶さん。
その様子は初めてサーカスを見て驚き喜ぶ子供のように無邪気だった。
そんな可愛らしい反応に照れてしまう。
「旦那様、全然音痴なんかじゃないですよ。だってこんなに凄い演歌が歌えるんですから」
「いや、演歌しか駄目なんですよ。茶々丸さんや師範代にコレばかり歌わされて」
苦笑しながらそう答えると、真耶さんは何かに気付いたようで手を胸の前でポンッと合わせる。
「わかりました! 旦那様が歌うのが苦手な理由」
実に嬉しそうに笑う真耶さんに、俺も嬉しくなってしまう。
特に音痴の理由が分かったとあれば尚更だ。
「旦那様は歌うとき、無意識に演歌を歌う感じになっちゃうんですよ。だから音程やテンポがずれるんです。演歌と普通の歌じゃ全然違いますから」
「そうだったんですか?」
「はい、たぶんですけど。それにしても……」
真耶さんはそこで一端言葉を切ると、うっとりとした顔をした。
その艶っぽさにドキッとしてしまう。
「演歌を歌ってるときの旦那様……渋くて格好良かったです…はふぅ~……」
「そ、そうですか……」
そんな風に褒められると嬉しいけど恥ずかしくなってしまう。
「別に旦那様は音痴なんかじゃないです。ただ、歌い慣れていないだけで、ちゃんと練習すれば歌えるようになりますよ。だから旦那様……一緒に練習しましょう!」
「はい」
その幸せな誘いを受け、俺は真耶さんの指導の下、色々な歌を唄った。
そして少しマシになってきた所で、先程まで俺を指導してくれていた真耶さんが顔を真っ赤にして上目使いで見つめてきた。
「旦那様、ここまでいったから……一緒に歌ってくれませんか?」
潤んだ瞳が俺をじっと見つめる。
可愛らしい唇が若干の不安に震え、ぐっと抱きしめた身体が小さく見える。
そんな真耶さんに俺は笑顔で答えた。
「はい、勿論お願いします」
「ありがとうございます」
俺の返事を聞いて心底喜ぶ真耶さんは凄く可愛かった。
そのまま二人で身を寄せ合って一つのマイクを二人で持つ。
よく知らないが、二人で歌う時はこうするらしい(真耶の嘘である)。
「あ、そう言えば俺はもう一つだけ歌える歌があるんですよ」
「そうなんですか」
「ええ、だからそれを一緒に歌いませんか?」
そう聞くと、真耶さんは満面の笑みで答えてくれた。
「はい、是非! 旦那様と一緒に歌えるんでしたら、それだけでも嬉しいですから!」
その答えに此方も嬉しさがこみ上げて仕方ない。
そして俺が歌えるもう一つの歌を入力した。
題名は何故か師匠の劔冑である村正さんと同じなのだが。何でもとあるゲームのOPなんだとか。茶々丸さんに無理矢理歌わされ続けたのでこれだけは演歌以外で普通に歌える。
そして流れる曲に合わせて二人で同時に歌い始めた。
歌い終わると、不思議と達成感で満たされる。
ここまで歌って気持ち良かったのは始めたかも知れない。それもこれも全部真耶さんの御蔭だ、絶対に。真耶さんとじゃなかったら、こんな気持ちにはならなかっただろう。
「はぁ~……旦那様とのデュオ……良かったです……」
幸せそうに微笑む真耶さんの肩をそっと抱いてあげると、嬉しそうだ。
そして点数が表示された。
『100点』
それを見て、二人で嬉しくなって抱きしめ合った。
「やりましたよ、旦那様!」
「はい、真耶さん! 100点ですよ」
子供のようにはしゃぐ俺達。
少しみっともないかもしれないが、仕方ないじゃないか。だって嬉しいのだから。
そしてお互いの顔を見つめ合う。
「旦那様、100点ですよ。だから……お願いします」
「……はい、俺もしたくてしかたなかったです」
そしてお互いに顔を寄せて甘そうな唇にキスをする。
100点を取ったら滅茶苦茶になってしまうくらいキスをする。
恥ずかしいけど、今の俺は歌を真耶さんの御蔭で上手に歌えたことが嬉しくて、その感謝の気持ちと大好きという気持ちを伝えたくて、自らキスしたかったのだ。
最初から全開でお互いの口の中に舌を入れて絡め合う。
「んぅ…ちゅ……ふぅ…ん…んん……ちゃぷ…ちゅ……ちゅぷ…れろ……ふぅ…んく、んく…ちゅ…んふ……ふぅ…」
薄暗い室内に響く湿った音が余計に淫靡さを醸しだし、互いに昂めていく。
「ひゃんなひゃま……ひょひょ……ひょひょ! んっ、ちゅ……ちゅぱ……ふぅ」
情欲のこもった視線で見つめられ、俺は返事を返す代わりにもっと激しく真耶さんの口内を舌で蹂躙した。
それに感じてより艶っぽく吐息を漏らす真耶さん。
それが俺をより昂ぶらせる。
真耶さんがジュースを飲んでいた所為か、唾液が凄く甘い。それをもっと味わいたくて、真耶さんのことがもっと欲しくてより貪るようにキスをする。
それは真耶さんも同じで、俺に負けないくらい俺を求めてきた。
そしてどんどん意識が真っ白になっていき……。
「っ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!?!?」
真耶さんの意識が弾けた。
その後も俺は夢中でキスしていたため……まぁ、大変なことに。
音痴であった俺だが、真耶さんの御蔭で少しは歌が好きになれたかな。
こんな幸せなカラオケなら、何度だって行きたいとそう思った。
ちなみに……。
顔を真っ赤にした店員に凄く注意されちゃいました。
本当に申し訳無いです。
でも店員さん。
真耶さんにキスのコツとか教わるのは、恥ずかしいから止めて欲しかったかな。