あれから苦労の連続だった。
茶々丸さんが乱入してきたあと、よりによって授業に乱入参加。ISを起動させたら代表候補生顔負けの機動をその場のみんなに見せつけ、俺はISで追っかけられて遊ばれた。
一通り俺を追っかけ回したら満足したのか、ISを解除して去って行った。
その時の置き台詞に、
「あてはまだこっちにいる用事があるから、また遊びにくんからね~」
と、俺にとって最悪な言葉を残していった。
さっきでさえこんな酷い目に遭ったのに、また酷い目に遭うのか。
だから苦手なんだ、あの人は・・・
人の日常をことごとく破壊していくんだから・・・はぁ・・・
しかもあの人が残した爪痕は大層深く、休み時間にはあの授業に参加した人間全員に質問攻めにあった。
ただの知り合いならここまで酷くはならない。あの人が代表候補生並の機動を見せてしまったためにこんな目に遭っているのだ。
女子は小学校のときからISのことについて学んでいく。
本格的に学び始めるのはIS学園に入ってからだが、そのまえに予備知識としてISのことを教育されるのだ。そして実機に乗るのもIS学園からになる。なのであそこまでの機動を出来る人間はちゃんと実機に乗って訓練した人間だけだ。
しかし茶々丸さんはISに触ったのが今回が初めてだと皆の前で言ってしまった。
そのことが反響を呼び、真偽などの確認のために俺に殺到している。
俺に聞かれたって困る。
あの人が何故そこまでうまく操縦できたのかなんて、俺にだって分からない。でもあの人なら何でもうまくやりそうなイメージがあるから出来たっておかしくない気がする。
俺に分かることと言ったら、ISに触ったことが無いってことくらいなものだ。
師匠から聞いたが、どうも六波羅はISのことが好きでは無いらしい。
何でも四公方の方々には否定的な人が二人もいるとか。
理由の一つに、
「こんなもの、美しくないわ~。麿のほうが断然美しいじゃないの」
とかいうのがあったらしい。嫌う理由としてはどうかと思うが・・・
これはまだ序の口に過ぎず、さらに酷い目に遭った。
昼休みには、箒、セシリア、鈴、山田先生に問い詰められたのだ。
一体どういう関係なのかと・・・
しかしどう言われたって、知り合いとしか言いようが無く、俺はそれ以外に答えようが無いためさらに問い詰められることに・・・
この問答は昼休みが終わるまで続いた。
放課後になり俺はデュノアを連れて逃げるように教室から出て行った。
朝からも分かる通り、未だに追っかけ回されているのだ。そして茶々丸さんのせいで俺も追っかけ回される羽目に・・・
さすがにもう一回正宗を使うわけにも行かず、自力で逃げることになった。
「あっちに行ったわよ!」
「此方に逃げてきましたー!」
「こっちに追い詰めるわよぉ!」
後ろからそのような声が聞こえてくる中、俺はデュノアの手を引っ張って逃げていた。
「だぁあああ、しつこい!」
「織斑君、僕のことは置いていって大丈夫だから・・・」
「そう言うわけにはいかないんだよ。寮の部屋の案内もしなきゃ駄目だろ。さっき千冬姉から俺と同室だって言われたからな、ちゃんと案内するよ。そのためには、まずここを抜け出さないとな」
俺はそう言って駆け出す。
(何だか織斑君って・・・王子様みたい。みんなは『武者』だっけ? そう言ってたけどそんな厳格な感じは一切しないなぁ・・・とても優しいし、頼りになるし・・・・・・は!? 僕は何を考えてるんだよ、もう~)
僕は手を引かれながら走ってる最中にそんなことを考えてしまった。
そのことが顔に出てしまったのか、心配されてしまった。
「大丈夫か、疲れたならおぶるけど」
「ううん、大丈夫だよ!?」
慌てて断った。つい想像してしまい、顔が真っ赤になっていく気がする。想像していたことがばれてしまった気がして結構恥ずかしいけど、ちょっと羨ましく思ってしまった。何というか、織斑君と一緒だとつい安心してしまって地が出そうになってしまいそうになる。気をつけなければいけないんだけど、何でだろう?
そんなことを考えてる内に女の子達に挟み撃ちにされそうになってしまう。
「やられた、向こうにもまわられたか。このままじゃまずいな」
彼はそう言って、ちらりと窓を見た。どうする気なんだろう?
そんなこと考えている僕に、織斑君は急にすまなそうな顔をした。
「ちょっと怖いと思うけど我慢してくれ」
「え?」
?を浮かべる僕をいきなりお姫様だっこする織斑君!?
「きゃぁあ!?」
「何て声を上げているんだ、お前は」
「え、いや、だって・・・・・・」
驚く僕にそう言って織斑君は窓に向かう。まさか・・・・・・
僕は嫌な予感がして恥ずかしいけど織斑君にしがみついた。
そして予感は的中する。
僕たちは二階から飛び降りた。
「やっぱりぃぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!?」
そして、どすん、という重い音と一緒に、ゴキッ、と何かが折れて砕けるような音がして着地した。
「織斑君、大丈夫!?」
さっきの音は明らかに危ない感じがした。しかし、織斑君は笑顔で大丈夫だと言って僕を降ろした。
(やはり痛いっ!?)
劔冑の回復力を考えて二階から飛び降りたわけだが、当然ダメージは負うわけで・・・・・・
両足の骨が骨折した。
具体的には右足が変な方向に曲がっており、左足がおかしな形に固定されてしまっていた。さらに両かかとにたぶんヒビ。普通なら歩くことも出来ない重傷だ。
でも俺は動くことが出来る。
(あぁ、俺はもう普通じゃないんだなぁ・・・・・・)
こんなことをしてこんなことを考えてしまうあたり、もう自分が普通の人間では無いと自覚させられる。正宗を装甲するようになってからはこんな怪我、たいした物では無くなってきている。知らずの内に痛みに対する耐性が異常になっていた。
俺はデュノアを連れて寮に向かった。
再生中だがまだ折れ曲がっているため歩きづらく、歩き方がおかしいことでデュノアに何度か心配されたが、その度に俺は大丈夫、とふてぶてしく笑って歩いた。
何とか自室の前までたどり着いた。
足は普通に生活する分には問題無い程度に治った。改めて思うが、正宗の再生力は凄い。真打劔冑の中でもトップクラスらしい。
しかし、消費した体力までは回復してくれないので、もうくたくただ。
「ここが俺達の部屋だよ。疲れただろう、お茶でも容れるよ」
「あ、ありがとう。でもごめんね、気を遣わせて」
「今日から同室になるんだ。その程度のことなんてなんでもない。それじゃ改めて・・・ようこそ、IS学園へ。歓迎するよ、デュノア」
「あはは、よろしく、織斑君。せっかく同室になるんだから、僕のことはシャルルでいいよ」
「そうか、なら俺も一夏でいい。よろしくな、シャルル」
「うん、こちらこそ」
そう嬉しそうに言うシャルルの笑顔につい見とれてしまった。
(何考えてるんだ、俺は!?)
つい邪なことを考えてしまった自分に自己嫌悪。
しかし、いつまでもそんなことをしているわけにも行かず、部屋に入るためにドアを開けた。
「あ、いっちーおっかえり~。むぐ、むぐ、んまー。やっぱりカステラは文命堂に限るやね」
茶々丸さんが部屋で勝手にカステラを食べていた。
俺はそれを見た瞬間に、残っていた体力が根こそぎ失われていくのを感じた。
「大丈夫、一夏? 一夏!?」
シャルルが何か言っているが聞こえない。心配しているのが表情で分かるだけだ。
あぁ・・・どうやらまだこの苦難は終わらないらしい。
俺は頭の中にそんなことが浮かび、力尽きた。