装甲正義!織斑 一夏   作:nasigorenn

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今回の一夏はある意味悪です。
人の気持ちは理解しましょう。


恵まれた者の悩み その1

 もう夏真っ盛りであり、夏休みまでもう少しという所。

俺はとある悩みを抱えて友人宅にお邪魔していた。

 

「それで一夏。相談したい悩みってなんだよ?」

 

部屋に来て少し談笑した後に改めて聞いてくれたのはこの部屋の主である五反田 弾である。今日お邪魔しているのは五反田家なのだ。

 

「金関係以外なら相談に乗れるとは思うけどな」

 

そんなフォローを入れてくれたのは、弾と同様中学時代からの友人である御手洗 和馬だ。

久々に会う友人がこうして親しくしてくれることが嬉しい。

まぁ、金銭に関してはかなり貰っているので困るということは無いのだが。

二人の厚意に甘え、俺は本題を切り出すことにした。

 

「ああ、じつはな………その………」

「焦れったいな。はっきりしろよ、お前らしくない」

「あ、ああ。そのな……」

 

中々に言い辛く口ごもる。

というのも、余りにも恥ずかしい話だからだ。

だが、二人に相談したいと頼んだのは俺なのだから、話さねば。

意を決して俺は口を開いた。

 

「最近…………真耶さんが可愛すぎてどうしようもないんだ!」

 

「「………はぁ!?」」

 

俺の言葉に二人が怪訝そうな顔をして反応を返す。

別に変なことを言ったつもりはないのだが。

 

「どうしたんだ、二人とも? そんな顔をして」

「いや、するだろっ! 何、惚気か! 惚気なのか!!」

「今、本気で一夏を殺したいって思ったよ、俺は」

 

食って掛かる二人に何故こうも責められているのかよく分からない。

 

「俺は何か変な事を言ったか?」

「言ったよ! 凄く変な事をな!!」

「自覚がないのはお前が勝ち組だからだろ、チクショー!」

 

そのまま殴りかかってきた二人の拳打を軽くいなし、落ち着かせるために軽く叩くと二人とも壁に叩き付けられた。

おや、特に強くした覚えは無いんだけどな。二人とも、男なのだからもう少しは鍛えないと駄目だぞ。

叩き付けられた二人はヨロヨロとしつつ此方に戻ってきた。

 

「こ、この馬鹿力が……」

「もうちょっと手加減してくれよ」

「これでも一番抜いたつもりなんだけど」

 

「「お前と一緒にすんな、この武者馬鹿っ!!」」

 

怒られてしまった。

まぁ、俺も力加減を誤ったのは悪いので、素直に謝る。

そうして改めて元の位置に戻った俺達は相談を再開した。

 

「そもそも、何でそんな相談事が俺達に来るんだよ」

「そうだよ! それも彼女のいない俺に相談すんだよ」

 

二人に相談しに来たのには、勿論訳がある。

単純に『普通』の人の意見を聞きたかったからだ。

と言うよりも、『普通の考え』を持った人と言うべきだろう。

例を上げるなら、師匠の場合……

 

『恋人が可愛くてしょうがない? そんなことは当たり前のことだろう。なら、己の好きなようにすれば良いであろう』

 

と言っていることは正しいと思うのだが、きっとその顔は悪鬼の笑みを浮かべているだろう。考えていることはきっとイヤらしい事に違いない。

次に童心様なら……

 

『恋人が可愛くて堪らないとな? ならばその溢れんばかりの気持ちを恋人に猛る獣性の如き性欲と共に叩き付ければ………』

 

言わずと知れたことだが、師匠より酷くストレートだ。

師匠がムッツリなら童心様はオープン。どちらにしてもそもそもこの二人に相談する方が間違っている。

では、他の人物となると?

ウォルフ教授? あんなパンツ変態に相談を持ちかけるなんて思考をした時点で間違いなのだから論外だ。

獅子吼様? 仕事一辺倒の人だから知るかの一言で済まされるか、もしくは意外と純情な人だから花束でもプレゼントするよう言われそう。それも有りではあるが、そんなことでは収まりそうにない。

伊達さんと真田さん? 正直からかわれそう。

邦氏様はまだ幼いので、失礼ながら助けになりそうにない。本当に申し訳無いのだが。

となると、残りは六波羅盟主たる護氏様だが…………恐れ多いというか、ギャップが激しすぎて何とも言えないんだよなぁ、あの御方は。

前に試しでメールを送ったら、顔文字絵文字付きのメールがすぐに返ってきたし。

あの風体からは考えられない。

そう考えると、『普通』な人がほぼいない。天皇陛下や総理にしても良いのだが、何だか酒の肴にされそうな気がするのでやめた。

俺の周りは詰まるところ、そういう悩みを相談出来る人がいないのだ。

それも俺と同い年の人など本当にいない。

それは福寿荘の皆にも言える事なのである。

だからこそ、『普通』である二人に相談することにした。

 

「いや、お前達くらいしか相談出来る相手がいなかったんだよ。だから」

 

そうとしか言えない。

 

「そう言ってもらえるのは嬉しいけどよ。今更相談することなのか、それ?」

「そうだよ。去年の初詣の時に見たけど、ラブラブだったじゃねぇか」

 

弾と数馬は俺をジト目で睨みながら言う。

そうなんだけど、それには理由があるんだ。だからこそ、俺は二人に少し前に行った自衛隊の教導についての話をすることにした。

その話を全て聞き終えた二人は何とも言えない顔をする。

 

「いや、普通は気付かないだろ、それ」

「顔も見えないし、そもそもそこにいるはずがないんだから、気付く方が可笑しいだろそれ。お前もお前で部外者だって気付いた方も充分可笑しいけどな」

 

二人はそう答えてくれるが、そんなことはない。

愛している人に気付けなかったなどと、それこそ末代までの恥といってもいい。

いくら真耶さんに謝っても足りないくらいだ。

そして弾は話を簡略化して纏め始めた。

 

「つまり……ええっと……その自衛隊で訓練を付けてたときに内緒で来ていた山田さんに刃を向けてしまい怖がらせてしまったと。それでお詫び替わりにしばらく好きなようにさせたら、毎日くっついて甘えてくるので男として色々と我慢がきついと。そういうことか?」

「ま、まぁ、おおむね」

 

弾にそう答えると、少し考え始めた。

それに対し、数馬はと言うと………

 

「リア充殺リア充殺リア充殺リア充殺リア充殺リア充殺リア充殺リア充殺リア充殺リア充殺リア充殺リア充殺リア充殺リア充殺リア充殺リア充殺リア充殺リア充殺リア充殺」

 

何かもう、修羅すら凌駕する顔をしてぶつぶつと呟いていた。

その精神が崩壊寸前な状態に良く分からない覇気を感じた。

そんな数馬に戦きつつも、弾は俺に聞いてきた。

 

「具体的にはどういうことなんだ?」

 

その質問に俺はここ最近にあったことを二人に話すことにした。

 

とある朝から……

 

「旦那様、おはようございます」

「……おはようございます」

「ちゅ」

 

目の前でキスしながら俺を起こす真耶さん。

朝から甘い香りに包まれ、ワイシャツと下の下着しか身に付けていない身体で抱きしめられているというのは、思春期の男子には色々ときつい。

え? 今までも何度もしてたって? 何度したってドキドキするものなんだよ。

そして起き上がろうとすると……

 

「いつもよりまだ十五分ほど早いですよ。だから……もっと旦那様と一緒にいていいですか?」

 

恥じらいで頬を赤く染めながらも潤んだ瞳で上目使いにお願いする真耶さん。

まだ時間があることもあるが、それ以上に恋人からの可愛らしく愛おしいお願いを断れるわけがない。

だから俺は、

 

「はい、いいですよ」

「嬉しいです、旦那様!」

 

そう答えると共に真耶さんに抱きつかれる。

真耶さんはそのままその大きな胸を俺の胸板に思いっきり押しつけると、

 

「だんなさまぁ~、キスして下さい。い~っぱい」

 

心がふやけるような甘い声でねだってくる。その囁きに俺は身体中が熱くなって仕方なく、甘える真耶さんが可愛くて可愛くてどうしようもなくなってしまうのだ。

そして俺もその甘く柔らかな唇に誘われて唇を合わせる。

 

「真耶さん……んぅ…ふぅ…んん……ちゅ…ちゅぱ……んふぅ……」

「ちゅ…んちゅ…旦那様……旦那様……んん…ちゅ…ふぅ……あぁ…あん……」

 

と、この後お互い溶け合うんじゃないかってくらい激しくキスしあってしまい、いつもより五分だけ起きてから鍛錬を始める時間に遅れてしまうのである。

これがここ毎日の朝の目覚めの光景だ。

 

「と、まぁこんな感じだ。毎朝、あんなに求められては、俺も色々とな」

 

語った結果、弾は顔を少し赤くし、数馬は下を向いていた。

 

「何が『と、まぁこんな感じだ』だよ! この幸せもんが! 学生でそんなの許されるとか思うなよ!」

「いや、それは確かにそうなんだけどさ」

「べ、別にお前が羨ましいわけじゃないからな! まだ如月さんとはお喋りしかできないのに、こいつは………」

 

弾は羨ましそうな、妬ましそうな、そんな視線を俺に向ける。

いや、向けられてもなぁ。

するとそれまで黙っていた数馬が顔を上げた。

 

「ふdhvはbdhごhsfbhそvほsvhのhvsdjhう゛ぉbvじshじじゃdvんsjう゛ぉあhvsんう゛ぉsんvしp!!!!」

 

そして人では発することが出来ないような声を上げて暴れ始めた。

 

「うわ、数馬が壊れた! 一夏の所為だぞ、これ!」

「いや、何で!」

「お前はもう少し恵まれない人のことを思いやる気持ちを理解した方がいい」

「なんだ、それ。思いやるのは当然のことだろう?」

「もう…いいや……」

 

こうして始まった相談の最初は数馬を落ち着けるまで中断することになった。

 

 


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