装甲正義!織斑 一夏   作:nasigorenn

347 / 374
最近スランプ故、あまり面白くないかもしれません。
でも、感想は出来ればよろしくお願いします。


お弁当を届けに その2

 去年やったのと同じように二時間の講義を終えた後、俺は真田さん達と一緒に野外の訓練場へと向かった。

既に整列している隊員達からは真剣な表情が窺えるが、若い隊員にはワクワクとした楽しみにしている雰囲気が感じられる。

そんな隊員達を見て伊達さんは軽く笑う。

 

「かっかっか。まったくどいつもこいつも楽しみにしてやがる。こりゃ期待に応えねぇとなぁ、『織斑教官』」

「からかわないで下さいよ、伊達さん」

「おやおや、我等が御大将は随分と謙虚だね。前もやっているのだからそこまで緊張しなくてもいいのに」

「真田さんまで……」

 

二人が俺の緊張を解そうとしてくれるのが分かり有り難いが、やはりからかわれるのは好きではない。

俺のそんな様子を見てか、伊達さんは更に笑うと、整列している隊員達に向かって訓練内容を伝える。

 

「んじゃ早速お前等の訓練内容だが、既に他の奴に聞いてるだろ。この『英雄』こと織斑と組み手だ。お前等、せっかくの機会だからなぁ! 当然本気でいけよ! もし手を抜いた奴がいたら思いっきりシバく!」

 

「「「「「「はっ!!」」」」」

 

その声に返事を返す隊員達だが、シバくと言われた辺りでほぼ全員の顔が真っ青になっていた。

一体何をやったんだ、伊達さん?

 

「真田さん、そこまできついんですか? 伊達さんのシバきって?」

 

気になったので真田さんに聞いてみると、真田さんは普通に笑いながら答えてくれた。

 

「いや、普通だけど。腕立て腹筋、それにスクワットを1000回ずつだよ。まだ入って来たばかりの人は慣れてないからね」

 

何だ、普通じゃないか。

それぐらいは毎朝やっているのでそこまでおかしくないし大変でもない。

いや、一般人からみれば大変か?

でも、彼等はもう武者なのだし……きっと馴染んでくれると思いたい。

そして始まる訓練。

まず最初は準備として格納庫から九○式竜騎兵甲を取りに隊員が移動する。

前は既に皆装甲していたが、どうやら隊員が増えた事によって持ち出しが大変になったらしい。

しばらくすると、九○式竜騎兵甲を装甲した隊員が此方に駆け足で向かってきた。

五十人近くの武者がこうして走っている光景というのは、中々に感慨深い光景である。

しかし、その中に一人だけ、少し気になる人がいた。

何というか……慌てているような、そんな感じがするのだ。

まぁ、前も似たような人がいたし、別におかしくはないのだろうが。

そして再び整列すると、組み手をするために俺と距離を取って並ぶ。

皆からやる気が感じられ、俺も少し嬉しい。

だからこそ、その期待に応えるべく相棒を呼ぶ。

 

「来いっ、正宗!」

『応っ!』

 

俺の求めに応じ、正宗が皆の前に飛び出した。

 

「「「「「おぉおおおおおおおおおおおおおおお!!」」」」」

 

正宗の姿を見て隊員達から歓声が上がる。

 

『やれやれ、最近は出番がなかったので苦労したわ』

 

正宗の小言を聞いて苦笑を浮かべながら装甲の構えを取る。

後で労わないとな。普段から世話になってるんだから。

そんなことを思いながらも、誓約の口上を述べる。

 

『世に鬼あれば鬼を断つ 世に悪あれば悪を断つ ツルギの理ここに在り』

 

そして正宗はばらけ、俺に装甲されていく。

隊員達が見ている中、濃藍の武者が現れた。そのことに隊員から再び歓声が湧いた。

そんな様子を笑いながら見ている真田さんと伊達さん。

二人も続いて村正伝と広光を呼び出し装甲した。

そして二人は審判役として両端に移動する。

 

「では、組み手を開始する!!」

 

真田さんの声と共に、列の一番最初の隊員が一歩前に出た。

 

「一番、前田 敦三等陸士、参ります!」

 

そう言い放つと共に抜刀し、構えを取る。構えは正眼。

緊張で妙に力が入ってしまっているのが分かるが、それは仕方ないこと。

だからこそ、この言葉をかける。

 

「前田三等陸士…でしたよね」

「は、はい!」

「『いつもと同じように仕掛けて下さい』。身体に無駄な力が籠もってますよ」

「す、すみません! ご助言、ありがとうございます!」

 

覇気良く返事を返すのを聞いて、あまり抜けていないことに苦笑してしまう。

いつまでも笑っているわけにはいかないので、俺も正眼で構える。

 

「始めっ!!」

 

俺が構えたことで真田さんが組み手開始の合図を放つ。

それと同時に前田三等陸士が前へと出た。

 

「やぁああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

気迫の籠もった良い一撃を放つ。それを俺は同じ上段からの攻撃で迎え討つ。

 

「しゃぁあああああああああああああああ!!」

 

その瞬間、訓練場に響き渡る鋼同士の激突音。

前田三等陸士は力負けしてそのまま刀を弾かれたことに驚いているようだ。

しかし、すぐさま返す刀で二撃目を放ってきた。

 

「悪くはないですよ」

「はっ、ありがとうございます!」

 

褒められたことが嬉しいらしく、声に喜の感情が籠もる。

だが…………

 

「しかし……まだ脇が甘い!!」

「なっ!? ぐあっ!」

 

二撃目を弾くと共に前に出ると、此方から刀に向かって追撃をかける。

その行動に驚き慌てて防御しようとするが、構えが崩れてしまっているために力に押し負け地面に倒された前田三等陸士。

そのまま斬馬刀を顔の前に突き付ける。

 

「こ、降参です……」

「精進して下さい。あなたは筋は良いが、咄嗟の行動に弱い。もっと柔軟に対応出来るように」

「は、はい………」

 

そして前田三等陸士は立ち上がり、列へと戻っていく。

そのやり取りを見ていた隊員達から歓声が上がるが、気にせずに俺は元の位置に戻った。

 

「まだあるんだから、じゃんじゃんいけよ、お前等!」

 

伊達さんがそう促すと共に、新たな隊員が前に出た。

そして名乗り、俺と組み手を行っていった。

 

 

 

 それがしばらく続いていき、最後辺りになってきた。

特に疲れたといったことは無いが、両端から感じる戦意の籠もった気配に辟易してしまう。二人とも、今すぐ俺と戦いたいとうずうずしているようだ。

出来ればやりたくはないが……無理だろうなぁ……。

残りは前に教導した時に結構強かった斉藤二尉や、どう成長したのかが楽しみな金田二等陸士、それに佐藤二尉といった女性など。

この一年近くでどう変わったのか、楽しみである。

だが、その前にいる隊員の方が先だ。

それは最初見た時に気になった隊員だった。今も何故か落ち着かないような雰囲気を感じる。

取りあえず刀を構えると、慌てて刀を抜き始めた。

 

「おい、挨拶は!」

 

真田さんからそんな声が飛ぶと、慌ててビクっとしていた。

 

「あ、すみませ~ん! この子、かなりあがり症なんで。山田三等陸士です」

 

その隊員の代わりに金田二等陸士らしき武者が答える。

どうやら新人らしい。まぁ、そういう人がいたって可笑しくはない。

それを聞いて真田さんは仕方ないか、と判断する。

 

「では……始め!」

 

その合図と共に、その隊員はぎこちなく走ってきた。

 

 

 

 どうも、山田 真耶です。

旦那様のお弁当を届けに自衛隊練馬基地に来たのですが、どういうわけか……

 

今、何と! 私は……劔冑を纏っています!

 

私が基地に入るのに協力して下さった人達に、

 

「せっかくですから織斑教官が指導しているところを『間近』で見ませんか?」

 

と声をかけられ、私自身凄く見たいこともあってそれを聞き入れました。

結果、その人達と共に、こうして旦那様との組み手に内緒で参加している次第です。

初めて纏いましたが、ISと違って、こう何というかがっちりした感じなんですね。でも細かく動きやすくて、中も快適です。

 

「これが…旦那様の見ている世界ですか……」

 

劔冑越しに見える世界は何だか不思議で、同時にこれが旦那様の世界だと思うと感じられることが嬉しくて。

でも、やっぱりISとは違いますね。動きがぎこちなくなってしまいます。

それで何とか整列に参加して組み手の順番を待っているのですが……

 

「はぁ……旦那様、やっぱり格好いいです……」

 

一人一人に丁寧に礼をし、真っ正面から無駄なく打ち伏せ、ちゃんと助言をする旦那様の姿は、いつも以上に凜々しくて格好良くて……。

見ていて胸がドキドキしちゃいます。

これが私の旦那様ですって今すぐ自慢しちゃいたいくらい、本当に格好いいですよ。

そして次々と組み手を終わらせている旦那様。

その雄姿にうっとりとしながら見ていたのですが、気が付けば次は私の番になっていました。

それに慌てて前に出ると、真田さんから怒られてしまい、ビクっとしてしまいます。

ちょっと怖いです。

それを私と一緒に来てくれた金田さんがフォローしてくれました。

後でお礼を言わないと。

そして私は慣れない刀を引き抜き、旦那様に向かって駆け出します。

うぅ……本当は旦那様に武器なんて向けたくないですけど、こうでもしないと可笑しいですし……今更少し後悔ですけど。

 

 

 

「えぇえええええええええええええええええええい!!」

 

甘い声の叫びを上げながら斬り掛かってきた隊員に向かって俺はまず同じ攻撃で防ぐ。

何だろう……聞き覚えがあるような声だった気が……。

 

「やぁ、たぁっ!」

 

さらに二連撃を振るう隊員だが、どうも可笑しい。

何というか……

 

(剣術の心得がない?)

 

振り方としては間違えていないのだが、剣術の動きをしていない。どちらかと言えば剣道に近いような攻め方をしている。

しかも……

 

(この攻撃、振り方……見覚えがあるような……)

 

そんなことを考えつつも、襲い掛かる刀を弾いていく。

何故だろう、イマイチな感じがして仕方ない。

だからこそ、俺はあることに気付いた。

 

(この感じ……武者じゃない!)

 

そう、武者らしくなさ過ぎるのだ。

なら誰が纏っているのか? それを確かめるべく、前に出る。

そのまま力を込めて相手の刀を思いっきり叩く。

 

「きゃぁ!?」

 

その威力に刀を保持出来ずに相手は刀を手から離し、刀はくるくると周りながら後ろの地面へと突き刺さった。

そのまま返す刀で斬馬刀を相手の眉間に突き付ける。

そして殺気を込めた声で相手へと話しかける。

 

「あなたは誰ですか? 武者ではありませんね。装甲を解除して下さい」

 

その声にビクっと身体を震わせた後、相手は装甲を解除した。

その瞬間、俺は自分の目を疑った。

何故なら………

 

「す、すみません、旦那様……」

 

泣きそうになっている真耶さんがそこにいたから。

 

「え? ……えぇえええええええええええええええええええええええええ!!」

 

たぶんこの日一番大きな声を上げてしまった。

その時、真耶さんの後ろで控えている列からクスりと笑い声がしたのを、俺は確かに聞いた。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。