ひ、久しぶりにこうしてお話をすると何だか照れちゃいますね。
お久しぶりです、山田 真耶です。
今回は私のお話ということで、私視点でお送り致します。
それは夏がどんどん近づいてきて、蝉の鳴き声が聞こえ始めた頃。
いつも一緒にいる旦那様と私ですが、このお休みの日は政府からの呼び出しで外に行かなければならないそうで。
本当なら私も一緒に行きたいんですけど、私にもお仕事が残っていますからね。
旦那様と一緒にいたいですけど、それでお仕事をお粗末にしてしまってはいけませんから。それで嫌われたり失望されたくはないです。
も、勿論旦那様がそうなってしまっても笑って許してくれることは知っていますけど、これは自分なりのけじめのような物です。
そんな訳で私は一人、職員室でお仕事に没頭していたのですが、流石に二時間以上やり続けていると疲れも出てきます。
なので気分転換も兼ねて学食で軽い食事と休憩を取りにいきました。
そんな時にあったお話です。
「ん~~~~~~………疲れましたぁ。長い時間机に向かってるとやっぱり肩が凝って来ちゃいますね」
そう一人で零しながら肩を軽く回す。
すると肩の方からパキパキと音が鳴った……ような気がします。
いや、ちゃんと凝ってるんですよ!
決して、胸が大きすぎるとか、そんな理由ではないんですからね!
それで肩を軽く解しつつ、私は食券を買って席に付きました。
目の前に置いたのはイチゴのショートケーキと紅茶。頭を休ませたり働かせるには甘味が一番いいですからね。
出来れば旦那様と一緒に食べたかったなぁ~………あ、いけない! つい寂しくなって旦那様のことを思い出してしまいました。だって一秒でも一緒にいたいんですもの~。
その寂しさを紛らわせようと思いショートケーキにフォークを付けようとした時、
「あ、山ちゃんだ! 休みの日にここにいるのは珍しい~」
そう声をかけられ、其方を振り向きました。
振り向いた先にいたのは、私が請け負っているクラスである一組の生徒の皆さんです。
いつも元気よくクラスを引っ張る相川さん。相川さんと一緒にクラスを賑やかにしてくれる谷本さん。そしてクラスの纏め役をしてくれる真面目な鷹月さんの三人。
いつもこの三人はクラスのみんなを引っ張ってくれていて、私はとても助かっています。ただ、相川さんや他の生徒の方から先生と呼んでもらえないことには少しショックですけど……。
三人は私の座っている席に座ると、持っていたプレートをテーブルに置いていく。
モンブランにチョコケーキ、それにチーズケーキですか……美味しそうですね。今度旦那様に作ってみようかな。喜んでくれると嬉しいです。
「山ちゃん山ちゃん、私聞きたいことがあったんだぁ!」
「私、先生ですよ。せ・ん・せ・い」
相川さんのそう答えつつも、これはこれで嬉しく思ってしまいます。やっぱり生徒に慕われるというのは、教師冥利につきますからね。
苦笑を浮かべつつも三人に向き合うと、三人は何やら目をキラキラと輝かせていました。一体何を聞く気なんでしょうか?
「実は……山田先生と織斑君のことなんですけど……」
鷹月さんが顔を赤らめつつ、そう聞いてきました。
それを切っ掛けに谷本さんが私に食い入るように顔を近づける。
「そう、それ! あのね、山ちゃん!」
「は、はい!」
急に近づいてきた顔と大きな声で驚いてしまいました。
谷本さんは興奮気味のようです。
「織斑君と何処までいってるの! それに織斑君と普段どんなふうに過ごしてるの!」
それを聞いた途端、私は質問の意味を理解してしまって顔が熱くなっていくのを感じました。
そんな……『どこまでいってる』だなんて。谷本さんったら大胆です……。
相川さんと鷹月さんの二人も聞いている意味が分かっているようで、顔が真っ赤になっていました。でも、三人とも聞きたいと瞳を輝かせています。
ど、どうすればいいんでしょうか~! 恥ずかしいです。
「い、言わなきゃ駄目……ですか?」
そっと谷本さんを覗きつつそう聞くが、
「聞かせなきゃここから出さないよ~!」
と答えられ、相川さんと一緒に席の両側をがっちりとガードされてしまいました。
「やっぱり年頃の女の子としては気になるじゃないですか! そういうの」
赤い顔のまま相川さんが私にそう言うと、鷹月さんが真っ赤な顔のまま私を見つめます。
「しょ、将来恋人が出来た時の参考になればいいかなって……」
この三人の包囲網を私は破ることが出来ないと諦めました。
織斑先生(お義姉さん)なら一喝ですぐに退けてしまいそうですけど、私には無理ですし、それにこうして生徒から頼られているんですから、先生として応えたいです。
後、恋をした女の子には味方したいですし……。
「わ、分かりました。あまりプライベートに入らないものなら答えますよ」
「やった~!」
「先生、話分かる~!」
「ありがとうございます」
三人のお礼を聞いた所で一息入れるために紅茶を一口。
そして改めて三人からお話を伺います。
「それで……まずどんなことを聞きたいんですか?」
すると矢張りと言うべきか、相川さんと谷本さんが同時に身を乗り出して聞いてきた。
「「キスってどんな感じですかっ!!」」
「き、キスですか!?」
分かっていたとは言え、こうして改めて堂々と聞かれるとやっぱり緊張しちゃいます。
でも、期待の籠もった視線を向ける三人に答えないわけにはいきませんよね。
私は改めて旦那様とのキスを思い出すと………
ぁ、ぁぅ……身体中が火照って来ちゃって、ドキドキしてきちゃいます。
「そ、そうですね! その……何というか、気持ちいいというか嬉しいというか……」
「山ちゃん、もっと具体的にお願い!」
「やっぱりレモンの味がするとか」
「か、感触とかも……」
三人が食い入るように私に詰め寄ってきました。
改めて口にすると、凄く恥ずかしいです!
私は自分が意識出来るだけでも、凄く顔が真っ赤になっていることが分かっちゃいますよ。
「え、えっと……まず感触ですけど、旦那様のしか知りませんが、柔らかい……であってるのでしょうか? それでお互い気分が高揚しているので、気持ちいい……ですよ」
駄目ですね。言ってて途中で恥ずかしさに負けそうになります。
「やっぱり男の人でも唇って柔らかいんだぁ……」
「先生、もっと具体的にどう気持ちいいの!」
谷本さんったら、こんな時にだけ先生って呼ぶんですから。
「その……大好きな人の唇が私の唇と触れているっていうのが嬉しくて、それで唇越しに相手が自分を好きだって気持ちを伝わってくるような、そんな感じがしますね。それにキスされたところが熱を持ったみたいに熱く感じられて、それが余計に興奮を誘って……それに深いキスだと自分の身体の中を全部旦那様に預けているようで、それで心が満たされるとともに、その……色々されちゃって……。旦那様に激しくされると意識が真っ白になっていって、まるで天国にいるみたいに気持ち良くなってしまって…もっともっと、って欲しくなっちゃうんです。まるで中毒みたいな感じで。それで気持ちよさのあまり一気に、その……『腰砕け』になっちゃったりしちゃうんです」
聞いていた谷本さんの顔が今までで一番真っ赤になってました。
私だって恥ずかしいんですから、そんなに恥ずかしがらないで下さいよ。
「そ、そうなんだ……織斑君ってそんなに凄いんだ………」
「それにキスの味ですけど、これも少し難しい感じです。レモンの味ではなかったですけど、何て言うんでしょうか? 心が甘いと感じるみたいな。本当は味なんてしないはずなんですけど、甘くてずっとしていたくなるような、そんな感じです」
私の言葉を聞いて相川さんは『キスって甘いんだ……』って呟いてました。
うぅ~、恥ずかしい。
自分で言っておいてここまで恥ずかしいなんて。
でも、旦那様と一緒だとあまり恥ずかしくないから不思議なんですよね。
きっとこれも、旦那様のことを愛しているからに違いないです。
こうして、この三人との珍しくない恋愛話は始まりました。
でも、これはまだ始まりに過ぎなかったんですよね。