何故か突然恋人が欲しいと言い出した会長。
聞けば理由は単純で俺と真耶さんを見ていて羨ましくなったからだそうだ。
そう言われては恥ずかしくなってしまうが、言い替えるとそれだけ俺と真耶さんの仲が良いということだ。
そう思うと、それはそれで嬉しく誇らしい。
そんな俺達の仲が羨ましい会長が恋人が欲しいから誰か紹介してくれと来たのだから驚きだ。
「えぇ~、何でよ! いいじゃない、それくらい!」
会長が頬を膨らませながらぶう垂れる。
一応は美少女なのでそんな顔でも可愛らしく見えるだろう。まぁ、俺にとってはただむくれている子供の顔にしか見えない。
「会長も一応は更識家のご令嬢でしょう? パーティーとかでご要望に適いそうな人なんていくらでもいそうですけど」
そのまま思ったことを伝える。
更識家は日本の対暗部用暗部の家柄だが、同時に旧家としての側面がある。
つまり会長は一応ご令嬢ということになるわけで、当然そう言った社交界なんかにも出ているはずなのだ。なら、そこの方がより容姿端麗な人がいるはずだ。俺に紹介してもらうようなことはしなくても良いはずである。
すると会長は嫌そうな顔をした。
「嫌よ、あんな所にいる人なんて! 大体私よりも一回り年上ばかりだし、皆顔色窺って媚びへつらって、……何よりも私じゃなくて、私の家柄しか見てないんだもの。私はそんな人となんて絶対に嫌!」
心底嫌そうにそういう会長。
どうやら本当に嫌らしく、その反応で華やかに見える社交界が黒々しい物にしか見えなくなってきた。俺は六波羅のパーティーにしか出たことがないからなぁ。
あそこはまぁ、茶々丸さんとか童心様の所為でぶっ飛んでるからあまり気にしたことはなかったが。
会長は俺達がそれ理解したと判断すると、改めて俺を見てきた。
「だ・か・ら、お願い、織斑君! 誰か紹介して下さい!」
手を前に合わせてお願いしてきた会長に俺は何とも言えない顔をしてしまう。
「旦那様……」
そんな俺を見て真耶さんが見つめてきた。
その視線には会長を助けてあげて下さい、という意思が込められている。
だが、それでも………
「会長……すみません、それでも無理です………」
俺にはこう言うしかないのだ。
それがお互いのためだから。
会長は少し怒った様子で俺に話しかける。
「こんなにお願いしてるのに何でよ~! 織斑君のケチ、イジワル、バカップル!」
「何で後半最後が可笑しいんですか!」
食い下がる会長に俺は正直に打ち明けるしかないのかぁ……と内心で溜息を吐く。
いや、俺だってそういう風に頑張る人のことは応援したい。だから弾の時も誘ったわけだし。
だが、今回に限ってはそういうわけにはいかない。
俺は意を決して会長に話すことにした。
「会長、別に俺は貴方にイジワルしているわけではないですよ」
「普段からいじめてるのに?」
「茶化さないで下さい。それで会長に紹介しない理由ですが、会長にはふさわしくない人しかいないからですよ」
これが最後の境界線だ。
これでもまだ紹介して貰いたいと言うのなら、話すしかない。
会長は少しだけ真面目な顔をして俺に答えた。
「それは私が決めることよ! だからお願い」
「…………はぁ、分かりました。俺が知っている人を何人か挙げていきますから、気になった人の時にはその人の名前を言って下さい。でも、始めに言っておきますが……後悔しても知りませんよ」
「うぅ……の、望むところよ」
俺の死んだ魚のような目にたじろぐ会長。
ここまで来た以上、もう引けはしない。会長には覚悟を決めて貰うとしようか。
「ではまず……俺の師匠である、湊斗 景明さん。御存知ですか?」
「ええ、何度かIS学園の何度か来てるから知ってはいるわ。決して恰好悪くはないんだけど、凄く暗い人よね」
師匠は何度かこの学園に来ているから知ってはいるだろう。
「別に師匠のことを紹介してもいいですけど……死ぬほど大変ですよ」
「それはどういうことよ?」
「まず、師匠は暗い人ですが……凄くモテます」
「え、そうなの!?」
会長が少し驚く。
別に驚くようなことではないと思うのだが。
「はい。真面目で礼節正しく、誰に対しても敬意を忘れない誠実な人ですから、惹かれる人も多いのですよ。ただ、その惹かれている人が………」
「何か問題でもあるの?」
「ええ、大問題です。師匠に紹介するということは、その前に立ちはだかる四人と競い合うということですから。村正さん、大鳥さん、綾弥さん、茶々丸さん。この師匠の事に関しては見境がなくなり、下手をすれば国家すら壊しかねない四人と張り合わないといけません」
「そ、そうなんだ……」
会長はそれを聞いてポカンとしてしまっていた。
まぁ、あの四人が揃えばここのアリーナだって余裕で破壊しそうだからなぁ。
「それも問題がもう一つ」
「まだあるの!」
「はい。師匠は……凄く助平でドSです」
「………はぁ?」
「そのままの意味ですよ。普段が誠実な所為なのか、あの人はことスケベなことになると真面目な顔でとんでもないことを言いますし、その時の顔は悪鬼そのもの。その上女性に関しての考え方は主従でどちらが上か分からせるという今では有り得ない思考ですから。もしも会長が師匠とくっついたら……言いたくはありませんが、もう……」
「その後はなんなの! 何で言葉を濁らせちゃったのよ! 凄く気になるじゃない」
ここからは言えない。
言ったら俺自身、ショックでへこみそうだから。
そんな会長の姿なんて………。
「そんなわけでぶっ飛んだ性癖を持ち、師匠が絡めば国家すら滅ぼしかねない四人を相手にしてまで会長は紹介してもらいたいですか?」
「いえ、それは……いいわ。流石にもうちょっと普通の人とかいないの?」
顔を青ざめる会長。
だから聞いて後悔するって言ったのに。
でも、まだ始まったばかり。これからもどんどん行きます。
「では次は……ウォルフラム・フォン・ジーバス。通称ウォルフ教授ですね。ドイツの有名な大学の先生ですよ。自分の好きなことにはとことんのめり込む性格ですね」
「確かに夢がありそうな感じだけど……また何かあるんでしょ」
会長は最初でもう予想がつくようになったらしく、げんなりした顔になっていた。
それに俺は笑顔で答える。
「ええ、先程言った大好きなことですが、『少女のパンツを脱がすこと』ですからね。あの人は人が何故パンツを穿くのかを本当に必死に考えている変人で少女を見ればパンツを脱がせたがる『変態』です。まぁ、会長はもう育ちすぎているので少女とは認識されないでしょうが……」
「そんな変態、こっちからゴメンよ!」
会長は教授の変態っぷりに半泣きで捲し立てる。
まぁ、一応紹介しておこうと思って言っただけだし、鼻から良い反応など期待していない。
「そうですね……・それでは次は……童心様でしょうかね」
「いや、それは結構よ! 前に会った六波羅の人でしょう。おじさんじゃないの! もっと若い人とかいないの!」
どうやらおじさんは好みじゃないと。
まぁ、会長の歳ならやっぱり同い年が良いのだろう。だが、歳が近い人間が俺の周りにはいない。
この際一気に言った方が良いか。
「会長………」
「何…」
「鋭い殺気を常に放っているお兄さんとナルシストで自分にしか興味がないお兄さん、それとナイトスコープのようなものを目にかけて表情がまったく見えない幼女趣味のおっさん、モテないことを僻んでいるおっさんに戦うことで強さの編纂をすること以外興味がないおっさん、どれが良いですか!」
「どれもこれも最悪じゃない!!」
最早泣き出してながら突っ込む会長。
俺が誰のことを言ったのかは内緒である。
会長はまるで打ち拉がれたかのようにショックを受けて床にへたり込んでいた。
可哀想な気がしなくはないが、それでも俺から紹介出来るのはそれぐらいなんです。
「だから会長、真面目に仕事しましょうか。こんなアホらしい話は終わりにして」
「………うん、そうする……」
若干幼児退行してしまっている会長はそのまま一人で自分の席に戻って黙々と仕事を始めた。
正直、聞く相手が悪かったとしか言いようが無い。
実際に俺の知り合いなんてそんな人しかいないしね。
すると真耶さんが心配した顔で話しかけてきた。
「でも旦那様。どうして御手洗さんのことは言わなかったんですか?」
俺と同い年の奴と言えば、弾と数馬の二人がいる。
弾は如月さんを紹介したので、数馬が残っているのに何故紹介しなかったのか?
それは………
「あいつ、確か胸の小さい子が好きなんですよ。だから会長は対象外だと思いまして」
「あ、そうなんですか……」
苦笑する真耶さんに俺も苦笑で返す。
会長の胸が小さかったら紹介できたんだけどなぁ……見事なものになってるので無理だ。
数馬、残念だったな。
友人のことを少し残念に思っていると、真耶さんが何やらイタズラをするような笑みを浮かべていた。
「そう言えば、旦那様の好みのタイプって聞いたことがないんですけど、どんな女性が好みなんですか?」
その質問に俺は仕方ないなぁと思いながら真耶さんを抱きしめた。
「俺の好みは、真耶さんみたいな人ですよ。て、言うよりも真耶さんが好みなんです。だからタイプも何もなく、俺は真耶さんが大好きなんです」
「そうですか。うふふふふ」
俺の腕に中で嬉しそうに笑う真耶さん。
そんな可愛らしい恋人こそが一番の好みと言えよう。
そう思いながら真耶さんを見つめていると、真耶さんも俺を見つめ返した。
「旦那様ぁ……だぁいすき……」
その心を溶かす甘い言葉を俺はキスで返すのだった。
こうして会長の恋愛相談は終わった。
会長には申し訳無いが、俺の人付き合いが特殊な物ばかりだから許して欲しい。