いきなり現れた茶々丸にこの場にいる全員が驚く。
((((誰、この人っ!?))))
しかし箒、セシリア、鈴は別の意味で驚く。
何せ一夏を足蹴にしながら親しそうに話かけているのだから・・・
(((いっちーって呼んだぁ!?)))
クラスメイトの布仏 本音が一夏のことをあだ名で呼んでいることは知っているが、それ以外には知らない。それでさえ三人には少し腹立たしく思っているのに、よりにもよって見知らぬ女性がいきなり想い人のことをあだ名で呼んでいるのだ。これほど衝撃的なことなどそうはない。
あまりの衝撃に固まっている三人を尻目に、一夏は話しかける。
「お久しぶりです、茶々丸さん」
「おう、おっひさ~、いっちー」
「さっそくですけど、顔から退いてもらえませんか。しゃべりずらい上に結構痛い」
「い・や」
「何でですかっ!?」
俺は至って普通のことを言ったはずなのに・・・・・・
「だってその方がいっちー嬉しいっしょ。あての生足をこんな間近で拝めるのはお兄さん以外は滅多にねえんだから、希少価値が高いんだよ?」
そう言ってたぶん、足を見せつけるようにしているのだが・・・
「顔をこんな風に踏まれてたら見えるものも見えませんよ。それに嬉しくもありません、そういうことは師匠にだけして下さい。というわけで早く退いて下さい、本当に」
「うぅ~、いっちーのいけず~。帰ったらお兄さんとお姫に言いつけてやる~」
「言ったってどうせ相手にされないのがオチじゃないですか。とくに師匠はあきれかえりますよ」
「まぁ、それもそうやね」
そう言って俺の顔から茶々丸さんが退く。
衝撃的な登場に固まっていた千冬姉と山田先生もやっとこの状況に意識が追いついたようで、さっそく茶々丸さんに話しかける。
「それで・・・貴様は一体誰なんだ?」
「何で織斑君のことを、いっちーなんて呼んでるんですか!?」
「おっと、これはご挨拶が遅れましたね~。あてはこういう者で~す」
茶々丸さんは懐から名刺のようなものを取り出して二人に渡す。
「ええ~何々、『コンクリートサバンナを駆け抜ける風 弾丸ライガー』?」
「そうで~す。あての名はコンクリートサバンナを駆け抜ける風、弾丸ライガーで「嘘言わないで下さい、茶々丸さん」あ~ん、いっちーのいけず~」
体をくねくねさせながら文句を言う茶々丸さん。そういうのは見苦しいからやめてもらいたい。そんなことばっかりしてるから師匠にあきれられたりするんだ。
「この人に任せるとロクなことにならないから俺が言います。この人の名は足利 茶々丸さん。俺が学んだ武術の師範代の友人で、こんなことばかりしてますが、ちゃんとした社会人です」
「いっちーはつまらないことしか言わないな~。駄目だぞ~そんなんじゃ。若いうちはもっとはっちゃけないと・・・てコレじゃあてが年寄りみたいになってる!?」
「アホなこと言ってないでちゃんとした名刺を渡して下さい」
突っ込みをいれると渋々ちゃんとした名刺を取り出し二人に渡した。
『六波羅財閥 堀越公方 足利 茶々丸』
名刺にはそう書かれていた。
「六波羅って・・・あの六波羅か?」
「ああ、そうだ。この人は『あの』六波羅の人だよ」
六波羅財閥。
その歴史は古く、祖は室町時代から続く商人の家系であり、古くから日本に根付いている財閥だ。
今の女尊男卑の風潮など一切関せず、実力さえあれば誰であっても上に上がれると言われている。ただし相当の実力がないとやっていけないとも・・・・・・
そして公方職。
本来とは違う意味だが、六波羅における大幹部を指している。六波羅は盟主とともに四人の公方によって運営されている。この人はその公方の一人、堀越公方だ。
しかしこれは表の話。
真の姿は秘密結社、六波羅といったところか。
別に秘密結社と名乗ってはいないが、日本の軍事、経済に多大な影響を与えるほどの組織で、数少ない劔冑を多く保有してる組織でもある。その気になれば日本を制圧することも出来るかもしれない。
それほどに巨大な組織だ。本当の祖は古くからあった日本の軍事組織で、幕府の転覆を謀ろうとしたとか・・・
何で俺がこんなことを知っているかだって?
何故かは知らないけど師匠が知ってたんだよ。昔何かあったらしい。
俺は表の姿の六波羅のことを二人に説明しながら茶々丸さんのことを説明する。
「つまりあてはえらいってことさ~」
そう言って胸を張る茶々丸さん。
「役職は偉いですけど、あまり調子付けないで下さい。すぐに調子づいて暴走するんですから」
「お前はあてのお母さんかぁ~!」
そう言って漫才のような掛け合いをしている俺達に二人はついて行けないようなのか、静観してしまっていた。
(まさか六波羅のお偉いさんだなんて・・・・・・)
(何故六波羅のそんな人間がここにいるんだ?)
そして少して、千冬姉が思い出したように聞く。
「それで、その六波羅の方が何の用でしょうか」
一応社会人だと分かったので敬語になっている千冬姉。公の企業の用件だと思って聞いているようだ。
しかし茶々丸さんはそれを聞いてにやりと人を食ったような笑顔を浮かべるとこう言った。
「あてはただ、遊びに来ただけさ」