2年に学年があがったことで色々と自身を取り巻く環境も変わっていくもの。
だからといって俺がすべきことは変わらず、今日も今日とて刀を振るう。
そんな日々の中、突如それはマドカが言い始めたことだった。
「兄さん、出来れば次の休みに………スコール達に会いに行こうと思うんだ」
いつも甘えているマドカが珍しく真剣な表情で鍛錬後の俺に言ってきた。
最近ではすっかり忘れていたが、こいつも元は亡国機業の人間だ。それなりに付き合いのあったあの二人が今どうしているのか気になったのだろう。
「それで出来れば……兄さん達に一緒に着いてきてもらいたいんだ」
マドカは少し震える手で俺の服の裾を握って見つめてきた。
その目は若干の怯えが含まれており、たぶん怖いのだろう。
「駄目か?」
俺の沈黙を不可だと思ったのか、目に涙を溜め始めたマドカ。
そんなマドカが突如横から衝撃を受けた。
「勿論いいですよ! ね、旦那様!」
「ふみゅっ」
俺が答える前に、マドカを抱きしめた真耶さんによってそれまでの雰囲気が和らいだ。
そのまま真耶さんはマドカを優しく撫でながら優しく笑いかける。
「大丈夫ですよ。ちゃんと私達も一緒にいきますから。だって私はマドカちゃんのお義姉さんですから。義妹のお願いを聞かないなんて義姉さんはいませんよ」
「みゅ~~、あ、ありがとう、真耶義姉さん!」
真耶さんに優しく言われ、マドカは嬉しそうに返事を返した。
その微笑ましい光景を見ながら俺もマドカに笑顔で答えることにした。
「ああ、勿論だよ。俺達も一緒に行くから安心してくれ」
「うん!」
真耶さんの胸の中で多少……結構苦しそうしながらもマドカは笑顔で頷いた。
その約束をしてから数日後の休日。
俺と真耶さん、マドカの三人は刑務所へ向かっていた。
その日に合わせ、各機関などに連絡をいれて許可を取るのに多少手間取ったが何とかなった。
ちゃんと看守の人達にチェックして貰えば食べ物の差し入れもOKということだったので何か持って行った方が良いと思ったのだが、何とそれを聞いたマドカが自分でクッキーを焼くと言い出してきた。
「ちゃんと今の私のことを知って貰いたいんだ。だから、頑張って作る!」
との事らしい。
それに俺は同意し、マドカは真耶さんの手伝いの元に一緒にクッキーを焼いてきた。
真耶さんもマドカと一緒にクッキーを焼けたことをとても喜んでいた。
「こういうのも憧れてたんですよ、妹と一緒にお菓子を作るの。私は一人っ子でしたからね。で、でも……一番憧れて多のはお嫁さんですけど……それはもう成れましたし……」
頬を赤く染めながら上目使いに俺を見つめる真耶さん可愛くて、俺は嬉しさのあまりに抱きしめてしまったのは言うまでもない。ちなみにその後にキスもしてしまったが……。ああいう風に女の子の夢に憧れる真耶さんは本当に可愛くて………
こ、こほん。ま、まぁそんなわけで二人が焼いてきたクッキーを片手に刑務所に行くため特別なバスに乗っている。
俺の隣では真耶さんが座っており、マドカは真耶さんの膝に座っていた。
最近、本当に思うのだがマドカは俺と同い年なんだろうか? 何故か身長が低くなっているような気がするし、言動がもっと幼くなっている。
まぁ、今まで甘えられなかった分の反動なのだろうが。
「兄さん、真耶義姉さん。あの二人は喜んでくれるかな」
マドカが無邪気な笑顔で俺達に聞く。
それを受けた俺達は安心させるように笑顔で答えた。
「ええ、きっと喜んでもらえますよ」
「ああ、マドカが一生懸命作ったんだ。嬉しいと思うぞ」
マドカは俺達の言葉を聞くと頬を赤く染めながら喜ぶ。
「そ、そっか~……えへへ」
その笑顔を見た瞬間、真耶さんがマドカをギュっと抱きしめた。
「マドカちゃん、可愛い~です~!」
「むぷっ!? 真耶義姉さん、苦しい」
「だってマドカちゃんが可愛くて仕方ないんですもの。ぎゅ~」
「く、くすぐったい」
そのままじゃれ合う二人を見ていると心が和むが、少しだけ寂しさも覚える。
俺もたまにはこんな風に真耶さんと一緒に触れあいたいものだ。(超無自覚)
そんな光景をずっと見ていたと思うが、流石に車内で騒ぐのはまずい。なのでそろそろ二人を落ち着けさせようと思ったのだが、周りを見ると微笑ましいものを見る目で見つめられていた。
二人のじゃれ合いは親子か姉妹のじゃれ合いのように見えるので微笑ましいのだ。
ただし……二人が美人で可愛いからじゃれているのを邪な目で見る者達と、マドカの頭や身体で思いっきり形を変えている真耶さんの大きな胸を見て鼻の下を伸ばしている者達には容赦はしないが。
俺はその視線を向けてきた者達に殺気を思いっきり込めて睨み付ける。
「「「「「「っっっっっっっっっっっっっっっっっっ!?!?」」」」」
そういったいやらしい視線を向けてきた者達が皆俺の殺気で顔を青く染めて目をそらしていく。
中にはそのまま白目を剝いて気絶した者達もいたが、気にしない。
そんな微笑ましくも寒気を感じさせる空気の中、俺達は刑務所へと向かっていった。
そして刑務所について看守の人に話を通し、面会室で待つこと数分。
アクリル板の向こうから囚人服を着た二人の女性が出てきた。
囚人服を着た金髪の女性と茶髪の女性の二人組である。
全身を覆う囚人服を着ているというのに、豊満な身体が窺える。監視している看守が若干見とれていることがわかった。
本当は一人にしか面会は許されていないのだが、亡国機業絡みということで特別に二人一緒に来てもらったのだ。
金髪の女性は俺を見ると、ゆっくりと笑みを浮かべる。
「あら、お久しぶりね。世界一有名な武者さん」
金髪の女性……亡国機業のスコールが俺にそう言うと、今にも飛び出さんばかりに怒りで顔を真っ赤に染め上げている茶髪の女性……亡国機業のオータムが俺に吠えた。
「手前ぇ、織斑 一夏っ!! 一体何しに来やがった!」
「ひゃうっ!?」
その剣幕に真耶さんが怯え俺の背中に回ってくっつく。怖がらせないように真耶さんの手を優しく握ってあげると、真耶さんも優しく握り返してくれた。
俺を信頼して見つめてくれることに頬が緩んでしまう。
その様子を見ていた看守がオータムを止めようとするが、それを俺は手を使って押さえた。
「今回来たのは、お前達に会いたがってる人の付き添いだよ。別に俺に用は無いからそこまで怒るな」
「何? 会いたがってる奴だってぇ?」
少しだけ怒りを抑えたオータムが辺りを見回すが、見えないらしく顔を歪める。
そんな二人に向かってマドカはピョンピョンと跳ねながら挨拶した。
背が低くて面接室のアクリル板まで飛ばないと顔が届かないようだ。
「久しぶりだな、二人とも! 元気だったか」
やっと会いに来た人物……マドカを見た二人は凄い怪訝そうな顔をして、お互いに顔を見合わせていた。
「ねぇ、織斑 一夏」
「何だ?」
スコールに話しかけられ、俺はそれに応じることにする。
「さっきの女の子は誰かしら? 私の目がおかしくなってなければ明らかにおかしいものが見えたのだけれど?」
「おかしいも何もそのままだ」
そう答えると共に、マドカがズイッと身を乗り出してスコールに笑顔を向けて言った。
「何言ってるんだ、スコール? 私は『M』だぞ」
そう純真な笑みで答えたマドカを見て、二人は驚愕に目を見開き……
「えぇえええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!」
オータムの驚きの叫びが面接室に響き渡った。