これまで真耶さんと一杯デートして楽しい日々を過ごしてきた。
だが…………
この日だけはそうではなかった。
この日、学園が休みなのを利用して俺と真耶さんはとある場所にデートしに行く予定だった。
その場所とは………動物園である。
デートで一度は行きたいと思うスポットであり、俺自身小さいころから行ったことがないのでとても楽しみにしていた。真耶さんも楽しみにしており、見てるだけで分かるくらいウキウキしていた。
俺の頭の中では触れ合いコーナーの兎を可愛がって抱きしめる真耶さんの姿が想像出来る。
とても可愛らしくて愛くるしい姿で、兎よりもっと可愛いなぁ~と頬が緩んでしまう。
朝から二人で精一杯お弁当を作って一緒に手を繋ぎながら動物園に行った。
動物園についたら、まずは動物の観察から始めようと思って動物の檻を見たのだが………
何故か何もいない。
「あれ? どうしたんでしょうね」
隣で腕を絡ませながら繋いでいる真耶さんが可愛らしく首を傾げて不思議そうにしていた。
そんな姿が小動物みたいに可愛らしいと思いながら俺もよく檻を見る。
するとよく見ると、巣穴やねぐらの方にいるようだ。
きっと今回は運悪く寝ている時間なのだろうと思った。
だが、その考えはその後否定された。
その後も一緒の檻を回っていくのだが、動物が見えることは無かった。
周りの人に聞いてみたら、さっきまでは普通にいたらしい。どうやら少し前に突如として奥に引っ込んでしまったんだとか。
何かあったんだろうか? そう思い猿の檻を見たら、木の上で全員身を寄せ合って固まっていた。
やっとそれらしいものが見えたが、何やら様子がおかしい。
皆何かに怯えているような気がする。
「一体何があったんでしょうね」
猿の様子を見て真耶さんが心配そうに猿を見つめる。
その様子は本当に心配しているようだった。
そしてこの後も何とか動物を見ることは何とか出来たが、皆様子がおかしかった。
そして何故こうなったのかを、俺はその身を持って思い知らされることになった。
一緒にそれでも動物を見ていると、かなり前方の方から男性が凄い剣幕で此方に走ってきた。
「ライオンが逃げたぞぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお! 逃げろ、みんなぁああああああああああああああああああ!!」
その声を聞いて周りにいたお客さんも慌てて出口へと走り始めた。
そして先程の男性が言った通り、すぐに此方に向かって五頭のライオンが走ってきた。
「旦那様っ!?」
それを見た真耶さんは怖さのあまり、俺の腕を力一杯ぎゅっと抱きしめる。
その柔らかい感触は気持ちいいが、今はそれどころではない。
俺は真耶さんを抱きしめながら急いで離れようとしたが、さすがは百獣の王と言ったところか。
自分一人なら逃げ切れるが、真耶さんを抱えたままとなると難しい。
そう思い向かってくるライオンに相対するように睨み付けた。
そうしたら、ライオンは急に止まり………
五頭とも腹を上に向けて横になった。
それも只遊んでいるとかでなく、やけに震えて腕を上に上げて皆同じポーズをしていた。
それは所謂、野生動物の降伏のポーズだった。
何でいきなりこんなことをし始めたのだろうと思い一歩近づくと、その分震えが激しくなった。
「一体何が………」
真耶さんも事態が飲み込めずにライオンを不思議そうに見つめることしか出来ない。
そしてさらにライオンの向こうから一匹の虎が此方に向かって突進してきた。
俺は真耶さんを助けようと前に出て、虎に殺気を送ったら………
「ぐるぁああああああああああああああああああああああああああああ!!」
虎は急に方向転換して反対側へと走っていった。
その唸り声には、かなりの恐怖が感じられた。
そして気付かされた。
動物が何故表に出てこないのかと。
それは………皆俺の無意識に放つ殺気と、動物の嗅覚だからこそ分かる血の臭い、そして野生の第六感による危険の探知で恐怖していたからだ。
つまり動物が出ないのは俺のせいなのである。
そのことにがっくりと膝をついたら、真耶さんが一生懸命励ましてくれた。
「だ、大丈夫ですよ。私は旦那様のこと、大好きですから、ね」
その声で何とか持ち直し触れ合いコーナーにも行ったが、俺が兎を触れるということはなかった。
皆恐怖して逃げていき、時には震えて気絶する者もいた。
この日の動物園で唯一よかった事と言えば、俺がかなり離れた所で真耶さんが無邪気な笑顔で兎と触れあっている姿が見れたことだろう。
そして俺は意気消沈のまま学園の寮へと帰ってきた。
まさか楽しみにしていた動物園がこんなことになるなんて思わなかった。
正直………兎とか触りたかったのに。
無理に触ったら心臓が止まったらしく、動物園の人が急いで動物病院に連れて行ってしまい俺は触れ合いコーナーで出禁を喰らう始末。
そんな傷心している中、突如携帯が鳴り始めた。
見ると相手は真耶さんであった。たぶん今日のことを気にして電話してくれたのだろう。
「もしもし」
『あ、旦那様。あ、あの、もし良かったらこれから私の部屋に来てもらえませんか?』
何故か少し緊張した声が聞こえてきた。それでも、こうして気にしてくれることが嬉しい。
だから俺は素直に感謝を言い、真耶さんの部屋へと向かった。
そして部屋についた途端に電話がなり、出るとやはり真耶さんだった。
「今着きましたよ」
『はい。ではどうぞ、入って下さい』
その声と共に扉に手をかけると、鍵は開いていた。
そのまま部屋にはいると………
目の前に兎がいた。
訂正しよう。
気が動転したあまりに可笑しな事を言ってしまった。
俺の目の前には、凄い露出の激しいバニースーツを着た真耶さんが立っていた。
真っ黒いレザー生地でかなり胸が強調されもの凄い深い谷間を作っている。編み目タイツがその御御足を艶っぽく感じさせ、きゅっとしたお尻に着いた兎の尻尾が余計にお尻の存在感を醸し出す。
真耶さん自身は顔を恥ずかしさでリンゴ以上に真っ赤にしながらも俺に笑いかけていた。ご丁寧にウサミミも付けている。
俺が見た限り、今までで一番可愛い兎がそこにはいた。
「あ、あの…これは……」
何とか言葉を振り絞ってそう聞くと、真耶さんは凄く恥ずかしそうにしながらも答えてくれた。
「あ、あの! 旦那様、今日の動物園をとても楽しみにしてたのに、あんなことになってしまって……。特に触れ合いコーナーではとても悲しそうでした。だから……」
そう言うと、俺を見つめて笑顔で言った。
「わ、私が兎になって……旦那様と触れ合おうって思って……」
そして今まで一番顔を真っ赤にし、瞳を潤ませながら消え入りそうな声で俺に言う。
「う、兎は寂しいと死んじゃうんだぴょん。だ、だから、触れあって欲しいぴょん」
そう言って俺に抱きついてきた。
これで俺の理性がほぼ崩壊したのは言うまでもないだろう。
この後、全力で触れあった。
この日、たぶん俺は世界一可愛い兎と触れあったと思う。
そう思えば、決して悪い日では無かった。
そう思った。