『ド甘』
でお送りさせていただきます。
春の麗らかな日差しの中、俺は今アリーナのピットに来ていた。
別にこれから戦うと言う訳ではない。だが、それでも俺にとっては自分が戦うよりも大切なことがあるのだ。
この日は日曜日、学園は休みである。
だが、それは学生だけの話であって教員の方々は休みではない。
実はこの日、IS学園の教員の実力査定の日なのである。
やることは単純で、言わば教員の方々によるISでの試合なのだが。
その大会には当然真耶さんも参加するので、俺は応援しようとピットに来たのだった。
他の教員の方々がISスーツで試合の準備をしている中、俺はラファール・リヴァイヴの調整をしている真耶さんの所へと向かった。
「調子はどうですか、真耶さん」
「あ、旦那様!」
声をかけた俺に気付き、真耶さんは花が咲いたかのような笑顔で俺に振り向く。
その幼いながらも大人としてのしっとりとした魅力のある笑顔を向けられ、俺の心は弾んだ。
いつ見ても愛くるしい真耶さんに俺はいつもクラクラしてしまう。
「どうしてここに?」
「どうしても何も、真耶さんが試合するんですから応援に来たんですよ。いつも俺が応援されてばかりですから、こういう時じゃないと真耶さんを応援する機会がないですからね。今日は精一杯応援させて貰います」
実際に生徒である俺が戦う行事は様々とあるが、教員である真耶さんを応援出来る行事はあまりない。体育祭の教員参加リレーくらいな物だろうか。
なのでこの行事で俺は今まで応援して貰った分、真耶さんを応援しようと思う。
まぁ、大好きな真耶さんの応援がしたいと思うのは当然のことなのだが。
「旦那様………ありがとうございます」
真耶さんは俺を熱の籠もった瞳で感動しながら見つめる。
それが嬉しくて俺も笑顔で返す。
「あ、でも無茶はしないで下さいね。怪我とかしないか心配で心配で……」
俺は自分の胸中を真耶さんに打ち明ける。
確かに頑張って欲しいけど、無茶をして怪我とかはして欲しくない。誰だって恋人に怪我何てして欲しくないのは当たり前だ。
それを聞いた真耶さんは何故かクスクスと笑い始めてしまった。
「ま、真耶さん?」
「それが私が今まで感じていた気持ちですよ。旦那様が心配で心配でしかたなかったんですからね」
言われて少し反省してしまう。
分かってはいたが、それでも心配させていたことが心苦しく罪悪感が湧いてしまう。
それが表情に出てたのか、真耶さんは穏やかな笑顔を俺に向けて俺の手を取る。
「でも、やっぱりそんなふうに心配してもらえるのは嬉しいです。大好きな旦那様に一番心配してもらえるって考えると、何だか旦那様を独り占めしてるみたいで………」
「真耶さん…………そう言われると確かにそうですね。でも、一つだけ間違いがありますよ」
「間違い……ですか?」
不思議そう首を傾げる真耶さん。
その様子が可愛くて俺はクスっと笑ってしまう。
「俺は真耶さんが一番大切で一番愛してますから。真耶さんのことを一番に考えてるんですから、独り占めなのは当たり前ですよ。一番愛する人が恋人のことを一番に想ってるんですからね」
そう言われた真耶さんは顔を感動で真っ赤にしながら喜ぶ。
「旦那様ぁ…ありがとうございます! 私も旦那様ことが一番大切で愛してます! それこそ、旦那様よりももっともぉ~~~とです!」
そう言って真耶さんは俺にぎゅっと抱きしめてきた。
ISスーツ越しに伝わる体の柔らかさにドキドキとしてしまうが、一番愛してる大切な恋人に大切だと言われた嬉しさの方が上だったので心は穏やかであった。
俺も抱きしめ返すと、真耶さんは顔を赤らめながらも微笑み返した。
腕の中にすっぽりと収まる恋人が愛おしくて堪らない。
それを少しでも伝えたくて俺は少し力を込めて抱きしめると、真耶さんは嬉しそうに体を俺に預ける。
大きな胸が俺の体に押し潰され、その感触にドキドキと胸が高鳴る。こういうのは何度受けても慣れることはない。
た、たぶんもうちょっと恋人としての『先』へ行けば慣れるのかもしれないが、今の年齢で進む気はない。それはまだ早いと思うので………
「旦那様?」
それが顔に出てたのか真耶さんが俺の顔を少し心配すて覗き込む。その際に体を少し反らすので、もっと胸が押しつけられてしまった。その押しつけられ潰された巨乳が目に入りさらに鼓動に拍車がかかる。メガネ越しに見えるつぶらな瞳が俺を捕らえて放さず、俺も目が離せない。
改めて見ても………綺麗な瞳だ。見ていて吸い込まれそうな錯覚に陥りそうになる。
「どうしたんですか、そんなジッと見て? どこか変なところでも」
「いえ、ただ改めて思ってたんですよ。真耶さんは綺麗だなって。こんな綺麗な人が恋人だって思うと幸せで仕方なくて」
素直にそう伝えたら、途端に顔を真っ赤にして恥ずかしそうにする真耶さん。
「ぁ、ぁぅ~~~~~。旦那様ったらそういうことを平然と言うんですから~~~。そう言うところも格好良くて大好きなんですけどね。それに旦那様だってとても格好いいです」
恥じらう真耶さんが可愛くて俺は笑顔で頷く。それでさらに真っ赤になる真耶さんは本当に可愛い。
こんな人が自分の恋人であることが堪らなく嬉しくて、俺は改めて自分が果報者であることを自覚させられた。
そのまま二人で話ながら調整を手伝っていると、そろそろ真耶さんの出番が近づいてきた。
「それじゃあ、俺はそろそろ観客席に行きますね」
「はい、ありがとうございました。旦那様の御蔭で精一杯頑張れます!」
そう言って両手を胸の前に持っていって軽く握った手でぐっとする真耶さん。そんな一生懸命頑張ると意思表示する真耶さん。その可愛らしい姿に微笑む。
そんなふうに微笑んでいると、真耶さんが俺に近づいてきた。
そのまま上目使いで俺を見つめる。
「あ、あの、旦那様……ちょっとだけお願いをしてもいいですか?」
「どうしたんですか?」
「その……頑張るためにおまじないをかけて欲しいんです」
「おまじない?」
そう俺に言う真耶さんは潤んだ瞳で俺を見つめる。
その事に少し考え、そしてすぐに分かった。
それは俺が結構真耶さんにして貰っていることだったので、それを求めてくれることが正直嬉しい。
「はい、分かりました」
俺は笑顔で返事を返すと、緊張で震えている真耶さんの体を包み込むように抱きしめる。
「んぅ…」
抱きしめられた真耶さんからそんな色っぽい声が漏れた。
その声だけで興奮度合いが上がってしまう。胸がバクンバクンと鳴るのを感じるが、寧ろ心地よい。
俺はそのまま真耶さんの顔を見つめながら顔を近づける。
「真耶さん……」
「旦那様……」
そして真耶さんの唇に自分の唇を合わせた。
いつもの二人で想いを伝え合うような激しいキスではない。
ただ唇を合わせるだけのキス。しかし、それだけでも瑞々しくとろけるような程甘い感触が唇に伝わり気持ちいい。
しばらく唇をあわせ、そしてゆっくりと離す。
真耶さんは息苦しいこともあってか顔を真っ赤にしていたが、幸せそうなとろける笑顔をしていた。
「やっぱりこうしてもらえると安心できます」
真耶さんは顔を赤くしたまま俺に笑いかける。その艶っぽい笑顔に鼓動が早まる。
「これでもう大丈夫ですか」
そう聞くと、真耶さんは少し考えた後に俺をまた熱の籠もった潤んだ瞳で見つめてきた。
「あ、あの…もうちょっとわがまま言っていいですか?」
「ええ、いいですよ。むしろもっと言って欲しいくらいですから」
「は、はい。で、でしたら………」
真耶さんは少し言い淀み、そして顔をトマトのように真っ赤にさせながら俺を抱きしめながら言った。
「もっと頑張れるように…ご褒美が欲しいです」
「ご褒美…ですか」
「はい…」
何が欲しいのか分からないが、それでもこんな一生懸命にお願いしているのだから恋人として断ることは絶対に有り得ない。
「分かりました。俺は真耶さんのお願いだったら叶えられる限り全部応えますよ。だから……頑張って下さい」
「はい!」
ぱぁっと明るい表情で力強く真耶さんが返事を返す。
ここまで意気込むなんて相当の事だろう。だからこそ、それに挑む手助けが出来た事が嬉しい。
だからこそ、俺はもう一押ししたくなってしまった。頑張ろうとする真耶さんに少しでもエールを送りたくて。
「そろそろ俺は行きます。だから怪我をしないように頑張って下さいね」
そう真耶さんに言うと、体を離す前にマシュマロのように柔らかそうな頬にキスを素早くした。
「ひゃう! も、もう、旦那様ったら……が、頑張ってきます」
その事に驚きつつも嬉しそうにする真耶さんに微笑みながらピットを後にし、俺は試合を観戦しようと観覧席へと向かった。
「旦那様……私、頑張ります!」
真耶が一夏の背を見ながら試合に向けて熱意を高めているなか、周りにいた教員達は皆考えていることは一緒であった。
(((((こ、これが恋人がいる人の会話か……甘過ぎる!!)))))
二人の甘い雰囲気に当てられた周りの教員達の顔はげっそりとなっていた。
真耶さんの試合を応援するために観覧席に座ると、隣にマドカと生徒会の人達が座り始めた。
「兄さん、真耶義姉さんの調子はどうだった?」
「ああ、調子は万全だと思うよ。真耶さん、とても張り切ってた」
無邪気な笑顔で聞いてきたマドカに笑顔で答える。
「そんこと言って~、どうせ織斑君が『真耶さんが頑張れるようにおまじないをしますね』とか言って山ちゃん先生にキスしたんじゃないの」
会長が俺にそう言ってからかおうとする。
存外に鋭いが、それを肯定すると調子にのるので反撃することにした。
「会長、そう言えばそろそろクラス代表戦でしたよね。それの書類がまだ自分の所に来ていないのですが、それはどうしましたか? 真逆…やらずにこっちにサボりに来たというわけじゃ……ありませんよね?」
そう言って会長に笑顔を向ける。
それは圧力を持って会長に降りかかり、会長は顔を少し青くしながらそっぽを向いた。
俺がこの笑みに込めたことを理解したからだろう。
曰く……黙ってなさい、と。
「あ、そろそろ試合が始まる」
更識さんが前を見ながらそう言ってきたのを聞いて、俺もマドカと一緒にアリーナを見た。
するとアリーナに向かって発信する真耶さんが見えてきた。
対戦相手は榊原先生のようだ。
真耶さんは勢いをゆっくりと落ち着かせると体勢を整え、アリーナを見回すと俺の方を向き笑顔で手を振ってきた。百パーセント俺を探していたのだろう。
それを見てむふふと笑う会長。
「愛されてるわね」
ニヤついた笑顔でそう言う会長。
それを受けて俺は笑顔で返した。
「ええ。俺だって世界で一番真耶さんのことを愛してますから」
「あ、そう……」
からかおうとしたのが素直に答えられてしまい、逆に顔を真っ赤にする会長。
だからあまり人をからかう物ではないと学んで貰いたい。
俺は気付かなかったが、更識さんとマドカも聞いていたようで顔を真っ赤にしていた。
それを気にせずに俺は真耶さんを応援しようとアリーナに目を向けた。
私はISを装着してカタパルトを使ってアリーナに向かって発進しました。
日差しのまぶしさに目を少し細めながら辺りを見回すと、さっそく旦那様を見つけました。
私は嬉しくて手を旦那様に振ると、旦那様も手を振ってくれました。
それが応援して私を見てくれている証明のように感じられて嬉しくなっちゃいます。
「山田先生、随分と嬉しそうね」
「はい! だって頑張れば……旦那様からご褒美がもらえますから…」
言っていて恥ずかしくなってきちゃいますけど、だって嬉しいんですもの。旦那様、どんなことをしてくれるのかなぁ。あ、私からお願いしてもいいんですよね。だったっら……ちょっとエッチなことをお願いしてもいい……ですよね。
キャーーーーーーーーーーーーーーー! ちょっとはしたないですよ、私。
で、でも、たまには恋人同士なんですからそういう触れ合いもがあってもいいかも。
旦那様は真面目だから渋るけど、やっぱり男の子なんだし。さっき私のISスーツ姿を見て顔を真っ赤にして目を少し逸らしていたみたいですから、やっぱり興味はあるんですよね。さ、最近大鳥さんからも『山田様の体は随分とエッチですのね。これなら織斑さんもたまらないのではありませんの? たまにはこちらからぐいぐいと行きませんと!』て言われましたし。私自身…その、もっと大胆に触って欲しいですし…………む、胸とか、お尻とか……ぁぅ…考えたら体が熱くなってきちゃいました。旦那様に触って欲しい………
て、だから何試合前にに考えてるんですか、私は!!
うぅ~、旦那様のことを考えると最近エッチなことばかり考えてしまうような気がしますよ~。
そんなふうに考えて顔を熱くしていたら、榊原先生の顔に青筋が浮かび上がっていた。
「山田先生は随分と幸せそうね………妬ましいくらい!」
「え? あの、榊原先生?」
私、何か榊原先生に失礼なことをしてしまったのでしょうか?
そんなことはないと思うのですが。
「良く聞いて、山田先生…いや、真耶。恋人がいない私の前でその明らかに恋する乙女のような反応を見せるとはいい度胸ね! それは……私達、恋人がいない者達への当てつけかぁあああああああああああああああああああああああああああああ!!」
「キャァ!!」
榊原先生はかなり怖い形相で私を睨み付けてきました。
こ、怖いです。
それと共に試合開始のブザーが鳴り響きました。
「リア充に死をぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
そう叫ぶとともに、榊原先生が近接ブレードを展開して私へと迫ってきました。
凄い怖い顔ですけど、でも…
「私だって負けません! 勝って旦那様にご褒美を貰うんですから!!」
向かってくる榊原先生にアサルトライフル『ガルム』と回転式グレネードを展開して迎え撃ちます。
確かに今の榊原先生は凄く怖いですけど、絶対に負けません!
こうして、私は旦那様の応援を受けて試合に挑んで行きました。
今回は甘くしてお気に入りが減っても気にしません!
だって山田先生が可愛いから!!(意味不明)