久しぶりのコーヒー用意!
二年生に上がったところで俺が何か変わると言うことはなく、周りもそこまで変わることもない。
体も本調子に戻り、今では鍛錬も毎日行っている。
毎日を真耶さんと一緒に幸せに過ごす日々。
楽しくて嬉しいが、偶に厄災に見舞われることも多々ある。それでも真耶さんと一緒なら、どんなことも乗り越えられると信じている。
そんな日々の一時の事である。
その日は春にしては少し暑い日であった。
日曜日ということで久々に真耶さんと一緒に出かけることになった。
目的地は織斑家であり、向かう理由は家の清掃のためである。
住まなくなった家というのは痛み易い。なのでこまめな清掃を必要とするのだ。
こんなことに真耶さんを手伝わせるなんてと思ったのだが、それを言ったら真耶さんは顔を恥ずかしそうに赤らめながら俺を見つめてこう言った。
「そんなことないですよ。だって……もうあのお家は私のお家でもあるんですから」
それを聞いた俺は無意識に胸を押さえてしまった。
もし、この時の感触を言葉で表すのなら『きゅん』だろう。
所謂『お嫁さん発言』。
真耶さんは顔を真っ赤にして恥じらっている。それがまるで新妻のように見えて可愛くて、俺はさらに胸をときめかせてしまう。
こんなに可愛い恋人にそんな嬉し恥ずかしいことを言われて断れるほど、俺は冷徹ではない。
寧ろ、
「私にもっと手伝わせて下さい。旦那様のことを少しでも手伝いたいんです。そ、それが…妻の勤めですから………」
と、トマトよりも顔を真っ赤にしてお願いされてしまった。
その恥じらいながらも上目使いにお願いする姿の破壊力は絶大で、その魅力に俺は撃ち抜かれる。
(うぁっ……か、可愛過ぎる……)
そんな世界で一番愛している人からのお願いを、俺は喜んで聞き入れるのであった。
そして日曜日になり、俺と真耶さんは織斑家へと帰っていた。
「何だか少し懐かしい感じがしますね」
真耶さんが俺の隣で腕を絡めるように繋ぎながら懐かしむかのような声を上げる。
「と言っても、ついこの間の春休みまでここにいたんでそこまで懐かしくはないと思いますよ」
「そんなことないですよ。旦那様のお家での生活は毎日嬉しくて楽しくて……凄く幸せで。とても濃い時間を過ごしたと思いますから。だから少しでも離れると懐かしく思っちゃうんですよ」
「そうですか。何だか嬉しくなりますね」
「そうなんです。だって……ここは私達のお家でもあるんですから」
顔を赤らめながらそう言う真耶さんがあまりにも可愛くて愛おしくて、その想いが胸で一杯になる。それを少しでも伝えたくて、俺はその場で真耶さんの肩を抱きしめ真耶さんを見つめながら顔を近づける。
「旦那様?」
不思議そうな顔を俺に向ける真耶さん。
俺はそんな表情も可愛いと思いながら瑞々しく美味しそうな唇に自分の唇を重ねた。
「ちゅっ…」
「っ!?」
そのまま少し押し当てるように唇を重ねた後、名残惜しさを感じながら唇を離す。
真耶さんの顔は真っ赤になってトロンとした表情になっていた。
「ぁ、ぁぅ~~~~~…いきなりなんてずるいですよ……」
「すみません。あまりにも可愛くて仕方なかったものですから」
「旦那様って時々イジワルですよね。急にキスしたりするんですから……ずるいです」
「すみません」
「で、でも……凄く嬉しいです……」
そう謝ると真耶さんは顔を真っ赤にしたまま別にいいですと言って許してくれた。
それは良かったのだが……
「で、出来ればもっと……キス…して下さい」
とその場でおねだりされてしまった。
艶っぽい顔でそう言われたらしたくなるのが男だが、流石にこの場ではきつい。しかもこのおねだりというのは、かなり深い方のキスだろう。最近の真耶さんはそうおねだりするときは大体そうである。もしくは、それこそ唇を合わせるだけのキスだが、その密度と回数が凄いことに。
どちらにしろ気持ち良すぎて頭が真っ白になるのは確実である。
掃除の前にそれはまずいと思うのだが……
「お願いします……」
「…………」
上気し潤んだ瞳で上目使いにお願いされて駄目と言えるような精神は俺にはなかった。
そのまま真耶さんの肩を抱きながら家の中に入り、そのままキスを一杯したのは言うまでもない。
ちなみに、この後は真耶さんが腰砕けになるまでキスが続いた。
頭をまた真っ白にしつつ、早速掃除を開始することにした。
本来なら効率を考えて別々に掃除を行った方が良いのだが、俺は真耶さんと一緒に掃除をしている。
何故なら……一緒にいたいからである。
別に時間が押しているわけではないのだから問題はないと思う。ちなみに正宗には庭掃除をやって貰っている。
正宗曰く……
『別に夫婦ならば問題無かろう……ふん…』
とのこと。
何か少し拗ねているというか、呆れ返っていないだろうか?
まぁいいか。そんなわけで一緒に部屋を掃除しているわけだが、これがまた気が気ではなかったりした。
「うんしょ、うんしょ…」
と天井に吊してある電気を椅子の上に立ってハタキをかける真耶さん。
その時にミニスカートから下着がちらちらと見えてしまう。
真っ白い色でレースの飾りづけがされている、何だか大人の魅力に溢れた下着であった。
それのせいで思いっきり気が散って集中出来ない。
それだけでもきついのに、ぞうきんがけをしている時はお尻を突き出して拭いていくため、その下着が顕わになってしまう上に真耶さんのきゅっとしていながらもむっちりとしたお尻が強調されて揺れ動いているので無意識に目が追ってしまう。しかも後ろでそれなのに、前からだと巨大な胸が強調されて、それが揺れ動くのが見えてしまうのだ。
もはや視界の暴力。俺は鼻の中が熱くなって仕方ない。
それでついに絶えられなくなり、そのことを真耶さんに伝えた。
そうしたら……
「そ、その……似合ってますか…その……下着……お、大鳥さんからいただいたカタログを見て頑張って冒険してみたんですけど……」
どうやら見せていたらしい。
恥じらいながらも艶のある顔で俺を見つめる真耶さんは妖艶で、俺は息が止まってしまうんじゃないかと思うくらいドキドキしてしまった。
「そ、その……かなり扇情的で……とても似合ってます…」
「そ、そうですか…良かった……そ、それで……上も見ます?」
「い、いやそれは流石に刺激が強すぎで…」
何やら妖しい雰囲気になってきたので慌てて断ると、その際に床に置いていたぞうきんを踏んづけてしまい、その場でこけてしまった。
倒れた先は真耶さんの胸であり、顔面が巨大なマシュマロに包まれたかのような錯覚を引き起こした。
「きゃ! 旦那様、大丈夫ですか」
「は、はい、何とか」
酔いしれそうな程に柔らかい感触に離れたくないと本能が訴えるが、それを理性で無理矢理に律する。そして急いで離れようとするが……
「旦那様…しばらくこのままでお願いします」
そう言って俺の頭を抱きかかえる真耶さん。
ぎゅっと抱きしめられ圧迫する胸の感触に俺は心臓の鼓動がバクンバクンとなって仕方ない。
視線を動かして真耶さんを見ると、真耶さんは真っ赤に顔をしつつも、どこか穏やかな、それでいて妖艶な笑みを浮かべていた。
「もう! 旦那様ったら可愛いんですから~~~~~~!!」
そう言うなり、俺を更に抱きしめる真耶さん。
シルクよりも滑らかすべすべしていて、低反発枕以上に指が沈み込むくらいに柔らかい。なのに弾力があってずっと触っていたくなる感触。それに真耶さんの甘い香りも合わさってまさに天国のような状態に俺の頭は真っ白になった。
そして掃除を終えて家で夕飯を食べることに。
そのために材料を買いに近くの商店街へ行った。
「お、一夏のボンじゃねぇか。どうした、その別嬪さん? もしかしてお前のコレか?」
「あははは……はい、俺の恋人です」
「そうかいそうかい! こいつはいいなぁ。ほれ、こいつはおまけだ、持ってきな!」
と八百屋で冷やかされ、
「あら、一夏君じゃない。もしかしてこれがあの『奥さん』? あらあら綺麗で可愛らしい子ね~。そんな可愛い子がお嫁さんで一夏君は幸せねぇ~。これ、よかったら持って行きなさい。幸せなお二人に」
肉屋で応援されたりした。
それ以外にも彼方此方の店から冷やかされたり応援されたりした。
最初は恥ずかしがっていた真耶さんだったが、後半になっていくと恥ずかしさ以上に嬉しさが競り勝ったようで俺の体に抱きついて、
「はい! この人が私の旦那様です」
と周りに見せつけるかのように喜んでいた。
恥ずかしかったが、それ以上に嬉しかったので俺もそれに頷き、さらに商店街の人達に冷やかされてしまった。しかし……やはり嬉しい。
そして夕飯を作るのだが……いつもより作る速度が遅い。
何故なら………
「旦那様、ここはどういうふうにすればいいんですか?」
「ここはですね…こんな感じに」
と俺は真耶さんに教えながら手を動かすと、真耶さんの手も一緒に動き食材を切っていく。
「旦那様に抱きしめられながらお料理するのって……なんかいいですね…新婚さんみたい…きゃ!」
俺の息が届くくらい間近なところで真耶さんが恍惚とした表情を浮かべる。
そう、俺は真耶さんを後ろから抱きしめるようにくっつき、その両手に自分の両手を重ね合わせて料理を作っているのだ。まるで操り人形か二人羽織のようである。
こんなやりづらいことでも全く苦にならない。流石にどうかとも思ったのだが、旦那様にもっと教えて貰いたいんです、としなだれかかられてお願いされてしまった。これで墜ちない男はいないだろう。
現に俺はこのやりづらい状況でありながら、胸が幸せで一杯であった。たまに真耶さんの大きな胸に手が当たってしまうこともあったりした。
そんな時は、
「旦那様のエッチ……で、でも旦那様が触りたいのなら、いくらでも……」
と恥じらいながらも見つめられ甘く囁かれてしまった。
俺がドキドキして仕方ないのは、どうしようも無い。
そんな感じに夕飯作り食べ終え、俺達はIS学園へと帰ることになった。
その帰り道を真耶さんと二人、寄り添って帰る。
「旦那様ぁ…」
真耶さんは俺に体を預け甘える。
春の夜はまだ肌寒いと言うこともあって、真耶さんの体が温かかった。
それはきっと向こうも同じなのだろう。
「何だか今日一日、新婚さんみたいで嬉しかったです」
「それは……俺も一緒ですよ。そう遠くない先にこんな幸せが毎日あるんだと思うと、嬉しくて仕方ないです」
「そ、そうですか……そんなに言ってもらえるなんて……嬉しいです」
お互いに未来に思いを馳せながら歩いて行く。
そして真耶さんはいつもの様に潤んだ瞳で俺を見つめ、キスを俺にして言うのであった。
「これからもずっと一緒にいましょうね、旦那様」
「はい、勿論です。嫌だって言っても絶対に離しませんよ」
「はい! 旦那様、だぁ~~~~~~~~~~~~いすき」
こうして、俺はまた幸せを感じながら共に帰路につくのであった。