装甲正義!織斑 一夏   作:nasigorenn

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何でこの人、本当にIS学園に来てるんだろう?


もしも一夏が別の劔冑を使ったら。 その45

 更識 簪のISも無事に完成。その後の姉妹の仲違いも無事に修復した。

結果だけみれば確かに良い事だけにしか見えない。

だが、過程を見ればあまりに強引過ぎる。

通常では何年かかるか分からない程の工程作業を僅か三日足らずで全て終え、姉妹の三年以上ある確執を、自分の興味のついでに修復させた。

そのような神がかった事を成しても尚、その男は喜びはしない。

ただ男は、己がために編纂するだけなのだから。

 

 

 

 タッグマッチトーナメント当日になり、専用機持ちは皆は各自アリーナに集められていた。

この行事はここ最近学園が襲撃されることが多いことから、より自衛力に磨きをかけるために急遽企画されたもの故に専用機持ちのみの物となっている。

だからなのか、手の空いている通常生徒の人達は観客席で皆の試合を見ようと集まっていた。

IS学園の生徒によって埋まる観客席。その賑わいはこれから始まるであろう試合の本来の趣旨からは少し外れ、お祭り騒ぎの体を成している。

そのような皆の視線が集まる中、トーナメント開催の挨拶をするべく、壇上に生徒会長である更識 楯無が上がった。

彼女特有の親近感の沸く砕けた調子の挨拶だが、それでも周りの皆の士気は上がる。

その燃え上がる闘志を見て楯無は笑みを浮かべる。

その中でも特に彼女の目を惹くのが、愛妹である簪だ。

簪は皆の意気の揚がり具合に少しい驚きつつも、仲直りした姉の格好良い姿に頬を赤らめている。

身内びいきと言われるかも知れないが、そのあまりの可愛らしさに楯無の胸は打たれ、皆に聞こえるような声でさらに宣言する。

 

「あ、そうそう。今回のトーナメント戦、私も妹の簪ちゃんと一緒に参加するから。最強で最高の仲の良い姉妹の力、皆に見せつけてあげるわ! だから簪ちゃん、お姉ちゃんと一緒に頑張ろう!」

「お、お姉ちゃん………恥ずかしい………」

 

楯無の言葉を聞いて笑いが起き、そして簪に注目が集まる。

簪は皆からの注目を浴びせられ、また姉が言った言葉の所為で恥ずかしさのあまり顔を真っ赤にしていた。

そんな胸が温まる中、管制室では三人の人間がその様子を見ていた。

 

「まったく、アイツは何をしているんだ」

 

楯無の行動を呆れ返った様子で文句を洩らす千冬。

 

「あ、あはははははははは……」

 

そんな千冬にどう答えて良いか分からずに苦笑する真耶。

そして……二人の後ろで壁にもたれ掛かり、何かを思案するかのような顔をしている一夏。

ISを使わず劔冑を使う一夏はこの試合に出ない。否、出ては成らない。

この化け物にペアなど必要無いのだから。

それ故に、一夏は管制室で留守番ということになっている。

正直、千冬と真耶はそれを意識したくないため、気まずくてしょうがない。

方や、一体どんな事になれば弟がこうも変わってしまったのか、どう対応してよいのかわからない千冬。

もう方や、現代の常識を真っ向から破壊する存在に生徒とは言えどう接して良いのか分からない真耶。

二人ともどう接して良いのか分からない存在を手に余らせつつ、取りあえず仕事をすることにする。

そして楯無の開会宣言も終わった所で、早速選手達にトーナメント表が発表された。

表示されたホロウィンドウに表示された対戦相手を見て一喜一憂する生徒達。

その様子を見つつ、千冬と真耶は試合に付いての予想などを他愛のない会話をしていく。

そんな中、一夏だけは違った。

壁から離れると、ゆっくりとした動作で管制室の窓まで歩く。そして窓に手を着けた状態で、千冬と真耶に声をかけた。

 

「汝等、客が来たぞ」

 

その言葉に一瞬意味が理解出来なかった二人。

だが、その答えは直ぐに分かることとなった。

その直後、けたたましい警報音がアリーナ中に鳴り響いた。

それは侵入者を知らせる音。そしてその姿を学園のカメラが捕らえると共に、誤報では無いことを知らせる。

真耶はその事実を理解すると共に、千冬に大きな声で報告する。

 

「織斑先生、襲撃です!」

「何っ!?」

 

そして千冬も表示されたモニターに映る襲撃者の姿を見て、直ぐに察した。

その姿形が前回襲撃を仕掛けてきたISと酷似していることを。つまり、前回の敵の発展機であることに気付いた。

千冬は事態の重さを判断し、真耶に情報を集め報告するよう指示を出し、それに従い真耶は千冬に報告を行う。

襲撃者は五機。

前回のことから今回も無人機であることが察せられる。

そして今回の襲撃者はそれぞれバラバラに動き、専用機持ちを襲い始めた。

その事態に千冬は鋭く指示を出していく。

 

「専用機持ちはペアで防戦を行うよう指示を。教師は一般生徒の避難、戦闘教員は襲撃者を専用機持ちが押さえているウチに突入、一気に鎮圧させろ!」

「はい!」

 

その指示を出すべく、真耶は各自と連絡を取り合おうと動く。

そんな二人を見て、一夏は二人に聞こえるようにぽつりと言う。

 

「ふむ……少しは試せそうか? なら……少々遊ぼうか」

「何を言っている、織斑?」

「お、織斑君?」

 

実年齢からは考えられないような程の重みのある言葉に二人が一夏を見る。

そして一夏は、そんな二人など気にせずに管制室の窓に手を置き、少しばかり力を込める。

結果……管制室の窓ガラスは一気に砕け散った。

その事実に二人の目が丸くなる。

この管制室は緊急時における司令室の役割も兼ねている。当然その防御力も高く、並大抵の攻撃ではビクともしない。

窓ガラスも通常の物ではなく、超高密度の対衝撃ガラスだ。ISの火器でも早々割ることなど出来ない。

それを、たった一人の人間が素手で、まるで扉を軽く押すかのように気軽に力を込めただけで粉砕したのだ。

最早人の業では無い。

有り得ないことが現実に目の前で起こり、二人の思考は停止しかける。

そんな二人を気にせず、一夏は堂々とした様子で割れた窓に足をかけ始めた。

そして二人に静かに、しかしはっきりと聞こえるようにこう言った。

 

「邪魔をするでない」

 

たったそれだけの言葉を残して、一夏は管制室の窓から飛び降りた。

 

 

 

 その戦いは専用機持ちにとって、あまりにも過酷だった。

大体の者達が戦ったことの無い、無人機。人が乗っていない故に有人以上の速さで動き、人の限界域を超える動作を見せつける。

それだけでも厄介だというのに、その装甲はあまりにも堅く丈夫で此方の攻撃を通さず、尚且つ機体を守るように浮いている球状のユニットが強固な防御シールドを発生させている。

圧倒的な火力、俊敏な機動性、強固な防御能力。

三つそろって凄まじいというのに、何よりも厄介なのがISのシールドバリアに干渉するエネルギーを放出し、バリアを無効化されてしまうという特殊な能力。

ISが近代兵器の中でも郡を抜いているのは、機動性とその圧倒的な防御能力だ。

それを無効化されてしまっては、防御の薄い速いだけの物に成り下がる。

つまり、この襲撃者達は『対IS用IS』なのだ。

ISを倒すことを念頭に置いた存在。言わば、ISの天敵とも言える。

そう、天敵だ。自分とは真逆の、まさに自分を窮地へと追いやる存在。

故に専用機持ちは誰もが苦戦を強いられていた。

シールドバリアを無効化されるが故に掠っただけでも傷を負う。

どんなに攻撃しても躱され、当たっても防がれ、直撃しようとも損傷する気配がまるで無い。

その全てが肉体と精神を追い込んでいく。

今まであった有利が覆される。自分達の命が危険に晒されているという実感が彼女達の心を占め、そして恐怖に足が竦んでいく。

箒が、セシリアが、鈴が、シャルロットが、ラウラが、皆がその事実に心が焦らされる。

二人一組で一機と相対するが、それでも不利は覆せない。

すり減っていく精神、恐怖に染まりつつある表情。

圧倒的絶望に飲み込まれかけながらも、少女達は戦う。

そんな決死な戦いを行う鈴とセシリアの前に、一夏はまるで散歩をするかのように現れた。

 

「ふむ……まず一機か」

 

どっしりとした落ち着きのある声。

この場ではあまりにも似合わない声に、必死になっていた鈴とセシリアは叫びそうになる。

一体何しに来たと。

当然だ。今、この場は本当に命が危険に晒される戦場。

いくら一夏が凄いとはいえ、切羽詰まっている二人の頭は単純にそんなことしか考えられなかった。

だが、よく考えれば分かったはずだ。

目の前の存在は、過去、素手でISを倒しているということに。

攻撃の手を緩めたのを好機と見たのか、それま鈴とセシリアを襲っていた無人機は反転し、無防備を晒している一夏に向かって腕に装着されている大型ブレードで斬り掛かってきた。

 

「危ない!」

「避けてッ!!」

 

鈴とセシリアから悲痛な叫びが上がるが、それを聞いて無人機が止まるわけが無い。っまた、聞こえたところで一夏は動かない。

目の前で起こるであろう光景を目に浮かべるなり、それを見たくないと二人は目を覆う。

そして二人の前で巻き起こる轟音と砂塵。

その結果に二人の顔は青ざめる。

だが、いつまでもそうしている訳にはいかない。ゆっくりと、直視したくないと心底思いながらも戦うために手を目から退かす。

そして。二人の視線が捕らえたのは、二人の予想を真っ向から裏切る光景であった。

砂煙が晴れ、視界がはっきりとして行く中、立っていたのは一人。

それは一夏であった。

その身は一切の怪我無く、赤い染みも一つとしてない。

そしてその足下には巨大なクレーターが広がり、中心部分には先程一夏に斬り掛かった無人機が起き上がろうと身体を動かしていた。

その光景を見て、まるで信じられないようなものを見た顔をする二人。

そんな二人に一夏は目を向けて、まるで呆れ返ったような声をかける。

 

「何をそんなに呆けておる」

 

その言葉に、二人は返事を答えられない。

何が起こったのか、二人には分からないから。

そして起き上がった無人機も再度、一夏に斬り掛かった。

二人が気付かない程の速さで出された攻撃、それを二人が気付き一夏に叫ぶ前に、一夏は動いた。

振るわれたブレードの付いている腕を掴むと、その力を受け流し投げ、無人機を豪快に地面に叩き着けた。

その様子に二人は口をあんぐりと開けてしまう。

そんな二人に説明するかのように、一夏は話し始める。

 

「別に驚くような事など何もない。これはただの術理。合気の術理の基本にして根本に過ぎぬ。相手の力を利用し投げる。ただそれだけのことよ」

 

つまらなさそうにそう言う一夏だが、鈴とセシリアはそれどころではない。

確かに一夏が言っていることはわからなくはない。日本の武術にはそういったものがあることも知っている。だからといって、それを生身でIS相手にやるなど、最早人外でしかない。

人の力はどう足掻いたってISには適わないというのに。

それを余裕で適ってしまうのが武者という人種なのだろうか。

そう二人は思ってしまうがそれは違う。ただ、この男が規格外過ぎるだけなのだ。

そこから始まったのは、先程苦戦を強いられていた者から見れば、悪夢にしか見えない光景だった。

起き上がっては斬り掛かる無人機を悉く涼しい顔で投げて地面に叩き着ける一夏。

距離を取ろうとしてもがっちりと捕まれた腕のせいで無人機は離れられず、斬り掛かれば叩き着けられ、至近距離でレーザーを打ち込もうとすれば、今度は一夏自身の力で投げられ叩き着けられる。

生身対Isと言う明らかに不利な状況を全く者ともせずに、一夏は淡々と叩き続けていた。

その衝撃だけでも機体が壊れ始め、無人機は段々とボロボロになっていく。

そしてある程度無人機を痛めつけた一夏は、そのまま遠くのアリーナの壁まで無人機を投げ飛ばし、壁に激突させた。

 

「ふむ……前よりも見所が多く編纂のためになりそうなものだ。だが、今はゆっくりとは見れそうにない。仕方ない、壊した残骸でも見れるだけマシか。それに……せっかくだ、付き合って貰おう」

 

そう言うなり両手を広げ、そして誓約の口上を述べる。

 

『千日の稽古を劔とし 万日の稽古を冑とす 以て此れ我がツルギなり』

 

突如空間から現れた鎧が弾け飛び、そして一夏へと装甲されていく。

そして現れた武者に凜とセシリアは目を奪われた。

雄々しい姿はまさに英雄か魔王か、その立ち姿は堂々としていた。

一夏の姿に反応してか、無人機は再び動き出す。

その様子を見た一夏は、ニヤリと笑みを浮かべた。まるで子供が買った玩具であそぶかのように、大人が悪どいことを考えているかのように。

 

「では……やってみるか」

 

その言葉と共に、一夏の背の装甲の部分が突如として持ち上がる。

いつもならそこから飛び出すのは、高速徹甲弾だが、今回はそうではなかった。

 

「え…………?」

 

セシリアの口から自然と声が漏れた。

何故なら、一夏が出したものが信じられなかったから。

それは、色は違えど確かに………。

 

セシリアの持つ物と同じ形状をしたBT兵器だから。

 

そう一夏の背から飛び出し一夏の周りを浮いているのは、確かにセシリアと同じブルーティアーズ。

それが12機。

それを見た一夏は満足そうに頷くと、無人機に向かって指を指した。

 

「ゆけ」

 

その指示に従って独自に動き出すティアーズ。

しかも数はセシリアの約二倍、その全てが無人機に向かって襲い掛かっていった。

特殊な防御フィールドを張れるとはいえ、一部のみ。それ以外の死角をとことん責め、無人機は一夏のティアーズによって蹂躙されていく。

 

「前にそこの娘の機体のデータを見たのでな。試しに作ってみた」

 

ちょっと試してみよう。

そんな程度の心で一夏はセシリアを遙かに凌駕した数を操ってみせる。

彼の劔冑の陰義は術理吸収 。故に、その仕組みを理解し構造が分かれば、この世の全てを再現できる代物だ。だからこそ、一夏はIS学園に来てから編纂してきたものを試してみたのだ。

 

「そ、そんな………12機も……」

「いや、それどころかアレってISの武装じゃ……」

 

目の前で起こっていることに驚愕している二人。

だが、それで終わる一夏では無い。

ある程度やったら飽きたのかティアーズの攻撃を止めさせる一夏。ティアーズはそのまま一夏の元に戻ると崩れ落ち消滅した。

そして今度は軽く右手を前に突き出す一夏。

その拳は当然無人機には届かない。それを分かった上で一夏は無人機に告げる。

 

「これで壊れてくれるなよ」

 

そして、その右手から巨大な見えないナニカが発射された。

発射された物はそのまま無人機を飲み込み崩壊させ、そしてアリーナの壁も崩壊させる。

その光景に鈴は信じられないと言葉を洩らす。

 

「嘘、あれ………もしかして衝撃砲? でも、そんな大きすぎるのなんて……」

 

そう、一夏が右手を突き出したのは、そこに見えない砲を作り出していたため。

この男は、鈴の衝撃砲の術理も吸収していたのだ。

その成果を見た一夏は残念そうに少し肩を落とす。

 

「ふむ……まだ加減が聞かぬ。せっかく見ようとしていたのに、壊してしまった。ISは脆くて困る」

 

そう言うなり一夏は劔冑を解除。

そして次の『標本』に向かって歩き始めた。

その散歩にいくかのような歩みを見て、それまで苦戦を強いられていた鈴達は崩れ落ちた。

 

 

 

 尚、その後も一夏の試しは続き、ラウラとシャルロットの所に来ていた無人機もAICを発生させるなどして破壊していった一夏であった。

 

 

 




まさに魔王です……。

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