俺がやってしまったことに周りが騒がしいことになり、千冬姉が一喝して鎮め今日の予定を伝える。
「今日は二組と合同でISの訓練を行う! すぐに着替えて第二グラウンドに集合! 遅れた者は鉄拳制裁だ、分かったか。わかったならばとっとと急げ!」
その一声にクラス全員が急いで教室出ようとする。
俺だって叱られたくはないので急ごうとするが、千冬姉に呼び止められた。
「待て織斑、デュノアの面倒を見てやれ! 同じ男子だろう」
「はい、わかりました」
言われてから気付いたが、同じ男子の方が気心しれて良いだろう。俺にそのお鉢が回ってくることは当然のことだ。気付かなかったことに反省しないと・・・・・・
「君が織斑君だよね? よろしく、僕は・・・」
本当ならちゃんと挨拶したいところだが、生憎時間がない。後で改めて挨拶することにしよう。
「悪いな、時間はあまりないから挨拶は後だ。今は急ぐぞ」
俺はもたもたしているデュノアの手を取って引っ張る。
(ッッッ柔らかい!? コイツ本当に男か?)
握った手の柔らかさと肌のなめらかさに驚く。
セシリアと手を握ったときと似たような感触がすることに、本来ならドギマギするべきなのだが、俺はさらにコイツに懐疑の目を向ける。本当に男なのか疑ってみたほうがいいかもしれない。
「お、織斑君、どうしてこんなに急ぐの?」
「ああ、男子はアリーナの更衣室で着替えるから、ここからだと時間がかかるんだよ」
大体をかみ砕いて事情を説明する。
説明し終えるとデュノアは何故か不思議そうに聞いてきた。
「急いでるのはわかったけど、それじゃなんですぐ廊下に行かないの?」
「ああ、それはな、こっちの方が近道で『時間を食わずに安全』にいけるからだよ」
俺はそう答えて窓に向かってデュノアを連れて行く。
俺もこの学園に来て少しは学んだのだ・・・・・・女子の独自ネットワークについて。
たぶんもうデュノアのことはこの学園中に知れ渡ってしまっている。
廊下にでたらそれは・・・魑魅魍魎が跋扈しているようになっているに違いない。捕まったら確実に授業に遅れ叱られる。面倒を見ろと言われた側からこれでは、目も当てられない。
転校してきて早々に鉄拳制裁をデュノアに味あわせてしまうようなことは避けなければならない。そんなトラウマになりそうなものを刻ませてしまうのはかわいそうだ。
俺は窓を開けて叫ぶ。
「来い、正宗!!」
すると壁を登ってきたのか正宗が窓から現れ教室に入ってくる。デュノアは正宗の姿を見てぎょっと驚いているようだ。
『どうした、御堂よ』
「正宗、俺達を乗せろ」
『はぁ? 何をいっているのだ、御堂』
「言った通りだ。俺達を乗せて第二グラウンドまで走れ」
『断る!! 何度も言うようだが、我は正義を成す劔冑! そのようなことをするためのものでは無い!! この愚か者め、それでもこの正宗の仕手か!』
「つまり乗せる気は無いと?」
『当然だ、何を馬鹿なことを言っているのやら』
普通に考えれば当たり前のことなのだが、俺だって遅刻はしたくない。手段を選んでいられるほど余裕ではないのだ。
俺はにやりと笑って正宗を煽る。
「つまりお前は村正さんに劣っているということだな」
『どういうことだ、御堂?』
かかってきたかかってきた。
コイツは師匠の劔冑である村正さんに敵愾心と妙なライバル意識を持っている。
妖甲と破邪の聖甲では相反するものだから当たり前と言えば当たり前なのだが・・・・・・
「師匠から昔聞いたが、村正さんは師匠を背に乗っけてバイクを追っかけたことがあるらしい。村正さんに出来てお前に出来ないってことは、お前が劣っている・・・そう見られてもおかしくは無い」
本当はそんなことで優劣が決まるものではないのだが、コイツは村正さんにすぐ突っかかるからな。そう言う点では御しやすい。
『何だと! あのような悪しき妖甲ごときに出来て我に出来ないことなど在るわけなかろうが!! 良かろう、御堂、早く背に乗れい!』
「ああ、ありがとう。後で機械工学の本を買ってやるよ」
『その約束、忘れるでないぞ』
そう言って俺達に背を向けて構える正宗。
「大丈夫みたいだから行くぞ、デュノア」
デュノアに話しかけるが、全くついて行けないのか困惑していた。
いきなりこんなのと話始めたら誰でも困惑するかも? 最近はみんな慣れてきたからすっかり忘れてた。
しかし説明している時間も無い。
「仕方ない。しっかり捕まっていろ」
「え? えぇえええええええええええええええええええっ!?」
固まっているデュノアをひょい、と体の前持ち上げる・・・・・・よく言うお姫様だっこ。
デュノアは騒いでいるが、気に留める気もない。別におんぶでも良いのだが、俺はこっちの方が運びやすいのだ。
周りから黄色い声が上がってきたが、これも気にすることでも無い。
俺は正宗の背に乗ると行くよう指示を出す。
『では行くぞ、御堂! しっかり捕まっていろ』
正宗はさっそく窓から飛び出す。
ちなみにここは校舎三階、つまり・・・・・・落下する。
「きゃぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」
デュノアは男にあるまじき叫び声を上げていた。
やっぱり男っぽくないな、コイツ。余計疑わしいぞ。
そして着地。
あたりに爆砕音が轟く
人間二人分と劔冑の重量、それによって地面が打ち砕かれた。
着地後には立派なクレーターが出来てしまった。後で埋めておかないと千冬姉に怒られるな。
正宗は着地後にバイク並みの速度で走り始める。振り落とされないようにするのに苦労した。
そして俺は正宗に乗って第二グラウンドに向かった。
後日談だが、この日以降、学園では一夏のことを
『天牛虫に乗った王子様』
などというよく分からないあだ名のようなものが付けられたとか・・・・・・