装甲正義!織斑 一夏   作:nasigorenn

314 / 374
今回の被害者は山田先生です。


もしも一夏が別の劔冑を使ったら。 その31

 キャノンボールファストに向けて少女達は決意を胸に抱きながら過ごしていく。

行事が近いとあって授業にもそれに伴い、行事を優先するような授業内容になっていった。

 

「今日は高速機動についての授業を行いますよ~」

 

第六アリーナで甘い優しげな声が響き渡る。

声を発したのは一年一組の副担任である山田 真耶だ。

本日、一組ではキャノンボールファストに向けて高速機動の動作についての授業と実習を行うためにこの第六アリーナに出向いていた。

ISは通常でも早いのだが、専用のパッケージや追加ブースターを使うことで途轍もない速度での飛行が可能となる。音速までの速さを出すこれがISの高速機動だ。

この速度を活かした妨害ありのレースというのがキャノンボールファスト。

ISの競技において有名な物の一つである。

本来はその速さ故に広大な空間がなければ訓練など出来た物ではないのだが、そこはIS専用の教育機関。一組が今いる第六アリーナは中央タワーと繋がっていて、高速機動の実習が出来る様になっているのだ。

流石はIS学園と言うべきか、伊達に国民の血税で運営しているだけはある。

皆真耶の声を聞いて期待に胸を膨らませていた。

高速機動については授業で習いはしたが、実際に行うのは今回が初めて。

操作自体は変わらないが、通常時と感覚が違うということが実際にどうなのか? ある意味そういった物は経験してみなければわからないというものである。

そんな初めての経験に期待で胸を膨らませる一組の生徒の面々達。

だが、そこから少し離れた所で一夏は静かに立っていた。

本来ならば生徒である彼は一緒に座っていなければならない。

だが、一夏はそれを良しとはしなかった。

彼は『執事』だから。主は勿論、客人の前でみっともない姿を晒すことなどできないのだ。執事とは、常に一歩引いた場所から主を助けるもの。格が一つ下の人間が上の人間と同席して良いわけがないのである。

この場合、クラスメイト達と教員の方々を上の立場、つまり一夏からすれば主の次に重要な『客人』であり、仕えている『執事』である自分は同席し同じような行動をするわけにはいかないのだ。

まぁ、実際はそれ以外にもあり、一夏がこの授業を受ける必要がないというのもある。

一夏がIS学園に出向いたのは戦闘のためでありレースのためではない。さらに言えば、劔冑は高速機動が出来ないのが普通だからである………偶に例外が存在するが。

そんな訳で一夏は少し離れた位置で立ちながら授業を聞いていた。勿論、執事服で。

真耶は一夏にも聞こえるような大きな声で授業について話していく。

その際、身振りを大きく動くことでわかりやすく解説しているのだろうが、生徒からはすればご自慢? の巨大な胸をゆさゆさと揺らしまくっているようにしか見えない。

 

「まずは高機動パッケージ『ストライク・ガンナー』を装着したオルコットさん」

 

真耶に呼ばれ立ち上がるセシリア。

その姿はいつもと変わらずに気品に満ちていたが、一々ポーズをとるのは如何な物かと思わせる。

ストライク・ガンナーはセシリアの専用機『ブルーティアーズ』用の高機動パッケージだ。セシリアは専用機持ちとして既に本国で200時間以上の訓練を積んでいるため、安心して実演させることが出来る。

 

「次に、出力調整だけで高速機動が出来る篠ノ之さん」

 

次に呼ばれたのは箒である。

この夏、ISの産みの親であり実姉である篠ノ之 束から贈られた『第四世代型IS 紅椿』はその題目通り、第四世代型。つまり『換装を必要とせず、いかなる状況でも対応出来る』をコンセプトに製作された高性能万能機である。

そのため、専用に開発された『展開装甲』の出力を調整するだけで高速機動が出来るという優れ物なのだ。

 

「この二人に今から中央タワーの周りを一周してもらいましょう!」

 

真耶の言葉に二人は頷くと、スタート地点までお互い顔を合わせたまま歩き始める。

 

「箒さん、掛かっていらっしゃい。まぁ、初めての高速機動だから寧ろ教えてさしあげますわ」

「それは有り難い。是非ともご教授願おうか。だが……負ける気はないがな」

 

互いに火花を散らせる二人。

確かに二人は同じ専用機を持つライバルである。だが、それ以上に同じ異性を好いた恋敵なのである。

箒は一夏と小学生の頃から付き合いのある幼馴染みである。

出会った当初は仲良くなかったのだが、虐められていた所を助けられて以降少しずつ態度が軟化した……と言うよりも、そのまま助けられて好きになっちゃったといった感じの子供特有の恋心を抱いたのだ。子供だから仕方ないとは言え、それでもこう言わずにはいられない。

 

チョロいと。

 

二人とも一夏に良いところを見せたいと張り切り、負けまいと闘志を燃やしながらISを展開する。

その場に現れた蒼と紅の二機は、ほぼ同時上空へと飛び出していく。

その速度に生徒からは驚きの歓声が上がっていた。

二機はそのまま上空で競い合い始める。

それに皆が目を奪われている間に、真耶は一夏の方に向かって歩く。

そして着いた所で一夏の顔を窺うかのように話しかけた。

 

「織斑君、授業で分からないところはありませんか?」

 

窺うと言ったが、実際は上目使いで見上げる様になっている状態である。

そのため、その巨乳が深い谷間を作り一夏の前に主張されるようになっていた。

それを気付かない真耶は思春期の男子にとって猛毒にしかなり得ないだろう。

別に狙ってやっているわけではない。彼女はただ、精一杯教師として頑張っているだけなのだから。

対して一夏はいつもと変わらない笑顔で真耶に答える。

 

「いえ、問題はありません。いつも通り、真耶お嬢様の授業はわかりやすく、頭の悪い私でも理解出来て助かっております」

「そ、そんな、お嬢様だなんて………」

 

一夏にお嬢様と呼ばれ顔を赤くして恥じらう真耶。

執事からお嬢様を呼ばれる経験など早々ないので、歳のことを気にしても嬉しくなってしまうのが女性というものである。

対して一夏は答えはしないが内心思う。

このお嬢様というのは『いかなる女性』でもそう呼ばなくてはならないと。確かに妙齢の女性にはそう呼ばないが、年若い女性にはそう言うしかないのだ。

詰まるところ、相手がとんでもなく豚のように太った不細工な女性だろうとしても、歳若ければ『お嬢様』なのである。

その事に気付かずにいられる真耶は幸せ者だろう。

一夏に褒められ嬉しそうに喜んでいる真耶に対し、一夏は少しだけ笑みを深めて口を開いた。

 

「ただ一つ、難点がございまして」

「え、問題があったんですか!?」

 

指摘され驚く真耶。

その反応を楽しんでいるのか、一夏は笑いながらそれを言った。

 

「はい。実は………」

「実は……」

「真耶お嬢様のお見事としか言いようがないバストがたわわに揺れて、目線の向け所に困ってしまいます」

「えぇええええええっ!? む、胸ですか!」

 

一夏に指摘され、自分の揺れる胸を見て途端に胸を両腕でぎゅっと押さえる真耶。

本人は隠しているつもりなんだろうが、傍から見れば更に胸の谷間を巨大さを強調しているようにしか見えない。その顔はさっきとは違う羞恥で真っ赤になっている。

 

「せ、先生にそんな視線を向けちゃいけませんよ、織斑君! で、でも、男の子としてはやっぱりこういうのって……」

 

恥じらいながら大人として注意するも、女として見られていることに喜んでしまう真耶。その様子は男なら誰しもが赤面しそうなものだが、一夏は相変わらずの笑顔であった。

 

「大変魅力的ではございますが、私は胸サイズは気にしないのでお引き取り下さい」

「速攻で避けられました~!」

 

一夏のスルーに流石に涙目で反応する真耶。

別に一夏の事を異性として慕っているわけでは今の所ないのだが、こうも無反応だと色々と女性としてのプライドがへし折れてしまう。そこまで自分は魅力が無いのかと。

 

「えっと……織斑君って、女性に興味は………」

 

一夏に少し緊張した様子で話しかける真耶はあることが心配になってきた。

こうも平然とされると、逆に一夏に『そっちの気』があるのではないかと。

その質問の意図を察しているであろう一夏はニヤリと深い笑みを浮かべた。

 

「どっちだとお思いますか? まぁ、私としては友人と会いたいですがね」

「っ!? それってつまり!」

 

一夏が男なのだから友人と言えば当然男。そしてこんな会話の最中でそんな言葉が出るということは、真耶の予感が的中したとしか思えない。

真耶は今まで以上に顔を真っ赤にして、一夏と見知らぬ男が『そういうこと』をしている情景を妄想してしまう。

それを確かめるべく、恥ずかしがりながら一夏に話しかけた。

 

「お、織斑君ってつまり、そういう趣味……」

 

対して一夏は今までとは違う、まるでゴミを見るような目で真耶を見ていた。

 

「そのようなわけないでわありませんか。私は至って普通です。一体何を妄想なされていたのですか、真耶お嬢様は? まったくもってはしたない……」

「えっ!? もしかして私、からかわれた!」

 

一夏にからかわれたことに気付き、あまりの酷さに叫ぶ真耶。

対して一夏は先程のからかっていた顔から一転して面白そうに笑っていた。

その光景を見ていた生徒達は同じ事を思っていた。

 

(((((((また織斑君がからかって遊んでる)))))))))

 

それがこの一組のいつもの光景。

一夏によって持ち上げられからかわれる被害者の数々には同情を禁じ得ない。

 この後、その光景を飛行しながら目の当たりにしたセシリアと箒が怒りながら一夏に詰め寄るが、例の如く弄くられたのは言うまでもない。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。