装甲正義!織斑 一夏   作:nasigorenn

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この学園祭も相当なものですよね~。


もしも一夏が別の劔冑を使ったら。 その24

 楯無が一夏と接触してから数日が経ち、教室内では浮かれた雰囲気に満ちあふれていた。理由は一週間後に控えている学園祭である。

10代の少女達にとってこういった行事は胸躍るもの。例え世界最強と言われている兵器を取り扱うIS学園の生徒であろうと、そこはまったく変わらない。

特に皆が浮かれているというのも、昨日の早朝にあった発表が原因だ。

昨日の朝に開かれた全校集会。そこでこのIS学園の生徒会長である更識 楯無から発表があり、此度の学園祭において投票で一位の出し物したクラスには食堂のスィーツ無料券を半年分贈呈するということになった。

甘い物……それは少女達にとって地獄と天国。

基本甘いお菓子を嫌う女性はおらず、好んで食べる人が多い。だが、砂糖を使うからこその美味しさ故に糖分は勿論、脂質も多く使う。それ故に………太る。

太るということは全世界の女性の嫌悪の象徴であり、誰しも醜くはなりたくない。

ならばお菓子など取らなければいいという話だが、そうはいかないほどに魅力的なのだ。このスィーツと呼ばれる洋菓子というものは。

それは女性を魅了してやまない魔性の味。

そして彼女達はまだ10代。多少体重が増えようともすぐに痩せられると前向きに考えを向けることで不安をかき消し、そしてこの魔性の味をもっと味わいたいと学園祭の優賞を狙う。

実の所、本来ならここで織斑 一夏の部活所属を決めるという話を出すはずの楯無であったが、一夏の姿を見た途端に声を引きつらせてその話はしなかった。

正直、こんな危険人物を所属させられるような部活動などないのである。

一夏が怖くて仕方ない楯無は予備プランに切り替えて発表を行い、早々に壇上から去った。もしここで本来のプラン通りに発表を行おうものなら、一夏は楯無を地獄の果てまで追い回し、そして追い詰めてその首を撥ねていただろう。

そのビジョンが明確に頭に浮かぶ楯無は顔を青ざめながら、従者である布仏 虚に泣きついたのは言うまでも無い。

会長が恐怖に打ち震えている事など知らずに生徒達は盛り上がり、今に至る。

 楽しみにしていた学園祭に凄い魅惑的な商品まで付いているのだから、浮かれない方がおかしい。

そんな1組の面々だが、実はとてつもない問題があった。

それは……未だに学園祭の出し物が決まっていない事である。

やりたいことが多く有り、そして優勝を狙うのならば周りを出し抜くくらいの物でなければならない。だからこそ皆意見を多く出すが、全部バラバラで全く纏まらないのだ。

それを考えるのも楽しみの醍醐味と言えるだろう。

だが、それを全く楽しんでいない者もいた。

周りが賑わう中、静かに黙祷するかの用に目を瞑り何かを考えているのは一夏であった。

彼が周りと違って浮かれていないのはいくつかの理由がある。

まず一つ、そもそも彼はこの行事を楽しみになどしていない。一夏の精神は肉体以上に成熟しており、幼稚なことに騒ぐような事はしないのだ。寧ろそんな事をしているくらいなら、自らが仕える六波羅のために貢献したいと考えているだろう。

そして二つ目。寧ろ此方の方が彼にとっては問題だ。

彼がどういう訳かこのクラスの代表になっているということ。

それにより、彼はこのクラスの出し物を話し合いで決めて実行に移さなければならないのだ。

これに一夏は頭が痛くなった。何せバラバラの意見を纏めるというのが如何に大変かということを彼は嫌と言うほど知っているからである。

少女達の滑稽で突飛のない戯れ言を聞いては眉間に皺が寄るのを隠せずにいる始末である。

さらに三つ目。六波羅の情報網で掴んだ情報……学園祭に乗じて世界的テロ組織『亡国機業』が潜入し何かをするということ。具体的に言えば一夏の劔冑を強奪すべく、エージェントを送り込んで来るらしい。

自らが攻められると分かっていれば問題はないので、一夏にとって此方の方が重要である。

最後に四つ目。これこそが一番の問題。

何と獅子吼が学園祭に来訪するという話が来ているのである。

この事実に一夏は額から冷や汗を流す。上司が自ら来るというのだから、一夏にとっては無様な姿など見せる訳にはいかない。

つまり、六波羅に名を連ねる者としてお遊びとて負ける事など許されないということなのだ。

以上のことから、一夏が浮かれるということは絶対にない。

そんな様子を気にしてか、義妹であるシャルロットが一夏に話しかけてきた。

 

「どうかしたの、義兄さん?」

 

少し心配した様子の義妹に一夏は目をゆっくりと開く、シャルロットの方は向かずに答えた。

 

「何でもない。ただ、考えることが多いだけだ」

「そう? あまり無理はしないでね」

「ふんっ」

 

天使のような微笑みを浮かべて離れるシャルロットに、一夏は鼻を鳴らすだけでお礼を言ったりはしない。

だが、それが照れ隠しであることを分かっているシャルロットは嬉しそうに笑うのであった。

そんなやり取りが行われた後に始業チャイムがなり、教室に千冬と真耶が入って来た。

そして始めるSHR。

勿論話題は学園祭での連絡事項。

未だに出し物の決まっていないという事実に本来なら教師から何か言われる物なのだが、担任である千冬が面倒臭がっていることでそこまで強いお咎めはない。

 

「皆さん、今日こそ出し物を決めましょうね~!」

 

真耶が大きな声でそう言って話を締めくくり、SHRは終わった。

 

 

 

 一時間目から学園祭の出し物に付いて話し合う一組。

教壇では神経質な顔をした一夏が皆の意見について答えていく。

 

「次の案は」

 

冷酷な処刑人の如く、出る意見をすっぱりと斬り捨てる一夏に皆戸惑う。

しかし、ここでそれを恐れていては優勝など出来ないと、皆果敢に意見を出していく。更に一夏が反論したことは全て正しく、それ故に冷静に考えればより質の高い内容の詰まった案へと変わっていくのだ。優勝のためには怖かろうと良い出し物をせねばと皆必死になっていく。

 

「はい! 最近メイド喫茶とか流行ってるし、どうかな!」

 

一人の生徒が手を上げて案を出すと、一夏はゆっくりとその生徒に目を向ける。向けられた生徒は一夏の眼差しにビクッと身を震わせた。

 

「確かに昨今、そういう店が流行っている。しかし、それは一部の街でだけだ。更に言えば、この学園祭に来る者達を考えてみろ」

「え、それは……」

 

一夏の問いに後の言葉が出ない生徒。

彼女が考えたのは、最近流行りで可愛いメイド服が着れるという事くらいであり、一夏の言うことまで考えてはいなかった。

一夏はそれこそが重要と聞いてきたのである。

 

「いいか、この学園祭において来る客は各国政府の高官、企業の重役。そして一人につき一枚の招待券で来る客だ。その中でも、そういった政府高官や企業の人間よりも招待券で来る客の方が多い。一人一枚、全部のチケットが捌けたのなら全校生徒と同じ人数の人間が来ることになる。そこで聞くが、お前なら誰をそのチケットで呼ぶ?」

「え……そ、その、友達…かな?」

「何で友人なんだ」

「そ、それは……家族だと枚数が足りないから……」

 

おどおどと答える生徒に一夏は片目を瞑り軽く頷く。

 

「そうだ。この一人一枚では家族を呼ぶには足りない。呼ぼうとするのなら、他の奴等にチケットを譲って貰うしかない。故に家族は呼べないと考えれば、次は友人だ。そこで呼ぶとするなら、同性の友人くらいだろう」

 

一夏がそう答えると、疑問に思った生徒が手を挙げて質問をした。

 

「そうかな? だって学園祭なら、気になる男の子とかを呼ぶのも手だと思うけど」

 

この質問には他の生徒も同意を示す。確かに学園祭は恋愛をしたい学生にとって使える行事だ。普通ならそれで間違いはない。だが、一夏はここでそれを覆すことを答えた。

 

「恋愛についてはよくわからん。勝手に乳繰り合っていろと言うべきだが、そんな俺でもわかりきっていることがある。この学園祭で男を呼ぶ奴は少ない」

「なんでそう言い切れるの?」

「逆に聞くが、お前はこの容姿端麗な奴が多い学園に男を呼ぶか? 来た途端にそいつは目移りしてお前なぞ眼中から居なくなるぞ」

「うっ!?」

 

にやりと嘲りを含んだ冷酷な笑みを浮かべる一夏に皆言葉を失う。

確かにこのIS学園は所謂、美少女率が高い。

スタイルが凄い者、容姿端麗の者、可愛らしい者、様々である。さらに他には見かけない異国の美少女も数多い。中には実際にモデルとして活躍している者もいる。代表候補生が良い例だろう。

そんな所に気になる男子か恋人でも連れてこようものなら、自分と比べてどちらが勝つのかは明白で有り、男は自分など見向きもしないだろうことが容易に皆理解出来た。

特に代表候補生などを見れば、誰だって納得出来る。

故に一夏は呼ぶのなら同性の友人だと断定したのだ。

 

「そこで聞くが、メイド喫茶に来る客というのは、女と男、どっちだ?」

「お、男です……」

「そういうことだ。女が女を見て楽しいと思う者はそこまで多くないということだ。故に却下する」

 

振り落とした刀の如く、その生徒の案は斬り捨てられた。

そこで今度は別の生徒が手を挙げ、一夏は其方に目を向ける。

 

「はい! ずっと思ってたんだけど、織斑君は何かないの? そこまで明確に言えるなら案だってあるでしょ」

 

その言葉に皆の視線が一夏に集まった。

皆からの視線が集まる中、怖気付くことなく一夏は自分の考えを言う。

 

「ふむ。本来ならこんな下らないことなど考えたくもないが、上司が来るとあっては無様な姿は晒せぬ。故に本気で言ってやろう。先程言ったことだが、これが落とし穴だと言うことに貴様等は気付いているか?」

 

「「「「「「え?」」」」」

 

一夏の問いかけに皆首を傾げてしまう。

一体これの何処が落とし穴なのか。

その様子に一夏は鼻を鳴らして呆れ返りながら答える。

 

「良く考えてみろ。この学園祭に客を呼ぶことは出来るが、投票権を持っているのはこの学園の生徒だけだ。つまりあの巫山戯た輩がほざいた戯れ言に優勝するためには、生徒の投票数だけを集めるようにすれば良いということだ」

 

「「「「「あっ!?」」」」」

 

そのことにやっと気が付いた生徒が驚きの声を上げた。

そう、件の優勝に必要なのは生徒の投票数であって客数ではない。

だからこそ、一夏の出す案は完結だった。

 

「ここの生徒が好きな物といえば、女が喜ぶ事しか無いだろう。全くやる気はないが、やるのなら『執事喫茶』が良いだろうよ。今の時流に合っていて、それでいて女受けが良い。それにこのクラスの何人かは男装させれば男装の麗人として女から人気も得られよう」

 

「「「「「おぉ!」」」」」

 

その意見に皆納得の声を上げたことに納得したのか、一夏は更に深く話す。

 

「さらに飲食店にすれば収益も出て、少しは此方に廻ってこよう。執事服などに関しては、非常に癪だが伝手がある。飲食物に関しては、それこそ貴様等の頑張り所だ。あまり俺ばかり働かせるな」

 

 一夏のこの言葉により、一年一組の学園祭の出し物は執事喫茶に決まった。


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