装甲正義!織斑 一夏   作:nasigorenn

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二月三日、節分。

一夏と真耶も豆まきをしようとしていたのだが……。

「さぁ、どうぞ旦那様!」

虎柄ビキニで豊満過ぎる肢体を覆う真耶は恥ずかしさから顔を赤らめながら一夏に微笑む。その光景に一夏は赤面してしまう。目の真にいるのは、虎柄ビキニに角の付いたカチューシャを着けた余りにもセクシーで可愛らしいオニである。
豆まきとは、オニに豆をまいて追いだし厄払いをする行事であるのだが、一夏は豆を投げつけずに真耶を抱きしめ唇にキスをした。

「ふぁ……」
「こんな可愛らしいオニに豆なんて蒔けないですよ。それに……俺はこのオニが一緒じゃないと幸せになれないですから(福が来ない)」
「だ、だんなさまぁ………」

そしてイチャつき出す二人。
オニがいた方が幸せでは豆まきは成立しない。


尚、作者は何とか地球まで戻ってきたが、今度は人の形をした戦艦と戦うハメにあっていたとか。


もしも一夏が別の劔冑を使ったら。 その23

 二学期が始まり初日から授業を全開で行うのがIS学園。

初日だというのに、一時間目からISの実機演習ということで皆アリーナに移動し始める。

ISを操縦するに当たってはISスーツを着用して行うため、生徒は皆アリーナの側にある更衣室で着替える。

だが、武者はそういった特殊な衣装に着替える必要がない。

劔冑は装甲の構えと誓約の口上を述べさえすれば、全裸であろうとスーツであろうと問題無く身体に装着することが出来るからだ。

故に一夏はそのままアリーナに直に向かっていた。

実際、一夏がこの授業に参加する理由は特にない。ISを操縦するわけではないのだから。

だが、政府と六波羅から言われていることもあって真面目に授業に参加していた。

一夏自身、知識はいくら吸収しても損はないということを知っているからだ。

アリーナに向かって無愛想な表情のまま一夏はアリーナへの通路を歩いて行く。

だが、その歩みは途中で僅かながら遅くなった。

理由は教室を出てから感じていた視線である。

移動のために教室から出た瞬間から一夏は自分に向けられていた視線に気付いていた。

これでまだ、想いを寄せている少女が遠くから見つめているなどの甘酸っぱいものなら微笑ましいものだが、この少年に対してそのような視線が向けられることなど、まず有り得ない。少なくとも、この無愛想で冷徹で残虐な少年にそのような視線が向けられることなど、世間において『ほぼ』有り得ない。一部例外がいるが、それに気付くほど彼は聡くない。

逆に逆恨みや恐れなどの視線などは多く、それこそ飽きるくらい浴びてきた少年だ。

そういった視線には敏感な一夏だが、この視線からはそれらの部類の意思を感じなかった。

一夏がこの視線から感じ取ったのは、ある意思のみ。

 

(これは………此方を探っているのか)

 

この視線から読み取ったのは、一夏を盗み見て此方を探っているということ。

その視線に一夏はすぐに振り返らず、敢えて放置することにした。

勿論、探られているというのは誰だって気持ち良いものではない。それは一夏とて当然である。

幸いと言うべきか情けないと言うべきか、この追跡者は尾行などに覚えこそあれど未熟のようだ。

だからこそ泳がせた後に隙を突いて……捕らえることにした。

尾行者を連れたまま曲がり角を曲がると、ほんの僅かに止まる。

 

「………銘伏、刀をよこせ……」

 

静かに劔冑に命を出すと、天井から一本の刀が落ちてきた。

だが、天井には何もいない。その有り得ない光景を目にしたのなら、誰もが首を傾げるだろう。

そして気配を殺しながら音も立てないようにその場で跳び上がり、猫のような身軽さで空中反転。

そこから天井にしゃがみ込むように着地した。この動作に掛かった時間はほんの一瞬であり、傍から見れば人が目の前から消えたようにしか見えない。

 

「え………何処に行ったの!?」

 

追跡者が驚きの声を上げるのを聞きながら天井から追跡者の背後へと音もなく着地。

音を一切立てる事もせずに抜刀し、抜いた刃を追跡者の喉元にかけると共に気配と殺気を色濃く放つ。

 

「貴様………何のつもりだ?」

「ひっ!?」

 

一夏が若干の苛立ちと共に問いかけると、追跡者……美しい水色の髪をした女生徒から詰まった声が漏れた。

 

「わ、私は…………」

 

答えようとする女生徒だが、すぐ言い淀む。その反応を見て一夏は残忍ににやりと笑った。

 

「素直に答える気は無いと見た。なら、もういい」

「え……」

「この場で首と胴が離ればなれになってもらう」

「ひぃっ!? い、言う、素直に話すから刀を退けて~!」

 

怯える女生徒が慌てながら声を上げると、一夏は彼女の首から刀を退かした。

そしてそのまま持った刀を下げると、それを感じたのか女生徒も振り返った。

振り返った先にいたのは、目の覚めるような美しい少女であった。

町中を歩けば必ずと言って良い程に声をかけられるであろう美人。制服越しだというのに、その大きな胸の形がくっきりと分かるくらい良いスタイル。愛嬌のあるであろう顔は誰をも魅了するだろう。胸の前のリボンの色から二年生であるころが窺える。つまり一夏の上級生である。

彼女は今、その可愛らしい瞳を動揺と恐怖で揺らしていた。

いきなり目の前から人が消えたと思ったらいつの間にか背後に立たれて首元に刀をかけられれば誰だってそうなる。

一夏は振り返った人物を見て、年相応に見惚れたり大きな胸に見とれたり…………などということは微塵もない。

即座に記憶していた人物の名を言った。

 

「IS学園生徒会長、更識 楯無か」

「し、知ってるの?」

「自分が通学する所の要人を覚えていない馬鹿はいないだろう」

 

その言葉に女生徒……IS学園の生徒会長、更識 楯無は怯えの色を隠そうとしながら頷いた。

彼女としてはここでからかったりして会話の主導権を握りたい所だが、気を抜いた瞬間には一夏の刀が見切れない速度で振るわれることが分かっているので迂闊にそう出来ない。

 

「いきなり女の子に刀を向けるなんて、お姉さん、良くないと思うわよ」

 

余裕ぶった物言いをするが、やはり声には僅かな恐れが含まれていた。

それを察してか、一夏はにやりと凄惨な笑みを浮かべて答える。

 

「ほう。人を影から尾行して探る輩は何をされても文句は言えまい」

「ぐぅっ!」

 

その迫力に怖じ気づく楯無。

一夏から発せられている雰囲気はとても同世代の子供が出して良いものではなかった。

押されている楯無を見て一夏は鼻で笑うと、更に追求してきた。

 

「日本の対暗部用暗部、更識家の当主如きが俺に何用かと聞いている」

「っ!? 何でそんな事まで」

 

IS学園の生徒には誰にも公表していない事実を言われ、更に動揺する楯無に一夏は呆れ返ったような声を出した。

 

「俺はこれでも六波羅の人間だ。それぐらい調べれば簡単に出る。特に日本政府のお粗末な暗部なら尚更な。尻尾が出過ぎなので寧ろ笑ったくらいだぞ」

 

それは嘲りを含めた発言であり、つまり更識家を馬鹿にされたということである。

そのことにむっと来る楯無ではあったが、目の前の少年は反論を言わせない何かがあるため口を噤む。

上級生と下級生。

その上下関係はこの二人の間に存在はせず、どちらが上でどちらが下なのか。

それがはっきりとした瞬間であった。

楯無は……IS学園生徒会長は最強たれ、というのがこのIS学園における生徒会長の条件。生身であろうと襲撃することを許可され、勝った者が新たな生徒会長になるという若干暴力的なルールすらあるのだ。その中で楯無はこれまで一度も負けたことはない。だからこそ、生徒会長なのである。その楯無がこうも一方的に負けるというのは、それだけ一夏が異常ということ他になく、その現実に楯無は打ちのめされた。

これで一夏が女でISに乗っていたのだったら、生徒会長は一夏に替わっていただろう。

上に立った一夏は楯無を睨み付けながら再び問う。

 

「それで……目的を早く言え。でなければ………斬る」

「ひっ!? わ、分かったから、言うから!」

 

そして楯無は怯えながら一夏を尾行していた理由を明かした。

 

「む、武者がどれだけ凄いのか見に来たのよ」

「ほう。それで一々コソコソと隠れて後を付けてきたと」

「そ、それは………」

 

気まずさから視線を逸らす楯無。

一夏はそんな彼女を見て、若干知っている人物に似ていると思い疲れてきた。

一夏にとっては目上の人間だが、彼の上司とはウマが合わないこともあってか、一夏自身も苦手なのである。

そのまま更に吐かせようと思ったのだが、そこでチャイムが鳴り響いた。

そして一夏は授業に遅れてしまったことを悟ると、逃げ出そうとしていた楯無の首根っこを掴んだ。

 

「貴様の所為で授業に遅れてしまったようだ。このまま叱られるのは癪なのでな。あの教師の前で貴様に詫びて貰うことにしよう」

「痛っ! 女の子には優しくするよう教わらなかったの!」

「害成す者は容赦無く斬れとしか教わっていないものでな。斬られないだけマシだと思え」

「ひぇ~、このオニ、アクマ、人でなし! 私だってこの後授業があるのよ!」

「ふん、知るか。迷惑をかけてきたのは其方だろう。大人しくしろ」

 

喚く楯無を鼻で笑いながら一夏はアリーナへと歩いて行く……楯無を借りてきた猫のように首根っこを掴んで引き摺りながら。

その妙な光景はアリーナに入ってから皆に晒され、恥ずかしさから真っ赤になって泣きそうになる楯無。

一夏はそんな彼女を気にも留めず、千冬の前に出て楯無を突き付けて授業に遅れた理由を話した。

だが、千冬はあまりの光景にどう対処して良いか分からず、そのまま一夏を咎めることなく授業に参加するよう言った。

そして詫びさせられた楯無にも千冬は特に言うこと無く、授業に戻るよう言ってアリーナから出させた。

その際、それを見ていた一夏がぼそりと、『やはり斬っておくべきだったか』と洩らしたら周りから引きつった声が漏れた。

 

 

 

 こうして生徒会長と一夏のファーストコンタクトは終わり、楯無はしばらく『一夏恐怖症』になったとか。

 

 

 

 


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