装甲正義!織斑 一夏   作:nasigorenn

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今回はあの神経質な人の劔冑が……。


もしも一夏が別の劔冑を使ったら。 その22 竹節虫

 もしも織斑 一夏の劔冑が『相州五郎入道正宗』でなく、『銘伏(なぶせ)』だったら……………。

その場合の学園祭での話をすることにしよう

 

 

 九月に入り未だに夏休みの感覚に引き摺られている生徒が多い中、今日から新学期が始める。

皆未だに残る残暑に朝から汗を掻いており、彼方此方で少々はしたない恰好をしている生徒がちらほらと見えていた。

いつもより開いた胸元、スカートをばれないようにめくり中に空気を通す動作。

年頃の男子にとってはまさに気になって仕方ない光景。

しかしここはIS学園。ほぼ女子しかいない学園であり、異性の目を気にする必要は無い。

だが、それは去年までの話。今年からは政府と一部の財団の決定で一人だけ例外で男子がIS学園に入学しているのだ。

その男の名は『織斑 一夏』。

この学園の生徒ならば誰もが憧れる世界最強の女『織斑 千冬』の実の弟。

それだけでも注目を浴びる物だが、それ以上に彼は世間から注目されている。

彼がこの学園に入学したのはISを動かせるからではない。

この女尊男卑を正すべく、政府ととある財団が表世界に持ち出した過去の遺物『劔冑』。

それの使い手として彼はこの学園に特別に入学させられた。

ISよりも強い兵器を使う男。ISと違い男女関係無く使える劔冑という名の兵器。

この二つを旗頭として政府は今のISの世に戦いを挑みに来たというわけだ。

結果は今の所良好。ISを寄せ付けない無類の強さを誇り、度重なるIS学園での問題事を悉く解決に導いてきた。

劔冑を担う者、武者。彼はその代表者としてここに来ている。その責任は重大で有り、彼が師事した人物の名誉のためもあって彼は真面目にこれまでやってきた。

だが、まだ十五歳の子供。

遊びたい盛りで、思春期故に異性に興味が湧いてしかたないのが普通。この年頃にとって、今の教室の状態はまさに楽園といえよう。

だが……彼は何も反応しない。

周りは未だ残る残暑で暑がる中、彼のいる所だけがまるで極寒の地の如く、冷気に覆われているかのように静まりかえっている。

その中で彼は目を瞑り、ただ静かに黙祷しているかの如く静かにしていた。

その身には汗の雫一つ掻いておらず、顔も寧ろ白に近い色となっている。

暑がる様子は微塵も感じさせず、彼の所だけ別世界となっていた。

その事に何とも気まずいと感じる幼馴染みの箒と鈴。

彼女達の知る織斑 一夏という人物は明るく優しく、正義感の強い人物であった。

箒は小学四年生の頃に諸事情により一夏とは別れ、それに次いで鈴が一夏の小学校に転入してきた。

それまでの間、彼は彼女達の知っているとおりであった。

だが、それは二年前に変わってしまった。

二年前……ISが世界に広まり始まった世界大会、その第2回モンドグロッソ。

その大会、前回優勝者の織斑 千冬が決勝戦を目前にしたとき、応援に来ていた彼は誘拐されてしまった。

そしてその事実を知った千冬は決勝戦を無視して現地のドイツ軍の協力の下に彼の救出に出た。だが、結果は失敗。彼は何処にもいなかった。

調査の結果、血などが見つからないことから死んではいないと推察が出て千冬は一夏を探し出すことを決意。だが、ドイツ軍が協力したことの要求として一年間のドイツ軍IS部隊の教官を頼まれてしまう。仕方なくそれを受けた千冬は何とか一年間こなしつつ一夏を探す。だが、見つからないまま教官の任も終わり、日本に帰国したら今度はIS学園の教員職への誘い。断りたいところだが、IS学園なら個人で動くよりも探しやすくなると判断し承諾した。

そして一年が経ち、今年の春。

千冬は一夏を見つけた………テレビ越しで。

そしてIS学園に入学することになった一夏に挨拶と謝罪をしようと会いに行ったのだが……そこに千冬達が知っている一夏はいなかった。

 

「……別に謝るようなこともない。捕まった俺が間抜けだった話だからな。なぁに、安心しろ。もう二度とあのような醜態は晒さん。それに奴等なら、もう殺したからな」

 

優しさの欠片の微塵もない凄惨な表情でそう語る彼が、千冬達は怖くて仕方なかった。

一体何があればこうも人はこんな顔を出来るのだろうかと………。

それ以来、過去の一夏を知る者は過去と比較して恐怖を、現在を知る生徒は彼の『非道さ』に身を震わせることになる。

そんな彼が常人な訳は無く、異性へ興味を持つわけもない。

だからこそ、彼の周りで男なら目が行きそうな光景が広がろうとも目を向けることはない。そして彼女達自身、彼を恐がり距離を取って意識しないようにしている。

この状態が一学期から続き、最早恒例となりつつある。

そんな一部が絶対零度のような教室に場違いなまでに甘い声が響く。

 

「みなさん、すみません! 会議で遅れちゃいました~」

 

そう言いながら教室に入ってきたのは、このクラスの副担任である山田 真耶だ。

ちゃんと成人した大人だが、平均的な身長に幼すぎる童顔の所為で高校生に見られてしまう可哀想な女性だ。だが、その胸は身長に不釣り合いに豊満であり、男女問わずに目を引く。彼だけは例外だが。

真耶は教壇に立つと、笑顔で生徒の皆に挨拶をする。

 

「皆さん、お久しぶりです。夏休みはどうでしたか」

 

その問いかけに楽しかったと感想が多く報告されていく。それを聞いて満足そうに真耶は笑うと、優しく皆に話しかける。

 

「夏休みを皆さん楽しく過ごせたようで何よりです。学生の夏休みは人生でも特別な物になりますからね。その時の思い出がきっと将来のためになると先生は思います。でも、もう今日から新学期ですからね。皆さん、気を入れ直して頑張りましょう。まだ夏休み気分だと、この後とても苦労しますよ。IS学園はこの後すぐに学園祭、キャノンボールファスト、学年末試験にタッグマッチトーナメント、それに一年生は修学旅行とイベントが目白押しですからね。先生、皆さんがどんな……」

 

長々とこれからの行事について自分の学生だったときの思い出話も含めて語っていく真耶。

その話に皆笑いながら楽しく聞き入っていた。

だが……その雰囲気はぶち壊される。

 

「………いい加減本題に入ったらどうだ」

 

彼……一夏は片目だけを開いて真耶を見ながら声を出した。

ただ静かに、少ない言葉。だが、その言葉は僅かであっても皆を凍り付かせるには充分なものであった。

 

「ひっ!? す、すみません!」

 

一夏に言われた真耶は途端に涙目になり、今にも泣きそうになってしまう。

そしてその言葉を聞いた生徒は皆凍り付く。

先程まであった楽しそうな雰囲気は一気に消し飛び、沈黙が教室を支配する。

そこに彼は特に苛立つこともなく副担任を見ていた。

彼自身、ただ単にこのままだと授業の開始が遅れてしまうから声をかけただけなのだが、周りから見たら騒がしいのを見かねて怒っているようにしか取れないのだ。神経質な彼の真顔はそれだけでも恐怖を抱かせる。

特に見つめられ続けている真耶は今にも泣き出しそうだ。

それを見かねてか、とある生徒が皆に聞こえる声を出した。

 

「や、山田先生早く授業の話をしましょう! その方が今は良いみたいだし」

「そ、そうですね! ありがとうございます、デュノア……いえ、『織斑さん』」

 

涙目で感謝しながら真耶が礼を言ったのは、美しい金髪をした少女。

名前は『織斑シャルロット』。

どこからどう見ても外国人であり、当然一夏や千冬とは血縁関係などない。

彼女はとあることからこのIS学園に『男』として入学し、一夏や劔冑の情報を手に入れるために接触したのだが、即座に一夏に見破られてしまう。そして拷問寸前の尋問をされる前に素直に事情を白状。その際、一夏は可哀想なことになっている彼女を助けるなんて考えは微塵もなく、勝手にしろと言わんばかりに突き放した……のだが、そこから彼の所属する『とある財団』から連絡が入り、彼女を送り込んだ『デュノア社』を強襲することに。

元からとある財団は最近成績不振のデュノア社を買収しようとしていたのだが、それには社長や重役が邪魔であった。故にこの度、彼の者達を暗殺しようと考えていた。

そして来たこの話には、勿論一夏も参加する。

寧ろ一夏はその実行部隊の纏め役を担っていた。

故に一夏はシャルロットを気にせずに部屋を出て、フランスへと飛び立つ。その際、シャルロットは一夏の顔を見て言葉を失い何も出来なかった。

一夏が教員にばらすなど、そんなことは考えない。ただ、余りにも凄惨な笑みを浮かべていたから。

そして翌日、彼女は驚愕することになった。

デュノア社本社ビルのガス爆発。それにより本社にいた社長以下重役の死亡。そして別件でデュノア社社長夫人が交通事故で亡くなった。

二つのことが同時に重なるという事態に世間は怪しんだが、事実ガス爆発で爆発した形跡があり、また夫人の事故は本当にただの交通事故だった。

実はとある財団が政府と結託して捏造したとは誰も思うまい。

フランス政府が極秘裏に数打を五騎受け取り、その見返りにデュノア社を差し出した。

デュノア社は生け贄にされたのである。

その後、デュノア社は日本の財団『六波羅』に買収され、新たな企業として経営を開始し始めた。

そのことを一夏に問い詰めようとしたシャルロットだが、一夏は知らんの一点張りで取り合わない。そしてシャルロットの立場は本来ならばIS学園を追放された後にフランスに投獄なのだが、そもそも社長と夫人の間に子供がいないのだから関係無い同姓の人間ということでうやむやにされてしまった。当然可笑しな話である。

怪しむ人間は多いが、フランスからは入学に出す書類を間違えたという不祥事の通達が、そして男装は彼女がフランスを慮っての行動ということででっち上げられた。

ここまでなら、問題は無い。

一夏は六波羅の命を忠実にこなし、問題なく済ませている。

しかし、ここで一夏と一夏が師事する人物の二人にとって頭が上がらない人物から思いも寄らない横槍が入ったのだ。

シャルロットのことが表に出ると共に、彼女が天涯孤独の身ということも明かされた。

それがどういうわけか、フランス・日本両政府から織斑家の養子になるということが発表されたのだ。勿論、千冬は許可などしていない。一夏もこれには驚かされた。

そして上司から労いの言葉と共に、この悪巧みをした人物からのメッセージを聞かされた。

 

『織斑殿は師匠に似て硬いのう。故にたまにはハメを外してもよかろう。そう思い、金髪美少女の義妹を褒美として贈ろう。まさにぎゃるげぇのような展開。翌日からウハウハだのう』

 

とのこと。

これには一夏もその上司も頭痛が激しくて仕方なかった。

しかし、頭が上がらないので文句も言えない。

どうしようもない事実に悩んでいた一夏。

そんな一夏の姿を見てシャルロットは一夏がどうにかしてくれたことを察し、怖いながらも懐く。

そうして彼女はデュノアから織斑に姓を変え、一夏の義妹として学園に通うことになった。

全てが滅茶苦茶の支離滅裂な無理難題。

だが、それを権力と金、そして武力で全てどうにかしてしまうのが、『六波羅』という組織だ。

そしてシャルロットは今も一夏の妹として、妹以上の感情を持ちながら一夏に接している。

 

「もう、義兄さん! あまり先生を怖がらせちゃ駄目でしょ」

「……ふん」

 

義妹に怒られ一夏は無愛想に反応を返す。

そこでやっとこの緊迫とした雰囲気が和らいでいく。

その教室の扉が開くと千冬が教室に入ってきたが、その雰囲気を感じて溜息を吐いた。

 

「またお前か、織斑兄」

 

弟の変わりようにぞっとしつつもそう呆れ返る千冬に、一夏は一学期同様に無愛想に反応するだけだった。

 

 

 

 

 

 


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