装甲正義!織斑 一夏   作:nasigorenn

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やっと百足も終わりです。随分と長かったなぁ。
上手く纏められなくて申し訳無いです。


もしも一夏が別の劔冑を使ったら。 その21

 束や千冬、真耶の三人が日の昇り始めた砂浜で一夏達の帰りを待ち望み海を見つめていた。

三人の視線の先にあるのは広大な深い青の海。そして昇り始め辺りを照らし始めた太陽。

その太陽を背に此方に向かってくる六つの影。それを見た途端、三人の顔が綻んだ。

それが何なのか? それが誰なのか? それが三人には分かっていたから。

三人の考えている通り、六つの影は砂浜に向かって段々とその姿を顕わにしていった。

それは五機のISと、一騎の劔冑。

五人は多少の怪我はあるようだが皆無事であり、劔冑は特に損傷した様子は見受けられない。

そして福音の操縦者であろう女性が抱きえかかえられている所を見て、作戦が無事に成功したことを悟る。

六人は砂浜に着陸すると全員ISと劔冑を解除した。

 

「ただいま、みんな」

 

装甲を解除した一夏が見る者を安心させるような安らかな笑顔を皆に向け、自身の劔冑である真改に抱きかかえていた女性を安全に横になれる所に運ぶよう指示を出していた。

主の銘を受けてその背に女性を乗せて、黄銅の大百足は他の教員の方に向かって歩き始めた。その光景は少しばかり気持ち悪く見えなくもないが、教員も慣れてきたので難なく対応する。

一夏の笑顔を見て、皆日常に戻ったと安心しホッとした。

それと同時に皆の感情が溢れ出す。

あれだけの死線の中、たった一騎で覆し倒した一夏は間違いなくヒーローであった。

 

『救われた』

 

そのことがこの場にいる全員の感情のダムを決壊させた。

その激情のままに一夏に向かって駆け寄ろうとする五人。

皆を助けてくれたことに多大な感謝の念を、また難なくそれを行い皆を気遣う姿を格好いいと素直に感じ、胸に抱いた想いを伝えたいと駆け寄る真耶。

皆を無事に帰還させ、今回の作戦を最良の結果に終わらせた弟を労いたいと考え近づく千冬。

だが………その七人よりも速く一夏に飛びついた人物がいた。

 

「いっく~~~~~~~~~~~~~ん~~~~~~~~~!!」

 

それはウサミミを着けた女性……束である。

一夏は飛びついてきた束に少し驚いたが、それだけ心配していたのだろうと察して為すがままにさせることにした。

束はそのまま一夏を力一杯抱きしめる。その真耶に匹敵しかねない豊満な胸を押しつけて。

 

「いっくん、ありがとう! 本当にありがとう、箒ちゃん達を助けてくれて!」

 

感謝と感動のあまり泣き出す束。

一夏はそんな束を内心で可愛いと思いつつ、優しく頭を撫でる。

 

「そんな感謝なんて必要ないですよ。俺はただ、みんなに傷付いてほしくなかったから……だから戦ったまでです」

 

そのまま束をあやす一夏。

だが、感極まった束はさらに泣き出してしまう。これではどちらが年上なのか本当に分からない。

更には、

 

「いっくん、本当にありがとう! だぁ~~~~いすき!! ちゅ」

「んむっ!?」

 

束は泣きながらも顔を真っ赤にして一夏の唇にキスをした。

それに驚く一夏。

そしてその光景に顔がピシリと凍り付く七人。

そんな七人を無視して束は思うさま唇を押しつけると、やっと唇を離した。

 

「えへへへへ。私のファーストキス、いっくんにあげちゃった」

 

束は照れながら幸せそうに笑う。

その笑顔を美しいと思いながらも突然の事態にどうして良いか困る一夏。

 

「その……ありがとうございます?」

 

取りあえずお礼を言うことしか出来ない。

お礼を言われた束はタガが外れたように一夏を抱きしめ、大好きと連呼し始める。

そんな二人を見て、やっと事態を理解した六人は声を上げた。

 

「「「「「「あぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」」」」」」

 

波の音しか聞こえない砂浜に響き渡る六つの悲鳴。

それに気付いて一夏はビクッと肩を震わせた。

 

「な、な、な、何をやっているのですか姉さん!」

「い、一夏さんに何勝手にキスしてるんですの!」

「そうよ、何勝手に一夏にキスしてんのよ、アンタっ!」

「ず、ずるいですよ、篠ノ之博士!」

「貴様、私の嫁に何をする!」

「博士、何をしてるんですか! 私だってまだ一夏君に……」

 

六名の批難の声が上がる中、束は全く気にせず一夏にしがみつく。

 

「ふっふ~ん、速い者勝ちだよ! 私はいっくんのこと、みんなよりもだぁ~~い好きだからね。ね、いっくん。今は返事は聞かないから、その代わりしばらくこうさせて。ね」

 

周りの六人を威嚇するように言い放つと、まるでじゃれる子猫のように一夏にお願いする束。一夏はこの年上なのに幼い束を素直に可愛らしいと感じた。

そのまま唸る六人と一夏を独り占めしていることに優越感を感じて自慢するようにくっつく束。

いつ騒動に発展するか分からない一触即発の雰囲気を醸し出す。

だから七人は気づけなかった。

怒れる………千冬に。

 

「お前達……まだすべて終わっていないというのに随分と騒ぐものだな」

 

額には青筋が浮かび上がり、明らかに怒っていることが窺える。

その千冬の様子を見て凍り付く七人。

そんな千冬に一夏は苦笑するしかない。

 

「特に……束……」

「は、はい!」

 

ドスの効いた声で束を呼ぶ千冬に、束は萎縮して悲鳴めいた返事を返す。

千冬は怯える束にニヤリと深い笑みを浮かべると、その頭を思いっきり鷲掴みした。

 

「いだぁっ!?」

「まずは離れろ、馬鹿者が! 貴様、誰の断りを得て一夏に抱きついている」

「いや、別に断りを入れる必要なんて誰もないんじゃ……いだだだだ、ちーちゃん、頭が潰れちゃうよ~!」

「大丈夫だ、人間この程度で潰れやしないさ」

「絶対に嘘だぁー! いい加減弟離れしなっ…ギャァーーーーーーー!!」

 

目の前で行われる悲惨な残虐行為にそれまで騒いでいた六人は静まりかえった。

束が動かなくなるまで締め上げた千冬はゆらりと振り向き、箒達の方へと歩いて行く。

 

「「「「「「ひっ!?」」」」」」

 

その姿に恐怖する六人。

千冬はそのまま表情を変えずに言葉を発する。

 

「お前達も馬鹿に付き合ってるんじゃない。専用機持ちはこの後すぐに身体の治療をしてもらえ! 山田先生はその手伝いだ!」

 

「「「「「「はい!」」」」」」

 

有無を言わせぬ迫力に皆即座に返事を返して蜘蛛の子を散らすように散っていく。

六人が移動したことで千冬はようやく一夏へと顔を向けた。

 

「ご苦労だったな、一夏」

「いや、特に何かしたわけではないよ。俺は只、俺の大切な美しい人達を守りたかっただけだからね」

「それでもだ。しかしお前……その誰にでも優しいのは考えようだぞ? あまり優しくするな。御蔭で被害が広がっていく」

 

若干疲れたような顔で一夏にそう言う千冬。

そう言われ一夏は不思議そうな顔をしていた。

 

「別に可笑しいことなんてないと思うけど。困っている人がいれば助けるのは当然だし、人に優しく接することは当たり前のことじゃないのかい?」

「いや、お前は正しいんだが、その度合いがな……」

 

その度合いが深すぎる弟に千冬は頭を悩ませるしかない。

そんなことはいざ知らず、一夏はすっと深呼吸して思う。

 

(大切な美しき人達を守れて……よかった)

 

そう思いながら、千冬と一緒に残りの後始末を行うことにした。

 

 

 

 翌日の朝。

皆学園に帰ることに寂しさを感じながらも、楽しかった思い出を語り合いながらバスの中に乗っていく。

一夏達も当然乗り込むのだが、その前に女将に声をかけられた。

 

「お待ち下さい、お客様」

「はい? どうかしましたか」

 

呼び止められた一夏は女将と向き合うと、女将は笑顔で一夏を見つめていた。

 

「私、近々東京の方に買い出しに行くんですよ。なのでその時は是非とも、お客様に案内をお願いしていただきたく」

「ええ、それぐらいでしたら大丈夫ですよ。お受けします」

「ありがとうございます」

 

艶やかな笑みを浮かべる女将の美しさに目を奪われつつも一夏はニッコリと笑って答える。

すると女将は少しばかり頬を赤らめながらお願いをしてきた。

 

「あの……出来れば記念に写真を撮りたいのですが」

「ええ、いいですよ。では……そうですね~……そこでポーズを」

 

写真と聞いて一夏は色よく返事を返すと、すぐにカメラを取り出し良さそうな所を探し始める。

すると女将はそうじゃありませんとやんわりと断ってきた。

 

「カメラを……お借りしてよろしいですか?」

「別に良いですけど……」

 

少し不思議に思いつつ一夏はカメラを女将に渡すと、女将は受け取ったカメラのレンズを自分の方に向けつつ、一夏の隣に並んだ。

それで一夏はツーショットが撮りたいのだと察し、大人しくする。

 

「では……いきます」

 

その声と共にシャッター音が鳴った。

それと同時に一夏の頬にしっとりとした柔らかいものが押しつけられた。

 

「え?」

 

いきなり来たその感触に疑問符を浮かべる一夏だったが、女将から渡されたカメラの中身を見てその正体を知る。

そこに映し出されていたのは一夏の頬に少し恥じらいつつも頬を染めてキスをする女将の姿が映っていた。

それを確認した後に女将を見ると、女将は少し恥じらいつつもこう答えた。

 

「前払いですよ」

 

と。

それを聞いて一夏は照れつつ苦笑するしかなかった。

そして女将は別れを言って旅館に戻っていき、その後ろ姿を見送った一夏もバスへと乗り込みにいった。

バスに乗り込んで一夏が最初に見たのは何とも気まずい顔をした千冬である。

 

「どうかしたんですか、織斑先生?」

「………何でもない」

 

そう答える千冬を不思議に感じつつも自分の席に付く。

そして出発を待っていたのだが、その前に見知らぬ女性がバスの中に入ってきた。

 

「ここに織斑 一夏君がいるって聞いたんだけど?」

 

そう周りに聞いてきた女性は明るい金髪にカジュアルな胸元の出たスーツを着た年上の人だ。その姿に見覚えのあった一夏は女性に声をかけた。

 

「あ、貴方は昨日の。お元気そうで良かったです」

「ええ、ありがとう。ナターシャ・ファイルスよ」

「あ、織斑 一夏です」

 

名乗られたので名乗り返すが、すでに一夏のことは知っているようなので特に意味は無い。だが、それでも女性……ナターシャは嬉しそうに微笑んだ。

 

「昨日は災難でしたね」

 

流石に皆の手前で昨日の機密を漏らすわけにはいかないので、ぼやかしながら話しかける。ナターシャは話しかける一夏に早足で歩いて行った。

 

「あ、織斑君。昨日はありがとうね」

「いえいえ。それよりも大変だったんじゃないですか、あの後」

 

周りに聞かれないようにできる限り小さな声で話し合う二人。

特に箒、セシリア、シャルロット、ラウラ、真耶の五人は気になって仕方ない様子である。

そんな五人を余所に一夏達は話を続ける。

 

「少し大変だったけど、それでも私は被害者側だったから特にお咎めはなかったわ」

「そうですか。それはよかったです」

「うふふ、ありがとう」

 

嬉しそうに笑うナターシャの笑顔を美しいと感じ、カメラを取り出した。

 

「よろしければ一枚、いいですか」

「ええ、どうぞ」

 

カメラを見て笑顔で快く許可を出すナターシャ。

一夏はそのままカメラを構え、その魅力的な笑顔をカメラに納めた。

 

「良く撮れてる?」

「ええ、見てみますか」

 

聞いてきたナターシャに一夏は見えるように顔にカメラを近づける。

気付かぬ内に顔が近づいて行く。それを見てハラハラする五人。

 

「あ、良く撮れてるわ。あなた、凄く上手なのね」

「いえいえ、まだまだ思う通りには。もっと美しい姿をより際立たせたいのですが、未熟なので。申し訳無いです」

 

謝る一夏にナターシャは少し頬を染めながら微笑むと笑いかけた。

 

「そんなことないわ。これほど綺麗に写真を撮れる人、私見たことないもの」

「そんなことは……」

 

褒められて照れる一夏。

そんな一夏を見てナターシャはクスリと笑う。

 

「こんな綺麗な写真を撮ってくれた織斑君には昨日の件も含めてお礼しないとね」

「お礼だなんて」

 

一夏が謙虚に返す最中にナターシャは目の前にある一夏の顔……一夏の頬にキスをした。

 

「あ」

 

その事に間の抜けた声を上げてしまう一夏。

驚かなかったのはその前に女将にも同じようなことをされたからである。

頬から唇を離したナターシャは少し照れくさそうに笑いつつもお礼を言ってきた。

 

「助けてくれてありがとう、My hero」

 

そして照れくさそうに急ぎ足でバスから出て行った。

その光景を目にした生徒達は一瞬固まったが、次の瞬間には、

 

「「「「「「キャーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」」」」」

 

バス内が黄色い声で溢れかえった。

その際特に声を上げたのは箒達五人なのは言うまでも無い。

一夏はその状態にどうしようもなく苦笑するしかなく、千冬はその光景に心底頭痛がして仕方なかった。

 

(何でこう……アイツは女に好かれるかな。このままじゃ単なる女たらしになるんじゃないかと心配だぞ、私は……)

 

そして発車するバスの中で箒達や他の生徒達に一夏は質問責めに遭い、千冬は胃薬と頭痛薬の残量を確認していた。

そして誰も気付かなかったが、この後一夏は自分の懐にナターシャの連絡先が書いてあるメモを見つけた。

 

 

 

 こうして臨海学校は無事に終わった。

その後も度々騒動に見舞われるが、その度にIS学園では黄銅の武者が活躍し事態を収めていった。

そしてまた、自覚無き善意のせいで一夏を慕う女性もまた、増えていったとか。


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