装甲正義!織斑 一夏   作:nasigorenn

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やっと書けた真改の無双回ですよ!


もしも一夏が別の劔冑を使ったら。 その20

 明けの空、いくつもの閃光が光り輝く。

それは戦闘の光。福音のエネルギー弾が爆ぜ、箒の紅椿の斬撃が火花を散らし、セシリアのレーザーやシャルロットの弾丸、ラウラの砲弾と鈴の衝撃砲がその輝きに彩りを加えていく。

一対五………圧倒的な数の利があるというのに、それを福音は軽々と覆していた。

軍用のISはそれのみを追求した物であり、その猛威を箒達へと振るっていく。

箒達はその猛威に果敢に攻めていった。

 

「えぇええええええええええええええええええいいいいいい!!」

 

咆吼二閃。

箒は全力で福音に向かって近接ブレード雨月・空裂の二刀を叩き付ける。

 

『La♪』

 

その攻撃を福音は片手で受け止めると、力任せに弾き飛ばした。

飛ばされた箒がすぐに体勢を立て直すと共に、福音に向かって衝撃砲と弾丸の雨が襲いかかる。

福音はその破壊の嵐を即座に察知すると、その身に搭載された高出力スラスターを使って通常では有り得ない機動で回避した。

そしてその嵐を放ってきた二人に向かって福音は顔を向けると、スラスターと一体化しているエネルギー兵器『シルバーベル』を全方位にばらまいていく。

当たった瞬間に爆発を引き起こすエネルギー弾がそこかしらに当たり、辺りを蹂躙していく。それに巻き込まれ、箒達もまたダメージを負っていった。

最初こそ数の利を活かし福音を撃墜にまで追い詰めた。

だが、そこから福音は二次形態に移行し、さらに強力になった火力を持って箒達に襲い掛かったのだ。

先程までとはまるで桁違いに強くなった福音に皆驚いたが、やるべきことは変わらないと再び挑む。

だが、先程と違って戦況は大きくかわり今度は箒達が追い詰められていった。

ISの産みの親たる篠ノ之 束が制作した世界初の第四世代機を用いてもその状況は変わらない。軍用とはそもそもの前提が違うからである。

箒達が使っているのは世界最強の兵器と名高くとも『競技用』である。それに対し、福音はそのままに『戦争用』なのだ。

一部に特化しているとは言え高性能機に、汎用性重視や実験機が勝てる道理はない。

それが如実に表れていた。

 

「なっ!? 速くて全然当たらない!」

「その上これまで以上の火力だなんて……」

「でも、それでも墜とさないと!」

「撃てぇええええええええええええええええええええええええ!!」

 

皆必死に攻撃を仕掛けるが避けられ防がれ、二次形態のなった時に発生したエネルギーによる翼での弾雨で反撃される。

結果、皆のシールドエネルギーは段々と減っていき、残り百いくらかしか残らない。

シールドもそうだが、消費していく体力、そしていくら攻めてもまったく衰えない戦闘力への精神的摩耗。それらが箒達を苛み、遂に箒が捕まってしまった。

 

「ぐうぅっ! は、離せ!」

 

首を捕まれ締め上げられる箒。

そのまま腕だけで近接ブレードを振るおうとするが、体勢の整っていない攻撃に威力など出るわけがなく、片手で弾かれてしまう。

 

『La♪』

 

福音は涼やかな機械音を上げると、その身に生やした八枚のエネルギーの翼を一斉に広げる。

それはその翼を使っての一斉砲火の挙動。

箒は目の前に煌々と輝くその光を見て、自分がもう終わったことを悟る。

 

「一夏………」

 

咄嗟に出たのは想い人の名。

箒の中で昔から変わらずに優しく強い幼馴染み。

死ぬ前くらい、好いている男の事を想う。そしてゆっくりと目を閉じようとした。

その時………福音が目の前から弾き飛ばされた。

 

「え………?」

 

その事実に気の抜けた声を上げてしまう箒。

福音は急に来た攻撃に戸惑ったのか、辺りを見回しながら警戒していた。

何が起こったのか? それはこの場にいる全員が分からなかった。そんな皆に、彼が声をかけた。

 

「大丈夫だったかい、みんな?」

 

それはこの場には似つかわしくない優しい声。

全ての者を包み込む柔らかな声であった。

そして、この場の皆が知っている、否、知りたくて堪まらない人物の声である。

その声と共に、皆の前に飛行してきたのは、黄銅の武者。

その姿を見た途端、皆はほぼ同時にその者の名を呼んだ。

 

「「「「「一夏!!」」」」」

 

皆その名を口にすると共に、笑顔になる。

その笑顔を見て、彼……織斑 一夏は安心した様に笑った。

 

「みんな無事で良かったよ。怪我とかはしていないかい?」

「ああ、お前の御蔭で大事ない」

「みんな擦り傷とか軽い火傷程度よ」

「此方も問題無しですわ」

「みんな無事だよ」

「嫁は心配性だな」

 

一夏の柔らかい声によってさっきまで弱っていた精神を持ち直した箒達は自分達の状況を知らせる。

それらを聞いて一夏は良かったと一人呟くと、皆に向かって安心させる様に大きな声で言った。

 

「これからここは危なくなるから、みんな俺の後ろに下がってくれないか!」

 

その言葉に皆食い付く。

 

「何言ってるんだ、一夏! 私達も共に戦うぞ!」

「そうよ! 手が多いに越したことはないわよ!」

「そうですわ! それに如何に強い劔冑でも、接近戦しか出来ないのでは不利。ここは私達が一緒になって戦った方が!」

「一夏、いくら一夏が強いからって、相手は軍用なんだよ! 無茶しちゃ駄目だよ」

「嫁よ、あまり寝言を言ってくれるな! この程度で退くほど私は弱くない!」

 

皆一夏を心配しているからこそ、そう答えた。

相手は軍用IS。如何に一夏が世界に挑んでいる劔冑の仕手であろうと、勝てるかは分からないのだ。誰だって心配する。

ならば、皆が言う通りに全員で一緒に戦った方が勝率も上がるのは言うまでも無い。

だが、一夏はそれを良しとはしなかった。

 

「あまり困らせないでくれ。美しい者達が傷付いていくのを見ているのは、とても心苦しいよ。俺はみんなに……大切な人達に傷付いて欲しくないんだ」

 

その言葉に皆顔を赤らめた。

一夏としては本心からの言葉であり、皆に向けて言った言葉。

だが、箒達にとっては『大切な人』という部分が自分だけにすり替わっている。

戦場だというのに、何やら可笑しな雰囲気を醸し出し始めた。

何とも甘酸っぱい光景だが、それを待ってくれる者などいるわけがない。

 

『La♪』

 

福音が一夏に向かって全砲門による一斉放射を放ってきたのだ。

それは箒達を大変苦しませたもので、直撃すればISは無事では済まない。無論、劔冑とて例外ではないだろう。

それに気付いた箒達は皆悲鳴のように一夏の名を叫ぶ。

 

「「「「「一夏ぁああああああああああああああああああああああああ!!」」」」」

 

迫り来る光の大渦に一夏は軽く振り返ると、言葉を紡ぐ。

 

『狂意操』

 

その言葉と共に……突如として水柱が起った。

かなり巨大な水柱。それが福音の砲撃を受け止めてはじけ飛ぶ。

当たった瞬間に爆発を起こすも、海面から持ち上がっている水柱は収まることを知らず、一夏の前でその破壊の嵐を防ぎ切って見せた。

その突然の事態に箒達は絶句する。

それは福音も同じらしく、明らかに可笑しい事態に行動が停止してしまう。

何せ、何もやっていないはずの海水が急に隆起したのだから。

それを見てか、一夏は皆に分かるように、まるで教師が生徒に授業を行うように説明を始めた。

 

「そう言えばまだ教えていなかったね。前に劔冑には二種類あることは教えたね。そう、数打と真打の二つだ。数打は量産型で、真打は刀鍛冶が全身全霊を込めて打った世界で一つだけの代物だよ。そしてその真打の中でも、業物と呼ばれる特上の劔冑には、人智では考えられない特殊な能力を宿す物があるんだよ。武者の間ではこれを陰義と呼び、陰義を使える劔冑を持つ者は一流の武者として崇められたんだ」

 

そう説明する一夏に再び福音は砲撃を仕掛ける。

今度は身体全体をコマのように回転させての全方位砲撃。

それは一夏のみならず、箒達にも飛んで行く。

だが、その牙は箒達には届かない。

 

『狂意操』

 

先程一夏を守った物と同じ水柱が箒達の前にも出現しエネルギー弾を防いだ。

突然現れた水の壁に箒達が驚いたのを見て、一夏は少し面白そうに笑う。

 

「そして俺の劔冑『真改』の陰義は液体操作。液体であれば何でも操れるんだ。だからこんな風に」

 

その途端、海面から大きな水の玉が飛び出し福音に激突した。

 

『っ!?』

 

その衝撃に吹き飛ばされる福音。

突如減ったシールドエネルギーにどう反応して良いのか判断が鈍っているようだ。

一夏はその様子にニッコリと笑いながら語る。

 

「液体を好きなように出来る。そしてここは液体溢れる海だ」

 

事実上福音は勝てないことを間接的に伝える一夏。

しかし、福音は暴走していて聞く気はないようだ。

一夏はその事を残念に感じていた。

一夏から見て、今の福音は『美しい』のである。

それを止めるために倒さないといけないと思うと、心苦しくて堪らない。

だが、止めなければ箒達が危ないのだ。ならば……致し方ない。

故に一夏は悲しそうに福音に告げる。

 

「貴方のような美しいものを傷付けてしまうことが悲しくて仕方ない。だが、そうしなければ箒達が……俺の大切な美しい人達が傷付いてしまう。それは絶対に許せないんだ。だから………安らかに眠ってくれ」

 

それは悲しみを押し殺しながら、それでも美しいものへの敬意を払った懺悔の言葉。

福音と、それにその操縦者への謝罪の言葉。

そして…………

 

「そしてこれは………」

 

先程の悲しみに満ちた声から一転し、一夏は深い怒りを込めた声で叫ぶ。

 

「この光景を! 美しいものを汚そうとする輩への怒りと知れ! 見ているのだろう! ならば、しっかりと目に焼き付けておけ!!」

 

その叫を上げた途端、まるで嵐のような殺気に箒達は凍り付いた。

 

「「「「「!?!?」」」」」

 

彼女達が知っている織斑 一夏からは考えられない殺気に皆心の底から恐怖が湧く。

それを察することが出来ない福音はそのまま一夏へと襲い掛かってきた。

一夏はそれを見るや刀を福音に突く付け、そして呪句を口にした。

 

『曲輪来々包囲狂、暮葉紅々刳々刃』

 

今までとは違う呪句。

それはより陰義を使うための……力をより発揮するための呪句。

それを唱え終わると共に、海水で出来た巨大な百足が福音に向かって襲いかかった。その数は四匹。一匹が二百メートルもあり、その巨躯を活かして福音に絡みついていく。

福音は力任せに引き千切ろうとするが、巻き付いているのは水であり、触ったところで手から流れてしまう。

そしてその身の水圧によって福音は動けなくなる。

一夏はそんな福音に最後の言葉をかけた。

 

「貴方には罪はない。こうしてしまうことを……許して欲しい」

 

そして再び、必殺の呪句を口にした。

 

『曲輪来々包囲狂、暮葉紅々刳々刃』

 

その言葉と共に巻き起こったのは、全てを粉砕する水の竜巻。

その激しい流れはミキサーの如く、中に入った物を破壊し尽くす。

竜巻は凄まじい速度で拘束していた福音を飲み込み、そして空へと打ち上げた。

その光景に箒達は息を呑む。

それまで苦戦していた、あの福音が僅かの時間で大破状態にされたのだから。

福音が竜巻から出た後の状態は凄まじく酷くなっていた。

装甲はひび割れ火花を散らし、あれだけ脅威だったエネルギーの翼は全て霧散していた。

すでにエネルギーは底を尽きたようで、その身体に力は無い。

一夏は鞘に手をかけながら福音に向かって合当理を噴かし突撃する。

 

「おぉおおおおおおおおおおおお! 吉野御流合戦礼法、迅雷っ!!」

 

その一撃によって福音のマスクが真っ二つに切り裂かれた。

そして福音が完璧に機能を停止し解除される。

中の操縦者を一夏は受け止めると、操縦者の安否を確認する。

どうやら外傷はないようだが、酷く衰弱している様子。意識は何とかあるようだ。

 

「あ、あなたは………」

 

助けられた操縦者の女性は見たことのない劔冑に若干の怯えを見せる。

その様子に一夏は顔の部分だけ装甲を解除した。

途端に一夏の顔が表に現れる。

 

「もう……大丈夫ですからね」

「あ………」

 

見る者全てを安心させる笑みを柔らかく向けて、一夏はそう答える。

その笑顔を見た瞬間、その操縦者が安心すると共に意識を失ってしまった。

だが、その顔は何やら幸せそうな表情をしていた。それと同時に、恋をした少女のような顔になっていることに一夏は気付かなかったのだが。

それを見届けて一夏は箒達に声をかける。

 

「さぁ、帰ろうか」

 

日の出と共にそう言う一夏の姿は余りにも少女達には格好良く見えて、しばらくの間見惚れてしまっていた。

 

 

 

 こうして、福音の暴走は終わった。


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