「織斑君、篠ノ之さん、ちょっといいですか~」
そう言って山田先生が部屋のドアを開けた。
時刻は既に十時過ぎ・・・このような時間に教員が来ることは普段はまずあり得ず、つい身構えてしまう。
「山田先生、どうしましたか? 何か問題でもありましたか」
「いえいえ、そう言うわけじゃないですよ」
そう言って一旦言葉を切り、勿体ぶったように溜めると、
「実はやっと調整が終わりまして・・・織斑君の部屋が決まりました!!」
おお、やっと決まったらしい。結構長かったから忘れていた。
「それで・・・どこの部屋なんですか?」
俺が少しばかり期待して聞くと、何故がばつが悪そうな顔で先生が答える。
「それが・・・・・・ここなんですよね~」
「へ?」
「部屋をどうやっても確保出来なかったんですよ。なので織斑君にはこのままでいることになったんです。ですがいつまでも男女一緒の部屋と言うわけにはいきませんから。会議の結果、篠ノ之さんに他の女子のいる部屋にお引っ越ししてもらうことになりまして・・・」
「えぇえええええええええええ!!」
箒が大きな声で驚く。
驚いたのは分かるが、もう夜なのだから少しは周りのことも考えてもらいたい。
『小娘、うるさいぞ! 今が夜だとわかっておるのか!!』
さっそく正宗に怒られてしまった。コイツはコイツで音量というものをもう少し考えてもらいたいものだ。言っていることは正しいのだから・・・
「い、今からですか!?」
「ええ、申し訳無いんですが・・・荷造りは私も手伝いますよ」
「いえ、先生は廊下で待っていて下さい」
箒はそう言って山田先生を廊下で待ってもらうようだ。
「俺と正宗も手伝おうか?」
「いや、いい・・・」
箒は何故か意気消沈としていた。
(なんでこうなってしまったんだ!!)
いきなりの宣告に私は気分が沈んでいく。
この学園に来てからライバルがどんどんと増えていく気がしていた。
一夏は格好いい奴だ、好かない者がいないくらいに・・・少なくとも私の中ではそうだ。
たぶん・・・これからもライバルは増えていくだろう。そのライバルに差を付けるためには、今の状態は重要だった。
幼馴染みという利点は鈴の存在で希少価値が減り、私自身はセシリアのように華麗ではないし、山田先生のように母性的(特に一部も含めて)でもない。
私にある優位点と言えば、この同室ということだけだった。
正宗がかなり邪魔だったが、それでも同室というのはそれだけで大きなアドバンテージだ。
それを今から失う。拒否のしようもなしに。
私は窮地に立たされたというわけだ。
たぶん、このアドバンテージを失ったら私は他より出遅れる。
そうなったら・・・たぶん、勝ち目は低くなる。
ならば!!
(今、告白するしかない!!)
この先が見込めないかもしれないという以上、先手を打つ以外に勝ち目などない。
きっと顔が真っ赤になって仕方なくなっていると思う。たぶん呂律がちゃんと回ってるか不安になってくる。しかし構うものか!
私は意を決して告白を決め込んで一夏に振り返った。
「い、一夏! あの・・・」
「ど、どうした、箒。そんな大声を上げて」
「よく聞け! 来月の学年別個人トーナメントで私が優勝したら・・・つ、付きあ『御堂、けいたいでんわ、が鳴っておるぞ』う!!」
私はそう言って恥ずかしさのあまり部屋を出て行ってしまった。
返事は聞いてないが、たぶん大丈夫だと信じたい。
廊下で呼ばれたような気がしたが、私は全力で走っていたので気にもならなかった。
私は笑みが止まらず走り続けた。面子はいいのか? と言われても、今この時ばかりは気にしてなどいられない。それほどに私は興奮しているのだから・・・・・・
箒が何か大声で学年別個人トーナメントがどうのと言って部屋を出てったが、俺は正宗に言われて見た携帯の画面を見て、顔が真っ青になっていくことが嫌でも意識できた。
画面には・・・・・・
『足利 茶々丸』
そう出ていた。