ここの一夏はマジイケメンです。
鈴と一緒に泳いだ後、一夏は砂浜で一息入れていた。
休んでいるといっても、手に持ったカメラは常に動き廻り、その手はシャッターを切り続ける。
海で泳ぐ者、砂浜でハシャぐ者、寝っ転がって身体を灼いている者。
様々だが皆この海を満喫している。一夏はそんな皆をカメラに納めていくのだった。時に一夏に気付いて写真を撮るようお願いする者もいて、一夏は勿論それに応じる。
基本自然体を好むが、此度は皆での臨海学校。楽しんでいる姿こそが一番であり、その喜びを撮るのに自然体も何もないのである。
細かいことは言わず、皆が楽しんでいる記念として一夏は喜んで写真を進んで撮っていくのだ。
「い~~~ちかっ!」
休みつつも写真を撮っていた一夏に弾むような声がかけられ、一夏は声がした方へ向くとそこには水着を着たシャルが立っていた。
臨海学校の前に一緒に買いに行った黄とオレンジの太陽をイメージさせるようなタンキニとビキニの中間のような水着を着ている。
細身故に着やせするようで、シャルのスタイルの良さが際立っていた。
一夏はそんなシャルを見て即座にカメラを構えて写真を撮った。その際の動作は武者としての身体能力が遺憾なく発揮されており、シャルがそれに気付いた瞬間にはもうシャッターを切り終えてた後である。
「い、一夏!? いきなり撮らないでよ! 撮るんだったら声をかけてくれればいいのに……へ、変な所、ないよね……」
写真を突然撮られたシャルは驚きと恥ずかしさで顔を真っ赤にする。
やはり女の子としては、写真を撮る前に軽く身仕度は取りたいものである。
その事に一夏は苦笑する。
『美しいものは即座にシャッターを切る』
そのためには相手の許可を取らずに無意識に写真を撮ってしまうことが多々ある。
これだけは未だに治らない癖であり、一夏も何とかしようとは思っているのだが、骨身に染みた癖が抜けることは中々に難しい。美しいものを撮るためなら尚のこと。
「すまないな。とても綺麗で可愛かったから、意識する前に取ってしまったよ」
「そ、そうなんだ! 僕、可愛い?」
「ああ、意識せずにシャッターを切ってしまうくらい、シャルは美しく可愛いよ」
「そ、そっか~……うふふふふ」
想い人に褒められ、頬を染めて喜ぶシャル。
その様子もまた可愛らしく、一夏はそれも静かに撮っていた。
そして先程からずっと目に入っている物について、シャルが落ち着き始めるのを見計らって一夏が聞いた。
「ところでシャル。先程からずっとそこにいるタオルを一杯巻いているのは誰だ?」
一夏の声を聞いて、その『全身にタオルを巻いたミイラ』のような物がビクッと動きそのままシャルの後ろへと移動しようとする。
シャルはそれを見て仕方ないなぁ、と苦笑しながらそれを捕まえた。
「もう、ラウラったら。せっかく似合ってるんだから見て貰おうよ。一夏ならきっと写真を撮ってくれるって」
「そ、そんなことない! 私にはこんな恰好……」
シャルが捕まえているのがラウラだと分かると、一夏はラウラにゆっくりと近づき笑顔を浮かべる。
「ラウラ、せっかくの水着姿、俺に見せてはくれないか。きっと可愛いと思うからさ」
「あ、あぅ~~~~~……」
ラウラは一夏に褒められ顔が一気に上気するのを感じ、切羽詰まる。
そして半ば自棄になりつつも身体に巻いていたタオルを全て剥がした。
「ど、どうだ? 似合っているか?」
羞恥で顔を真っ赤にしてラウラが身体を隠すように抱きしめつつ一夏にそう聞くと、一夏は何も答えない。
ラウラの姿を見た一瞬に、一夏はカメラを構えて写真を撮っていたからである。
そしてその事にラウラは言い終えた後に気付き、更に恥ずかしがってしまう。
そんなラウラと一夏を見てシャルが苦笑する。
「ラウラ、一夏の反応は見たでしょ。ラウラにとっても似合ってるから一夏は一夏が写真を撮ったんだよ」
「そ、そうなのか、嫁」
不安に揺れる瞳で上目使いに見つめられた一夏はまたやってしまったと反省しつつもラウラに答える。
「ああ、とても良く似合っているよ。美しい銀髪に黒い水着が実に映え、真っ白な肌がさらにそれに深みを加えていて一種の芸術品のようだ。とても綺麗だよ、ラウラ」
「はぅっ!? そ、そうか……嫁がそう言うのならそう何だろう……」
恋する乙女の反応というのは皆同じであり、ラウラも先程のシャル同様頬を赤らめながら恥じらうが、その顔は喜びに満ちている。
一夏はそんな二人を見て、ふと思った事を洩らした。
「こうして二人を一緒に見ると、まるで太陽と月のようだね。ふふふ、太陽と月の女神がいたのなら、こんな感じなのだろう。二人とも、とっても似合っていて美しいよ」
一夏はそう良いながら二人を一緒のフレームに納めて写真をと、そのシャッター音と共に言われたことに気付いた二人はさらに恥ずかしがって顔を真っ赤にしていた。
「そ、そんな、女神だなんて……」
「そ、そうだぞ……」
だが、その顔はやはり嬉しそうである。
一頻り一夏に褒められたことを反芻し味わっていた二人は、当初の目的であることを思いだし一夏に話しかけた。
「ねぇ、一夏。一緒にビーチバレーしない?」
「そ、そうだ、嫁よ。一緒にビーチボールをやらないか?」
二人の期待が込められた視線を受けつつも、一夏は申し訳なさそうに笑った。
「すまないな、二人とも。まだ泳いできたばかりで疲れているから断らせて貰うよ。それにまだ写真も撮りたいからね」
「そ、そうなんだ……」
「そうか………」
断られた二人は落胆してしまう。
そんな二人を見て一夏は優しそうな笑みで話しかける。
「だけど、その分二人が頑張っている姿を精一杯撮らせてもらうよ。だから一杯楽しんでほしいな」
一夏のその優しさに触れ、二人は顔を赤らめつつも気を取り直した。
「うん、わかったよ」
「ああ、楽しんでくる!」
一夏にいいところを見て貰い写真を撮って貰おうと考え治した二人は、満面の笑みを浮かべて砂浜のバレーネットへと向かって行った。
一夏はその後少し休むと、二人の頑張っている姿を取ろうと試合をしている所へと向かう。
コートの周りでは他の生徒も集まっており、皆試合を観戦して白熱していた。
そしてコートの中では、シャルとラウラの二人が活き活きと動き、相手を圧倒していた。
そのコンビネーションは素晴らしく、まさに阿吽の呼吸で澱みなくボールを相手のコートへとたたき込んでいく。
動いている姿もまた可憐でありながら力強さがあり、とても美しい。
一夏はそんな頑張っている二人を応援するかのようにシャッターを切っていく。
その音に二人はさらに張り切っていた。
そんな白熱している試合に突如乱入者が現れた。
「ふむ、楽しんでいるようだな」
「そうですね~」
皆がその声の方を振り向くと、途端に喜声が上がる。
「「「「「キャーーーーーー! 千冬様よぉーーーーー!!」」」」」
声の通り、来たのは千冬と真耶の二人である。
二人とも皆が見ている中を悠然と歩いている。
「きゃぁああああああああ! 千冬さまの水着姿、格好いい!」
「スタイルすっごーい! 私もあんなふうになりたいな」
「山田先生も胸、すっごい大きい! 織斑先生より大きいんじゃない」
「先生方の水着、すっごく似合ってる!」
千冬は黒のビキニを着ていて、余すことなくその美貌を見せつけている。真耶は黄色いビキニを着て千冬の後ろを付いていくが、その身長からは考え付かないほどの大きな胸が皆の視線を集めた。
二人の水着姿を見て、当然と言うべきか一夏はシャッターを切る。
その音に気付いた千冬は一夏の方に向かって歩き、ジト目で睨み付けた。
「断りもなく勝手に撮るのは感心しないな」
「いや、すみません。あまりにも二人とも美しかったものですから、つい」
千冬の視線を受けて一夏は苦笑しながら答える。
そこには下心という物がまったく感じられない。
それ故に千冬は叱るべきかその歳では有り得ないことに嘆くべきか悩む。
「そ、そんな、綺麗だなんて……。織斑君に褒められるのはやっぱり嬉しいです……」
真耶が顔を赤らめ恥じらいつつも褒められたことを喜んでいると……
「もしかして…」
「むぅ…」
その事に気付いたシャルとラウラの顔が若干変わった。
それは自分と同種であるということを認識したときの物であることは、女性なら誰でもわかることである………一夏は全然分からないのだが。
そんな三人に千冬は苦笑しつつ、自分達もビーチバレーに参加すると言ってきた。
それを聞いてシャル達と戦っていた子達がコートを退き、変わりに千冬達が入る。
「それでは……いくぞ、小娘ども」
「いつもは弄くられてばかりですけど、ここで大人として力の差を見せてあげます!」
意気込む二人とそれに若干怯みつつもシャル達の試合はこうして始まった。
試合は中々良い試合となっているが、やはり千冬がいることが大きくシャル達が押されていた。
そんな試合の中、一夏は頑張る四人の写真を取り続けていた。
思いっきり弾む胸、弾けるように飛び散り陽光を浴びてキラキラと輝く汗。砂浜を駆け抜けボールを追いかける姿。余すことなく一夏はカメラに納める。
ここで年頃の男なら、真耶の一番大きな巨乳や千冬の美貌に夢中になる所であり、仮に写真を撮ったとしても嫌らしいかったり際どい写真ばかりになるのが当然なのだが、一夏が撮った写真からはそんなことは全く感じられない。
皆一生懸命に試合をしており、それを楽しんでいることが良く分かる。とても『輝いている』写真ばかりなのである。
それが分かるからこそ、皆一夏に写真を撮って貰いたがる。一番綺麗で美しい自分を撮ってくれるから。
その事に千冬は少々複雑でならなかったりするのだが…。
試合が終わるまで、一夏のシャッターが鳴りむことはなかった。
皆が楽しんでいる中、一人だけ崖の上で憂鬱そうにしている少女がいた。
長い黒髪をポニーテールに纏め、真っ白いビキニに豊満な胸を包み込んでいるその姿は、年頃の男子ならば固唾を飲み込むだろう。
そんな少女にさっきまでビーチバレーの写真を撮っていた一夏が近づいて行く。
「どうしたんだ、箒? こんなところで」
「い、一夏か……」
一夏に呼ばれた少女……箒は一夏の登場に若干驚きつつ振り返った。
「いやな、ちょっと考えいることがあって……」
箒はそう答えつつ、表情を暗くする。
その様子に一夏は心配し、明るい声で話しかけながら箒に話しかけた。
「箒、今は楽しむ時間だよ。きっと箒のことだから真剣に考えているんだと思う。でも、それは今考えなければならないことかい?」
「いや、そんなことは……」
言い淀む箒に一夏は笑いかける。
「考えることはいつだって出来る。でも、こうして皆と遊ぶことは今しか出来ないんだ。だから箒、今は精一杯楽しんできなよ。暗い顔をした箒はあまり写真には撮りたくないんだ。俺は笑顔の美しい箒の写真が撮りたい」
そのまるで言い替えれば告白にもプロポーズにも聞こえる台詞に箒の顔は一気に真っ赤になった。
「なっ、なっ、なっ!?」
そんな箒に一夏は笑いつつ、箒の手を掴んだ。
「だから箒。みんなの所にいこう!」
一夏にそう言われ、箒は頭の中を混乱させつつみんながいる砂浜へと引っ張られていった。