3人の模擬戦に介入し茶々を入れて3人を激怒させた一夏。
その後は3人にISで襲われるが、持ち前に武者としての身体能力を最大限に活かし難なく全てを回避してのけた。
そしてその追い駈けっこは教員が来るまで繰り広げられたわけだが、生身にISの武器を向けた3人はその場で厳重注意と罰としてかなりの量の反省文を提出させられることになったが、一夏にはお咎めはなかった。
理由としては一夏自身が直に何かをした訳ではないということだが、変わりに千冬から出席簿の攻撃を連発で喰らうことになった。
それを見事と言うまでに喰らった一夏だが、その顔は相も変わらず笑顔だったとか。
翌日になり急遽トーナメントがタッグマッチ形式に変更されたということの知らせがプリントで配られたのだが、それによりやはりと言うべきか騒ぎが起こった。
この学園に現在通っている二人の男子である片割れである一夏に向かってペアを組んでくれという女子が大量に押しかけてきたのだ。
勿論、その場で一緒にいたシャルルもその標的である。
こう言っては何だが、織斑 一夏は……このあまりに面白いことが大好きで凄まじい助平の少年に何でここまで人が集まるのかが不思議で仕方ないと、世の男子が見ていたのなら10人が10人全員言うだろう。
だが、ここの女生徒から言わせて貰うのなら、
「最近にはいない肉食系男子!!」
「常に余裕を持ったあの笑顔に大人っぽさを感じちゃう!」
「私も襲って欲しいっ!!」
stc、etc……………
まぁ、この言わば女しかいない環境にまさに劇薬としか言いようがない一夏は良い方で皆からの人気を得ていたわけだ。
そんな一夏には当然このタッグマッチで親しくなろうという思惑を持って女子が集まるのだ。
そんな女子達に囲まれた一夏はというと、
「いやぁ~、こうも見目麗しいおなごに囲まれて求められるというのは、実に男冥利につきるのう」
と、いつもと変わらない笑顔を浮かべつつそんなことを言っていた。
世の中の男子が求める状況にとてもご満悦な様子である。
それに関して現在一夏と親しい箒、セシリア、鈴は顔を真っ赤にして怒りつつも周りと同じように組むよう一夏を求めていた。
恋する乙女は何とやら。
箒と鈴からすれば劇的に変わってしまった一夏だが、その内にある本質その物は変わっていない。
その本質……他者のことを自分より優先する優しさ。
二人の少女が好きになったそれが変わっていないことで、未だこの二名は一夏のことを慕っている。
セシリアもほぼ同じだが、此方はそれに続いて男らしい強引さにも心惹かれたからである。良家のお嬢様にこのちょい悪は結構気になるものらしい。
正直騙されているとしか言いようがないが………。
そんなふうに押し寄せてくる女子にどうしようかと頭をペしペしと叩きながら考えていた一夏だったが、あることを思いつき手をポンっと打った。
「ふむ……せっかくの皆のお誘い、実に嬉しいものだが、それがしは出来ればシャルルと組みたいと思うておる。一緒の男子ということもあるしのう。皆、申し訳無いなぁ」
そう答えると、皆仕方ないと引き始めた。
まぁ、ここで他の女子と組まれるくらいなら同性の彼と組んで貰ったほうがマシと判断下からである。
その引き際に一夏は皆を呼び止め、
「此度は本当に申し訳無いと思っている。故にそれ以外で誘いがあるのなら、是非受けさせて貰おう。無論、閨も構わぬよ」
そう言われた女子……特に日本人の少女達は顔を真っ赤にしてた。中には鼻血を出して倒れる者もいたようだ。
外国の少女にはただ今回は仕方ないから次回何かあったら誘ってくれという風にしか理解できなかったので、笑顔でその場を去って行ったが………後に意味を知って真っ赤になったとか。
そんなことを聞いて黙っていられないのが最も親しい三人。
セシリアだけは最初古風な言い回しに理解が出来なかったが、箒に意味を教えられ顔を真っ赤にして湯気を出していた。
「一夏、何と言うことを言っているんだ、お前はっ!」
「そうよ! もし真に受けちゃった子がいたらどうするのよ、このスケベ!」
「そうですわ! 不潔です!!」
怒りと恥ずかしさで顔を真っ赤にしつつ詰め寄る三人に一夏は変わらない笑顔で答える。
「なぁに、少々からかったまでのこと、そこまで怒ることでもなかろう。それがしが冗談が好きなのは皆知っておろう」
そう答えられ怒るに怒れなくなる三人。
実際にそうであり、仮に真に受けたとしてもこの少年な難なくはぐらかせそうだと三人は今までからかわれてきた経験で理解出来てしまっていた。
故に何も言えない。
そして三人を黙らせた後、一夏はシャルルの方に笑顔を向ける。
「そういうわけだ、シャルル。ペアを組んで欲しい」
「う、うん! わかった、一緒に頑張ろう」
未だ男子だと周りから認識されている少女、シャルロットは意中の相手にそう言われ、内心で歓喜する。
ただし………先程の言葉の意味を理解して複雑にもなっていたが。
確かにはぐらかすことは出来るだろうが、目の前の少年は自分を手込めにして、それを自分の実の父親の前で自分の胸を揉んで見せつけるようなことを難なくやってのける人物である。
寧ろそのスケベさなら、据え膳何とやらで美味しくいただいてしまわれるだろうと、本能で察せられるからだ。
半分喜び、半分どうしようもない感情に締められ、少女は複雑に思いながらも一夏とタッグについて話し合うことにした。
一方、別の所ではとある少女と教師が相対していた。
片方は長い銀髪をした小柄な少女。もう一方は黒髪に鋭い目つきをした教師である。
銀髪の少女……ラウラは目の前にいる尊敬を通り越して崇拝している教師である千冬に声を荒立てながら聞く。
「何故ですか! 何故こんな所で教師などっ!!」
「何度も言わせるな! 私には私の役目がある、それだけだ」
彼女は千冬の御蔭で一時期落ちこぼれていたところからまた部隊最強へとのし上がることが出来た。その教育能力、過去にあった栄光にある通り最強の力に少女は惚れたのだ。
そんな惚れた人がこうしてその能力を存分に活かすことが出来ないことに少女は我慢が出来なかった。
「こんな極東の地で何の役目があるというのですか! お願いです教官、我がドイツで再びご指導を……ここではあなたの能力を半分も生かせません!」
それは命令半分、自分の願いが半分の言葉である。
ここで昔ならこの後それ以外の者達を馬鹿にする様な発言をしたのかも知れないが、ここにきて色々と世話になった身としてそんなことは言わない。それに彼女としても、他の代表候補生と仲良くなったのは喜ばしいことで、自分とは違う考え方を持つ者の思考には色々と感心させられよく勉強になっている。
ラウラの願いに千冬は軽く溜息を吐きながら答える。
「もう一回言うが、私には私の役目がある。それにこれもお金を貰っての仕事だ。そう簡単にほいほい止められるような物でもないし、国が許すわけもない」
「ま、まぁそうですよね………」
ラウラ自身、願ってはいてもその通りにいかないことは知っている。
ここに来る前ならそんなことは気にしなかったが、皆に世話になっている際に世情や常識についても色々と学ぶ機会が多くあり、職業を簡単に辞められるようなものでないことは知識として知っていた。
故にそう答えるしかない。何より、崇敬する千冬を困らせるのはラウラの本意ではない。
だが、これだけは聞かなければならないことがあった。
「この話は取りあえず置いておきます。ですが、一つだけよろしいでしょうか?」
「何だ?」
しつこい話に解放されたためか、少しすっきりした千冬がそう聞くが、次にラウラが聞いてきたことに顔を凍り付かせてしまう。
「何故………あなたの弟である織斑 一夏はああも…その…え、エッチなんですか!!」
「ッ!?」
ラウラは昔、ドイツで千冬に指導を受けていた時に聞いてみたことがある。
何故、千冬はそうも強いのかと。
それに対し、千冬は少し優しい、それでいて悲しみの籠もった笑顔で答えた。
「私には弟がいたんだ。そいつを守るために強くなったんだが、守れなくてな……」
その時は身内を守れなかったことへの後悔だとは気付かなかった。
その言葉でラウラは調べてみた結果が、第二回モンドグロッソでの千冬の決勝戦不戦敗による二連覇を成せなかった原因が一夏にあることを知って激怒した。
栄光ある千冬に泥を塗った人物が許せなかったのだ。
だが、未だに行方不明の人物に怒っていても仕方ないとその激怒の炎を胸に秘めた。
そして度々千冬に一夏がどんな人間だったのかを聞いたのだが、その結果が、
『誰にでも優しく、仲間を助けるために身を晴れる好青年』
と言うことだった。
ラウラ自身、何も知らないで会えたのなら好印象を抱いたであろう。
それぐらい、千冬は一夏のことを良く語ったのだ。
それが少ししてから武者としていきなり一夏が現れた。
それで秘めていた激怒の炎が再燃しぶつけに来たわけだが……
「教官が言っていたのとは全くの別物ではないですかっ! とんでもなくエッチで破天荒なことが大好きな自己中心的な人物ではないですか!」
聞いていた話とはがらりと違うことにラウラは激しく突っ込みたかった。
出会い頭に先制して一撃を加え、千冬の弟として認めないと言い放とうと、したら逆に返り討ちに遭い、挙げ句の果ては皆が見てる前で胸を揉みし抱かれて気持ち良くなってしまった次第。正直恥ずかしさで目も当てられない目に遭わされてしまった。
確かにその御蔭でクラスの皆とは仲良くなったのだが、それとこれとは別問題。
それからというもの、千冬に泥を塗ったこと以外にも辱めを受けた怒りも込みで一夏を睨み付けている。
アレの所為で、たまに身体が熱くなって落ち着かなくなることがあり、どうして良いか分からなくなってしまうことに。
その原因である一夏を許せるわけがない。
正直詐欺としか言いようがない。
その件について千冬に言及したラウラだが、千冬の顔を見てそれを止めてしまった。
「………何で……何であんなふうになってしまったのか……私には分からないんだ。この二年間でアイツに何があったのか………口調もすっかり変わってよく笑うようになったが……だからってアレは………。確かに昔は唐変木の気があったから心配だったが、今はそんなことはないのだろうか? でも、だからって………私の弟がこんなにスケベに……」
目のハイライトが消えてぶつぶつと喋る千冬をラウラは見ていられなくなり、優しく肩に手を乗せた。
「教官……確か教官はお酒が好きでしたよね。ドイツの部隊に頼んで送って貰いましょうか。ドイツはビールで有名ですから」
その優しさに触れて千冬はラウラの方に顔を向ける。その瞳には若干ながら光が戻りつつあった。
「……ソーセージも頼めるか………」
それを聞いたラウラは優しく微笑みながら頷いた。
「ええ、勿論いいですよ」
「……すまん………」
そして悟った。
この話は千冬に振るのだけはいけないと。
誰よりもショックを受けているのは千冬なのだと。
その後、ラウラは千冬を寮の自室まで送り、千冬に約束した通り部隊に連絡を入れてビールとソーセージを速宅で送ってもらうことにした。
両者とも何かしらあったが時間が流れ、あっという間にトーナメント当日になった。
そして発表された対戦表には、
『第一試合 織斑 一夏、シャルル デュノア VS ラウラ・ボーデヴィッヒ、篠ノ之 箒』
と出ていた。
これを見た二人は互いを見合うと頷き、一夏の方を向いた。
「「貴様のそのエッチな精神、叩き潰してくれるっ!」」
そんな声が控え室に木霊した。