装甲正義!織斑 一夏   作:nasigorenn

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今回も長い!

そして戦闘があまり熱くないですよ……

ぎ、ギブミー……砂糖……


もしも一夏が別の劔冑を使ったら。 その2

 先の試合にて、一撃でセシリアを沈めた一夏。

その事に皆驚愕し恐怖を浮かべる。

その恐怖を一番に味わったのは、直に戦ったセシリアであった。

あの後、セシリアは保健室で目を覚ました。

目覚めた当時は何故自分がそこにいるのか分からずにいたが、すぐに思い出した。

あの圧倒的な武を! ISに乗っているセシリアの意識を、たった一撃で刈り取る凄まじい威力を!

それを思い出した瞬間、セシリアは恐怖に震え上がった。

体が芯から凍り付いていくような寒気が全身を襲う。まるで心臓を直に握りしめられているかのような苦しさが息を詰まらせる。

そんなふうに恐怖に打ち震えているセシリアに突如来客が来た。

その事にびくっとしつつ、セシリアは急いで自分の身を簡単に整えると来客に応じる。

 

「ど、どうぞ……」

 

その声と共に開いた扉。そしてそこから出てきた人物にセシリアは息を呑んだ。

 

「あ、あなたはっ!?」

「ふむ。その様子なら大丈夫なようだな」

 

保健室に入ってきた人物。

それは先程までセシリアを恐怖のどん底に叩き落とした張本人である織斑 一夏であった。

一夏はセシリアの様子を見てから普通に近くの席に堂々と座る。

セシリアは更にきた恐怖に気絶しそうになったが、意識をしっかりと持って堪える。そしてそのまま気丈に振る舞うよう心がけながら一夏に話しかけた。

 

「な、何の用ですの!」

 

気丈にしようとしていることが丸わかりな声にセシリアは顔が熱くなるのを感じる。

それは誰が聞いてもわかる声であり、無論一夏も察した。

 

「そう怖がるな、セシリア・オルコット」

 

ゆっくりと、しかし確実に聞こえるような声に、セシリアは自分の全てを見透かされているような気がしてさらに内心怯えてしまう。

そんな怯えですら一夏は察しているのか、さわやかな笑みを浮かべてセシリアに話しかけた。

 

「別に取って食おうなどと思うているわけではない。ただ気を失ったと聞いたのでな。様子を見に行こうと思ったのだ」

「そ、そうですの……」

 

てっきり蔑みに来たのかとセシリアは思っていたのだが、そうではないらしい。

一夏の表情からはそんな感情が窺えない。そのことにセシリアは戸惑ってしまう。

そして警戒しながら聞いた。

 

「それで……私の姿を見て嘲笑いにきたのですか?」

 

そう言われた一夏は一瞬きょとんとし、そしてすぐに可笑しなものを見たかのように笑い出した。

 

「何を邪推している。別に嘲笑うようなことがあるのか?」

「いや、だって! 私は試合前にあれだけ大きな口を叩いたというのに、一撃で沈められて……」

 

そう改めて言って気分が沈み込むセシリア。

一夏はそれを気にせずに笑い飛ばした。

 

「己に恥じるような戦い以外、俺は嘲笑いはせん。大口おおいに結構! 寧ろそのくらい気骨があった方が張り合う気も出るというものよ」

 

セシリアはそれを聞いてポカンとしてしまった。

試合前……一週間前からあれだけ馬鹿にされたというのに目の前の男は全く気にしていないのだ。

セシリアならプライドを傷付けられたとして胕が煮えくり返るくらいに怒っていただろう。

それ程のことなのに一夏は軽く笑い飛ばし、寧ろもっと言ってこいと言わんばかり笑いかけてきた。

セシリアはそんな一夏に、人としての器の違いを見せつけられた。

そして自分の今までの行いが急に子供のように思えて、恥ずかしくなった。

セシリアはその恥ずかしさに顔を赤くしながら一夏を改めて真剣な目で見つめ、頭を下げる。

 

「すみませんでした。織斑さん……」

 

その誠心誠意の謝罪を聞いて、一夏は笑顔でそれに応じる。

 

「別に謝るような事では無い、面を上げよ。互いに高め合うクラスメイトなのだ、そんな遠慮なぞ無用。寧ろこれからももっと挑んでくるがいい。俺は逃げも隠れもせん!」

 

そう言われたセシリアは、そのあまりにも堂々としていながらも無邪気な笑顔を浮かべる一夏に見惚れてしまっていた。

正直、心奪われてしまった。

自分の考え得る全ての男性像をことごとく破壊するようなこの男に、セシリアの胸はときめいてしまったのだ。

それを自覚した途端、セシリアは自分の顔が真っ赤になっていくのを自覚した。

そんなセシリアを尻目に、一夏はセシリアの様子を見終わったと判断して部屋を後にした。

その後ろ姿を見つめるセシリアの視線が熱かったことに一夏は気付かない……。

 

 

 その後、一夏は改めてクラス代表に就任した。

クラスの皆もあの強さを見せつけられては文句も言えない。

一夏自身、クラス代表になったことはどうでも良い事であったが、より戦えることは素直に喜ばしかった。

そして一夏がクラス代表に決まった日。

クラスを挙げてのパーティーが行われた。

その際、写真部の黛 薫子が来て早速一夏に取材をする。

 

「ずばり、クラス代表になった感想とか聞かせてくれるかな?」

「ふん。別にクラス代表になる気などなかったが、やらねば千冬姉がうるさいのでな。まぁ、これも一興と思ってやるまでよ」

 

そう答えられた薫子は渋いしゃべり方に若干興奮しながらインタビューを続けていく。

 

「では、これで最後の質問です。クラス代表に就任するに当たって、他のクラスの皆に向かってメッセージをどうぞ」

 

そう聞かれた一夏は不敵な笑みを浮かべ堂々と答えた。

 

「うむ。では……これから戦うであろう貴様等の武を楽しみにしている。俺は逃げも隠れもせん。全身全霊の力を込めてかかってくるがいい!」

 

その言葉に満足した薫子は上機嫌に一夏達の写真を撮って帰って行った。

その際、セシリアと箒がどちらが一夏の隣に座るかでもめていたが、一夏はまったく気にしていなかった。

 

 

 

 そして数日後の朝。

教室はある話題で持ちきりであった。

それは『二組に転校生が来る』というもので、情報源は定かでは無いが皆信じ切っていた。

そんな空気の中、一夏はいつもと変わらないよう堂々と教室に入り席につく。

それをその様子を見て、クラスの女子達は安心て軽く話しかけていく。

曰く、一夏が相手なら余裕だと。どちらにしろ代表は専用機を持っていないのだから、此方に適うはずが無いと。

しかし、そんな雑談は急遽切られた。

 

「―――――その情報古いよ」

 

その声がした方向に皆の視線が集中する。

そこには背の低いツインテールの少女が仁王立ちしていた。

 

「二組も専用機持ちがクラス代表になったの。そう簡単には勝てないから」

 

そう自身満々に答える少女のことを、一夏は知っている。

 

「凰 鈴音か。久しいな、二年ぶりか? 相変わらずこまいな」

「こまい言うな! えぇい、気を取り直して……中国代表候補生凰 鈴音。今日から二組のクラス代表よ! みんな、負ける気はないからね!」

 

そう元気よくそう言ったところで鈴の頭上にとある物が振り下ろされ、その場で鈴はうずくまる。

それを冷ややかな目で見つめる千冬に気づき、鈴はすごすごと自分のクラスへと帰って行った。

 その後、箒とセシリアに関係を聞かれた一夏は幼馴染みだと説明。

それを聞いて箒は何とも言えない気持ちになったが、一夏は箒とセシリア、鈴に分け隔て無く接するので特に親しい間柄でないことに内心ホッとした。

そして夜になり、鈴が一夏達の部屋に来て箒に部屋を変わることを要求。

それを箒は必死な顔で断り口論へと発展した。

あまりにも聞き分けが無い鈴に怒りが絶えきれなく木刀を持ち出すと、鈴に向かって振るう箒。

それを見て鈴も負けじと右腕のみ部分展開して迎え撃とうとした。

 

「えぇい! 夜に騒がしいわ、この馬鹿者共めっ!!」

「「!?」」

 

その口論の五月蠅さに我慢出来なくなった一夏によって二人は止められた。

具体的に言えば左手刀で箒の木刀を斬り飛ばし、右拳で鈴の右腕を打ち払った。

そして返す拳で双方の頭に軽く一撃。

結果二人は床に顔面を激突させることになった。

とても女の子にして良いことではないが、そんなことを気にする一夏ではなかった。

痛そうに顔を擦る二人を改めて一夏は叱る。

それをまさに幼子のようにしゅんとしながら二人は聞き、一夏に理解したかを問われ頷いた。

それにより、鈴は部屋を変わるのを諦めたが、帰り際に一夏にあることを聞く。

 

「ねぇ、一夏。前にした約束、覚えてる?」

 

それは鈴にとって大切な約束。

幼い頃に勇気を振り絞って交わした約束であった。

 

「約束? ふむ……いろいろとあったからな。あ、そう言えば小6の時の五百円を返して貰ってないな。アレも約束だったが……いまさらそんな端金を欲しいなどと思わんが」

「いや、そういう約束じゃなくて……ていうかごめん。言われるまで忘れてた。って違うの! そ、その酢豚の約束なんだけど……」

 

鈴にそう言われ、一夏は眉間に指を当てて自身の記憶を探っていく。

だが……思い出せない。

この二世村正を手に入れて以来、ずっと行っていた過剰という言葉が甘く聞こえるくらいの苛烈な鍛錬のせいで一夏の記憶はかなり劣化してしまった。

そのため、そういうささやかな記憶は殆ど消し飛んでいた。

一夏は思い出せないと判断すると、鈴に向かって綺麗に頭を下げて謝った。

 

「すまない。色々とあって忘れてしまったようだ。出来ればもう一度聞かせてくれないか? それでもう一度約束について考えたい」

 

そう言われ鈴は少しショックを受けたが、一夏の真剣な表情に真面目にそう言っていることが分かり笑う。それはそれだけ一夏がそのことを意識してくれているということだから。

 

「そ、それじゃ仕方ないわねぇ。でも、やっぱりちょっとショックは受けたわよ」

「すまん」

「だ、だから別の約束で手を打つわよ。来週にあるクラス代表戦で勝った方が一つだけ負けた方に何でも一つ言うことをきかせることが出来るっていう約束。どう?」

「ふむ、面白い。良いだろう、その約束受けよう」

 

鈴は顔を真っ赤にしつつも一夏にそう言い、一夏はそれを堂々と受けた。

そんな鈴を見て箒は内心焦ったが、すぐに焦りは消えた。

何故なら……あの戦闘を見て一夏に勝てる人間などいないと思ったからだ。

三者共違うことを考えながら笑い、この騒動は終わりを迎えた。

 

 

 

 そして一週間が過ぎ、クラス代表戦当日となった。

この日、一夏はいつもと変わらない様子で試合に臨み、鈴はある意味決死の想いで挑む。

そしてまったく関係ない第三者、篠ノ之 束が劔冑が気にくわないという理由で無人機による乱入を企てていた。

控え室で控えていた二人の前に、さっそくモニターから対戦相手の発表が行われる。

結果、一回戦目から一夏と鈴がぶつかることになった。

そして鈴は向こうピットに向かい、一夏はこちら側のピットから発進することに。

と言っても、鈴はカタパルトで押し出されるのに対し、一夏は徒歩で普通に飛び降りるだけなのだが。

そして降りたところで村正を呼び、誓約の口上を述べる。

 

『鬼に逢うては鬼を斬る 仏に逢うては仏を斬る ツルギの理ここに在り』

 

村正を纏い、白銀の武者となった一夏は鈴と相対すべく空へと舞う。

鈴は一夏の姿を見て驚き、観客の生徒も初めて見る生の劔冑に歓声と驚きの声を上げる。

そんな中、試合開始のブザーが鳴り響いた。

鈴は両手に持った青竜刀『双天牙月』を一つにつなげ、回しながら斬りかかっていった。

それを一夏は無駄な動き一つ無く避けていく。

 

「ほぉ、こういう攻撃か。ふむ、悪くは無い」

「はぁっ! やぁっ! せりゃぁ!」

 

鈴は青竜刀を回転させ、まさに竜巻のような凄まじい連激を一夏に繰り出す。

しかし、一夏はその全てをかすらせもせずに避けきって見せた。その動きからは余裕が窺える。

それを感じて鈴は接近戦を止め、鈴のISの第三世代兵器『龍咆』による砲撃戦へと移った。

見えない衝撃による砲弾が一夏へと炸裂する。

そのことに頬を緩ませた鈴だが、それは一瞬にして凍り付いた。

 

「ふむ……見えない何かが当たってきたな。これはこれで面白い」

 

一夏はその衝撃砲を当たったのにもかかわらず無傷。

まったくダメージを負った感じがなかった。

鈴は気を取り直してさらに衝撃砲を一夏に発射すると、一夏はかわしきれずに当たってしまう。だが、バリアのようなものによって一夏にその威力は届かない。

 

「また避け損なった。だが、だからこそ面白い! 鈴、もっと撃ってくれ! その攻撃、必ず見切り避けて見せよう!」

 

一夏はまるで子供のように無邪気な声で鈴にそう言う。

それを受けて鈴は無垢な一夏に恐怖を感じ、がむしゃらに撃つ。

それらを避けようとしては当たったりしながらも一夏は回避を続け、やがては全てを見切り避けきって見せた。

 

「その砲撃、全て見切った。感謝するぞ、鈴! これで俺はさらなる天下布武へと近づくことが出来る!! 礼として俺の武を見せてやろう!」

 

一夏は喜びを顕わにしながら構え、鈴はあまりの非常識っぷりに何も言えなくなっていた。

そして一夏が仕掛けようとしたところで突如、両者の間を割るかのように光の柱が降ってきた。

 

「何!? 一体…」

 

それと共にアリーナの異常発生、そして黒い人形をした何かがアリーナに降り立った。

それは束によって送り込まれたものである。

緊急事態により突如試合は中断となり、生徒は避難。教員は事態を収拾しようとするが、黒い人形からの妨害かアリーナのシールドを弄られ侵入出来ないようにされてしまった。

千冬達や箒達が慌てる中、一夏と鈴は黒い人形と相対する。

 

「あんた、何よ!」

 

鈴は黒い人形、実際は束が送り込んできた無人ISに向かって問いかけるが、当然と言っていいほどなにも答えない。

そう問いかけた鈴に向かって、無人機は突如右手を向けて高出力のレーザーを放ってきた。

咄嗟のことに動けなくなった鈴だが、一夏によってなんとか無事に当たらずにすんだ。

一夏はそのまま鈴を目立たない所に置くと、動かないように言う。

そして無人ISに向かって言う。

 

「貴様、せっかく戦いを楽しんでいたときに割り込むとは、失礼な奴め。俺と戦うというなら、容赦無く戦ってやろう」

 

その言葉を皮切りに一夏と無人機の戦いは始まった。

無人機はレーザーを乱射し、近づけば巨大な腕を振り回して攻撃してくる。それを一夏は観察するように回避していき、少し時間が経った。

一夏は念のため、無人ISに話しかける。

 

「貴様の強さからは何も感じない。武のなんたるかが分からぬ貴様では、俺を倒す事などできん!!」

 

その声と共に、一夏の姿は無人機には見えなくなった。

その途端、無人機は凄まじい衝撃を受けて地面へと叩き付けられた。

それは単に、一夏が懐に入って殴っただけなのだが、あまりに高速すぎて見えなかっただけであった。

 

「よいか! 武とは、力とは、何故欲するか! それは偏に、『愛』だ!! 愛するが故に欲し、欲することとはすなわち愛なり! それを理解できぬ奴に俺は負けん!! 見せてやろう、与えてやろう、これが……俺の武(愛)だっ!!」

 

そう一夏が叫ぶと共に、無人ISへと急降下する。

無人ISは迎撃を試みようとするが、撃つ前に懐に入られて両腕を一瞬で斬り飛ばされ、さらにその間に二十発以上の拳を体中に打ち込まれていた。

あっという間に無人ISは中破し、動くのもままならない状態へとなった。

そして一夏は一気に上昇していく。

その過程であったアリーナのシールドを『邪魔だ!』の一声と共に放った拳で破壊し、更に飛んで行く。

そして上空の高度約一万メートルまで上昇した後に垂直落下する。

落下する先は未だにうごめいている無人IS。

一夏は観察している間に敵が無人であることに気付いていた。人の気配が全くないのだから、気付かないわけがない。

それでも声をかけたのは、無人機を通してこの光景を見ている者に向かって言っていたのだった。

一夏は最早神速と言っても良い速度で落下していく。

 

「これ以上の茶番は終いだ! 天座失墜・小彗星(フォーリンダウン・レイディバグ)」

 

頭から落下していくのを途中で回転し、足を下に向け跳び蹴りのような形になりながら無人ISへと落下した。

落下までの時間はほんの一瞬。

地面に激突した瞬間………

 

世界が震え崩壊した。

 

IS学園は地震のような揺れに襲われ、アリーナは地面が全て無くなるほどのクレーターを作り、無人ISはそれこそ欠片一つ残さずに吹っ飛んだ。

 

「これが武(愛)だ! 分かったか」

 

そんなクレーターの爆心地から、普通に空へと舞い上がる一夏。

その様子を見て、鈴はあまりの衝撃に気絶した。

 

 

 

 こうして、束の目論見は失敗し、それを見ていた束も絶句して目を剝いていた。

何故なら…………一夏の技によって、IS学園が敷地である島まるまる一個分島ごと移動していたから。

 

 

 

 その後、鈴との約束がどうなったかはまるで分からない。

この後も一夏は度重なる災難に見舞われるが、それら全てを、己の武一つのみで全て叩き潰したのはいうまでもない。

これはそんな一夏の話。

あり得たかもしれない、あったら世界は一番危険になったかもしれない、そんな話。

 

 

 

 


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