「今にして思い出しても、結構な三年間だったな」
今更ながらに三年間を振り返り、苦笑してしまった。
よく青春はあっという間だと聞く。だからこそ、大切に過ごせとも。
しかしながら、俺のこの三年間は全くあっという間ではなかったような気がする。
少なくとも、一年間に両手で数え切れないほど死にかけ、その倍以上の問題事に巻き込まれていた。
それが三年間である。
濃密過ぎて時間がかなりゆっくり過ぎていったような気がする。
それもやっと過ぎ去り、今日に至った。
俺はこの三年間を思い出し、感慨に耽る。
それだけこの三年間は大切だったから。生涯で一番の大切な人と出会えたから。
「新郎の方、入場して下さい」
スタッフの方から声をかけられ、俺は静かに答えると控え室から外に出た。
着慣れないタキシードに動き辛さを感じつつ、俺は会場へ向かっていく。
そう……今日は大切な日。
結婚式だ。
学園を卒業した後、俺と真耶さんはすぐに結婚することにした。
普通早すぎるだろうと思われるかもしれないが、二人ともそんなことは思わなかった。
俺も真耶さんもこの三年間の内に卒業したら結婚しようと決めていたし、周りの皆も賛成してくれたので問題らしい問題も起こらなかった。
特に天皇陛下と総理からは早く身を固めるよう勧められた。
幸い、資金に関してはこの三年間で嫌という程貯まったので問題はない。
勿論、真耶さんと一緒にお金は出すことになっている。全額出そうとしたら怒られてしまい、挙げ句の果てには泣かれそうになってしまったのだ。真耶さんに泣かれたら俺が折れない訳が無い。
俺が武者なので神前式にした方が良いのではないか、という声も上がった。だが、女の子はウェディングドレスに憧れるものだと聞いていたし、真耶さんも着たがっていたことを知っていたので教会で式を挙げることにした。俺もウェディングドレスの真耶さんが見たいから。
会場も在学中に予約し、式の日程もすぐに決まった。
ブライダル会社の人は俺に驚いていたが、説明すると祝ってくれた。
その結果が今日であり、俺はその思い出を思い出しながら会場へと入る。
会場に入った途端に、周りから歓声が上がった。
俺は壇上に上がりながら辺りを見回すと、見知った人達が前の方に来ていた。
千冬姉が紫色のドレスを着て俺を優しい眼差しで見つめ、マドカがお揃いの紫色のドレスを着て、俺を見てはしゃいでいた。
千冬姉は相変わらずだが、この三年でマドカは一気に成長した。
千冬姉と並ぶと本当にそっくりであり、美しく綺麗になった。
まぁ、中身は変わらずに甘えん坊のままなのだが。
次に箒と束さんを見つけた。
箒は赤いドレスを着て、束さんはピンク色のドレスを着ていた。
二人とも泣いていたのを見て苦笑してしまう。
この二人には小学生のころから本当に世話になり、感謝の念が絶えない。
鈴やシャル、セシリアにラウラもいる。
鈴にもよく世話になったし、セシリアやシャル、ラウラにはIS学園では本当に世話になった。
皆、本当に感謝している。
会長や更識さん、布仏さんや布仏先輩も来てくれたようだ。
会長には本当に手を焼かされてばかりで、更識さん共々苦労させられてばかりだったな。
布仏さんはまったく変わらずマイペースだった。
布仏先輩には助けられてばかりで、先輩がいたから生徒会をやってこられた。
皆俺に手を振ってくれた。
俺はそれに手を振りながら返す。
六波羅の人達も来たらしく、童心様が愉快そうに笑い、雷蝶様が俺の姿を見て満足そうな顔をしていた。獅子吼様もいつもより表情が緩やかな気がする。
茶々丸さんはと言うと、やはりと言うべきか来て下さった師匠に絡み、例の如く四人で騒いでいた。
自分で招待しておきながら式が壊されないか心配な人達ばかりである。
師範代はと言うと、自由奔放に料理を食べまくっていた。寧ろ師範代はもう少し落ち着いて欲しいくらいだ。
そのまま更に少し後ろを見ると、真田さんと伊達さん、福寿荘の皆に芹澤さん、井上さんにセシルに弾、雪車町さんに何故か呼んでいないが来ているウォルフ教授が見えた。
真田さんは俺を兄のような眼差しで見つめ、伊達さんは上機嫌にお酒を飲んでいた。それをやさしく咎める海野さん。
福寿荘の皆や芹澤さんは俺を祝いつつ、出されている料理を見て勉強しているようだ。
井上さんは来ていた年若い女性に鼻の下を伸ばしていた。本当に俺を祝いに来たのか疑問である。
セシルは俺を祝いに来たのは次いでとばかりに女性に声をかけ、気がつけばいつの間にか移動していたセシリアに引っ張られていた。
この二人、何のかんのと言いつつも交際しているのだ。
弾は一緒に来ていた如月さんと俺を見ているようだ。如月さんは真耶さんの結婚に感動しているようで泣きそうになっていた。
雪車町さんは俺を見て静かに笑い、めでてぇことですと俺を祝い、ウォルフ教授はそこら辺の女性にパンツを脱いでくれないかと聞き回っていた。そろそろ退場させなければならないかな、と真剣に考えてしまう。
俺は皆来てくれたことに感謝しつつ祭壇の前で待つ。
そして少しすると、また歓声が上がった。
俺は一日千秋の思いで待っていたので、その分速くその方向へ顔を向ける。
その視線の先では、耶彦さんに連れられて此方に来る真耶さんがいた。
純白の綺麗なウェディングドレスを身に纏い、あまりの美しさに俺は言葉を失ってしまう。
正直、感動のあまりに泣きそうになってしまった。
真耶さんは耶彦さんと一緒にバージンロードを進み、俺の所まで来る。
「一夏君、真耶のことを……頼むよ」
「はい…お義父さん」
感動で泣きながら耶彦さんは俺に真耶さんを託す。
俺はそれを真摯に受け止める。
その後、真耶さんと二人、祭壇の前で手を繋ぎながら少し待つ。
「どうですか、旦那様? このウェディングドレス」
真耶さんは俺を優しい眼差しで見つめながら聞く。
それを聞かれ、俺は笑顔で答える。
「はい、とても似合ってます。正直、見た瞬間に感動で泣きそうでした。それくらい……綺麗です」
「うふふ、嬉しいです。内緒にした甲斐がありました」
そう言って笑う真耶さんはいつもより可憐で綺麗で可愛くて、俺は抱きしめたい衝動を必死に堪える。
そんな俺を見てか、真耶さんは俺の顔を見て頬を赤らめる。
「だ、旦那様もとても似合ってます…その、格好良すぎて見惚れちゃいました」
そう真っ赤になりながら言う真耶さんが可愛くて、それこそ俺は見惚れてしまっていた。
そして二人で笑い合うと、神父さんに少し咳払いされてしまった。
それすらも嬉しく感じてしまう。
そして始まる結婚式。
賛美歌が教会内に響き渡り、神父さんが聖書を朗読する。
それが終わり次第、俺と真耶さんは向かい合う。
「汝、健やかなる時も病める時も、この者を妻とし愛し続けることを誓いますか」
「誓います」
俺は神父さんにそう言われ、すぐに誓う。
形式状仕方ないが、聞かれるまでもない。
「汝、健やかなる時も病める時も、この者を夫とし愛し続けることを誓いますか」
「はい、誓います」
真耶さんも神父さんに言われ静かに、でもはっきりと誓う。
「では、誓いの口付けを」
そう言われると共に、俺は真耶さんの腕を優しく抱く。
真耶さんは目を瞑り、静かに俺の唇を待つ。その唇に俺は静かに唇を合わせた。
「「んぅ」」
いつもしているキスと変わらない、でも特別なキス。
ただ唇が触れ合っているだけなのに、全身が熱くなり嬉しくてしかたない。
そのままずっとしていたいが、それでは式が進まないので名残惜しく感じながら唇を離した。
真耶さんも同じ気持ちだったようで、それがお互いに分かって笑い合う。
お互いに誓い合ったところで神父さんから祝福のお言葉を貰い、そして指輪の交換となった。
指輪は学生の時に買ったあの婚約指輪である。
「次に、指輪の交換を」
その声を聞いて俺は真耶さんの指輪を手に取り、少し屈んで真耶さんの左手を取るとその薬指に指輪を通す。
通し終えると、真耶さんは指輪を通した左手を抱きしめて泣き出してしまった。
「真耶さん、泣いちゃ駄目ですよ」
「分かってますけど、でも…」
泣き出してしまう真耶さんを仕方ないなぁ、と思いながら少し待つと、真耶さんは泣きつつも俺に指輪を通してくれた。
それらを無事に終えて、神父さんはここに宣言する。
「今日、この日、この時から、この二人を夫婦として認めます。二人とも、末永く幸せに……」
それを聞いて、俺と真耶さんは夫婦となった。
これを聞いた瞬間、真耶さんがまた泣き出してしまったのは言うまでもない。
そして祭壇から降りて、皆から更に祝われる。
全ての人から祝福され、幸せを感じる。
耶彦さんは感動のあまり泣き出し、真奈さんは真耶さんを綺麗だと褒め少し羨ましそうだった。
そのまま皆に祝われながら会場から退場する。
その時に、真耶さんは手に持っていたブーケを客席に向かって投げた。
「えぇ~~~い!」
そんな幸せ一杯な甘い声で投げられたブーケが落ちる先では、まるで悪鬼羅刹の如くの奪い合いが発生していた。
それすらも幸せに見えるあたり、自分の頭はおかしいのかも知れない。
仕方ないだろう、幸せなのだから。
そして一緒に教会の前まで行くが、そこに車は止められていない。
普通の結婚式ならここで二人で車に乗るのだが、俺達の結婚式では違う。
俺は笑いながらも『彼奴』を呼び出す。
「来い、正宗!!」
『応!』
俺の呼びかけに応じて正宗が俺の前に飛び出して来た。
『まったく……今回限りだぞ、御堂よ』
「分かってる。と言うか、こんな事が何度もあったら困る。俺は真耶さんとの一回だけしかいらない」
『そうか……』
そう言う正宗は呆れているようだが、その声は俺を祝ってくれていることが分かった。
それを理解し、俺は幸せに口元を緩めながら装甲の構えを取って誓約の口上を述べる。
『世に鬼あれば鬼を断つ 世に悪あれば悪を断つ ツルギの理ここに在り』
そして、教会の前に違和感がありすぎる濃藍の武者が現れた。
「行きましょうか、真耶さん」
「はい、旦那様!」
俺は真耶さんに手を差し出すと、真耶さんは幸せ一杯の笑顔で出した手を繋ぐ。
そして俺は真耶さんを優しく抱き留めると、お姫様抱っこをする。
そして真耶さんが怪我しないように静かにゆっくりと合当理を噴かして、そして空へと飛び上がった。
春の優しい風が真耶さんの頬を優しく撫でていく。
それを受けて真耶さんはくすぐったそうにするが、その顔はすべてのものから祝福されて、とても幸せそうだ。
そのままあまり速度を出さずに空を飛んでいくと、真耶さんが幸せ一杯の笑顔を俺に向けてきた。
「旦那様……だぁあああああああああああいいいいい好きぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!」
飛んでいるので聞き取りづらいと思ったのか、大きな声で懸命に顔を真っ赤にしながら俺に言う。
それを聞いて、俺も見えないだろうが笑顔で答えた。
「俺もですよ! 愛してます、大好きです! もう、何があっても絶対に離しませんから! 絶対に」
「はい!!」
暖かな春の日差しの中、全ての祝福を受けて俺と真耶さんの幸せな誓い合いは空へと木霊した。
これは始まりに過ぎない。
きっとこれからも幾度となく問題が立ち塞がってくることだろう。
でも、真耶さんと一緒なら、どんな問題だって乗り越えられる。
だって………
こんなにも幸せなのだから。
後、残り一話でこの物語は終わりを迎えます!