これからも頑張って行きたいと思いますので、応援をよろしくお願いします。
保健室には三つほどベットが置いてある。
そこには今、二人の人物が寝かされていた。
一人は少女で、もう一人は男だった。
少女は眠ってなどいないため起きていたが、男はすやすやと寝息を立てて眠っていた。
男が運ばれたとき、少女は酷く困惑した。
運ばれてきた男は血まみれだったからだ。
あまりのことに混乱する少女だったが、男の間抜けとも言えるような寝顔と寝息に無事なのがわかり、何とか落ち着いた。
そして今少女、鳳 鈴音は男、織斑 一夏の隣に座っている。
「まったく・・・あんたなにやってんのよ・・・こんなに血まみれになって・・・・・・」
私は一夏の体を改めて見回す。
怪我は無いのにぼろぼろな姿だった。
上の制服は特に酷く、左手の袖が焼き焦げて胸から下あたりに無理矢理切り裂かれたような穴が六カ所、しかも血で真っ赤に染まり前面には白い部分など見当たらない。
「無事って言ったくせに・・・私を安心させるために嘘言うとか、どれだけ無茶してんのよ・・・」
そう言いながら私は一夏の体に触れる。
服の血は固まっていて膠のようになりゴワゴワしてる。
昔に比べて体がかなりがっしりしてし、顔が精悍になっていた。
(改めて見直して見ても・・・やっぱり格好いい・・・)
小五のときに助けられて以来、私は一夏に恋をしてる。
彼はいじめられていた私の前に颯爽と現れ、私を助けてくれた。
それから中学の『あの大会』まで一緒にいたが、私は中々勇気が持てず、告白できなかった。
それは未だに私の後悔だ。
大会が終わってから一夏は行方不明で、私はどうして良いか分からなかった。取り乱してもの凄く荒れそうになっていたが、しかし千冬さんを見てそんなことが出来るわけが無かった。
身内を失い悲しみに暮れる千冬さんを前に、私はそんな真似は出来ない。
私よりも酷く、いつ自殺してもおかしくないような千冬さんを支えること。それが私が一夏のためにできることだと信じてきた。いつか帰ってくると信じたかったから・・・・・・
しかし私の家の事情がそうは許さなかった。
両親は不仲になって離婚、私は母の母国である中国に行くことになった。
中国で私はISの適正が高いこともあって代表候補生になることにした。少しでも強くなろうと必死だった。このときの私は、力があれば一夏のことがどうにか出来たんじゃ無いだろうかと考えていたからだ。そして候補生になり、IS学園に行くことになった。
当然と言えば当然だけど、名誉なことではあるのよね。私としてはそんなことより早く千冬さんに会いに行く方が大切だけど・・・
そんなことを考えていた私は、ある出来事に衝撃を受けた。
なんと一夏が帰ってきた!
政府は未知の兵器に興味を示していたけど、私はそれよりも一夏が無事だったことに安堵して、その場で泣き崩れてしまった。
まわりは何事かと視線を向けていたが、私はそんなこと構わずに泣き続けた。それほどに心配していたんだから・・・・・・
IS学園で再び再会した一夏は格好良くなっていた。
背は昔より高くなって雰囲気も落ち着いて、礼儀正しくなって、でもちょっと固くなってた。
でも昔と変わらない部分もあって、そこが私には嬉しかった。
で・も・・・以前より格好良くなっていたものだから、あいつのまわりには女の子が集まっていたことにはもの凄く不服。
特にあの三人!
箒とセシリア、それに山田先生!!
どこからどう見たって一夏が好きなのが丸わかり。
しかも・・・もの凄くむかつくことに・・・・・・全員私より胸がでかい巨乳ばかりだ!
何か? 私への当てつけなわけ? 神は死んだっての?
べ、別にいいもん! 貧乳には貧乳の良さがあるってテレビで言ってたもん! 巨乳なんて歳を取れば取るだけ垂れてくるだけなんだから!! 別に負け惜しみなんか言ってないし!
何より・・・一夏が巨乳好きなんて言ってる訳じゃ無いんだから。こっちにだってチャンスはあるんだからね!
そして今現在、私は千載一遇のチャンスを手に入れた。
一夏と本当の二人っきり。
前に泊まりにいったときもそうだけど、あのお邪魔な虫、正宗が何故か今はいない。
いつもは一夏にべったりとくっついているかのように近くにいる正宗がいないというのは、一夏を好きな女子ならば歓喜することだ。なにせ、ちゃんとした二人っきりになれるんだから・・・
無論ちゃんと天井も外の壁もベットの下も確認したが、いなかった。
私は確認次第にガッツポーズをしちゃったくらいだから、その喜びといったら相当なものだった。
それほどに、恋する女の子達にとって、正宗は邪魔だったのだ。
「可愛い寝顔しちゃって・・・」
一夏の頬をつんつんと突っついてみるが、反応はない。
「暢気に寝ちゃって、まぁ・・・こっちの気持ちも知らずに・・・」
さらに突っついて顔を覗き込む。そうなると必然的に顔が近づく訳で・・・
私の目の前五センチくらいに一夏の顔がある。
今なら何をしても気付かれないだろう、と自分の心に誰かがささやいた気がした。
(こんなチャンスなんて滅多に無いんだから・・・き、キスくらい大丈夫よね・・・突っついても起きないんだし・・・・・・)
きっと私の顔はこの部屋に入ってくる夕日の光よりも真っ赤になっているに違いない。
私はゆっくりと顔を近づけると・・・一夏の『頬』に唇を軽く付けた。
いきなり唇に、というのは私にはまだ早すぎる。
まさか自分でやっといて成功するとは思えなかった。こういう場面は大体しようとしてあと少しというところで対象が起きてしまい、台無しになってしまうのが相場なのだが・・・・・・
一夏は未だにすやすやと寝息を立てたままだ。狸寝入りをしている様子もない。
この成功が火を付けてしまい、私の中の恋心が暴走し始める。
(まだ起きないんだから、今度は唇にしてみよう)
さっきまでまだ早いと言っていた自分が、嘘のように積極性を発揮して一夏の唇を奪おうとする。
普段なら恥ずかしくて出来ないが、今ならやれる気がした。むしろ今やらずににいつするんだ、と自分の中の何かが叫んでいた。
私は今度は一夏の唇に自分の唇を合わせようと近づいていく。
胸がバクバクいって、心臓が口から飛び出しそうだ。今誰かに見られたら心臓麻痺で死んでしまうかもしれない。
そして顔を近づけていき・・・・・・私の唇と一夏の唇の距離がゼロになった。
「っっっっっ!?」
一夏の唇の感触にドキドキする。
一夏の匂いにドギマギする。
今、私は天国にいるんだろうか・・・・・・それくらい感動した。
このままずっとしていたい、くっついていた。出来ればその先にも行きたい。
私の乙女心は臨界を超えて暴走し始め、本人でも制御が出来なくなりそうになる。
しかしこの暴走に身を任せたら・・・きっと私は死んでしまう、悶死してしまうにちがいない。
そうならないためにも、私は名残惜しく唇を離そうとした。
しかし、ここで嬉しいが最悪のアクシデントが発生した。
「んぅんんん・・・・・・」
「っ!?」
よりにもよって一夏が抱きしめてきたのだ、寝ぼけて。
私は唇を合わせたままなので・・・・・・そのまま顔が固定されてしまった。
「!、!?、?、??」
混乱して真っ白になっていく頭。
しかし一夏の吐息が顔にかかり、先ほどのうなりが唇を通して伝わってくる。
それがとても淫靡に感じてしまい、私は顔がさらに真っ赤になっていく。
そして私はとどめを刺された。
一夏が力の限り抱きしめてきたのだ。
キスした状態でそんなことをされちゃったら、私は・・・もう・・・・・・
そして私は意識を失った。
一夏が目を覚ましたときに最初に目に入ったのは、床に鼻血を出しながら満面の笑みを浮かべて気絶してる鈴だった。