敵騎からの超絶的な破壊力を見せつけられ、心底驚いてしまったが以前闘志は絶えない。
「確かにその道理は分かるが、流石に大き過ぎだろう……」
『確かに。御堂よ、臆したか?』
「しないわけが無い! だが、負ける気は無い!!」
『応! よく言った、御堂! そうだ、如何に凄かろうと心が負けねば負けではない!!』
「ああ、行くぞ、正宗!!」
俺は正宗と話しながら闘志を燃やし、敵騎へ向かって咆吼を上げながら斬りかかる。
「がぁあああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
「ZOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!」
上段から一撃に対し、敵騎は脇差しを二本交えて防ぐ。
それを契機に俺は更に追撃をかける。
「あぁあああああああああああああああああああああああああ!!」
「TAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」
一撃一撃に持てる限りの殺意を載せて放ち、相手の防御ごと斬り捨てようと刀を振るう。
敵騎も負けじと脇差しの二刀によって此方に斬りかかり、嵐のような斬撃が此方へと襲い掛かる。
互いに刃がぶつかり合い、互いの鋼鉄を打ち砕き断ち斬る。
轟音が絶え間なく鳴り響き、血と甲鉄の破片が海へと落下していく。
俺に勝機があるとするのなら、それはこの近接戦だけである。
先程の陰義の威力は絶大。さっきは上手く回避出来たが、次も同じように避けられる自信がない。
直撃は勿論、かすっても致命傷になるだろう。
だが、それほどの神技もいくつかの穴はある。
まず、対象と離れていないと使えない。
近い距離で使おうものなら、自分自身も巻き込みかねない。
それにあれほど強大な陰義であれば、熱量の消費もかなりの物だろう。
つまり数はそう撃てないと推測する。
だからこそ、撃たせないように近距離で戦うのが一番有効である。
「しゃぁっ!! せいっ! おぉ!!」
未だに見えない左目からの攻撃を何とか凌ぎつつ、俺は更に怒濤の如く攻めの手を緩めない。
先程勝機と言ったが、それでも此方は不利のままである。
単純に熱量の問題が大きい。
敵騎も消費しているはずだが、此方もかなり消費している。
このまま持久戦になれば力尽きるのは此方である。体の大きさからくる熱量の貯蔵量、そして流れ出た血の量の違いが熱量に圧倒的な差を付ける。
俺は後少しで熱量欠乏を起こすだろう。
ならば、その前に決着を付けるしかない。
「成程、そういう考えか……」
敵騎は此方の考えに気付き、俺を突き放そうと攻撃にさらに力を載せてきた。
その威力は凄まじく、気をつけなければ一瞬で斬り捨てられるだろう。
しかも後押しするかのように千代鶴國安の陰義で両手に手斧を持って、拳打の嵐を俺に浴びせる。
先程以上の連撃に防ぎきれず、体のあちこちに被撃して甲鉄が撃ち砕かれる。
「ぐぅうううううううううううううううううううううううう!!」
『右腕上部、腹部甲鉄、左腕部、に複数の被撃! 損傷大破!』
血飛沫と砕けた甲鉄が舞う散る。
先程受けた痛みから何カ所の骨が折れ砕けた。
しかし、引かない!
「負けるかぁあああああああああああ! おぉおおおおおおおおおおおおおおお!」
俺は激痛を感じながらも咆吼を上げ、敵騎へ向かって殴りかかり、蹴りを放つ。
刀同士とはまた違った激突音が鳴り響き、敵の体が弾ける。
「むぅ……ここでこう来るか。面白い!」
そのまま打撃、斬撃を交えた近接戦が展開されていき。互いの損傷は更に酷くなっていく。
大破を通り越し、いつ死んでもおかしくなっていく。
互いにそんな状態だというのに、何故か気軽に会話をし合う。
「ふむ……中々に楽しいな」
「『武蔵』に褒めてもらえるとは嬉しい限りですよ」
「だからこそ気になる。何故こうも戦えるのか? 貴様からは俺と同じ気配が若干するが、それ以外の物も感じる」
そう言われ、俺は堂々と答える。
「それは俺の正義です。俺の正義は正しき行い。悪を憎む心そのもの。弱き者を助ける刃。そして……大切な人達を全ての厄災から守るものです!」
それを聞いて武蔵は笑いながら聞く。
「つまり俺が悪だと?」
「いえ、貴方は悪ではない。俺の正義には大切な人守ることだと先程言いました。その中には悲しみから守るというのも含まれます」
「つまり………女か?」
「否定はしません」
俺はそう答えると、武蔵は深く笑い始めた。
「かっかっか! まさか女のためにこの武蔵と張り合うというか。面白い、これほど毛色の違った奴は初めて見る! 差し詰め、自分が死ぬようなことがあれば女が悲しむから、女のためにも死ねぬ……そう言ったところかな」
「否定はしませんよ」
「何と滑稽で愚かで……面白い! ならばその正義、見せてみろ!」
その会話を最後に俺は思いっきり殴られ、後ろへと吹っ飛ばされる。
そして敵騎は再び手を合わせる。
その動作が何を出そうとしているのか、知ってしまっている俺はすぐに回避しようとする。
しかし……
『御堂、損傷が深すぎて速度がだせん! 完全な回避は不可能と判断する。耐えろ!!」
余りに深い損傷に体が上手く動かせなくなってしまっていた。
そのせいでちゃんと回避出来ない。
それを見越してなのか、敵騎は先程と同じ竜巻を発生させてきた。
「『天魔返っ!!!!』」
気合いの入った声と共に、絶大な威力を誇る竜巻が俺に襲い掛かる。
「おぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
俺は全力で声を上げながら回避しようと試みるが、直撃せずとも余波だけでもかなりの威力がある。
それに巻き込まれてしまい、錐揉みしながら砂浜へと叩き付けられてしまった。
「ぐはっ!!」
全身が砕け散るような衝撃に襲われ、意識が吹っ飛びそうになる。
衝撃のあまり砂浜は見事なクレーターが出来上がり、その中心で俺は起き上がれない。正宗も解除され、ひび割れている体で何とか起き上がろうとしている状態だった。
(全身が痛い……意識が遠のきそうで……寒い……)
かろうじで保っている意識はそれだけを感じ、体には全く力が入らない。
そして俺の前に影が立ちふさがった。
モニターでは以前として激戦が繰り広げられていた。
鳴り響く凄まじい激突音。爆発が空を赤く染め、それよりも真っ赤な血が空に舞い散る。
時に通常では理解出来ない現象を引き起こし、また凄まじい戦闘を見せつける。
敵の劔冑が手を合わせると巨大な竜巻を発生させ、それを正宗に向かって投げつける。
それは正宗に避けられたが、海にとてつもない大穴を開けるという非常識な威力を見せつけた。
その威力に皆言葉を失ってしまう。
「な、何よ、あの威力……」
「あんなの受けたら、IS学園だって一撃で沈んでしまう……」
皆、その威力に恐怖しか感じなかった。
だが、皆よりも恐怖を感じていたのは真耶であった。
彼女はその絶技の威力に恐怖したのではない。そんなものを向けられている一夏が死んでしまう!?
その恐怖が真耶を心の底から震え上がらせる。
そしてついに……耐えきれなくなった。
「っ!? 私、旦那様を助けに行きます!!」
「えっ!? ま、待ちなさい、真耶!?」
真耶は耐えきれなくなり、ピットから一夏がいるところへ飛び出して行ってしまった。
同僚がそれに気づき止めようとするが、いつもの真耶からは考えられない速さで飛んでいったために止めることが出来なかった。
「織斑先生、どうしますか!」
咄嗟に千冬に指示を仰ぐ教員に千冬は真剣な顔で考えながら答える。
「いや、真耶は追いかけなくていい。このままここを手薄にするわけにはいかない」
「そんな!? それじゃ真耶を見殺しにする気ですか!!」
千冬の指示に反発する教員。
確かに言っていることはそういうことである。だが、千冬の判断もまた正しいものであった。
そのことを理解はしているのだろう。だが、やはり納得がいかない教員は愚図る。
それを千冬は説得しつつ、真耶が飛んで行った空へと目を向ける。
(無事に帰ってきてくれ……)
千冬は空に向かってそう願わずにはいられなかった。
真耶は必死にラファール・リヴァイヴを駆り、一夏の元へと飛んで行く。
その道中、リヴァイヴのハイパーセンサーが一夏の姿を捉える。
「!? 旦那様っ!」
誰の目から見てもわかる損傷の酷さに泣きそうになってしまう真耶。
いつ墜落してもおかしくない状態で、尚も戦い続ける一夏を見て真耶は必死に急ぐ。
(このままじゃ旦那様が死んじゃう! それは……絶対に嫌っ!!)
リヴァイヴが現在出せる最大速度で飛行し、さらに真耶は急ぐ。
必死に飛行してる中、またあの巨大な竜巻を見たとき、真耶は心臓が凍り付くような感触に襲われた。
その恐怖に負けぬよう、気を持ち直しながら真耶は飛んで行く。
そして、砂浜に出来た巨大なクレーター、その中で装甲を解除して全身血まみれで倒れている一夏を見つけ、その姿を見て泣きそうになりながらも一夏の元へと降り立った。
「ふむ……何をしている、女」
かろうじで聞こえる耳から武蔵の声が聞こえる。
だが、その声はどこかおかしい。
「も、もう旦那様は戦えません! だからこれ以上は戦わないで下さい!」
返答した声は若くどこか甘い女性の声だった。
俺にとって一番大切な女性の声。聞き間違えるはずもない。
「何……!?」
俺は首を必死に動かすと、その先にはISを纏った真耶さんが立っていた。
俺を庇うように両手を広げ、武蔵の前に立ち塞がっていた。
「ま、真耶さん……」
危ないからやめてくれ!!
そう叫びたかったが、俺はそれすら出来ない。
「まだその男は死んでいない。ならばまだ死合いは終わっていない」
「何でですか! もう旦那様は動けないんですよ! それでも戦うつもりですか!」
「そうだ。 女、退かぬなら殺す。そこを退け」
真耶さんは武蔵の殺気を正面から受けながらも、気丈に言い合う。
武蔵は邪魔されたことで少し興ざめしたようだが、その分つまらなさそうな雰囲気で真耶さんに退くよう言う。
「嫌です! 絶対に嫌です! あなたが旦那様を殺すというなら、私は何としても防ぎます! 旦那様が死んだら、私はあなたを絶対に許さない!!」
普段からは考えられないくらいの剣幕で真耶さんは武蔵を睨み付ける。
武蔵はそれを見て、ふむ、と少し考えた後に軽い感じで言ってきた。
「これも小僧が言う正義の結果というやつか。まぁいい……女、退かぬなら、死ね」
武蔵はそう言うと脇差しを真耶さんに向かって振ってきた。
真耶さんは咄嗟にリヴァイヴの実体シールドを使って防御するが、シールドは一撃で真っ二つに割られてしまった。
それでも真耶さんは怯まずに武蔵に向かって叫ぶ。
「絶対に退きません!! 旦那様は絶対に殺させない!!」
その声を契機に武蔵は真耶さんに向かって脇差しを何回も振るう。
リヴァイヴは瞬く間に破壊されていく。
それを見ながら、俺は自分の力の無さに怒りを覚える。
最愛の人がこうして体を張ってでも俺の事を守ろうとしてくれている。
なのに自分はこうして何も出来ずに倒れている。
それが許せなかった。
本当に何も出来ないのだろうか?
体は既に死に体である、だが心は……魂は?
こんなにも燻っているではないか。
なら、戦えないなんてことはない。
俺は金打声で正宗に話しかける。
(正宗……俺はこのまま死ぬのか? このまま目の前で大切な人を目の前で傷付けられたまま死ぬのか? 己の正義を成せないまま死ぬのか? 俺は……絶対に嫌だ!! 大切な人を守れずにして何が正義だ、笑わせるな! 体がボロボロでもう動かない? そんなのただの言い訳だ! 魂がこんなに燻っているというのなら、俺はどんな体でも戦える! だから正宗、俺に力を貸してくれ!)
『ああ、まったくだ! 御堂の正義を成すのに理由がいるものだろうか! 正義を成そうというのなら、我は御堂に力を貸そう! 我とて正義も成せずに磨り潰されるなど、御免だ! ゆくぞ、御堂!』
(応!)
その瞬間、俺は体がボロボロだというのに立ち上がった。
そして目の前でISを解除されても必死に俺を守ろうとする真耶さんの方へと歩いて行く。
真耶さんの体はあちこち切り傷が出来ており、軽く血が出ていた。
それを見て俺は少し悲しく感じながら真耶さんの肩に手を置く。
「だ、旦那様! だ、駄目です! そんな体で!」
俺を見た真耶さんは泣きながら俺を止めようとする。
それが愛おしい。
その嬉しさを胸に抱きながら俺は優しく話しかける。
「もう俺は大丈夫ですから。ありがとう、真耶さん。でも、こんな危ないことはしないで下さい。後でお仕置きしちゃいますから」
「だ、旦那様…そんなこと言ってる場合じゃっ」
俺はそのまま真耶さんの前に出ると、武蔵の前へと出て相対する。
「お待たせしました」
「ふむ。殺ろうか」
「ええ」
そして再度装甲の構えを取り、誓約の口上を述べる。
『世に鬼あれば鬼を断つ 世に悪あれば悪を断つ ツルギの理ここに在り』
そして正宗を纏い、更に……
「いくぞ、正宗。『心鋼一致』」
『応!』
それにより、俺と正宗は本当の意味で一つとなった。
しかし、体は以前ボロボロのままである。
だからこそ、今、『心鋼一致』を成している今だからこそ使うことにした。
「正宗七機巧が最終奥義、『神形正宗・最終正義顕現』」
その瞬間、全ての損傷が一瞬にして再生された。
「ほう……これは凄まじいな。武州五輪のどの治癒よりも凄い」
武蔵は感嘆とした声を上げていた。
それを聞きながら俺(我)は構える。
「では……いきます!!」
「来い!」
そして再び、俺と武蔵の刀がぶつかり合った。